52 / 111
不穏な風と巫女
52.頭を撫でるのは反則技
しおりを挟む
緊急伝令の後、すぐに集まれた参謀と一部の大臣、教皇、皇帝、宰相であるハイデルが会議を行なっていた場所からも、先程の光の柱は見えていた。
魔力をその身に宿し、使いこなすツールこそが魔法。その魔法が職務で使えるレベルであれば、程度に応じて爵位を与えられるし、そうでなければ魔力を持つのみの下級貴族として生きていくことになる。
魔法は術者の持ち得る魔力から練り上げられるもので、生み出された魔法は必ず光を放つ。光の明るさが明るければ明るいほど、使用する魔力が多いのだと解る。結果として、爵位の高いものは魔力を貯め込む量が多く、より強い魔法を使うことができる。
会議中だというのに窓の外を見てしまった者が声をあげ、会議は中断した。いままでのこの大前提を覆すほどの眩しい光の柱は、多くの魔力を使った強大な魔法の結界が展開されるのだと、魔法学を齧ったものなら誰もが気付いた。
瞬間、皇帝とハイデルは顔を見合わせて、皆は待てとだけ声をかけると、会議室を出て巫女の道へと走った。
「ハイド!…あの結界を展開したのは彼女か!」
「ええ、おそらくは!仮に彼女なら…っ、私に1つ考えが!」
「彼女の命が最優先だ!無事ならば許可など構わん、やれ!」
2人は会話をしながら、巫女の道を駆け上がる。体の動きを制限するような厚手のジャケットの重さなど、彼女の命の重さに比べたら羽根のように軽い。兄上の顔は心なしか楽しそうだ。
マリの生死が心配でならない。高台から見た感じでも、城から見える範囲に結界を張っている。これが破られていないところを見ると、息絶えていることはないだろう。
しかし、瀕死の可能性は存分にある。彼女は無事なのか、なぜ結界が展開されたのか、何が引き金だったのか、彼女の能力が目覚めたのならなぜ結界だったのか、確認したいことは山のようにあった。
巫女の道を走りながら、彼女がどうか無事であってくれと願っていたハイデルの願いはすんなりと叶った。れどころか、おそらくその結界を展開した張本人は、何も知らないような顔をして、表に出てカタリナを慰めている様子すらある。
階段の最後の一段を蹴った脚はそのままマリの傍に向かい、大きな手で彼女をすぐに後ろから抱き竦めた。
「ハイド様…?カイザーレオン様まで…
そんなに急いでどうされたのですか?まさかお天気のことで…?」
「マリ、マリ……無事でよかった………。
さっきここで、何があった?なぜ魔術を使った?」
首元をぎゅっと抱きながら耳元で吐息まじりに話すハイド様は、なんだかとてもセクシーだ。
「あの…その、耳元から離れてくださいませんか…?お話はしますから…」
どうにか離れてもらおうと、腕の中でモゾモゾと足掻いてみるが、どうも離れてはくれない。
「レオン様もいらっしゃいますし、この通りピンピンしてますから…ね?」
レオン様のことを伝えると、納得いかないという小さな声で、そうだなと呟き、名残惜しそうにハイド様は体を離した。
「おーおー、無事ならば俺はそれでいい!2人は2人でやってくれ。
ハイド、お前が後で報告しに来い!」
ここへ来たばかりだというのに、レオン様は踵を返して巫女の道を下っていく。すみません…と声をかけてお辞儀すると、そっと右手を上げてひらひらとしながら去っていった。
「兄上はソフィア様と国民以外どうでもいいんだ。
政治は主に私任せだしな。」
なるほどぉ…とは思いながらも、くっついてる姿を見られてしまって恥ずかしいなと照れていると、いつのまにか離れていたカタリナが、今度はお茶セットを持ってやってきた。
「マリ様と話されるべき事があるのでしたら、こちらか、室内でお茶はいかがですか?」
「あぁ、ここで構わん。置いていってくれ。」
承知しました、とだけ返事をして、カタリナはティーセットの乗ったワゴンをガーデンテーブルの側につけ、また離れていった。茶菓子にはマリの好きなバターたっぷりのクッキーが数枚。
椅子に座ろうとするとハイドは後ろから椅子を引いてきちんと座らせてくれる。こんな時でも急がず紳士でいてくれるところも好きだわ、と心の中で自覚をした。
「ところでマリ。
君はどうして結界を展開したんだ?魔法なんて昨日まで使えなかっただろう?」
「それが…わからないんです。
実は今朝、ここへきた時と同じように、泉の水に包まれてしまって…。
この場所へ帰りたいと、そう思ったら、「想像すれば叶う」と声がして…。」
自分でも整理のつかない話をしどろもどろに話すマリに、ハイデルはそうか…と返事をすると、一口紅茶を口にしてから、言葉を続けた。
「それで、水を破る想像をした?」
「そう!そうなんです…!
