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帝都 ヴェルヌ
03.腹黒宰相との出会い
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「~~~~っ!…いったーい…」
さっきまで悲しい気持ちでいっぱいだったのに、何か固いものにぶつかった痛みで、無理やり現実に引き戻された。
よりによってクリスマス・イブの日に、長年付き合った彼と失恋して、終いには川に落ちるなんて。
さらにはこの年で全身水浸しなんて…流石にこれは、踏んだり蹴ったりって言葉だけじゃ足らない。泣きっ面にスズメバチ、とか言ってもいいレベルの災難、いや厄災か…大厄災だ。
震えるような寒さがないだけましだけど、私はもう死んでしまったんだろうか。
とりあえず…誰か助けてー!と思ったけれど、周りに人影はなく、ここは明らかに見たことのない、建物の中。
「えっと…さっき深いとこに落ちたんじゃなかったけ、私…。ってか、ここ大理石みたいになってるし…っえ、なにここ…プール?夢?それとも私死んじゃったの…?てか…え…服も髪もなんか…えぇ……もう……なにこれぇ…」
水は確かに全身に感じた、私の身体もつま先から頭の先まで濡れている。でも全身を包まれるような深さだったはずの水かさは、どこを探しても見当たらない。
いつも自転車で渡る橋も、そこを流れる川も、こんなに透き通って輝くような綺麗な水じゃなかったし、匂いだっていい香りとは言えない、生活感のある匂いだった。ここは、ミントとバニラが混ざったような、さわやかでスーッとした、お香とは違う…フレグランス的な、さわやかで甘い香りがする。
茉莉が座っているのは、ジャグジーやプールともいえるような、広く丸い泉の中央。普通のプールとは逆で、外側が深く中央が浅く作られたこのプールは、地球儀のような形のオブジェが中央に飾られていて、今は水色の球体が支えられている柱の、根元付近に居る。水深は浅く、足をペタリを広げて座っているけれど、ひざに水がちゃぷちゃぷと当たる程度の水深で溺れようがない。
茉莉のトレードマークだった前下がりボブの茶色い髪は、バリキャリ女史に見えるだけでなく仕事終わりに帰ってもお風呂をめんどくさがらないための秘訣─自分では処世術と内心呼んでいた─だったが、今の髪は紺色で、床につくほどまっすぐと長く、濡れているせいか宵闇のように艶めかしかった。
コートを着ていたはずのクリスマス・イブの晩、気付けば白いワンピース1枚なのに寒さは一切感じない。ワンピース以外なにも身につけていないせいか、下腹部はどうも熱く、うずくような感覚があった。
混乱で頭を抱えていると、どこからともなくガシャガシャと何人かの足音が聞こえてくる。
不安に思い周りを見渡せば、どこかの国の貴族が切るようなゴテゴテした服の数人の兵士らしき人物と…有名な魔法映画で見た校長先生のマントのような、明らかに偉い人だと思わせる服をまとった銀髪の青年が走ってくるのが見えた。
「えっやだやだ!なに、私捕まるの?それより下着…!羞恥心はまださすがにある!」と、水深が深くなっているところへ飛び込む。
ここに自分がいることが知られても大丈夫なのか、まさか命を心配する日がくるなんて。
半日ほど前にパソコンで書類作ってるときは、自分が幸せになるとばっかり思い込んで、こんなの想像すらもしなかったなぁ、と思うのは、私が楽観的過ぎるのかもしれない。
「ー…つい先ほどの光と、水の逆流の後から、ヴェルヌ全域に水が流れていない!!
