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邂逅都市メイガナーダ、月華御寮の遺しもの編
12.薬草庭園の姫君1
しおりを挟む翌日。
俺はいつもの服からあの服に着替えて、早速行動する事にした。
……正直、このお姫様的な服に再び袖を通すのは、本当に憂鬱だったのだが、俺しか状況を打破できないなら、恥を捨ててもやるしかない。
ってなワケで、ブラック達に目を閉じさせて素早く着替え、朝食も済ませていざ単騎で敵のもとへ向かわん――――と思ったのだが。
「……そういやあの人、この館にはいないんだっけ……?」
相手を懐柔するんなら、とりあえず一人で行動した方がいいだろうと考えた俺は、館の廊下をサンダルでパタパタ歩きつつ、デハイアさんを探しているのだが……。やっぱりというかなんというか、それらしい気配がない。
確か昨日、この館の奥にある私宅で寝泊まりしているんだっけ。
だとしたらそもそも、こっちには来ない可能性も有る。なんたって、クロウに対しての嫌い具合が凄かったもんな……食事も恐らく私宅で済ませているんだろう。
けど、そうなると接触が難しくなるよな……。
給仕をしてくれる最低限の侍従さんはいるんだけど、みんな「俺達にはあまり接触しないように」と命じられているのか、最低限の会話しかしてくれないし……やっぱり、周囲の人達にとりなして貰って接近するのは無理そうだ。
「しかも、朝食を出したらみんないなくなっちゃったし……多分、私宅の方に移動したんだよなこれって。……うーん……なんというチマチマしたいやがらせ……」
しかしまあ、このくらいだったら可愛いかもしれない。
これまで見て来た「嫌がらせ」とか、改心する前のカウルノス達が計画していた事を考えれば、館を自由に使っていいと言ってくれるだけマシかも知れない。
っていうか、わりかし優しい気さえする。
「……やっぱり、デハイアさんもクロウに殺意を持っているワケではないんじゃないのかなぁ。許せない気持ちは持ってるけど、やっぱり妹さんの子供なんだし……」
例えクロウのことを憎んでいても、愛する妹が遺した唯一の子という事実が、最後の一線を越えるのを拒んでいるのかも知れない。
ならば、とっかかりはあるような気がするんだが……会えないとどうしようもない。
どうしたもんかと考えながら歩いていると――――
「あっ」
「おやおや、ツカサ様これは……」
執務室に何かを取りに来たらしい老執事さんが、ドアを閉めてこっちに気付くなり、足早に近付いてきた。ちょっと距離が有ったのに、やっぱり獣人は目が良い。
相変わらずヤギかヒツジか迷う角と耳を生やしたお髭の老執事さんは、俺の酷い女装姿を見て、何故かふるりと体を震わせた。
あっ、やっぱりご気分を悪くなされ……いやこれは恐怖か。ノーメイクノーかつらの男らしい女装を見て恐怖を感じたのか老執事さん。誠に申し訳ない。
「す、すみません、その、カウ……殿下に、着替えならこれを着ろと言われまして……何かご気分を害されたのでは……」
やっぱアイツらの審美眼がおかしいんだよ一般人なら当然こうなるんだ。
ご老体になんてものを見せてしまったんだと慌てて謝った――のだが。
「いえ……いえいえ……! こちらこそ、ツカサ様のお姿を拝見して突然感極まってしまい、申し訳ございません……! ですがその服をお召しになった姿を拝見すると、どうしても……」
えっ。
老執事さん、怯えてたんじゃないの……?
でも感極まってしまいってどういうことだろうか。
「あの、もしよかったらお話して頂けますか?」
ブラック達だけでなく老執事さんまで変わり者だったとは驚いてしまったが、しかし彼の様子はそんな理由だけで涙ぐんでいるワケでははないようだ。
もしかしたら……この館の事や、他の事も聞けるかも知れない。
そう思い、老執事さんに問いかけると――相手はコクリと頷いてくれた。
「では……そうですね、お話をするだけと言うのもいささか味気のうございますから、庭園をご案内しながら……というのはいかがでしょうか」
「えっ、い、良いんですか?」
この館の敷地内に入った時、かなり綺麗な庭園があったから入って見たかったんだよな。刈り揃えられた庭園って感じじゃなくて、どっちかっていうと植物園みたいな風に植物が思い思いに伸びているのを綺麗に整えた庭で……だから、ちょっと探検欲をそそられてしまったのだ。
無暗に入っちゃいけないと思って窓から眺めるだけだったけど、老執事さんが良いと言うのなら、喜んで侵入させて頂こうではないか。
訊き返した俺に老執事さんは笑顔で頷いて、俺を庭へと案内してくれた。
「わー……! やっぱり凄い、マジで植物園だ!」
王宮の庭もけっこう植物の力に身を任せた感じのジャングルな庭だったけど、あの場所は花や熱帯植物で溢れてたから、それが魅力的だったんだよな。
それに対してメイガナーダ領地の庭は、なんというか……手作り感がある。
もちろん庭師の人が手入れしてくれているから綺麗だし、植物が混雑している事も無いんだけど、植物を等間隔に植えるためか土が見えていたり、歩道の縁の煉瓦を越えないように剪定されていてちょっとスカスカしてる感じがほっこりする。
綺麗にしてあるけど……やっぱり、どっちかというと植物を愛でるんじゃなくて、観察するために造られたような庭だった。
でも、俺としてはこういう庭も嫌いじゃない。むしろ好きかも。
俺の通ってる高校にも、こういう小さな温室の庭園があるんだよな。
たぶん金持ち生徒がいるおかげなんだろうけど、実はああいう所を見るのも好きなのだ。なんか探検してる感じがするし!
