触れたくて触れられない

よんど

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第五章

splash 50.5 ②

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愛おしむ様な視線に、胸がキュッと締め付けられる。
何となく覚えた羞恥を誤魔化す様に、俺は「と、当然ですよっ」とゴニョゴニョ言いながら、グイッとお酒を喉の奥に流し込む。


「ちょっ、シユン君、一気に飲み過ぎ、」

「おっ、シユン君、良い飲みっぷりだね~!ほらっ、じゃんじゃん飲んで!」


たまたま通り掛かった大原監督のご機嫌そうな声が降ってきたかと思いきや、手にしていた空のグラスの代わりに、既に入っているモノを渡される。ボーッとした俺は、そのまま躊躇無く飲み始める。


「あぁ、もう。シユン君、クール担当じゃなかったの?素直に受け取り過ぎ!」


焦った様な早坂 伊織の声が、少しずつ遠くなっていく。

机の上に、グラスを置いた俺は、ふらりと彼の膝の方に倒れてしまう。「シユンく、」と名を言いかける彼の服の袖を摘みながら小さく呟く。


「貴方だけ、です……本当の俺を知っているのは貴方だけで、こりごり…」

「え…」


あぁ、ダメだ。もう、眠たい。瞼が重たい。

そう思った直後、視界が一気に狭くなってきた。完全に視界がシャットダウンする寸前、驚いた様に俺を見下ろす早坂 伊織の顔が窺えた。あまりにも間抜け面で、思わず笑いそうになった。







「…………ん、」


ゴシッと服の袖で目を擦りながら、スッと目を開ける。
真っ先に入ってきたのは真っ黒な天井。次に、横を向くと、見覚えの無い棚。いつも自分を囲む様に置いてある本棚は何処にも無い。


(………………え?)


自分の家じゃ無い。

ハッキリ自覚した瞬間、ドッと冷や汗が出て、慌てて起き上がった。改めてキョロキョロと辺りを見渡し、「此処は…」と声に出す。

真っ暗な部屋にランプの光が小さく灯されている。暗くても分かる、微妙に照らされたお洒落な室内が視界に入り、ますます不安を煽られる。


此処は一体何処なんだ。
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