即刻2手に分かれて周辺を確かめて来い!…行け!」
魔法使いみたいなマントに銀色の髪の青年は、ブルーグレーに輝く瞳で周りを見渡しながら、兵士たちに指示を下し、自身も泉に近付いて何か考えている様子だった。
地球儀のようなオブジェの柱の陰に隠れて、さっき走っていった兵士が見つけに来ないか、銀髪の青年に見つかってしまわないか、肩まで水に浸かってこそこそと様子を窺っていたが、それはあっけなく終了を向かえた。
頑張って見つからないように、角度を変えて進んで逃げていたはずが、一瞬外に目を反らした隙にコツコツという足音が背後のあたりで止まり、怒りとも呆れともとれるような、重く低い声が建物の中に響き渡った。
「女、名を名乗れ。なぜここに忍び込んだ。」
あー…見つかった。
だめだ。茉莉の直感が、この声の主は危険だと、叫んでいた。
さっきまで悲しい気持ちでいっぱいだったのに、何か固いものにぶつかった痛みで、無理やり現実に引き戻された。
よりによってクリスマス・イブの日に、長年付き合った彼と失恋して、終いには川に落ちるなんて。
さらにはこの年で全身水浸しなんて…流石にこれは、踏んだり蹴ったりって言葉だけじゃ足らない。泣きっ面にスズメバチ、とか言ってもいいレベルの災難、いや厄災か…大厄災だ。
震えるような寒さがないだけましだけど、私はもう死んでしまったんだろうか。
とりあえず…誰か助けてー!と思ったけれど、周りに人影はなく、ここは明らかに見たことのない、建物の中。
「えっと…さっき深いとこに落ちたんじゃなかったけ、私…。ってか、ここ大理石みたいになってるし…っえ、なにここ…プール?夢?それとも私死んじゃったの…?てか…え…服も髪もなんか…えぇ……もう……なにこれぇ…」
水は確かに全身に感じた、私の身体もつま先から頭の先まで濡れている。でも全身を包まれるような深さだったはずの水かさは、どこを探しても見当たらない。
いつも自転車で渡る橋も、そこを流れる川も、こんなに透き通って輝くような綺麗な水じゃなかったし、匂いだっていい香りとは言えない、生活感のある匂いだった。ここは、ミントとバニラが混ざったような、さわやかでスーッとした、お香とは違う…フレグランス的な、さわやかで甘い香りがする。
茉莉が座っているのは、ジャグジーやプールともいえるような、広く丸い泉の中央。普通のプールとは逆で、外側が深く中央が浅く作られたこのプールは、地球儀のような形のオブジェが中央に飾られていて、今は水色の球体が支えられている柱の、根元付近に居る。水深は浅く、足をペタリを広げて座っているけれど、ひざに水がちゃぷちゃぷと当たる程度の水深で溺れようがない。
茉莉のトレードマークだった前下がりボブの茶色い髪は、バリキャリ女史に見えるだけでなく仕事終わりに帰ってもお風呂をめんどくさがらないための秘訣─自分では処世術と内心呼んでいた─だったが、今の髪は紺色で、床につくほどまっすぐと長く、濡れているせいか宵闇のように艶めかしかった。
コートを着ていたはずのクリスマス・イブの晩、気付けば白いワンピース1枚なのに寒さは一切感じない。ワンピース以外なにも身につけていないせいか、下腹部はどうも熱く、うずくような感覚があった。
混乱で頭を抱えていると、どこからともなくガシャガシャと何人かの足音が聞こえてくる。
不安に思い周りを見渡せば、どこかの国の貴族が切るようなゴテゴテした服の数人の兵士らしき人物と…有名な魔法映画で見た校長先生のマントのような、明らかに偉い人だと思わせる服をまとった銀髪の青年が走ってくるのが見えた。
「えっやだやだ!なに、私捕まるの?それより下着…!羞恥心はまださすがにある!」と、水深が深くなっているところへ飛び込む。
ここに自分がいることが知られても大丈夫なのか、まさか命を心配する日がくるなんて。
半日ほど前にパソコンで書類作ってるときは、自分が幸せになるとばっかり思い込んで、こんなの想像すらもしなかったなぁ、と思うのは、私が楽観的過ぎるのかもしれない。
「ー…つい先ほどの光と、水の逆流の後から、ヴェルヌ全域に水が流れていない!!
即刻2手に分かれて周辺を確かめて来い!…行け!」
魔法使いみたいなマントに銀色の髪の青年は、ブルーグレーに輝く瞳で周りを見渡しながら、兵士たちに指示を下し、自身も泉に近付いて何か考えている様子だった。
地球儀のようなオブジェの柱の陰に隠れて、さっき走っていった兵士が見つけに来ないか、銀髪の青年に見つかってしまわないか、肩まで水に浸かってこそこそと様子を窺っていたが、それはあっけなく終了を向かえた。
頑張って見つからないように、角度を変えて進んで逃げていたはずが、一瞬外に目を反らした隙にコツコツという足音が背後のあたりで止まり、怒りとも呆れともとれるような、重く低い声が建物の中に響き渡った。
「女、名を名乗れ。なぜここに忍び込んだ。」
あー…見つかった。
だめだ。茉莉の直感が、この声の主は危険だと、叫んでいた。
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