風船みたいに中に水が入ってるだけなら、それを増やして破ってしまえば良いと思って…。
だめでした?」
ハイド様は軽く息を吐いて前髪を徐にあげ、マリをじっと見つめる。
「駄目ではないが……今、君の身体は?重かったり、眠たかったり、しないかい?」
全然無い、言ったら嘘になる。プールの授業が終わった後の全身のように、なぜか全身が気怠くて、目を閉じればすぐに眠れそうな感覚はある。素直に話すと、やはりなと納得された。
「今、君はおそらく…ゴブレットに貯めた魔力で結界の能力を手に入れ、その結界を展開したまま維持しているんだ。この範囲で君が結界が広げられるということは、おそらく、君の見たことのある景色ならば、守れるということ…。」
彼は、何かを考えながらブツブツと独り言を言い出した。よくわからないけれど、溺れた瞬間に、私にも巫女の能力が目覚めて、それが役に立つ可能性がある、ということなんだろう。
「ああ本当に…君はいつも僕を驚かせる。
素晴らしい能力を手に入れたな、マリ。」
よくやった、と頭を撫でられるとついつい、えへへと笑ってしまう。役に立てるかもしれないと思うと、最悪の事態として脳内で挙げていたエンディングが、ひとつずつ消されていくような気がして、とても安心した。
魔力をその身に宿し、使いこなすツールこそが魔法。その魔法が職務で使えるレベルであれば、程度に応じて爵位を与えられるし、そうでなければ魔力を持つのみの下級貴族として生きていくことになる。
魔法は術者の持ち得る魔力から練り上げられるもので、生み出された魔法は必ず光を放つ。光の明るさが明るければ明るいほど、使用する魔力が多いのだと解る。結果として、爵位の高いものは魔力を貯め込む量が多く、より強い魔法を使うことができる。
会議中だというのに窓の外を見てしまった者が声をあげ、会議は中断した。いままでのこの大前提を覆すほどの眩しい光の柱は、多くの魔力を使った強大な魔法の結界が展開されるのだと、魔法学を齧ったものなら誰もが気付いた。
瞬間、皇帝とハイデルは顔を見合わせて、皆は待てとだけ声をかけると、会議室を出て巫女の道へと走った。
「ハイド!…あの結界を展開したのは彼女か!」
「ええ、おそらくは!仮に彼女なら…っ、私に1つ考えが!」
「彼女の命が最優先だ!無事ならば許可など構わん、やれ!」
2人は会話をしながら、巫女の道を駆け上がる。体の動きを制限するような厚手のジャケットの重さなど、彼女の命の重さに比べたら羽根のように軽い。兄上の顔は心なしか楽しそうだ。
マリの生死が心配でならない。高台から見た感じでも、城から見える範囲に結界を張っている。これが破られていないところを見ると、息絶えていることはないだろう。
しかし、瀕死の可能性は存分にある。彼女は無事なのか、なぜ結界が展開されたのか、何が引き金だったのか、彼女の能力が目覚めたのならなぜ結界だったのか、確認したいことは山のようにあった。
巫女の道を走りながら、彼女がどうか無事であってくれと願っていたハイデルの願いはすんなりと叶った。れどころか、おそらくその結界を展開した張本人は、何も知らないような顔をして、表に出てカタリナを慰めている様子すらある。
階段の最後の一段を蹴った脚はそのままマリの傍に向かい、大きな手で彼女をすぐに後ろから抱き竦めた。
「ハイド様…?カイザーレオン様まで…
そんなに急いでどうされたのですか?まさかお天気のことで…?」
「マリ、マリ……無事でよかった………。
さっきここで、何があった?なぜ魔術を使った?」
首元をぎゅっと抱きながら耳元で吐息まじりに話すハイド様は、なんだかとてもセクシーだ。
「あの…その、耳元から離れてくださいませんか…?お話はしますから…」
