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緑望惑堂ハイギエネ、霊蛇が隠すは真理の儀仗編
7.海蝕洞窟の探検1
翌日、俺達は朝も明けきらぬうちから【エスクレプ】を出発した。
というのも、アドニスの講義が午後に設定されており、日中に探索するのが難しかったからだ。
モンスターが比較的弱いものばかりなライクネスであっても、ここは国境の北限に近い場所だ。それに、いくら初心者向けの国といっても、夜のモンスターは段違いの強さだからな……。ブラックとアドニスは平気だろうけど、俺は平気ではなくなる事もあるのだ。翌日に備えるためにも、無理はいけない。
そう判断したので、朝も早よから“海蝕洞”という場所に向かったのだが……。
「あ……海蝕洞って、こういうヤツなの!?」
【エスクレプ】から北に行った崖の下、そこにちょうど海へと降りる曲がりくねった道があって、そこを慎重に下って行くと広い岩場が在り……崖の真下になっている場所に、目的地はドンと鎮座していた。
いや、鎮座しているって言い方はおかしいかな。
だって目的の「海蝕洞」は……俺が想像していたモノと全く違ったからだ。
「岩に穴が開いて海水が流れ込んでる感じのトコだったんだ……」
「そうだよ? だから“蝕む”の意味の“ショク”で海蝕洞。ここの場合は、崖の一部が波に削られて良い感じに洞窟みたいになったようだね」
「はええ……」
モンスターの気配どころか人の気配すらない海蝕洞に、足を踏み入れる。
右側は潮だまりのようになって海水で埋まっているが、左側はまるで人が入り込みやすいような広場になっていて、波の浸食に耐えた崖の一部が柱のように残り、数本が天井を支えている。
岩場の地面は黒く艶やかなので、何だかそういう渋いデザインのダンジョンに辿り着いたみたいにも思える。
黒曜石みたいな、秘密の洞窟って感じだろうか。
外からの光が差し込む大きな空洞は、波の青さを映し出して天井にゆらゆらと光を反射させていた。
うーむ、ちょっと磯の匂いが強いけど、神秘的で何だか見惚れちゃう光景だ。
モンスターさえ出なかったら、ちょっとしたデートスポットじゃないか?
薄暗くはあるが、ロマンチックな光景に感動してしまう。……が、そんな俺を見てブラックとアドニスはと言うと、他人事のように真顔で。
それどころか、ブラックなんて先程の解説を事も無げに喋ったかと思ったら、何か不満がありますとばかりに腕を組んで、疑問を見据えるかのように目を細める。
「ねえツカサ君……それより僕、納得いかない事があるんだけど……」
「なにがだよ」
ほんっとにアンタらはロマンとか共感してくんないんだからもう。
他の事で頭がいっぱいなのか、1ミリも感動していないブラックを恨めしげに睨むと、相手は思っても見ない事を言い出した。
「何で僕とツカサ君の部屋が一緒じゃないのかな? こういう時は気を利かせて、僕とツカサ君を相部屋にする流れなのに。それにツカサ君がいつもの服に着替え直しちゃったのも納得いかないなぁ……あのむちむち半ズボンのメス服でよくない?」
「全部妥当だわ! 納得いくわい!!」
だーっ、何にずっと疑問を抱いてんだよアンタは!!
部屋は俺達それぞれ役割が違うから、学院が気を利かせて三人それぞれに部屋を用意してくれたんだろうし、そもそも三人とも適度に広くて使いやすい部屋だったんだから、それでいいじゃないか。
まあ、アドニスは大先生だからやっぱりグレードが違うけど……それでも、俺達の方だって、数日借りるにしては豪華すぎるかもしれない部屋だったんだぞ。
備品まで用意されてるのに、不満を言うんじゃありません。
っていうか、俺としては部屋が別で良かったわ。だってあの流れだと、舞台袖でのヤツの続きとか言われてなしくずしに変な事になりそうだったし……。
ご、ゴホン。
ともかく、部屋は別に不満もないし、服装だってチェンジは当然だ。
あ、あんな薄手の服で冒険できるかってんだよ。
そりゃいつもの俺の服だって防御力があるとは言い難いけど、アッチよりも数倍はマシだ。ちゃんと冒険者のお店で販売されてるもんだし!!
