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緑望惑堂ハイギエネ、霊蛇が隠すは真理の儀仗編
これからよろしくお願いします2
しおりを挟む「イヤイヤ言ってるくせに、しっかり体が熱くなってるじゃないかぁ。まったく……ツカサ君ったらこんな所でも淫乱なんだから」
お前らが触って来るからだろ!!
と思い切りツッコミたかったが、俺の心の声など聞えていないブラックは嬉しそうな声を隠しもせずに、俺の尻肉を両手で鷲掴んで好き勝手に揉みしだく。
「だっ、誰がいんらっ、ぁ……! やっ……!」
「おや、股間が熱くなっているのに淫乱ではない、と? 不思議ですね、こんな場所で体を弄られれて感じるのは、立派な淫乱でしょう?」
何とか反論しようとしても、それを阻止するかのように、アドニスが手を股間の奥までするりと押し込んでくる。
太腿で締め付ける手の感覚は、明らかにブラック達とは違う。
長い指が俺のモノの全体を包んでゆっくり撫でるだけで、その手つきの違いに体が恐ろしいくらい違和感を覚えて背筋がぞくぞくした。
これで「アドニスに触られたくない」なんて思えたらよかったのに、俺の体は本当におかしいのか、拒否感すら覚えてくれない。
そうこうしているうちに、どんどん下半身の熱は蓄積されていって。
「っ……う゛ぐ……っ、うぅ……あ、アンタらが……っ、するから……っ!」
変な声を出さないように口をぎゅっと閉じるけど、そのせいで余計に無様な嗚咽が漏れてくる。それも恥ずかしくて、もう顔が熱さで痛いくらいで。
そんな俺の顔をじっと見つめるアドニスは、楽しそうに俺の肩をさすった。
「ええ、そうですね。ですが、ツカサ君がこうして軽く触られただけで発情しているのは、君が敏感で体が感情に支配されやすいからですよ」
「なっ、に……それ、ぇ……っ」
もう、やだ。やだってば。
肩をそんな、やらしくゆっくりさすらないで。
ただでさえ下半身を集中攻撃されてヤバいってのに、今ぞわぞわして刺激に敏感になってる体をそんな風に触られたら、それだけでおかしくなる。
アドニスの指がいつ激しく動き出すかとか、ブラックの武骨な指がギリギリの位置から谷間に入って来ないか心配で、その懸念が感覚を鋭くさせてしまってるんだ。
それなのに、頭がいっぱいになっている心配事とは違う動きをされたら、心構えが出来てないから頭が混乱してしまう。
我慢してるはずの声が、またおかしくなっちまうんだ。
それがまた、恥ずかしさを強くしてしまう。
こんな、いつ誰が呼びに来るかわからない場所なのに……っ。
「つまりさぁ、ツカサ君は……だ~いすきな僕に触られたら、体がすぐメスの快楽を思い出して幸せになっちゃって、子供おちんちんもお腹の奥もきゅんきゅんして発情しちゃうってこと! でも、こんな所で気持ち良くなっちゃうなんて、ツカサ君も随分とやらしくなっちゃって……」
だから違うってば。俺は別に、やらしくなんてなってない。
そりゃ、あんだけアンタに弄繰り回されたら体も覚えちゃうだろうし、その、す、するのがイヤってワケじゃないんだから、反応しちゃうけど。
でも今のは俺の意志じゃないだろうがっ、アンタらのせいだろうがあ!
くそっ、こんな時までこの二人は話が通じないのか。
いや俺がどんな気持ちなのか分かってて、あえて分からない振りをしてるんだ。
ブラックもアドニスも、俺をえっちなことで困らせるのが面白いらしい。
こいつらは人でなしなんだ。変人なのだ。
平気で人を襲うし、えっちな道具とかを使って泣かせるんだっ!!
だから、何度もこんな目に遭わされたし、俺だってコイツらがそういう人間だってのは分かってるんだけど、でも、今回ばかりはダメだって!
そんなに撫でられたら、変に揉まれたら、もう我慢が……っ。
「おい陰険眼鏡、ホントにツカサ君を勃起させる気か?」
「おっと……存外手触りが良くてつい。……ふむ、これはもう蕩けたメス顔と言っても差し支えないですね」
「っは……は、ぇ……?」
な、なに。何か、急に真面目っぽい声になったぞ。
やめてくれるのか。もう正気に戻ったのか?
とにかく、完全にヤバい状態になる前に二人が引いてくれそうな気配だったので、俺は一瞬安心してしまったのだが――
「続きは後で……ねっ」
「ひゃうぅっ!?」
尻を揉んでいた手が思いきり谷間まで指を捻じ込んできて、そのまま再び尻を上へ揉みあげるようにして弾く。だがそれだけでなく、アドニスの手もとどめとばかりに少し力を込めて手を抜くのと同時に強く俺の股間を擦ったのだ。
安心している時に急にそんな事をされて、我慢できるはずもない。
思わず変な高い声を出して跳ねそうになったが、ブラックが後ろから羽交い絞めにしてきたのでその場から動く事は無かった。
っ、て、そ、そんなことするなら、変なことしてくんなよぉ……っ!
山ほど文句を言いたいが、でも声が出てこない。
荒い息が震えて、下半身がやけに熱を持っている感覚に煩わされて、目がじわりと涙で滲んでしまっていた。
「あは……ツカサ君たら、そんな顔して……本当に恥ずかしい事が好きなんだから」
「違、う……ってば……」
「まあまあ、自分を客観視できないツカサ君は置いておいて……それより、そこまで陰茎を刺激されたら、もう気にせざるを得なくなるでしょう?」
「な、なに急に……」
そりゃアンタらと一緒のモノを持ってんだから、気になるでしょうよ。
っていうか、他人事のように言うんじゃねーよお前らはよお!!
なんかもう段々腹が立ってきてアドニスを睨むが、相手は俺の事なんて怖くないのか、楽しそうな笑みを浮かべて俺の頬を指で撫でて来た。
や、やめろ、今肌が敏感になってぴりぴりしてんだってば……!
「君はメスとしての振る舞いが全く出来ませんからね……。顔が見えづらい壇上でも、明確にメスだと認識して貰うなら、振る舞いから学んで貰わないと」
「そ、それが今のと何の関係があるんだよ……」
「股間が熱くなっていたら、いくらガサツでメスらしくない君でも気になって両手で隠すでしょう? その袖は飾りじゃありませんよ、両手を前で合わせていて下さい」
ま、待て。
もしかしてアンタら、俺の仕草をメスに近付けるためだけにこんなことを……。
「俺やっぱり街で待ってて良い?」
「つーかーさーくーん? 大変な仕事を僕達だけに押し付けるなんて酷いマネ、恋人ならしないよねえ~?」
「ぐうう……」
ひ、酷い。なんて酷いヤツらなんだこいつらは。
でも俺も一人じゃ何もできないし、確かにたおやかな演技なんて出来そうにないので、二人がこんな事をしたのもちょっと納得が行くけど……。
でもだからって触る必要なくないか!?
これは確実にセクハラ……いやでも毎回ブラックに「すーぐ忘れるんだから」って言われるし……そうなると、体に教え込むしかないみたいになるのか……?
あああ、色々考えるとよく解らなくなってきた。
俺が完璧超人なら「コラ!」て素直に怒れたんだろうけど、俺は見ての通り粗忽者だし変人のコイツらと付き合ってるのも俺の意志だし。
お、怒……怒って良いのかこれは……?
「チョロすぎるなぁ」
「まあいいんじゃないですか。バカな子ほど可愛いと言いますし」
「お前らちゃんと聞こえてるからな!?」
何がバカな子ほど可愛いだ、ちくしょう。
仕返ししてやりたいが、何が良いか思い浮かばない。
ぐぬぬ、ここは一先ず大人しく袖で股間を隠しておくか……。
などと思いつつ、袖を前で合わせたら股間と足が隠れた事にちょっと安堵していると、学院の人が壇上にあがってきた。どうやらついに始まるらしい。
学院の関係者っぽい人が軽く挨拶をした後、すぐに学院長が出てくる。暫く学士の先月の行動に対して褒めたり注意したりと言う事を話していたが、ついに俺達の話が出てきた。
「次に……今日から数日、特別講師の方が学士への講義をして下さいます。その方は、かの高名な薬師であるアドニス・ゲルト・パブロワ様です」
途端、舞台袖からは見えない座席の方から大きな歓声が上がる。
おお……流石は世界最高の薬師と謳われるアドニス。
やっぱり知名度は抜群だし、薬師からすれば憧れの存在なんだな。
にしても、なんか名前に違和感があるような……。
って、そういえばアドニスって人族の世界では偽名を使ってるんだっけ?
以前は妖精側に対して憎しみを抱いていたし、そもそも妖精族の血が入ってる事を隠したかったのかも知れないけど……まあともかく、本当に名前じゃなかったんだ。
俺達はもう本名を知っているから、久しぶりに偽名の方を聞いてちょっと違和感を覚えてしまったな。
それにしても……偽名を聞かされたのも、かなり前の事のように思える。
うーん、オーデル皇国でも色々あったもんなあ、ホントに。
まあその一件のお蔭で色々解決したし、アドニスだってもう本名に対する忌避感はないハズなんだけど……。やっぱり、正体がバレないように警戒は緩めたくないってことで、偽名のままなんだろうか。
そんなことを思っている間に、イスヤ学院長は何事か学士達に説明し終わったのか、キリをつけるような言葉を発した。
「またとない機会ですので、受講したい学士は講義の時間を日毎に尋ねてください。では……アドニス様に、一言お言葉を頂きましょう」
また歓声が上がる。
う、うう、遂に出番か……俺は後ろで控えていればいいらしいけど、こんだけ熱気のある会場に出ていくなんて、なんかアウェーな感じがするな……。
アドニスは求められてるけど、俺みたいなのが付いて行っていいんだろうか。
つい気後れしてしまうと、後ろからポンと大きな手が背中を押した。
「黙って大人しいフリをしてれば大丈夫っ。だからさ、気負わずに行っておいでよ。終わったら僕がぎゅーっと抱き締めて安心させてあげるからっ!」
そんなふざけた事を言いながら、ブラックはニカッと笑って見せた。
まったくもって不自然な明るい顔だが、俺を励ましてくれているのは分かる。
……悔しいけど、おどけたブラックを見ると、不思議と緊張が解けてしまった。
「行きましょうか、ツカサ君」
「お……おう……!」
両手はしっかりと前で組んで、おしとやかに。
まだ下半身は熱で籠ってて恥ずかしいけど、俯いていればすぐに終わるはず。
もうこうなったらやってやれだ。
そう思って、俺はアドニスの背中を追うようにゆっくりと光の下へ出た。
「先生、こちらへ」
イスヤ学院長が手で中央へ来ることを誘う。
そこには四角い石板が置かれた台があって、石版以外は普通のクラシックな答弁台って感じだった。アドニスがそこへあがるのを見つつ、俺は背後に回る。
ほっ……アドニスの陰にいれば、視線も集中し無さそうだ。
ちょっと安心しながら、軽く顔を上げると――舞台の上からの眩い光に照らされて髪色が深い緑にキラキラと輝くアドニスの姿が見えた。
……本当に、耳が長かったら妖精かエルフかってくらいの綺麗な長い髪だ。
思わず見惚れてしまった俺には気付かず、アドニスは自分を見つめる百以上の視線を一身に浴びながら、堂々と片手を軽く上げた。
「……只今ご紹介に与りました、オーデル皇国所属、専属特級薬師を務めておりますアドニス・ゲルト・パブロワと申します。本日は縁あってこちらで講師をさせて頂く事となりました。若輩者ゆえ、精製薬の知識は乏しいのですが……世界各地を旅する薬師としての知見をもし皆様に必要とされるのであれば、遠慮なく訪ねて頂ければと思います」
すらすらと、学士達への自己アピールを簡潔に喋る。
どうやらあの石板はマイクの役割を果たしているらしく、アドニスが声を出す度に刻まれている文様が青い光を発して、行動の天井近くに設置されているスピーカーのような箱から声が聞こえているようだった。
なるほど、こういう仕組みで声が伝わってるんだな。
そんなことを思いながら、視線を下げると――――そこには、熱のこもった視線でアドニスを一心に見つめる学士達の姿が有って。
おお……やっぱり、研究者なだけあって熱心で真面目な人達なんだな。
よほどアドニスに話が聞きたいのか、その目は遠くからでもキラキラと光っているのが分かった。そういう目を見ていると、心が落ち着いてくる。
良かった、俺に対しては誰も何も思っていないようだ。
というか、アウトオブ眼中って感じだ。まあそうだよな、なんたって、超有名人が学校に来てるようなもんなんだもん。お付きなんて気にしないか。
俺としては、そっちの方が気楽だしホッと出来て嬉しいがな!
「……」
それにしても、みんな熱意が有って感じのいい生徒っぽいじゃないか。
真面目そうな人が多いんだろうに、何でそこでいじめる奴が出ちゃうんだろうな。
俺達の世界みたいな義務教育でもなく、好きで入ってきた学院だろうし、それなら尚の事、勉強以外に現を抜かす余裕なんてないだろうに。
大人になってもいじめってやめらんない奴はやめらんないのかなぁ……。
よく解らない事を考えながら手を組んでいると、イスヤ学院長がアドニスから位置を譲って貰い、再びマイク代わりの石版の前に立った。
「それでは、講義は明日から。日程は夜に掲示板に張り出します。すぐに時間を知りたいものは食事の時間の後に職員室に来てください」
これで、一応は紹介も終わったらしい。
もう帰って良いのだろうかとイスヤ学院長の背中を見ていると、アドニスが俺の方を向いて、にこりと微笑んだ。
「ちゃんとお淑やかにしていられたようで、良かったです」
良かったもクソもねえよ、とちょっとイラッとしたけど……
強い光に照らされて微笑むアドニスの姿は、何故かいつも以上に綺麗で、思わず声が引っ込んでしまった。
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