異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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邂逅都市メイガナーダ、月華御寮の遺しもの編

11.美姫もまた人それぞれ

 
 
   ◆



「……で、ツカサ君を勝手に持ち帰って着飾らせたのが今、と?」
「そうだ。お前らも魅了する服を着せてやったぞ。俺の審美眼に感謝するがいい」

 目の前で俺とカウルノスを交互に見ながら、不機嫌に目を細めるブラック。
 いや、うん、言いたい事は分かる。今回ばかりは、そのゴミを見るような冷たい目も甘んじて受け入れよう。

 だって、戻って来たと思ったら余計なオッサンがついて来た上に、俺は布で首から下を隠してるし服も相手に持たせてるんだもんな。
 ブラックからすれば、まさに「何をしてるんだ」と言いたい状況だろう。

 俺だって、ブラックがどっかのオッサンに服を持たせつつカーニバル衣装で帰って来たら「なにしてんの!?」とかツッコミを入れたくなると思う。

 しかも「着飾らせてやった」とかオッサンが言うんだから、ブラックとしては不機嫌にもなろうて。クロウにまで牽制するようなヤツだからな、ブラックは……。
 なので、俺としてはもう何も言えないワケで。

「……兄上、何故ツカサの服を持っているのですか」

 布を引き摺りつつ帰ってきた俺を気にしつつも、クロウがカウルノスに問う。
 すると、カウルノスは自信満々にフンスと鼻息を吹いて俺の背中をバンと叩いた。そうして、俺を一歩前に押し出す。

「決まっているだろう! お前達が不甲斐ないから、この俺が一肌脱いだのだ。あの分からず屋のデハイアを籠絡させる唯一の作戦を伝授するためにな!」

 その言葉に、ブラックとクロウが同時に反応する。
 さっきまでの不機嫌な様子とは打って変わって真剣な眼差しになったが、二人とも今までそのことでも考えていたんだろうか。

 珍しく二人で部屋の中に居たし、真面目に対策を練っていたのかな。
 だったら、俺のこの恐ろしい服装も役に立つのかも知れない。

 ちょっと気分が持ち直した俺に構わず、カウルノスは俺の服をクロウの方へと乱暴に投げて放った。お、おいっ、俺の一張羅を手荒に扱うんじゃないっ。

「なーにが作戦を伝授だ脳筋三流バカ王子め……」
「なにをブツブツ言っているのか知らんが、まあ見てみろ!」
「えっ?」

 今まで体を隠していた布が、ぐいっと布を引っ張られる。だが、完全に呆けていた俺は、その力に抵抗すら出来なかった。
 気が付いたら、サーッと布が取り去られてて……ってうおおおおっ!

「どうだ、これがデハイアを籠絡する服だ!」
「み、見るなぁああ!」

 慌てて体を隠そうとするが、それにいち早く反応して、カウルノスが俺の背後に回り両腕を捕えてしまう。隠そうと思っていた部分が全て曝け出されてしまい、反射的に顔に熱が昇ってしまった。

 だ、だって、今の俺の服は……っ。

「これは……」
「獣人のメスらしい、露出度の高い服だな……」

 ぐううう二人がドンビキしてるのが分かる。分かるから見たくない。
 恥ずかしさのあまりつい顔を背けてしまうが、しかしブラック達が俺を見ているのは何故か分かってしまい、更に羞恥心が煽られてしまう。

 だって、俺の服は……絶対に俺が着ないだろう、メスらしい服だったのだから。

「胸スッカスカだねえ……これ巨乳のメス用の服でしょ? お腹が丸見えなのはイイけど、しゃがんだら絶対乳首見えるんじゃないの。スケベ過ぎじゃない?」
「ウム、これは王族のメスらしい服だな。ちゃんと足も見えているし、肩や胸元の辺りも露わにしている。だが、欲を言えば前掛けはもっと短くてもよかったな」
「ファッションチェックすなー!!」

 さっきまでの不機嫌な態度は何だったんだと言わんばかりに、オッサン二人は俺の服に対して辛口の批評をしやがる。
 いや似合ってないのは俺も分かってるんだけどさ……でも仕方ないじゃない。
 カウルノスが「この服しかない」って言うんだから。

