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巫女として

13.美しいお辞儀は心を掴む

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「ありがとうございます、カタリナさん。私は…えぇと…マリ、です。昨日の晩、巫女、という職の契約をしました。まだわからないことばかりでたくさん迷惑をかけてしまうかもしれないですが、その時は助けてくださるとうれしいです。」

 恥ずかしそうに微笑むマリに、カーテシーを解いたカタリナは、私の事はカタリナさんではなくカタリナで結構ですから、と声をかけ、ふふふと笑いながら、こちらへといわんばかりにそっと左手を差し出して、マリがベッドから出てくるのを支える。

 この国は一年を通して春の陽気に包まれているものの、精霊の神殿は泉から湧き出る水によって少し肌寒い気温になっている。足元のクリーム色と水色で編まれた絨毯がなければ、床はとても冷たかっただろう。

 ワンピースの前に下着を…と、ベッド周りを軽く見まわしたが、どうやら下着の用意はないようで、ハイデルの意図を深くは考えないようにしたカタリナは、先ほど広げたワンピースの上にマリを立たせ、ワンピースを持ち上げる。

 後ろに回ってくるみボタンを留めようとしたとき、腰にハイデルの名が刻まれていることに気付き、衝撃を受けた。下級貴族で使用人として働く自分が、主人に口出しすることではないけれど、ハイデル様は自分のものや使用人に執着をあまり見せない人だったはず。

 仕事でも私生活でも、表面上は波風を立てないようにしながら細やかな作戦を立て、身内であれど計画遂行の為なら巻き込むことを厭わない。

 そんな人が、一人の少女にここまでするとは。

 もしかして、まだ、当人たちは気付いていなくても、ここには恋が、愛が、生まれるかもしれない。その愛の種はもう蒔かれているような気がする。

 ハイデル様は頭の切れる素晴らしい方だけど、長く傍にいても、あの方を支えられるような貴族の娘はこの国でお会いしたことがない。まだまだ、展開が早すぎるけれど、もし、もしも彼女がそうなったらどんなに喜ばしいことか!

 たかだか1~2分の間に、カタリナはお節介な気持ちを勝手に膨らませ、私が愛の橋渡しをしなくては!などと張り切りながら、ワンピースのボタンを留めていた。

 ワンピースへ着替えはしたものの、食事はまだ喉を通りそうにないというマリに、カタリナはどうかスープだけでも…と勧める。

 マリの背中を支えながら食卓へ案内する姿は、この冷たくも見える薄水色の正殿の中でも、子のいないカタリナが母に見えるようなあたたかな光景だった。



 マリの食事から半刻程が経ったころ、ハイデルが宰相の職務を終え、マリの休んでいる寝屋へやってきた。マリはわずかな食事を口にするとまたベッドへと戻り、痛みと快感で疼く体をどうにか鎮めたいと横になっていたところだった。

 銀色の髪がちらりと見え、昨日の人だと気づいたマリが急いで起き上がると、そのままベッドに近づいたハイデルは手帳ほどの小さな包みをベッドに投げ置き、これに着替えるようにと声をかけた。

 カタリナは、大変申し上げにくいのですが、と前置きをして、マリがいまだ続く痛みに苦しんでいる旨を伝えるが、だからどうしたとばかりに大きなソファーに腰かけ、かまわん、行けと一言つぶやく。

 寝屋に巫女が男性と一緒にいるとき、召使いは傍にいてはいけないことを思い出し、マリとハイデルへ軽く会釈をすると、急いで部屋を後にした。
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