どうにか離れてもらおうと、腕の中でモゾモゾと足掻いてみるが、どうも離れてはくれない。
「レオン様もいらっしゃいますし、この通りピンピンしてますから…ね?」
レオン様のことを伝えると、納得いかないという小さな声で、そうだなと呟き、名残惜しそうにハイド様は体を離した。
「おーおー、無事ならば俺はそれでいい!2人は2人でやってくれ。
ハイド、お前が後で報告しに来い!」
ここへ来たばかりだというのに、レオン様は踵を返して巫女の道を下っていく。すみません…と声をかけてお辞儀すると、そっと右手を上げてひらひらとしながら去っていった。
「兄上はソフィア様と国民以外どうでもいいんだ。
政治は主に私任せだしな。」
なるほどぉ…とは思いながらも、くっついてる姿を見られてしまって恥ずかしいなと照れていると、いつのまにか離れていたカタリナが、今度はお茶セットを持ってやってきた。
「マリ様と話されるべき事があるのでしたら、こちらか、室内でお茶はいかがですか?」
「あぁ、ここで構わん。置いていってくれ。」
承知しました、とだけ返事をして、カタリナはティーセットの乗ったワゴンをガーデンテーブルの側につけ、また離れていった。茶菓子にはマリの好きなバターたっぷりのクッキーが数枚。
椅子に座ろうとするとハイドは後ろから椅子を引いてきちんと座らせてくれる。こんな時でも急がず紳士でいてくれるところも好きだわ、と心の中で自覚をした。
「ところでマリ。
君はどうして結界を展開したんだ?魔法なんて昨日まで使えなかっただろう?」
「それが…わからないんです。
実は今朝、ここへきた時と同じように、泉の水に包まれてしまって…。
この場所へ帰りたいと、そう思ったら、「想像すれば叶う」と声がして…。」
自分でも整理のつかない話をしどろもどろに話すマリに、ハイデルはそうか…と返事をすると、一口紅茶を口にしてから、言葉を続けた。
「それで、水を破る想像をした?」
「そう!そうなんです…!
風船みたいに中に水が入ってるだけなら、それを増やして破ってしまえば良いと思って…。
だめでした?」
ハイド様は軽く息を吐いて前髪を徐にあげ、マリをじっと見つめる。
「駄目ではないが……今、君の身体は?重かったり、眠たかったり、しないかい?」
全然無い、言ったら嘘になる。プールの授業が終わった後の全身のように、なぜか全身が気怠くて、目を閉じればすぐに眠れそうな感覚はある。素直に話すと、やはりなと納得された。
「今、君はおそらく…ゴブレットに貯めた魔力で結界の能力を手に入れ、その結界を展開したまま維持しているんだ。この範囲で君が結界が広げられるということは、おそらく、君の見たことのある景色ならば、守れるということ…。」
彼は、何かを考えながらブツブツと独り言を言い出した。よくわからないけれど、溺れた瞬間に、私にも巫女の能力が目覚めて、それが役に立つ可能性がある、ということなんだろう。
「ああ本当に…君はいつも僕を驚かせる。
素晴らしい能力を手に入れたな、マリ。」
よくやった、と頭を撫でられるとついつい、えへへと笑ってしまう。役に立てるかもしれないと思うと、最悪の事態として脳内で挙げていたエンディングが、ひとつずつ消されていくような気がして、とても安心した。
0
あなたにおすすめの小説
英雄魔術師様とのシークレットベビーが天才で隠し通すのが大変です
氷雨そら
恋愛
――この魔石の意味がわからないほど子どもじゃない。
英雄魔術師カナンが遠征する直前、フィアーナと交わした一夜で授かった愛娘シェリア。フィアーナは、シェリアがカナンの娘であることを隠し、守るために王都を離れ遠い北の地で魔石を鑑定しながら暮らしていた。けれど、シェリアが三歳を迎えた日、彼女を取り囲む全ての属性の魔石が光る。彼女は父と同じ、全属性の魔力持ちだったのだ。これは、シークレットベビーを育てながら、健気に逞しく生きてきたヒロインが、天才魔術師様と天才愛娘に翻弄されながらも溺愛される幸せいっぱいハートフルストーリー。小説家になろうにも投稿しています。