 コレを着るんだと事前に分かっていたら、俺だってデハイアさんを軟化させる方法を教えてとか言わなかったよマジで。

「けど、この国のお姫様っぽいし……まあ良いんじゃない? この露出狂みたいな服なら、いつでもツカサ君の太腿を触れそうだし……ふ、ふふふ……」
「ううう……言いたい放題言いやがってぇ……」

 っていうかしっかり気に入ってんじゃないよブラックのコンチクショウめ。
 俺だって歩く度に太腿が丸出しになる服なんか着たくないわ。いやこれを女の人が来て歩いてたらそりゃ俺も興奮するけどさ。でも似合う似合わないってあるだろ。

 俺がこんなえっちなアラビアンのお姫様みたいな服を着ても意味ないんだって。

 うう……でも、やるって言った以上は仕方ないわけで……。

「ツカサの足の短さに合う前掛けを選ぶのが大変だったぞ。幼いメス用のものぐらいしか無かったが、ホントにコイツは十七の成人なのか?」
「そのはずなんだけどねえ」
「…………」

 足が短いとかいう悪口は聞かなかった事にしておこう。殺意が沸く。

 それはともかく、服が合わないのは獣人の方が体格が良いからだ。あと……この館に置いてあった服は、全部背が高い女性用っぽかったんだよな。
 だから、大人用の服は着られなかったのだ。

 ……にしても、この服も実に露出度が高いんだけど。

 クロウが先程言ったように、胸元は……チューブトップとかいうヤツだろうか。大胆に胸元が開いたバニーガールの胸元の部分だけを着た感じというか……ともかく、ファッションに関する語彙が少ない俺ではどう説明したらいいか分からない服で……下着って感じではないけど、とにかく布地が少ない上着だ。

 それに、二の腕辺りで止められた、指先まである白くふわりとした袖。
 首元から下がるネックレスや耳を重くするイヤリングも合わせると、確かに上半身は凄く王族っぽい。あと、後頭部から首元を覆う布が付けられた冠も被らされた。

 装飾が無い、孫悟空の頭のヤツみたいなのだから別に良いんだけど、頭の後ろに布が有るというのはなんだか落ち着かない。

 けど……それよりも問題なのが、下だ。
 骨盤の上から下がる金のベルトのようなものに取り付けられたのは、俺の股間から足を隠す長い前掛けだ。下腹部ぐらいのところでわざと取り付けられた、これまた背後からみるとドレスの裾に見える布があるのだが、この偽ドレス布は横腹あたりまでしかなく、股間部分をカバーできない。
 それゆえ、この前掛けで股間を隠しているのである。

 だが、こんな心許ない布だと……歩いたら、どうしても股の間にちょっと布が入って股間の部分が強調されてしまうし、俺も俺でこんな柔らかい布を前に垂らして歩いた事なんてないので、慣れなくてすぐ股の間に巻きこんじゃうしで……その……股間が見えるわ太腿も丸出しだわになって、凄く恥ずかしいというか……。

「……僕達になにも相談せずにやったのは万死に値するけど……まあ、ツカサ君がやらしい格好になったから今回は許してやろう」
「なに言ってんの何言ってんのアンタは」
「ツカサ君こっちにおいで。お、お膝の上に乗ろうねぇ、ふへっ、ふへへへへ」
「変態みたいな笑い方をするんじゃねえええええ」

 にじり寄ってくるブラックに今度は血の気が引いてもがくが、カウルノスの手が枷のように頑丈で全然抜け出せない。

「おい、お前のつがいなのに何で逃げるんだ」
「そうそうっ、お前たまには良いこと言うなあ! ほらほらツカサ君、その服で暴れると太腿もお尻も丸出しになっちゃうよ~?」

