<本編完結>転生巫女は腹黒宰相と狂い咲く

汐瀬うに

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守り、護るもの

81.反逆の衛兵

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 マリの契約を解除してから数日のうちに、ハイデルは衛兵団のグレイとアストラルに連絡を取り、信頼のおける数人でノイブラ辺境伯周辺を探らせることにした。本人たちが誤って情報を漏らしてしまわないよう、名目上は[ ノイブラ辺境伯周辺警護 ]とした。

 すると、初日から想定外の情報が出るわ出るわ。何台もの荷馬車キャラバンがノイブラ辺境伯の私邸へと入り、積荷を空にして帰っていくという知らせから、明らかに怪しい風貌の男どもが屋敷内でうろついているという情報まで、ハイデルの書斎がすぐに報告書で埋め尽くされるほどだった。

 荷馬車なんて言うのは様々なサイズがあるが、キャラバンならば大型の4輪車で、人を乗せるならば8~16人程度が余裕で乗るほどの大きなホロ付きのものだ。仮に人を乗せていないとすれば、1台ですらかなりの量の荷物を運ぶことが出来るというのに、何故そんなにも多く荷物を買い入れているのか。新たな日付の報告書を読む度、返事に困るほど、怪しい点が湧いてくる。

 一度自分が改めて訪問すべきか、訪問したとして何と伝えて中を確認するか…と考えながら一番新しい報告書を見ると、かなり気になる情報が書かれていた。

「…ハイデル様は、全体がこげ茶色で、屋根に金の縁取りのある馬車をご存じでしょか。
ノイブラ辺境伯の元へ数日前に返ってきた馬車は、何故かエカード国の国旗と思わしき紋様の入ったプレートを馬車の上に隠して帰ってきたのんです。どこへ行っていたかも、誰に貸したかも、屋敷の門番は『何も知らない』の一点張りなのが、逆に怪しいっとグレイは申していて…(中略)…私たちは警護というよりも警戒の気持ちで、彼らを毎日監視していまんす。」

 やはり野生の勘の鋭いものたちだ、任せてよかったとハイデルは安堵した。ところどころ言葉を打ち間違えているところはあるが、読めなくはない。思わず前のめりになって読んでしまった報告書を机に置き、椅子に深く腰掛けなおす。ノイブラ辺境伯に焦点を当て、このまま警戒を続けながら自分もきちんと立ち回れば、もう一度マリを取り戻せるかもしれない。そんな気持ちもほのかに湧いて来る。

 窓の外に浮かぶ月を見て、マリもどうかこの月を見て私を想っていてくれと願うのが、ハイデルの癖になりつつあった。彼女の笑顔を思い出しながら静かに空を見つめて深呼吸すると、もう一度読み漏れがないか、報告書を確認した。


 ・・・


 ノイブラ辺境伯の周辺警護の依頼なんて、衛兵団に所属してから、ただの1度も受けたことがない。

 衛兵団は直属の部下ではないが、元をたどれば辺境伯の管轄下にあるし、出来ないことではないが、今のノイブラ辺境伯に変わってからは、衛兵団の仕事は減らされがちで、俺たちはあまり頼りにされていないし、信用されてもいないように思う。

 まあ、辺境伯の周辺にはそもそも、辺境伯が私財を投じて雇った衛兵が大勢いるし、この物流拠点として名高いノイブラには警護の仕事を求めてやってくる冒険者もかなりいることを考えると、仕方のないことのような気もするけれど…森林の警備と街の門番、巡回だけでは仕事を楽しむことの方が難しい。

 折角この読み書きができることを生かせる仕事に就いたというのに、最近、上は俺たちに頭を使う仕事をさせないようにしているように感じる。

 以前ココへ来た宰相のハイデル様と巫女のマリ様は、そんなことお構いなしに頼ってくれた。俺たちの事を偉く気に入った様子だったから、きっと今回の辺境伯周辺警護の仕事を任せてくれたのだろう。毎日つまらないことばかりだとは思いながらも、警備の仕事を日々こなしていた俺たちの頑張りの成果だ。

 ノイブラは一般人が兵士として雇われる絶対数が多い分、治安も長く平和に守られ、安全に商売ができることを理由に商人が集まる。その商人たちからいち早く買いたい者が市場を利用し、またそれを各地へ運ぶ。こうやって、この街は栄えてきた。これからもきっとそうだ。



「おぉーい、アストラル!宰相様からん知らせ、こっちん届いとったぞ!」

 詰所から歩いてきたグレイが、俺から20歩ほど離れたところから声をかけてくる。警備に支障が出るから大声は出すなとあれほど言ったのに…全く馬鹿な奴だ。

「グレイ!大きな声を出すなと、いっつもあれほど言っちょうに!奴らに気付かれたら全部パー!じゃ!」

 おお、すまんすまんと頭を掻きながらやってくるこの大男、グレイ。ノイブラの名物門番だったが、最近は門番業務も別の兵士たちに奪われてしまったため、共に周辺警護をしている。

「なぁ、そもそも俺達衛兵団が門番やってたんを、別の兵士団に取られたのも、何かこの怪しい話につながってるとは思わねが?」
「まぁ…確かにそいえばそっちゃな。」
「門番を変えてぇってことは、何か隠して運びてぇものがあるってこったろ?」
「んだなぁ…。」

 警護の名目で警戒を強めていると、だんだんと見えてきたことがいろいろあった。こそこそと意識して小さい声で話し、アストラルと二人で情報を照らし合わせる。

「そーいやあアストラルおめぇ、先週の月夜に猛スピードでノイブラかけてった馬車と、この前帰ってきた馬車、よーけ似てると思わんか?俺ァ絶対に怪しいと思ンだが。」
「んー真夜中だったでなぁ…俺ァ夜目はきかんで、わからん。んでも、さっきのキャラバンの事で気になってることがあってよぉ。おめぇが来るん待っとったんだわ。

 あの車輪の跡、見い。
 俺らが良くタダ乗りしてる村の荷馬車と、轍の幅が違う気せんがね?もしこれが長距離用に改造された金属の車輪なら、おそらく他国から来た物よ。

 そんで、それを敢えてわからんように、エンブレムなりフラッグなり、わぁざわざ隠しとったら、そらもうほぼ間違いなく悪事に手を染めてる人間じゃ。」

 夜目の利かないアストラルは、アストラルなりに観察をしていたようで、グレイはお互いの観察眼に関心した。

「今までなぁんとも思ってなかったんが不思議なぐれぇ、辺境伯殿は絶対に悪事の片棒担いでると思われるようなことが多すぎる…それなのにだーれも、なーんも言わん。もしかして、俺達以外はみぃんな知ってて、ただ黙ってるんか…。」
「んだなぁ。怪しいとこが沢山あっとも、目の前で悪いことしとらんと捕まえられんち事は辛かね…。まずはおめぇの気付いたことも併せて、また報告し。
 ハイデル様なら何とかしてくれるかもしれん。」

 長い長い引継ぎをしたふりをして、グレイは警護場所へ、アストラルは詰所へと戻った。

 この報告を受けたハイデルは、ノイブラ辺境伯がエカードと何らかの取引をしたと仮定して、ますます血眼になって調査に取り組んだ。
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