<本編完結>転生巫女は腹黒宰相と狂い咲く

汐瀬うに

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守り、護るもの

83.断罪と絶望

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 一方シュベルト帝国内では、森林火災から巫女の人質までの一連の流れが、宰相ハイデルの必死の調査によってほぼすべて明らかになった。

──
 報告
隣国エカード並びに都市ノイブラ境界の森林火災は、隣国エカード国王クリストバル、ノイブラ辺境伯ブラックの共謀によるものと断定する。
(中略)
 また、巫女マリ・サイトウは自身の希望により宰相ハイデル・ルイス・グリンデンベルグとの巫女の契約を解除したため、本件においては一般人として扱う。この女性は現在もエカード滞在中と思われるが、現在の滞在先は不明である。

以上。
──

 一連の報告書を呼んだレオンは大層怒り、ノイブラ辺境伯は即刻爵位はく奪、収監されることとなった。衛兵団の職務を減少させたりしていたのも、ノイブラ辺境伯が自身が悪事に手を染めたことを悟られないよう、自分の息のかかったものだけ使いたがった結果だと分かり、皇帝は私兵団に解散を、衛兵団へは一層の武力強化を命じた。

「兄上のお手を煩わせてしまい、大変申し訳ありません。」
「いや、これはこの国の自治をきちんと果たせていなかった、私の責任でもある…申し訳ないことをした。ハイデル。」
「いえ、いいのです…。彼女の陽だまりのような温かさと、彼女という存在の大切さを、私は改めて知ることが出来たのですから。

 明日にでもエカードへ伺い、直接交渉してまいります。」

 目の下に立派なクマを作っている男が馬に乗れるのか、と思われそうなほど、ハイデルはほとんど寝ずに職務を全うしながら、マリの事を助ける情報を血眼になって探している。

「あぁ…ハイデル。
 …その、マリのことなんだが。」

 レオンは急に、とても言いにくそうに、書斎机に合わせて誂えた上等のひじ掛けに腰かける。後ろを向いて外側にも誰もいないことを確認し、深呼吸してから言葉を続けた。

「今朝、エカードから一通、手紙が来た。」

 一番上の引き出しの鍵を回し、その奥の隠し引き出しから一枚の封筒を取り出す。既にペーパーナイフで封は切られており、レオンが目を通しているのだということがわかる。レオンはハイデルの方を向いているにも関わらず、目を合わせようとはしない。

「……良くない、知らせなのですね。」

 急激に自分の体温があがり、心音がどくどくどくどくと早まるのを耳元で感じる。手にはじんわりと汗をかき、ストレスを感じているのだと自覚させられる。一度ソファに座り直して、どうしたものかと考えた。

「あぁ。

 だがこれを、お前に隠すわけにはいかない。」

 宛名は確かに皇帝レオン陛下となっている。隣国の国王直々のシーリングが押されているところを見ると、兄上は本来これを私に見せてはいけないはずだ。震える手で封筒の中から厚い便箋を取り出し、2つ折りの便箋を開く。前書きや他の言葉はない。


 マリ殿に世継ぎ懐妊の兆し有 ─ クロム・ルードリヒ


 クロムという人の名は知らないが、エカード国王直々の便箋を使用しているところから、おそらくこれは悪戯でもなんでもない、本当の知らせだ。使えるのは限られた人間であるところから見て、王室付きの執事あたりだろう。

「っ…兄上…っこれは…」
「今朝届いたものだから、おそらく昨日のうちにこちらへ送られた物だ。

 …それでもお前は、マリを迎えに行くか。」

 どんなことがあろうとも、自分が守ってやると言ったのに、何一つとして守ってやれなかったという事実だけが、ハイデルに突きつけられた。

「…っ…ぁあああ…!!」

 兄に来た手紙だということも忘れ、便箋を握りつぶしてしまうほど、自分へもエカードへも湧く怒りに、腕は激しく震えた。あまりの不甲斐なさに、ただ他人をコントロールするばかりで、何もく行動できなかった自分が恥ずかしく、何度も何度も膝を強く殴った。涙は枯れることを知らず、とめどなく溢れ出る。

 手で目元を抑えようが、頭を掻きむしろうが、現状は変わらないのに、焦りと戸惑いと不安が身体を勝手に動かす。マリが結んでから1度も外さず、全身を浄化魔術で整えていた髪紐を外し、見つめる。案外大変だったんですからね!と悲しみを隠しながら笑った顔を思い出すと、胸が張り裂けそうだ。

 あの日、どんな手を使ってでも行かせなければよかった。自分の手で彼女を壊し、巫女としての役目を終わらせ、この城に拘束していれば。

「マリ…マリ……っ…マリ……」

 どんなに強く願っても、彼女に会えるわけではない。そこに香りがあるわけでも、姿があるわけでもない。それでも今は少しでも彼女を感じたくて、髪紐を強く強く握って、顔を摺り寄せてしまう。

「すまない…すまないハイド。
本当に、すまないことをした…。」

 兄は何度もこちらへ謝っていたが、ハイデルは彼女を守れなかった自分自身を殺してしまいたいほどに激しく憎み、恨み、後悔した。
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