 ゲッ、そ、そうだった。
 俺の前方を守るのは、この軽くて柔らかい前掛けだけだったんだ。

 ついうっかりいつもの調子で暴れてしまったが、こんな服でいつもみたいに暴れたら余計に恥ずかしい事になってしまう。

「うぅっ……」
「そうそう、お姫様なんだから大人しくしてね。僕のとこにおいで~」

 おいでって、俺はペットか何かか。
 どんだけおちょくれば気が済む……っ、ああ、大した抵抗も出来ずにブラックの方へと引き渡されてしまった。チクショウ、なんでカウルノスも物分りがよくなってんだ。

 好感度が上がると急に気安くなるキャラかお前は。

 色々とツッコミを入れたかったのだが、何かを言う前に俺はブラックに手を引かれてしまい、流れるようにブラックと一緒にベッドに腰掛けてしまった。
 ……勿論、ブラックの膝の上に乗せられて。

「むっ……。ツカサ君、さては他のヤツの膝にも乗ったでしょ!」
「ちょっ、えっ、な、なんで分かるの!?」

 乗せられるなりとんでもない事を言われて思わずブラックの顔を見てしまうが、相手は子供のように頬をぷくっと膨らませて、わかりやすく不満を示している。
 どうやら本気で怒っているワケではないようだが、それにしても何故俺が今まで他の奴の膝に乗せられていたのを察したのだろうか。

 普通に考えたら分からないはず……だよな……?

 ワケがわからなくて菫色の瞳をジッと見つめると、ブラックは目を細めた。

「なんで分かるのかって……そりゃ減ってる気がするからだよ」
「減ってるって、なにが」
「ツカサ君の足のむにむに具合が……」
「減るワケあるかぁっ!」

 なんでそんな細かい所が減るんだ。
 ついツッコミを入れてしまうが、しかしブラックは俺の心を読んでしまうような能力の持ち主だしな……もしかしたら俺の何かが減っているのも見抜いたのか?

 しかし、本人が気付かないことに気付くって……どんだけ観察力が鋭いのか。
 でも女子の髪型を即座に見抜けるのは凄く便利かもしれない……。

「さてはツカサ君、あのクソ脳筋の膝の上に乗ったのっ!? まさか太腿を触らせたの?! 触らせたんじゃないよね!」
「俺が揉んだのは腹肉だぞ」
「殺すぞテメェ!!」
「まあそう言うな。俺だって分からず屋と半日顔を突き合わせてたんだ。それくらいの事は許せ。……それに、知恵も授けてやったんだぞ? 今後はツカサのメスらしさを存分に使ってアイツを懐柔すればよかろう」

 その言葉で大体の事は分かったのか、ブラックは一瞬納得したような顔をしたものの、しかしまだ不満だったようで眉根を寄せてカウルノスを睨んだ。

「ツカサ君に、あのクソオヤジを誘惑させろって?」
「現状、それしか方法は無い。……デハイアがクロウクルワッハへの敵意を弱めなければ、どのみち“遺物”は見せて貰えん。アイツのデイェル……特殊技能は家紋を体現する【守護】だ。アイツが許可せんかぎり、部屋には誰も入れない」

 カウルノスが言うには、あのデハイア伯父さんは【バリア】のような、特需な能力を持っているらしい。ただ、その能力ってのが厄介で、あの伯父さんが指定したモノは誰が触れても弾かれてしまうのだという。

 ただ、それは一つしか指定できないらしく、今はその能力が“遺物”を置いた部屋に使われているとのことで……なんかもうトコトンまで拒絶してるな。人を。

 だからこそ、早く済ませるなら、俺みたいなのを使ってでも籠絡する必要があるって事で。……それはブラックとクロウも理解したのか、話を聞いた後は小難しそうな顔をして、二人で顔を見合わせていた。

 まあそりゃ、そうだよな。
 現状協力してくれない相手を懐柔するなんて、何の用意もしてこなかった今の俺達にはこれしか方法が無い。強行手段を取っても相手は絶対にバリアを解いてはくれないだろうし、そうなると……もうこんなアホみたいな事をするしかないのだ。

