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𝐓𝐫𝐮𝐞 𝐋𝐨𝐯𝐞 𝟔
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時は少しだけ流れ、ようやく本格的な夏が始まった。
夏真っ盛りの昼、「暑ー」と呟きながらパタパタと手で仰いでいると「琥珀ー」と背後から追いかけて来る睦美。智也が居ない事に気が付き、「智也は?」と聞く。
「国語、再テストだって。仕事の方手伝い過ぎてその疲れがテスト中に出たみたい」
「うわぁ…智也、家事も手伝ってるもんね」
期末テスト三日目が本日終了し、自分と睦美は昼前に帰れる状況にあった。夏を迎えた今、暑さのあまり汗が湧水の様に出てくる。額に伝う汗を拭いながら「これから睦美はどうするの」と聞くと、彼は困った様に眉を下げ、手を合わせてくる。
「ごめん、琥珀。一緒に帰りたいんだけど、今日は用事があって…」
「そっか。じゃあ、僕はそのまま帰ろうかな」
ごめんね、ともう一度謝ると、忙しなく門を出て行く睦美。彼の背中を眺めながら、自分も帰ろうと足を踏み出した。
あれから少しだけ時が流れた今、状況は前より変わりつつある。屋敷の前に佇む大きな門を押し開けて、扉の前迄向かって行く。「ただいま帰りました」と声を上げながら扉を開けると、目の前に制服を来た麗二が丁度靴を脱いでいた。僕を見るなり、「琥珀」と嬉しそうに頬を緩めた。
「麗二、今帰ったんだね」
「あぁ。今日はテストだったから直ぐ帰れたんだ」
「僕もだよ」
麗二は変わった。
他愛の無い会話を交わしながら歩いている最中、ふと改めて思った。以前の麗二だったら屋敷から出るなんてもっての外、部屋から出る事すらままならなかったのに。僕達が番になる事を前提に、完璧な更生の為にあれから頑張って学校に通っている。登校し始めて暫く経つが、未だに涙が出そうなくらい感慨深い気持ちになる時がある。
「麗二、無理してない?もし、また辛いと思ったらいつでも言ってね」
そんな言葉を毎度の様に告げる僕に、麗二は笑みを小さく浮かべ、僕の掌を彼の頬に添えさせながら言う。「今の所大丈夫だ」と。
「前みたいな息苦しさは無い。琥珀が居てくれるから」
「も、もう」
しかし前より甘々が増した。
元々、僕と同じ様に彼も想ってくれていたと知った時、予想外の展開過ぎて信じ難かったが、こんなにも優しい目を向けられたらもう自覚するしかない。まだ番になれずとも、自分と麗二はきちんと両想いなのである。
「琥珀…その」
気まずそうに視線を逸らす麗二の顔を見てハッとする。この表情は''合図''だ。察した自分は「うん」とだけ頷き、静かに彼の顔に自分の顔を近付けていき、そっと唇を重ねる。
「………やっぱりまだ慣れないかな」
「琥珀」
あれから何回も交わしている、ただ触れ合うだけのキス。
重ねるだけの、その行為は未だに慣れない。そして同時に感じる。離れた時の妙な寂しさと物足りなさを…なんて。こんな事、口に出してはいけないと自負している。再び近付いてこようとする麗二の顔を眺めていたその時。「ちょっと」という、冷静な声で我に返った。
「愛を育まれるのは良いですが、場所が場所ですよ」
「…っ、透さん!」
驚いてパッと、近付いてくる彼の肩を引き剥がす。途端に分かりやすいくらいにムスッと拗ねた表情を浮かべた麗二は、此方を呆れた様に眺める彼に「良いところだったのに」と口を尖らせる。
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時は少しだけ流れ、ようやく本格的な夏が始まった。
夏真っ盛りの昼、「暑ー」と呟きながらパタパタと手で仰いでいると「琥珀ー」と背後から追いかけて来る睦美。智也が居ない事に気が付き、「智也は?」と聞く。
「国語、再テストだって。仕事の方手伝い過ぎてその疲れがテスト中に出たみたい」
「うわぁ…智也、家事も手伝ってるもんね」
期末テスト三日目が本日終了し、自分と睦美は昼前に帰れる状況にあった。夏を迎えた今、暑さのあまり汗が湧水の様に出てくる。額に伝う汗を拭いながら「これから睦美はどうするの」と聞くと、彼は困った様に眉を下げ、手を合わせてくる。
「ごめん、琥珀。一緒に帰りたいんだけど、今日は用事があって…」
「そっか。じゃあ、僕はそのまま帰ろうかな」
ごめんね、ともう一度謝ると、忙しなく門を出て行く睦美。彼の背中を眺めながら、自分も帰ろうと足を踏み出した。
あれから少しだけ時が流れた今、状況は前より変わりつつある。屋敷の前に佇む大きな門を押し開けて、扉の前迄向かって行く。「ただいま帰りました」と声を上げながら扉を開けると、目の前に制服を来た麗二が丁度靴を脱いでいた。僕を見るなり、「琥珀」と嬉しそうに頬を緩めた。
「麗二、今帰ったんだね」
「あぁ。今日はテストだったから直ぐ帰れたんだ」
「僕もだよ」
麗二は変わった。
他愛の無い会話を交わしながら歩いている最中、ふと改めて思った。以前の麗二だったら屋敷から出るなんてもっての外、部屋から出る事すらままならなかったのに。僕達が番になる事を前提に、完璧な更生の為にあれから頑張って学校に通っている。登校し始めて暫く経つが、未だに涙が出そうなくらい感慨深い気持ちになる時がある。
「麗二、無理してない?もし、また辛いと思ったらいつでも言ってね」
そんな言葉を毎度の様に告げる僕に、麗二は笑みを小さく浮かべ、僕の掌を彼の頬に添えさせながら言う。「今の所大丈夫だ」と。
「前みたいな息苦しさは無い。琥珀が居てくれるから」
「も、もう」
しかし前より甘々が増した。
元々、僕と同じ様に彼も想ってくれていたと知った時、予想外の展開過ぎて信じ難かったが、こんなにも優しい目を向けられたらもう自覚するしかない。まだ番になれずとも、自分と麗二はきちんと両想いなのである。
「琥珀…その」
気まずそうに視線を逸らす麗二の顔を見てハッとする。この表情は''合図''だ。察した自分は「うん」とだけ頷き、静かに彼の顔に自分の顔を近付けていき、そっと唇を重ねる。
「………やっぱりまだ慣れないかな」
「琥珀」
あれから何回も交わしている、ただ触れ合うだけのキス。
重ねるだけの、その行為は未だに慣れない。そして同時に感じる。離れた時の妙な寂しさと物足りなさを…なんて。こんな事、口に出してはいけないと自負している。再び近付いてこようとする麗二の顔を眺めていたその時。「ちょっと」という、冷静な声で我に返った。
「愛を育まれるのは良いですが、場所が場所ですよ」
「…っ、透さん!」
驚いてパッと、近付いてくる彼の肩を引き剥がす。途端に分かりやすいくらいにムスッと拗ねた表情を浮かべた麗二は、此方を呆れた様に眺める彼に「良いところだったのに」と口を尖らせる。
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