「ふふ……ご令嬢が喜ぶ場所とは思えませんが、楽しんで頂けて光栄です」
「あ、えへへ……俺、ご令嬢じゃないですけど……でも、凄い好きですよ。この庭って、植物の研究とかもする為の庭なんですよね? だからこういう風に、敢えてスカスカな所も作ってるとか……そういうの見るのも楽しいんで」
「おや、そこまでご存じで……!?」
俺の言葉に、老執事さんが手で口を押えて目を見開く。
また震えておられるが、もしかして執事さんは感動屋なのだろうか。ご老体にムチを打っているようでちょっと心配なんだが。
思わず振り返ってしまったが、執事さんはそんな俺に何を思ったのか、とうとうさめざめと泣き出してしまった。あっ、あっ、なんかすみません。すみません!
「えと、は、ハンカチ……」
「うっ、うぅ……。ああ、そのようにお優しいところも、実に似ていらっしゃる……っ! 坊ちゃまがツカサ様をお選びになったのも、よく分かります……っ」
坊ちゃまって……クロウのこと……?
なんか、遠回しに「クロウのお母さんに似てる」みたいな話をされているようだが、俺は男でしかもクソ女装をして魅力がマイナス百倍になってるんですが、執事さんは優しげな目で俺を見過ぎではないですかね。
間違っても似てないと思うんだが。そもそもクロウのお母さん女性だし。
…………っていうか、お母さんに似てるから惹かれたってのが一番ヤだな。
似てる似てないの問題じゃなく、誰かに似てるから惹かれたってのは、メス扱いを受けるのよりイヤかもしれない……。
今までそんなこと言われた事が無かったから、初めて気付いたぞこんなの。
けど、執事さんに悪意はないんだよな。
恐らく俺がこんなお姫様服を着ているせいで、かなり贔屓目な評価になっちゃってるんだろうし……。
そもそも、クロウの口からお母さんに似てるって話も聞いたこと無いしな。
たぶん……そういう意味で俺を好きになったんじゃない、はず。
クロウと初めて出会った時の事を話せば誤解が解けるだろうかと考えたが、そんなことを話したら老執事さんが卒倒するかもしれん。
どうしたもんかと思ったが、老執事さんは自前のハンケチで涙を拭いつつ、俺をジッと見つめてしみじみと頷いてきて。
「こうして見ると……ツカサ様はどことなく、スーリアお嬢様が成人になる前のお姿に似ておられます。戦竜殿下がその服を選ばれたのも、スーリアお嬢様のお姿を覚えておいでになられたかもしれませんね……」
「そう……なんですか……」
「ええ。毛色は褐色と白で違えど、植物と戯れるその純粋なお心がよりそう見せるのでございます……。ああ、すみません、これほど取り乱して……」
「いえ、あの、お気になさらないで下さい」
なるほど、そういえばカウルノスはクロウよりお兄ちゃんなんだし、スーリアさんの姿を何年か多く見ているんだよな。
その記憶も有って、俺がよりスーリアさんに近くなる服を着せたのかも。
……ははーん、なんとなくアイツの作戦が読めたぞ。
つまり、カウルノスは「スーリアさんに限りなく近づける服を着て、デハイアさんに妹の面影を思い出させ懐柔しろ」と言いたいのだろう。
俺は未だに納得がいっていないが、老執事さんのこの反応を考えれば、伯父……つまり、スーリアさんの兄であるデハイアさんにも少しは効果が有るに違いない。
でも……それも諸刃の剣だよなあ。
逆に怒らせる可能性も有るし……まあ、会えなけりゃどうしようもないんだが。
けれども、思わず老執事さんが俺を庭園に誘って「やっぱり似てるんです」と言う程であれば……あるいは、もしかするかも。
…………よし、こうなりゃ毒を喰らわば皿までだ。
老執事さんから出来る限りスーリアさんの事を聞きだそう。
クロウから聞くのは酷だよなと思ってたから、これは渡りに船ってヤツだな!
「あの、執事さん……もし良かったら、クロウのお母さんの事……話して貰えることがあれば、楽しい思い出とか……色々話して貰えませんか」
不思議と暑さを感じないこの庭なら、何時間だって話していられる。
それに……俺も、クロウのお母さんがどんな人だったのか知りたいんだ。
だって、クロウをあれだけ辛抱強くて優しい男に育てた人だもんな。絶対に美人で凄く優しい人だったに違いない。
情報を得たいという気持ちも有るけど、なによりその思いが強かった。
「ツカサ様……」
「あ、でも、もし老執事さんの仕事が忙しくなければですが……」
驚いたように目を丸くする相手を見上げると、老執事さんは躊躇うことなく、優しい笑顔で何度も頷いてくれた。
→
※ツイ…エックスで報告した通り遅くなりました…!
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