80 / 111
守り、護るもの
80.医師の独白
しおりを挟む
国によっては、お世継ぎ合戦は時に血で血を洗う大きな騒ぎになるということを、聞いたことがある。しかしこのエカードではそうもいかない。むしろ、誰かお世継ぎを!と国民の誰もが声をそろえて噂するほど、我が国のクリストバル陛下は女性の噂のない国王だ。
国に忠誠を誓い、誰よりも国民の事を考えた政治を行い、他国への交渉へ自ら趣き、休日には城下町へ出て交流を図る、この素晴らしい国王を、我々はとても尊敬している。
女性の噂がないのは、妹君であるソフィア様が隣国のシュベルト帝国へ嫁がれる前から変わらずだが、嫁がれてからはますます政治に力を入れ、交渉術を学び、多くの国との貿易を盛んに行ってきた国王陛下。
前国王陛下であるお父上の家臣たちは「妹を自分の家に養子に出し、その妹と結婚すればよい」などとばかげたことを言っている時期もあったが、そんな発言をした貴族を前国王陛下が許すわけがなく、既に彼らは没落し、地方へと散り散りになったと聞いている。
どのようなことがあろうとも懸命に働く国王陛下を、我々家臣が支え、素晴らしいお世継ぎ様の誕生された暁には、皆で祝おうというのが、この城で務める者の総意だ。
半月ほど前、この城には誰も顔を見たことのない少女の来訪があったと風の噂で聞いたが、どうやらそれはかなりの重要機密のようで、毎朝クロム殿と顔を合わせるメイドたちも、噂の真相を掴めてはいないようだった。
さすがにクロム殿から直接聞くことは難しいが、メイド達経由ならば…と思っていた矢先に、王室のかなり近くにある貴賓室へ呼び出された私は、お会いしたことのない紺色の髪の少女を診ることとなった。
微熱に、滑脈……細い四肢を見ると栄養失調かとも思ったが、強い吐き気と眠気、だるさもあるという。性行為の有無を聞くと誰も答えないあたり、おそらくクロム殿か…どなたかの囲われた愛妾であろうと睨んだ。
「…御心配には及びません、クリストバル陛下、クロム殿。
まだ断定はできませんが、こちらの女性は恐らく、ご懐妊の可能性がございます。
しばらく安静にされていれば吐き気は収まるでしょう。まだ初期というには早すぎるほどの段階ですが、栄養不足や睡眠不測の状態もあるように思えます。故に身体が先に強い反応を出して、子を守るよう指示しているのかもしれません。。
確実にご懐妊されているかどうかはまだ、神のみぞ知る領域です。」
そこまでの初期となれば、まだどうなるか誰にも分かるまい。子が流れることもあれば、双子、三つ子となることもある。もう少し様子を見てもう一度判断させるだろうから、これはくれぐれも内密に、と釘を刺された。
眠っていてもわかるビスクドールのような透明感のある肌、少し目の下にクマがあるが、これは何か泣き腫らしたようなものに近い。全体的に整った目鼻立ちで、この少女を抱いているのは誰なのかという下世話な妄想が働くが、どちらにしてもこんな老いぼれの自分に興味を持ってもらえることはあるまい。
クロム殿から金貨を数枚握らされ、従わなければ命すらも貰い受けると言われれば、自分は従うことしかできない。こんなにも性格の悪いお方だとは思っていなかったが、金貨をいただけるのならば素直に従うのが私というもの。
小さくお礼を言って頭を下げ、貴賓室を後にした。
国に忠誠を誓い、誰よりも国民の事を考えた政治を行い、他国への交渉へ自ら趣き、休日には城下町へ出て交流を図る、この素晴らしい国王を、我々はとても尊敬している。
女性の噂がないのは、妹君であるソフィア様が隣国のシュベルト帝国へ嫁がれる前から変わらずだが、嫁がれてからはますます政治に力を入れ、交渉術を学び、多くの国との貿易を盛んに行ってきた国王陛下。
前国王陛下であるお父上の家臣たちは「妹を自分の家に養子に出し、その妹と結婚すればよい」などとばかげたことを言っている時期もあったが、そんな発言をした貴族を前国王陛下が許すわけがなく、既に彼らは没落し、地方へと散り散りになったと聞いている。
どのようなことがあろうとも懸命に働く国王陛下を、我々家臣が支え、素晴らしいお世継ぎ様の誕生された暁には、皆で祝おうというのが、この城で務める者の総意だ。
半月ほど前、この城には誰も顔を見たことのない少女の来訪があったと風の噂で聞いたが、どうやらそれはかなりの重要機密のようで、毎朝クロム殿と顔を合わせるメイドたちも、噂の真相を掴めてはいないようだった。
さすがにクロム殿から直接聞くことは難しいが、メイド達経由ならば…と思っていた矢先に、王室のかなり近くにある貴賓室へ呼び出された私は、お会いしたことのない紺色の髪の少女を診ることとなった。
微熱に、滑脈……細い四肢を見ると栄養失調かとも思ったが、強い吐き気と眠気、だるさもあるという。性行為の有無を聞くと誰も答えないあたり、おそらくクロム殿か…どなたかの囲われた愛妾であろうと睨んだ。
「…御心配には及びません、クリストバル陛下、クロム殿。
まだ断定はできませんが、こちらの女性は恐らく、ご懐妊の可能性がございます。
しばらく安静にされていれば吐き気は収まるでしょう。まだ初期というには早すぎるほどの段階ですが、栄養不足や睡眠不測の状態もあるように思えます。故に身体が先に強い反応を出して、子を守るよう指示しているのかもしれません。。