肩越しの青空
蒲公英
恋愛
「結婚しない? 絶対気が合うし、楽しいと思うよ」つきあってもいない男に、そんなこと言われましても。
身長差38センチ、体重はほぼ倍。食えない熊との攻防戦、あたしの明日はどっちだ。
結婚後、訳もわからないまま閉じ込められていました。
しゃーりん
恋愛
結婚して二年、別邸に閉じ込められていたハリエット。
友人の助けにより外に出ることができ、久しぶりに見た夫アルバートは騎士に連行されるところだった。
『お前のせいだ!』と言われても訳がわからなかった。
取り調べにより判明したのは、ハリエットには恋人がいるのだとアルバートが信じていたこと。
彼にその嘘を吹き込んだのは、二人いたというお話です。
殿下、今回も遠慮申し上げます
cyaru
恋愛
結婚目前で婚約を解消されてしまった侯爵令嬢ヴィオレッタ。
相手は平民で既に子もいると言われ、その上「側妃となって公務をしてくれ」と微笑まれる。
静かに怒り沈黙をするヴィオレッタ。反対に日を追うごとに窮地に追い込まれる王子レオン。
側近も去り、資金も尽き、事も有ろうか恋人の教育をヴィオレッタに命令をするのだった。
前半は一度目の人生です。
※作品の都合上、うわぁと思うようなシーンがございます。
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
義兄様と庭の秘密
結城鹿島
恋愛
もうすぐ親の決めた相手と結婚しなければならない千代子。けれど、心を占めるのは美しい義理の兄のこと。ある日、「いっそ、どこかへ逃げてしまいたい……」と零した千代子に対し、返ってきた言葉は「……そうしたいなら、そうする?」だった。
思い込みの恋
秋月朔夕
恋愛
サッカー部のエースである葉山くんに告白された。けれどこれは罰ゲームでしょう。だって彼の友達二人が植え込みでコッチをニヤニヤしながら見ているのだから。
ムーンライトノベル にも掲載中。
おかげさまでムーンライトノベル では
2020年3月14日、2020年3月15日、日間ランキング1位。
2020年3月18日、週間ランキング1位。
2020年3月19日、週間ランキング1位。
【完結】母になります。
たろ
恋愛
母親になった記憶はないのにわたしいつの間にか結婚して子供がいました。
この子、わたしの子供なの?
旦那様によく似ているし、もしかしたら、旦那様の隠し子なんじゃないのかしら?
ふふっ、でも、可愛いわよね?
わたしとお友達にならない?
事故で21歳から5年間の記憶を失くしたわたしは結婚したことも覚えていない。
ぶっきらぼうでムスッとした旦那様に愛情なんて湧かないわ!
だけど何故かこの3歳の男の子はとても可愛いの。
5分前契約した没落令嬢は、辺境伯の花嫁暮らしを楽しむうちに大国の皇帝の妻になる
西野歌夏
恋愛
ロザーラ・アリーシャ・エヴルーは、美しい顔と妖艶な体を誇る没落令嬢であった。お家の窮状は深刻だ。そこに半年前に陛下から連絡があってー
私の本当の人生は大陸を横断して、辺境の伯爵家に嫁ぐところから始まる。ただ、その前に最初の契約について語らなければならない。没落令嬢のロザーラには、秘密があった。陛下との契約の背景には、秘密の契約が存在した。やがて、ロザーラは花嫁となりながらも、大国ジークベインリードハルトの皇帝選抜に巻き込まれ、陰謀と暗号にまみれた旅路を駆け抜けることになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる