冷酷な王の過剰な純愛

魚谷

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都からの使者(4)

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「……陛下が私のことをお望みでしょうか。ヨハン様だって私共が陛下の不興《ふきょう》を買って里下がりを命じられたのはご存じでしょう」

 ――もう仕える必要はない。領地へ帰れ。

 ジクムントはマリアたちに背を向けたままそう言ったのだ。

 ヨハンは真面目な眼差しでマリアを見つめる。

「あれが陛下の本心からの言葉であると、マリア様は本当にそう思っていらっしゃるのでしょうか」

「…………」

 そんなことはない――そんなことは分かっていた。

 あれはマリアたちを守る為の方便だったのだ。

 ジクムント自身の弱みを少しでも無くすための。

 でもあれから決して短くない時が過ぎ、立場も変わった。

 あの頃は本心ではなかったかもしれない。

 でも今は?

 マリアたちのことを今のジクムントが必要とするとは思えなかった。

マリアの無言に、ヨハンは苦い顔をする。

「陛下に言えば、マリア様を王都へお連れすることを決して許されないでしょう。こうしてこちらに参るのも別件を終えた帰りという態《てい》をとったほどですから。
しかしそれはマリア様を不要だと思われたからではなく、今でも陛下にとってマリア様が大切だからなのです。未だ反対派は駆逐できておりませんし……。
しかし陛下を癒《い》やすことが出来るのはマリア様をおいて他にはいらっしゃないのも事実でございます」

「それは、買いかぶりというものです」

 マリアは目を伏せた。

「――それとも、すでに縁談の話が進んでおられるのですか」

 マリアははっとする。

「どうしてそれを……」

「申し訳ございません。マリア様とお会いするのは久しぶりということもありまして、その……幾つか調べさせて頂いたのです」

 言葉こそ控えめだが、全て知られていると思って間違いないだろう。

 しかしマリアはそれに対する怒りは無かった。

 ヨハンとマリアは長らく会わなかった。

 あの頃とどれほど変わっているか――それを踏まえて、会うかどうかを決めたのだろう。

 「縁談の話は関係ありません」

「では……もう、陛下のことは」

「違います。そうではありません。でも、陛下が望まれていないのに……」

「それは、そうですが」

「確かにヨハン様は陛下には私が必要であると思って下さっているのかもしれません。でも陛下がそうであるとは限りません。私のことを邪険に思われる可能性も……」

 目を閉じると、当時、第五王子時代だったジクムントの傍に仕えていたことのことがまざまざと思い出される。

 ジクムントが心を許せる人間が少しでも増えればと、メンデスがジクムントと一歳下のマリアを仕えさせたのだった。

 あの頃は何もかも楽しかった。

 ジクムントは決して人に心の内や感情を見せない子であった。

 それは一見華やかに見えながら多くの大人の思惑が渦巻く王宮における身を守る術だった。

 でもマリアには彼の考えていることが分かった。その無表情の奥にある感情が分かった。

「少し考えさせて頂けますか」

「急なことで恐縮ではありますが明後日までにお返事を戴きたい。その日に王都へ発ちますので……」

「分かりました」

 マリアはヨハンを見送る為に立ち上がった。
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