ったくこのオッサンは……朝からなーんかムッツリしてると思ったけど、ナニを根に持ってんだよこの。
そもそも師匠と弟子と用心棒って設定なんだから、部屋が同じになるわきゃないっての。弟子が用心棒と相部屋希望って、それどう考えてもおかしいからな?
「どうでもいいですから、さっさと行きましょうよ。色情魔のたわごとに付き合っていたら日が暮れてしまいます」
「あ゛ぁ?」
「だーもーやめやめ! ほらさっさと行こうぜ!」
「キュ~……」
このままだとまた口喧嘩が始まってしまう。
俺とロクショウは二人を宥めると、気を取り直して海蝕洞の奥へと進んだ。
確かに、ブラックが言うように洞窟は下へと降りている。
朝でも暗い洞窟の中は、進むには躊躇するような雰囲気だったが……そこは俺の【ライト】が役に立つ。浮かせたまま自動追尾が可能な俺の有能ライトなら、手ぶらで歩けるからな。
俺は早々に【ライト】を発動させると、最後尾について洞窟を下りた。
「……水が入り込んだ気配は無いな。確かに、これならモンスターが徘徊していても不思議じゃない」
足元を確かめながら降りていく、先頭のブラック。
周囲が見やすいように【ライト】をブラックの少し先に移動させて視界を確保しながら、緩やかな階段状になっている自然の洞窟を下りていく。
水気が無いとはいえ、水場に近い洞窟だからなのか少し滑りやすいみたいだ。
気を付けながら降りていくと、やっと平たい地面が前方に見えた。
むっ……ここからが本番か……。
気合いを入れ直して、足を踏み入れる。と、そこには柱だらけのフロアが広がっていた。【ライト】で照らしている範囲にはモンスターなどいなさそうだが……。
「……モンスターの気配はするけど、襲ってくる気配はないな」
ブラックが、剣にも手をかけずに言う。
警戒してないってことは、安全って事かな。
アドニスもブラックの言葉に同意するように頷いた。
「少なくとも、ここに生息しているのは弱いモンスターのようですね」
「襲って来たり逃げたりはしないの?」
アドニスに問うと、相手は肩を軽く竦める。
「敵意や何かを探っている気配は無いです。……近場だと、こっちですかね」
そう言いながら、アドニスは俺をこっちですと案内してくれる。
少し先に進み、壁の方へ近付いて行くと、少し大きめの水溜りが見えた。
「キュー?」
俺よりも先にロクちゃんが何かに気が付いたみたいで、ぴゅーっと先行して飛んで行く。そうして、発見したのか水溜りの際の場所でクルクルと回った。
そこに近付いてみると。
「おっ……!? これは……」
もぞもぞと動く、ゆったりした動きの動物。
……いや、これはモンスターだろう。
【ライト】の光の下にぼんやりと浮かび上がったその白い生物は、俺が両手で抱え上げるくらいに大きな図体をしていたが、俺達を見ても全く襲ってこない。
それどころか、のたりと顔を上げてこちらを見るくらいだ。
「な……なんか、オオサンショウウオみたいで可愛いかも……」
白くて、ネコで言えば耳のある部分くらいの所にサンゴっぽい細かいツノのような触角のようなモノが生えた、手足が短くて可愛い爬虫類だ。
これ……アレだな。テレビでレトロ特集をやっていたときに紹介された、ウーパールーパーっていう生物に似てるかも!
