触れたくて触れられない

よんど

文字の大きさ
上 下
67 / 200
第六章

splash 59

しおりを挟む

「お風呂有難う御座いました………って。」


あれ、と眉をピクッと上げながら、扉を開く。
リビングには、既に誰も居なくてガランとしていた。どうやら別の部屋にいる様だ。


「!」


不意に、カタン、と音が聞こえて振り返る。お風呂より二つ向こうの扉からだ。ギュッと、着ているシャツの袖を握る手に力を込めながら歩き出す。ぺたぺたと、廊下を歩く足音が響く中、奥の扉を恐る恐る開けた。


「…………」


開けた先の光景に、軽く目を見開いた。

何故なら、自分の部屋と同じ様に、部屋には大きな本棚が立ち並んでいたのだ。流石に自分の寝室の本棚は、ここまで大きく無かったが。彼のは天井に届くくらい高く、ハシゴを使わないと届かないくらいだった。


「………」


視線の先には、デスクでヘッドフォンを付けて何やら作業をしている早坂 伊織本人が居た。背後に居る自分には気付いていない様子だった。


「……!これ。」


ふと、床下に散らかされている一つの冊子に目が届く。手に取ると、それは、映画の脚本だった。この映画の主役は確か男だったが、まさか、それも担当するのだろうか。


「シユン君、居たのか。」

「…!すみません、勝手に。」


声を掛けられた瞬間、若干の後ろめたさを感じて、手に取っていた脚本をパタンと勢いよく閉じた。ヘッドフォンを若干ずらしながら、彼は、なんて事のない様に目を細めてこちらを見据えた。


「気にしてないよ。それより、臭いは取れたかな。」


回る椅子に座っていた彼は、くるりと体をこちらに向けながら顔を上げる。「お陰様で」と、頭を下げながら服の袖を持ち上げてみせる。


「ただ、……やっぱり伊織さん、ガタイ良いですね。結構ぶかぶかで、下は要りませんでした。」

「…………シユン君。」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

愛されたくて、飲んだ毒

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:49pt お気に入り:3,445

最上級超能力者~明寿~ 社会人編 ☆主人公総攻め

BL / 連載中 24h.ポイント:582pt お気に入り:233

美味いだろ?~クランをクビにされた料理人の俺が実は最強~

TB
ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:1,753

改稿版 婚約破棄の代償

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,704pt お気に入り:856

スライムの恩返し~知らずに助けたのは魔物でした~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:2

うわさやのウワサ

児童書・童話 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

ラブレター代理受け取りいたします

BL / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:50

手足を鎖で縛られる

BL / 連載中 24h.ポイント:1,712pt お気に入り:889

乙女ゲーム関連 短編集

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,526pt お気に入り:155

処理中です...