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幕間 ゲオルグの苦悩
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(どうしたら良い?)
ゲオルグは自分の部屋で頭を抱えていた。
頭の中を巡ることはここ数日、同じこと。
マリアから伝えられたジクムントの婚姻《こんいん》についての考えは理解できる。
しかしどうしてもマリアに対する強すぎるほどの執着と独占欲に対して、不安を抱かずにはいられなかった。
ジクムントの過去の経験から複数の妃を持ちたくない意味も、そして対外的な干渉を防ぐ為という意味でも、ジクムントの決断は間違ってはいない。
文句があるならば去れ。
もしゲオルグが進言してもジクムントはそう言って一蹴するだろう。
ゲオルグはよろよろと立ち上がり、文机の引き出しから手紙を取り出した。
獅子の刻印の封蝋《ふうろう》のされた手紙を開く。
もう何度も開き続けた為に、手紙にはすっかり癖が付いてしまっている。
――マリア・デ・エリントロスを我々の手に。
送り主の名は書かれていないが、分かっている。
前宰相のダートマスだ。
これまで嫌々密かに伝えられる指令に従ってきた。
ゲオルグは表向き下級貴族の出ということになってはいるが、実際は生後間もなくその家に養子に出されていた。
ゲオルグの生家は伝統のある伯爵家だった。
しかし父親が賭博に嵌《は》まり多額の借金をして首が回らなくなった。産まれたばかりのゲオルグを育てられない程に。
そこへ手を差し出してくれたのがダートマスだ。
ダートマスの手引きでゲオルグは他家へ養子に出され、彼の援助によってどうにか小康を得た。
結局父親はそれから精神を病んで自ら命を絶ち、後嗣《あとつぎ》なくして伯爵家は断絶した。
それでもゲオルグにとってダートマスは恩人なのだ。
だから彼の命によってこの城に潜り込み、情報を流した。
最初はいつかはこの手でジクムントを……と思っていたが、しかし彼の決断力と改革の志に胸を打たれ、新しい国造りに協力したいと思うようになった。
確かにその急進的なやり方に反対派は多く、政務が満足に回らないという弊害《へいがい》も出ている。
しかしその一方で、身分による抑圧というものは確実に減っている。
それまで生まれが唯一にして絶対的な尺度だった世界が徐々に崩れていった。
ジクムントは金無垢の懐中時計を取り出す。
父親の形見だと、ダートマスが渡してくれたものだった。
それは持ち主を失った今も従順に時計を刻み続ける……。
(マリア様は私のことを報告しただろうか)
獅子の刻印は元々、貴族の猛々しい心を示す代表的な紋章として多くの貴族に愛されてきたが、今は反体制派の証とい意味合いが強い。
獅子の刻印のついた物を持ち歩くこと自体、王への叛逆だと思われても仕方が無いことなのだ。
ゲオルグから見たマリアは天真爛漫で話しているだけで胸が温かくなるような、女性だ。
もっと美しい女性はいるだろう、もっと気の利く女性はいるだろう。
しかしジクムントがマリアを選んだのは何となく理解出来る。
(陛下は、決して裏切り者を許さないだろう)
外を歩く足音もいつか自分を連行する兵士の足音かと身構え、眠れぬ日を送り続けていた。
(やられる前にやるしかない、のか……)
ゲオルグは自分の部屋で頭を抱えていた。
頭の中を巡ることはここ数日、同じこと。
マリアから伝えられたジクムントの婚姻《こんいん》についての考えは理解できる。
しかしどうしてもマリアに対する強すぎるほどの執着と独占欲に対して、不安を抱かずにはいられなかった。
ジクムントの過去の経験から複数の妃を持ちたくない意味も、そして対外的な干渉を防ぐ為という意味でも、ジクムントの決断は間違ってはいない。
文句があるならば去れ。
もしゲオルグが進言してもジクムントはそう言って一蹴するだろう。
ゲオルグはよろよろと立ち上がり、文机の引き出しから手紙を取り出した。
獅子の刻印の封蝋《ふうろう》のされた手紙を開く。
もう何度も開き続けた為に、手紙にはすっかり癖が付いてしまっている。
――マリア・デ・エリントロスを我々の手に。
送り主の名は書かれていないが、分かっている。
前宰相のダートマスだ。
これまで嫌々密かに伝えられる指令に従ってきた。
ゲオルグは表向き下級貴族の出ということになってはいるが、実際は生後間もなくその家に養子に出されていた。
ゲオルグの生家は伝統のある伯爵家だった。
しかし父親が賭博に嵌《は》まり多額の借金をして首が回らなくなった。産まれたばかりのゲオルグを育てられない程に。
そこへ手を差し出してくれたのがダートマスだ。
ダートマスの手引きでゲオルグは他家へ養子に出され、彼の援助によってどうにか小康を得た。
結局父親はそれから精神を病んで自ら命を絶ち、後嗣《あとつぎ》なくして伯爵家は断絶した。
それでもゲオルグにとってダートマスは恩人なのだ。
だから彼の命によってこの城に潜り込み、情報を流した。
最初はいつかはこの手でジクムントを……と思っていたが、しかし彼の決断力と改革の志に胸を打たれ、新しい国造りに協力したいと思うようになった。
確かにその急進的なやり方に反対派は多く、政務が満足に回らないという弊害《へいがい》も出ている。
しかしその一方で、身分による抑圧というものは確実に減っている。
それまで生まれが唯一にして絶対的な尺度だった世界が徐々に崩れていった。
ジクムントは金無垢の懐中時計を取り出す。
父親の形見だと、ダートマスが渡してくれたものだった。
それは持ち主を失った今も従順に時計を刻み続ける……。
(マリア様は私のことを報告しただろうか)
獅子の刻印は元々、貴族の猛々しい心を示す代表的な紋章として多くの貴族に愛されてきたが、今は反体制派の証とい意味合いが強い。
獅子の刻印のついた物を持ち歩くこと自体、王への叛逆だと思われても仕方が無いことなのだ。
ゲオルグから見たマリアは天真爛漫で話しているだけで胸が温かくなるような、女性だ。
もっと美しい女性はいるだろう、もっと気の利く女性はいるだろう。
しかしジクムントがマリアを選んだのは何となく理解出来る。
(陛下は、決して裏切り者を許さないだろう)
外を歩く足音もいつか自分を連行する兵士の足音かと身構え、眠れぬ日を送り続けていた。
(やられる前にやるしかない、のか……)
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