アレよりもっと手脚は短くて、オオサンショウウオの方に近いけど、可愛さは拮抗してるな。小さいボタンの如くつぶらな瞳と、蛇のように猫口になった大きな可愛いお口がチャームポイントだ。
「ンヌ?」
意外とダンディな声だった……。
ギャップに驚きつつしゃがみ込んで見てみると、白いのたのた君は、ゆっくりと俺達の方に近付いて来て、前足でタッシと俺の足に触れる。
ホントに敵意は無いみたい。
爬虫類が嫌いな人は大きさに驚いたり怖がったりするだろうけど、結構好奇心旺盛で人懐っこい感じだし……俺としては愛でたい対象だ。
「コイツ全く襲ってこないな……」
「名前は解りませんが、友好的な種のようですね。ここまで警戒心が無いのは珍しいですが……こうも敵意が無いと、逆に襲ってきているのだと勘違いするものがいても不思議ではないかも知れません」
「ンヌゥ」
俺が頭を撫でると、白いのたのた君は気持ちよさそうに目を細める。
確かに、この大きさだと警戒しちゃう人もいるだろうなあ……。
「キュキュー?」
「ンヌヌ」
ロクショウも同じ爬虫類どうしだからなのか、何やら通じ合っているようだ。
可愛いと可愛いの共演……素晴らしい光景だな!
「僕も流石にこんなモンスターを見たのは初めてだよ。世の中にはツカサ君みたいなモンスターがいるんだねえ」
「それどういう意味……?」
「人懐っこすぎて、捕まってすぐ食べられちゃいそうって意味」
「ぐぬぬ……」
人懐っこいかどうかはともかく、お前にはすぐ食べられたので何も言えぬ。
とりあえず白いのたのた君を無限に撫でていると、ぺたぺたと複数の足音が周囲から聞こえてきた。
何だろうかと思っていると、暗闇から沢山の白い影が……。
「って、おいおいこの白いデカブツこんなに居たのかよ!」
「これは……囲まれたら確かに恐怖かもしれませんね」
そう、俺達の所に集まって来たのは、大小さまざまなのたのた君だったのだ。
大きさやツノに違いはあるけど、でもやっぱり彼らは襲ってくる気配が無い。鈍足で近くまで寄ってきて、俺達のことを不思議そうに見上げている。
なるほど……確かに、この大量の大型のたのた君に囲まれたら、一般人でしかないラスコーさんは怖いと思うかもな。
そもそも、モンスターなんて襲ってくるのが普通だし……。
「あとね、ツカサ君。モンスターを愛でたがるのはキミくらいだからね」
「だから心の声読まないでってばっ」
なんでそうお前は俺の心の声を的確に読み取って来るかな!?
もうエスパーとしか思えないんですけどねえ!
「まあそれはともかく……このあたりには【コーレルパ】は無さそうですね。もっと下に階層があるんでしょうか?」
「あ……確かに……草っぽいものは見当たらないよな」
海の玉串って言う別名があるくらいなんだから、たぶんちゃんとした草のはず。
なのに、ここには植物らしきものは全く生えていない。
うーん、どこにあるんだろう……?
そんなことを思っていると、俺が撫でているのたのた君が、軽くズボンの裾を引いてきた。どうやら、俺達が何に悩んでいるか気になるらしい。
それを、俺の有能且つ頭が良くて最高に可愛いロクが説明してくれた。
「キュッキュ、キュキュー……キュウ?」
飛び回りながら、俺達が【コーレルパ】を探しに来たことと、それらしい草が無いかと彼らに質問しているようだ。
すると、のたのた君は顔を上げて暫し固まると、ある方向へ移動し始めた。
「ンヌー」
「付いて来いってこと……かな?」
数センチ歩くと、立ち止まってこちらを振り返ってくる。
これはもう、付いていらっしゃいって事だよな。
「ふむ……まあ、罠の気もしないし行ってみるか」
「現物がどんな物か分からない以上、何とも言えませんが……まあ、手掛かりが有るなら行ってみるのも手ですね」
ブラックとアドニスも、特に警戒はしていない。
よしよし、じゃあ張り切って彼らについて行くとするか。
出来れば、目当ての物が簡単に手に入ると良いんだけど……。
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