確実にご懐妊されているかどうかはまだ、神のみぞ知る領域です。」
そこまでの初期となれば、まだどうなるか誰にも分かるまい。子が流れることもあれば、双子、三つ子となることもある。もう少し様子を見てもう一度判断させるだろうから、これはくれぐれも内密に、と釘を刺された。
眠っていてもわかるビスクドールのような透明感のある肌、少し目の下にクマがあるが、これは何か泣き腫らしたようなものに近い。全体的に整った目鼻立ちで、この少女を抱いているのは誰なのかという下世話な妄想が働くが、どちらにしてもこんな老いぼれの自分に興味を持ってもらえることはあるまい。
クロム殿から金貨を数枚握らされ、従わなければ命すらも貰い受けると言われれば、自分は従うことしかできない。こんなにも性格の悪いお方だとは思っていなかったが、金貨をいただけるのならば素直に従うのが私というもの。
小さくお礼を言って頭を下げ、貴賓室を後にした。
0
あなたにおすすめの小説
英雄魔術師様とのシークレットベビーが天才で隠し通すのが大変です
氷雨そら
恋愛
――この魔石の意味がわからないほど子どもじゃない。
英雄魔術師カナンが遠征する直前、フィアーナと交わした一夜で授かった愛娘シェリア。フィアーナは、シェリアがカナンの娘であることを隠し、守るために王都を離れ遠い北の地で魔石を鑑定しながら暮らしていた。けれど、シェリアが三歳を迎えた日、彼女を取り囲む全ての属性の魔石が光る。彼女は父と同じ、全属性の魔力持ちだったのだ。これは、シークレットベビーを育てながら、健気に逞しく生きてきたヒロインが、天才魔術師様と天才愛娘に翻弄されながらも溺愛される幸せいっぱいハートフルストーリー。小説家になろうにも投稿しています。
肩越しの青空
蒲公英
恋愛
「結婚しない? 絶対気が合うし、楽しいと思うよ」つきあってもいない男に、そんなこと言われましても。
身長差38センチ、体重はほぼ倍。食えない熊との攻防戦、あたしの明日はどっちだ。
結婚後、訳もわからないまま閉じ込められていました。
しゃーりん
恋愛
結婚して二年、別邸に閉じ込められていたハリエット。
友人の助けにより外に出ることができ、久しぶりに見た夫アルバートは騎士に連行されるところだった。
『お前のせいだ!』と言われても訳がわからなかった。
取り調べにより判明したのは、ハリエットには恋人がいるのだとアルバートが信じていたこと。
彼にその嘘を吹き込んだのは、二人いたというお話です。
殿下、今回も遠慮申し上げます
cyaru
恋愛
結婚目前で婚約を解消されてしまった侯爵令嬢ヴィオレッタ。
相手は平民で既に子もいると言われ、その上「側妃となって公務をしてくれ」と微笑まれる。
静かに怒り沈黙をするヴィオレッタ。反対に日を追うごとに窮地に追い込まれる王子レオン。
側近も去り、資金も尽き、事も有ろうか恋人の教育をヴィオレッタに命令をするのだった。
前半は一度目の人生です。
※作品の都合上、うわぁと思うようなシーンがございます。
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
義兄様と庭の秘密
結城鹿島
恋愛
もうすぐ親の決めた相手と結婚しなければならない千代子。けれど、心を占めるのは美しい義理の兄のこと。ある日、「いっそ、どこかへ逃げてしまいたい……」と零した千代子に対し、返ってきた言葉は「……そうしたいなら、そうする?」だった。
思い込みの恋
秋月朔夕
恋愛
サッカー部のエースである葉山くんに告白された。けれどこれは罰ゲームでしょう。だって彼の友達二人が植え込みでコッチをニヤニヤしながら見ているのだから。
ムーンライトノベル にも掲載中。
おかげさまでムーンライトノベル では
2020年3月14日、2020年3月15日、日間ランキング1位。
2020年3月18日、週間ランキング1位。
2020年3月19日、週間ランキング1位。
5分前契約した没落令嬢は、辺境伯の花嫁暮らしを楽しむうちに大国の皇帝の妻になる
西野歌夏
恋愛
ロザーラ・アリーシャ・エヴルーは、美しい顔と妖艶な体を誇る没落令嬢であった。お家の窮状は深刻だ。そこに半年前に陛下から連絡があってー
私の本当の人生は大陸を横断して、辺境の伯爵家に嫁ぐところから始まる。ただ、その前に最初の契約について語らなければならない。没落令嬢のロザーラには、秘密があった。陛下との契約の背景には、秘密の契約が存在した。やがて、ロザーラは花嫁となりながらも、大国ジークベインリードハルトの皇帝選抜に巻き込まれ、陰謀と暗号にまみれた旅路を駆け抜けることになる。
【完結】母になります。
たろ
恋愛
母親になった記憶はないのにわたしいつの間にか結婚して子供がいました。
この子、わたしの子供なの?
旦那様によく似ているし、もしかしたら、旦那様の隠し子なんじゃないのかしら?
ふふっ、でも、可愛いわよね?
わたしとお友達にならない?
事故で21歳から5年間の記憶を失くしたわたしは結婚したことも覚えていない。
ぶっきらぼうでムスッとした旦那様に愛情なんて湧かないわ!
だけど何故かこの3歳の男の子はとても可愛いの。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる