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不穏な風と巫女
49.一目ずつ、一歩ずつ
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お忍びで城下町へ行った日から何日が経っただろう。
マリは普段着させられていたあのド変態な衣装の上から、最初に神殿へ来たときに着ていたシンプルな白いワンピース似たドレスを着ることが増えていた。チェーンは服から形がわかるのが嫌だと伝えると、そのまま外した状態でいいと赦してくれた。
…時々、ふたりの時間を楽しむために着けられることはあるのだけれど。
あの騒動以来、街へメイドの格好で出ていくたびに、いろんな人に顔を覗き込まれて、その度に落ち込んだ仕草をされるんだと、カタリナから聞いた。
否、聞かされて、いる。
「どう見たって私は、巫女様だ!って体型でもなければ、年齢もそこそこいっているのが、どこからどーう見たって、わかるはずなのに、なんでですかねぇ…。」
「うーん、そうですよねぇ。」
髪紐を編む私はかなり真剣で、彼女の話には相槌ばかりを送っている。普段、そうやってお話する相手がいないのか、こんなにも適当な返事なのに、それでもカタリナにとってはいい発散相手になっているみたいだ。
ここ最近のハイド様は、私の部屋へ来る時間がだんだんと早まり、日によってはお昼を一緒に食べることもあった。
まさか、この神殿引きこもりの私が贈り物を作っているとは思っていないからだろうけれど、その突然の来訪のタイミングを掻い潜って作るとなると、完成に向けての速度はまさに牛歩だった。
突然の来訪と同じくらい気をつけているのが、夜だ。最初はそんなに隠したりしなくてもいいかなと思っていたのが、毎日隠している間に段々と、ここまできたら隠し通したいという気持ちになってしまった。
こうなると、もう夜には作れないし、机の上に出しっぱなしにもしてはいられない。結果、材料も作成途中の紐も、関係するものは全てカゴに入れ、カタリナに持っていてもらっていた。これが、作業進捗の良くない2つ目の原因だった。
カタリナには、糸束を預ける代わりに、私の作業中に愚痴を聞くわ!と取引を持ちかけているので、愚痴を聞かないわけにもいかず、2人でうんうん色々言いながら作業している。
髪紐作りはひたすらに単純作業の繰り返しだ。2色の糸を中央の芯糸に巻いて右に結び、巻いて左に結び、また巻いて…と、結ぶだけなのだけど、どんなにたくさん結んでも、目を整えると案外数センチしか進んでいないもので、なかなかに根気のいる作業だった。
テニスサークルで鍛えたミサンガ編みの技術を使っても、好きな人に渡す髪紐となると訳が違う。とにかく長さがないと結べないし、ハイド様に使ってもらうのだと思うと、時間よりも完成度を優先したくなる。
結果、1週間でようやく形になったという訳だ。
「カタリナから見て、率直に、この出来栄え…どうですか?」
「マリ様の髪色と瞳の色の糸で、ハイデル様の瞳の色の糸を包んでいるところが、お慕いしている気持ちを感じる編み方で…一目ずつ結ばれて作られたんだというのがよく分かりますし、とても美しいと思います!」
語り口がやけに早口で、饒舌で、なんだかちょっとテンションが上がっているように見える。
「ほんとに?お世辞じゃなく?」
カタリナがおべっかを使うタイプではないと分かってはいても、いざ渡すことを考えると、出来がイマイチじゃないか心配な気持ちにはなる。
「えぇ、布を細く縫っただけのリボンを髪紐として使うのが一般的ですから、こんなふうに編み込まれた細工の髪紐は、とても豪華なものに思えますし、何よりマリ様が作られた物ですから…きっと、何より喜ばれると思います!」
「本当ですか?ふふふ、よかった。
何か次、プレゼントを贈れるタイミングがあったらその時に渡したいんですけど、なかなかそういうのってない…ですよね。」
日本ならバレンタインだってホワイトデーだってあるから、何かと理由をつけて渡しちゃうのだけど、ここは異国!異世界!私の常識はこの世界の常識じゃないこともわきまえている。
「そうですねぇ…次の何かタイミングがあるとしたら、それはお二人の婚約式、とか…ですかね?
「…ええと……もしそうなるとしたら、大分先になりそうね。」
「そうでしょうか?私はもう今すぐにでも、と思いますが…。」
急に出た婚約式というワードが何を指すのかもわからないまま、ただ、そういう恋人のイベント的な、プレゼントの口実に出来そうなことが、しばらくはなさそうな事だけを知ってしまったマリだった。
いつもよりも湿度の高い、生暖かい風が、マリの頬をぬるりと撫でていく。
その日を境に、穏やかな日差しのある青空の日ばかりだったヴェルヌの街は、ゆっくりと、でも確実に、雲に覆われる日が増えていった。
マリは普段着させられていたあのド変態な衣装の上から、最初に神殿へ来たときに着ていたシンプルな白いワンピース似たドレスを着ることが増えていた。チェーンは服から形がわかるのが嫌だと伝えると、そのまま外した状態でいいと赦してくれた。
…時々、ふたりの時間を楽しむために着けられることはあるのだけれど。
あの騒動以来、街へメイドの格好で出ていくたびに、いろんな人に顔を覗き込まれて、その度に落ち込んだ仕草をされるんだと、カタリナから聞いた。
否、聞かされて、いる。
「どう見たって私は、巫女様だ!って体型でもなければ、年齢もそこそこいっているのが、どこからどーう見たって、わかるはずなのに、なんでですかねぇ…。」
「うーん、そうですよねぇ。」
髪紐を編む私はかなり真剣で、彼女の話には相槌ばかりを送っている。普段、そうやってお話する相手がいないのか、こんなにも適当な返事なのに、それでもカタリナにとってはいい発散相手になっているみたいだ。
ここ最近のハイド様は、私の部屋へ来る時間がだんだんと早まり、日によってはお昼を一緒に食べることもあった。
まさか、この神殿引きこもりの私が贈り物を作っているとは思っていないからだろうけれど、その突然の来訪のタイミングを掻い潜って作るとなると、完成に向けての速度はまさに牛歩だった。
突然の来訪と同じくらい気をつけているのが、夜だ。最初はそんなに隠したりしなくてもいいかなと思っていたのが、毎日隠している間に段々と、ここまできたら隠し通したいという気持ちになってしまった。
こうなると、もう夜には作れないし、机の上に出しっぱなしにもしてはいられない。結果、材料も作成途中の紐も、関係するものは全てカゴに入れ、カタリナに持っていてもらっていた。これが、作業進捗の良くない2つ目の原因だった。
カタリナには、糸束を預ける代わりに、私の作業中に愚痴を聞くわ!と取引を持ちかけているので、愚痴を聞かないわけにもいかず、2人でうんうん色々言いながら作業している。
髪紐作りはひたすらに単純作業の繰り返しだ。2色の糸を中央の芯糸に巻いて右に結び、巻いて左に結び、また巻いて…と、結ぶだけなのだけど、どんなにたくさん結んでも、目を整えると案外数センチしか進んでいないもので、なかなかに根気のいる作業だった。
テニスサークルで鍛えたミサンガ編みの技術を使っても、好きな人に渡す髪紐となると訳が違う。とにかく長さがないと結べないし、ハイド様に使ってもらうのだと思うと、時間よりも完成度を優先したくなる。
結果、1週間でようやく形になったという訳だ。
「カタリナから見て、率直に、この出来栄え…どうですか?」
「マリ様の髪色と瞳の色の糸で、ハイデル様の瞳の色の糸を包んでいるところが、お慕いしている気持ちを感じる編み方で…一目ずつ結ばれて作られたんだというのがよく分かりますし、とても美しいと思います!」
語り口がやけに早口で、饒舌で、なんだかちょっとテンションが上がっているように見える。
「ほんとに?お世辞じゃなく?」
カタリナがおべっかを使うタイプではないと分かってはいても、いざ渡すことを考えると、出来がイマイチじゃないか心配な気持ちにはなる。
「えぇ、布を細く縫っただけのリボンを髪紐として使うのが一般的ですから、こんなふうに編み込まれた細工の髪紐は、とても豪華なものに思えますし、何よりマリ様が作られた物ですから…きっと、何より喜ばれると思います!」
「本当ですか?ふふふ、よかった。
何か次、プレゼントを贈れるタイミングがあったらその時に渡したいんですけど、なかなかそういうのってない…ですよね。」
日本ならバレンタインだってホワイトデーだってあるから、何かと理由をつけて渡しちゃうのだけど、ここは異国!異世界!私の常識はこの世界の常識じゃないこともわきまえている。
「そうですねぇ…次の何かタイミングがあるとしたら、それはお二人の婚約式、とか…ですかね?
「…ええと……もしそうなるとしたら、大分先になりそうね。」
「そうでしょうか?私はもう今すぐにでも、と思いますが…。」
急に出た婚約式というワードが何を指すのかもわからないまま、ただ、そういう恋人のイベント的な、プレゼントの口実に出来そうなことが、しばらくはなさそうな事だけを知ってしまったマリだった。
いつもよりも湿度の高い、生暖かい風が、マリの頬をぬるりと撫でていく。
その日を境に、穏やかな日差しのある青空の日ばかりだったヴェルヌの街は、ゆっくりと、でも確実に、雲に覆われる日が増えていった。
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