触れたくて触れられない

よんど

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第十五章

splash 153

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何となく、今、この空間にいる事が場違いの様に思えてきて、思わず被っていた帽子を深く被る。その瞬間、伊織さんが頭に手を置き、撫でてきたので顔を上げる。彼は何も聞かずに、ただ笑顔で自分を見据え、「ライブ、もう始まるって」とだけ告げ、前を向き直る。


(目を………逸らしたらダメだ)


今の理央をしっかり見るって決めたじゃ無いか。
首を振って前を見据えたと同時に、視線の先の道が途端に虹色にライトアップされる。その瞬間、『Are you ready?』と、ハスキーボイスが耳に入って来た。いつの間にかゾロゾロと増えていたファンが一斉にキャー!と声を張り上げる。


『We are…''Uzeen''!』

「!」


ワアッという掛け声と共に、移動式のステージバスの上に登場する四人の男達。色んなタイプのイケメン達の中、一際目立っているのが、センターの理央であった。真っ黒なハットを斜めに傾けながら、ファンの人達にウィンクを送っている彼は、曲に乗る様に身体を器用に動かし、色気たっぷりの視線を周りに送っていた。


「この曲、新曲だよね?!この前PVに上がっていたやつ!」

「確か、今、ドラマ化検討中の『今宵も貴方と…』のオープニングになるんだよね?キャストまだ決まってないけど、誰になるか楽しみなんだよね」

(………それって)


この前、怜さんが言っていた次の撮影の話じゃ…。まさか、理央が率いるグループが、ドラマの主題歌をするとは。三年経って、ようやく色んな仕事がつき始めた自分達とは対照的に、何だか色々と展開が早い。このままじゃ、追い抜かされる事もあり得ない事は無い。


(………ダンス、凄い揃ってるな)


ステージ上で踊り、歌い始める彼等を見ながら思う。
元々ダンスの才能があった理央だが、知らない間にどんどん伸びている。周りの彼等も、負けないくらい、自分の魅せ方を分かった上で踊っている。


(全体を包む熱気……グループの一体感……想いが、ファンと共有出来ている)


ペンライトを振るファンの人達の笑顔。
それに全力で応える彼等の想い。なんて素敵なグループなんだろう。


(あの頃はあの頃で、理央はきちんと前に進んでいる。だったら俺も、理央に負けない様に頑張るだけだ)


グッと拳をつくり、くるっと身を翻し、歩き出そうとする自分に、隣に立つ伊織さんが「答えは見つかったの?」と問うてくる。彼の方を見ると、まるで自分の考えていた事を見透かす様な優しい視線を向けて、ジッと反応を待っていた。ニッと口角を上げ、ピースサインをつくりながら告げる。


「お陰様で。自分の事、アイツの事、ハッキリ見えたよ」


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