 ……ホントは、クロウに「仲直り」を頼む方法も有るけど……長い間拗れていることをいま解決してくれ、なんて、言えるはずがない。

 無視をされて俯いていたクロウに、これ以上イヤな思いをして欲しくないんだ。

 だから、俺は恥を忍んでこんな服を着た。
 クロウが決断を急かされるより、この方が良いと思ったから。

 ――――例え、伯父さんとのことをいつか解決しなきゃいけないとしても、こんな所で急に「仲直りしろ」なんて言うのは間違っているだろうしな。

 だから、今は……。

「…………オレのために、その服を着てくれたのか。ツカサ」

 そんな俺の思いを読み取ってくれたのか、クロウが俺を見つめて来る。
 ちょっと悲しそうな、それでもどこか感動したような、潤んだ橙色の瞳で。

 無表情は相変わらずだけど、そんな雰囲気を醸し出されたら気恥ずかしい。でも、クロウが安心しているみたいで本当に良かったよ。
 誰だって、心の準備が出来てない状態で怖い人と話したくはないもんな。

 獣人大陸に帰って来てからのクロウは、過去のことでつらい思いをしながらも、そのつらさを乗り越えて頑張って来たんだ。
 だから少しくらい逃げたって良いと思う。

 逃げたぶん、仲間の俺達がカバーすりゃいいんだ。
 それに、俺自身の能力で何とかできるかもしれないコトがあるってんなら、今度こそ活躍しないと。メス扱いはシャクだが、事は一刻を争うし四の五の言ってはいられない
 なんとかデハイアさんを懐柔……は出来なくても、あの人に近付いて何か取り引き出来るような要素を見つけて、交渉しなければ。

 だから、今回は、クロウも無理をしなくたっていいんだ。
 そう思って、俺はニッと笑い返してやった。

「この方が早いって言うからさ。……まあ、俺今まで活躍してなかったし……だから、二人とも大船に乗った気でいろよ! 俺が絶対なんとかするからさ」

 ロクショウだって頑張って俺達を運んでくれて、いまはスヤスヤねているのだ。
 だから、今度の仕事は俺の番ってことでしょう。

 そう示して「任せなさい」と腕を上げると……何故か、ブラックが溜息を吐いた。

「この……ねえ……。ツカサ君、ホントに君って子は……」
「ん?」

 なに。何が言いたいんだ。
 振り返ってブラックの顔を見るが、相手は疲れたような顔で肩を落とすだけで、俺の疑問に答えてはくれない。それどころか、カウルノスまで息を吐いて来て。

「……お前達がコイツと常に離れずに行動したがる意味が、なんとなく分かった気がするぞ」

 それはどういう意味ですかね殿下。
 何か、遠回しに呆れられている気がするんだが気のせいだろうか。

 眉間に皺を寄せていると、今度はクロウが近付いて来て俺の前に跪いた。

「ツカサ。……そう無防備に笑顔を振りまくと、いくら伯父上でも興奮して何をするか分からん……くれぐれも、相手はメス日照りのオスということを覚えておいてくれ」
「う……うん……?」

 心配そうな感じで見つめて来るので、つい頷いてしまったが……別に色気もない顔でニカッと笑うだけで、興奮するものなのだろうか。
 いや、ブラックとクロウは特殊な趣味をお持ちだから、俺の普通の笑顔で何か思うのかも知れないが、さすがにカタブツそうなあのオジサンは別だろう。

 こういう所が過保護なんだが……でもまあ、ニカッと笑ったらイラッとされて熊の爪で頸動脈をスパッとされるみたいな可能性もあるもんな。

 っていうか、正直そっちの可能性の方が高いかも知れない。

 ブラック達の感じ方はともかくとして、なんとか相手の好みを知らないと。
 簡単に死なないためにも、まずは老執事さんに話を聞いてみるのも良いかも知れない。よし、明日起きたらすぐに執事さんを探してみよう!

「……またなんか誤解してるなツカサ君……」

 上から何か呆れたような呟きが漏れたが、よく聞き取れなかった。










※またもツイ…エックスで言うてた通り遅くなりました…
 _| ̄|○スミマセン
 年末ちょっと遅れがちになるかも知れませんが、出来るだけ
 早く更新出来るように努めますのでよろしくお願いします…!

 
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