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守り、護るもの

80.医師の独白

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 国によっては、お世継ぎ合戦は時に血で血を洗う大きな騒ぎになるということを、聞いたことがある。しかしこのエカードではそうもいかない。むしろ、誰かお世継ぎを!と国民の誰もが声をそろえて噂するほど、我が国のクリストバル陛下は女性の噂のない国王だ。

 国に忠誠を誓い、誰よりも国民の事を考えた政治を行い、他国への交渉へ自ら趣き、休日には城下町へ出て交流を図る、この素晴らしい国王を、我々はとても尊敬している。

 女性の噂がないのは、妹君であるソフィア様が隣国のシュベルト帝国へ嫁がれる前から変わらずだが、嫁がれてからはますます政治に力を入れ、交渉術を学び、多くの国との貿易を盛んに行ってきた国王陛下。

 前国王陛下であるお父上の家臣たちは「妹を自分の家に養子に出し、その妹と結婚すればよい」などとばかげたことを言っている時期もあったが、そんな発言をした貴族を前国王陛下が許すわけがなく、既に彼らは没落し、地方へと散り散りになったと聞いている。

 どのようなことがあろうとも懸命に働く国王陛下を、我々家臣が支え、素晴らしいお世継ぎ様の誕生された暁には、皆で祝おうというのが、この城で務める者の総意だ。


 半月ほど前、この城には誰も顔を見たことのない少女の来訪があったと風の噂で聞いたが、どうやらそれはかなりの重要機密のようで、毎朝クロム殿と顔を合わせるメイドたちも、噂の真相を掴めてはいないようだった。

 さすがにクロム殿から直接聞くことは難しいが、メイド達経由ならば…と思っていた矢先に、王室のかなり近くにある貴賓室へ呼び出された私は、お会いしたことのない紺色の髪の少女を診ることとなった。

 微熱に、滑脈……細い四肢を見ると栄養失調かとも思ったが、強い吐き気と眠気、だるさもあるという。性行為の有無を聞くと誰も答えないあたり、おそらくクロム殿か…どなたかの囲われた愛妾であろうと睨んだ。

「…御心配には及びません、クリストバル陛下、クロム殿。
 まだ断定はできませんが、こちらの女性は恐らく、ご懐妊の可能性がございます。

 しばらく安静にされていれば吐き気は収まるでしょう。まだ初期というには早すぎるほどの段階ですが、栄養不足や睡眠不測の状態もあるように思えます。故に身体が先に強い反応を出して、子を守るよう指示しているのかもしれません。。

 確実にご懐妊されているかどうかはまだ、神のみぞ知る領域です。」

 そこまでの初期となれば、まだどうなるか誰にも分かるまい。子が流れることもあれば、双子、三つ子となることもある。もう少し様子を見てもう一度判断させるだろうから、これはくれぐれも内密に、と釘を刺された。

 眠っていてもわかるビスクドールのような透明感のある肌、少し目の下にクマがあるが、これは何か泣き腫らしたようなものに近い。全体的に整った目鼻立ちで、この少女を抱いているのは誰なのかという下世話な妄想が働くが、どちらにしてもこんな老いぼれの自分に興味を持ってもらえることはあるまい。

 クロム殿から金貨を数枚握らされ、従わなければ命すらも貰い受けると言われれば、自分は従うことしかできない。こんなにも性格の悪いお方だとは思っていなかったが、金貨をいただけるのならば素直に従うのが私というもの。

 小さくお礼を言って頭を下げ、貴賓室を後にした。
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