虹色古書店

カズモリ

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11. 銀色と金色

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 虹色古書店の店主は白銀しろがね黄金こがねという二人の少女だ。

 二人はこの不思議な書店をおよそ300年前から経営しているが、だれも気がつきはしない。

 江戸時代、裕福な商家の娘として生まれた二人だが、生まれる前は両親、祖父母がとても望んでいたというのに、生まれたその瞬間、二人は望まれなかった。

 大きな腹を抱えた母が産気づくと、周囲はお湯を沸かしたり、真白な布を用意したりてんやわんやだった。

「ふー」

 陣痛に耐えながら、母がいきんでいると、するりと男児が誕生し、その大きさが想定よりも小さかったのか「小さいややこじゃ」と産婆は漏らし、母の胎をそっと触った。

 産婆は目を細め、ごくりと唾を飲み込み、何かを話そうと口を開いたらとき、再び母の「うう、ああ!」という甲高い声が響き、産婆や周囲の女性たちが騒ぎ出した。

 静寂の中、程なくして、もう一人子が産まれた。女児で、この子もとても小さかった。

 ほぎゃあ、と弱々しく泣いた二人の声と、母親のあらい息遣いだけが、その場に漂い、言葉にだせないような不穏な空気がふわふわと浮ついた。

 双子が忌み嫌われていた時代に生まれたのだ。しかも男女の双子だった。

 この時生まれた双子こそ、白銀と黄金だ。

 両親はひっそりと二人を別邸へ隠し、跡取りがそのうち生まれると信じて二人を女の子として育てた。

 揃いの着物を着せて、揃いの髪型にし、母屋に出ないよう、限られた者だけで世話をしていた。

 母は心を患い、白銀と黄金が10歳になる前に、自ら黄泉の国へと旅立った。
 それもそうだろう。

 妾が男児を産んだのだ。
 
 母は一気に立場がなくなった。
 男児が誕生すると、妾とその子は優遇され、母は使用人以下の扱いとなっていった。
 元々体も弱いため、母はみるみる衰弱し、心も弱り、若くして旅立ってしまった。

 母との最後の別れというのに、葬式にも参加できず、二人は別邸の軒下にちょこんと座り、深々と積もっていく白雪をただ黙って見ていた。

 今まであったものを全て真っ白に上書きするその様子が、自分たちのようで、目が離せなかった。

 そんな中、白銀が口火を切った。

「どうして、お母様は死んでしまったの? 黄金」
「立場がなかったのよ。いずれ私たちもそうなる。白銀」

 白銀は眉を寄せて、震える手で黄金の裾を掴むので、黄金はギュッと白銀の手に自身の手を添え、心配ないよ、と微笑んだ。

「私は簡単に死んでなんかやらない。白銀も。だから、心配しないで」
「どうするの? 黄金」

 黄金は白銀の手を両手で優しく包み、懐から手紙を差し出した。
「何? これ」

 手紙を開きながら黄金は「母様がくれたんだよ。困ったらそこに行きなさいと言ってくれた」と言って、白銀に手紙を見せる。
「虹色古書……書物屋さん?」

 黄金はこくりと首を縦に振る。
「そう。母様が昔教えてくれたんだ。不思議な本屋があるって。そこは妖の術かもしれないけれど、希望が叶うまで、そこのお店からは出れないらしいよ。私たちが、そこに行けば、お店から出れないのだから、誰も手が出せないわ、白銀」

 そんな、夢のようなことを言うなんて、そう思っていた。自分たちが生き抜くにはそんな藁をもつかむ思いで、古書店の扉を叩こうと思い、程なくして、二人は屋敷を抜け出した。

 気づかれたら大変なことになる。今は、母様の葬式で、家の中が慌ただしいから、今日しか機会がないわ。

 幼い二人は屋敷を抜け出し、それから走って走って、喉が渇いたら雪をかじり、ボロボロの草履に、雪がかかって、足が真っ赤になっていたけれど、それでも走った。
 冬だと言うのに薄っぺらい着物を纏っているせいで、身体がブルブルと震えてもいたけれど、走っていたら幾分かマシに感じる。

「ついた」

  真冬なのに風鈴のあるその店は、ビイドロ製の窓がついていて、とても美しい。

 黄金と白銀は互いの手をぎゅっと握りしめ、扉を掴んだ。

「こんにちは」

 チリン、と音が鳴って足を踏み入れると、そこは暖かく、震える身体をそっと癒してくれた。

「あら、とてもかわいいお嬢様方だこと」

 金髪で、風変わりな服を着ているその人物はニカっと笑って、迎え入れてくれた。

「ここは虹色古書店、と聞きました」
 黄金がズイと前に出る。
「そうよ」
「お願いです。私たちを雇ってください」

 女性はふっと笑った。
「いいわよ。全てを捨てる覚悟があるなら構わないわ」
 白銀がごくん、と唾を飲む。
「見てもらってわかる通り、私たちは元より何にも持ってないわ」

 黄金の声に迷いなどなかった。

 そんな約束をしてから、白銀も黄金も500年は虹色古書店の外を歩いていない。

 命は十分なほど長らえた。その代わり、自由は無くなった。



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