冷酷な王の過剰な純愛

魚谷

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湯煙の深愛※

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 遠乗りから帰宅したマリアは湯浴みをしていた。

 浴場は城内の一画に設けられている。

 もちろん王族専用の場所であった。

 そこは浴場とは思えないくらい広々としている。

 床には様々な色彩の石が敷かれ、壁には床と同じような七色の石で神話を基にした鳥や獣、人の絵が描かれている。

 天井は半球型でそこにも石が吹かれて、そこには神々が描かれていた。

 天井近くに設けられた明かり取りの窓には色硝子《いろがらす》がはめ込まれ、床に様々な色の光を投げかけている。

 朝方ならば色彩はより鮮やかで、夕方に近づくにつれてその色を深くする――時間帯で印象を様々に変えるのだった。

 久しぶりの遠乗りで身体は思った以上に疲労していたのだと、湯につかっていると分かる。

湯船から上がり、身体を洗おうとしたその時、足音に反応した。

「誰っ」

 振り返ると、そこにいたのはジクムントだった。

 無論、一糸まとわぬ姿である。

 もう何度もその裸を見ているとはいえ、改めてほれぼれしてしまう。

 鍛え抜かれた筋肉に包まれた肉体は名工の手によって作り出されたように均整がとれ、色気を滲ませる。

 肩幅は広くがっしりとして、あの身体に何度組み敷かれたことか……。

(って、そうじゃなくって)

「ジーク――」

「マリア」

 ジクムントに抱きすくめられた。

 太腿に彼の熱い漲りが押し当てられ、びくっと身体を震わせてしまう。

「ど、どうして」

 しかしジクムントは問答無用とばかりに唇を奪ってくる。

 胸を握られ、突起を扱かれ、口内を荒っぽく蹂躙されてしまう。

「んんッ……どうしたの、いきなり……」

 マリアは幸せに気が遠くなるような錯覚すらおぼえた。

「マリア。俺はずっとこらえていた。こんな姿、さすがに兄上達の墓前ではとても見せられるものではないからな……っ」

「じ、ジーク、どうしたっていうの?」

「愛する女から全てを受け容《い》れると言われて、何も感じない訳がないだろ。俺は木石《ぼくせき》じゃないんだぞ……。本当は夜まで待つつもりだった。だが、こらえられない。お前のことしか考えられない。俺はひどい男だ。お前の言葉を心では信用しながら、こうしなければはっきりと実感し、安堵できないでいるっ」

 それは半ば文句にも聞こえたし、切ない願いにも聞こえた。

「でも、だからって、こんな」

 しかし身体はジクムントの慰めに、恥知らずなほど正直反応してしまう。

 ジクムントの昂《たか》ぶりは押し当てられたままの場所が火傷してしまいそうなくらい燃えさかっていた。

 その確固たる存在感を実感するだけで意識が熱に浮かされたようになってしまう。

「マリアっ!」

 ジクムントは対面の格好でマリアの腰を抱くと、秘裂に砲身を押し当ててきた。

「ああ……!」

 そのまま乱暴に挿入され、マリアは仰け反ってしまう。

「いやああ、ジーク、そんな……いきなり過ぎるわッ」

 脈打つ男根をはっきりと胎内で感じればマリアの鼓動は自然と高鳴り、激しい口づけに曝されている口内もはしたなくツバをこぼしてしまう。

 ジクムントは腰を激しく前後に使った。

「ジーク、い、やあ、壊れちゃう……っ」

「ちゃんと弄られたかったか?」

 ジクムントの目には嗜虐《しぎゃく》の光がある。

「そんなこと……あああん、こんな……ところで、するなんて……そもそもおかしいわよっ!」

 ジクムントは何度も激しく突き上げる。

「誰の目がある訳ないじゃない。それにお前だって感じてるじゃないか。聞こえるだろ」

 わざとらしく抽送《ちゅうそう》の振幅《しんぷく》を大きくして、ぬるぬるに泡立っている淫靡《いんび》な音を響かせた。

 何の準備もなかったはずなのに、潤んだ花穴はぎゅうぎゅうと隆起を咥《くわ》えこむ。

(嘘。こんなに私の身体がいやらしくなるなんて……そんな……)

「やめて、お、音を立てないで!」

 ジクムントに犯されていると考えるだけで媚身はすっかり蕩けてしまう。

「お前の身体は正直だ。お前も、俺を求めてる。実際、こうして腰に足まで……」

 マリアの足はジクムントの腰を挟んでいた。

「だって、それは、あなたがいきなりするから、私……だからっ……」

 マリアは言い訳にもなっていないような譫言《うわごと》を漏らす。

 ジクムントは勢いこんだ振幅を刻んだ。

 壁に背中が押し当てられる。

「あああ、も、もっとゆっくり……」

 マリアは涙目になって啜《すす》り泣いた。

 悲しい訳ではない。

 実際、声はジクムントを求めるように甘く、舌っ足らずだ。

(私、ジークに溺れてるっ)

 胸のふくらみを揉みしだかれ、親にすら見せられない秘めた自分をジクムントにさらけ出している。

「何故だ。こんなにもお前の身体は俺を求めてるだろ」

 ジクムントの言う通りだった。

 前戯を経ないまま重なり合ったにもかかわらず、ジクムントの牡によってそこは恥ずかしいほど潤んでしまっている。

(どうして……)

 考えながらも、それは相手がジクムントだからという答えしか出しようがないのだ。

「マリア、好きだ。お前を愛している。お前の全ては俺のものだ」

 ジクムントは唇を貪りながら、声を絞《しぼ》る。

「誰にもやらない。俺だけの女だ」

 まるでその証を刻むようにヒダを掻き分け、行き止まりを突いてくる。

 彼の言葉が、マリアをさらに淫らに変貌させた。

「あああ……ジーク!」

 いつものように余裕のある動きではない。

 何かに取り憑かれたような奔流のように激しい律動をたたき込まれ、甘い狂おしさに囚《とら》われてしまう。

「マリア、もっと乱れろ。俺でもっと、いやらしくなれ。他の男なぞ見る気にもならないくらい……ずっと!」

 苦しいくらいの独占欲。

 ジクムントの心底にあった激しい欲望に対して心が共鳴する。

「ジーク、来てぇ」

 マリアは自然と声を上げていた。

 ジクムントは腰を叩きつける。

 ピチャンピチャンという破裂音が浴場に反響した。

「ジーク、もっともっと、私を……おかしく、してっ……狂わせてぇ!」

 マリアは切れ切れに囁き、ジクムントを求める。

「マリアッ!」

 ジクムントが喉の奥から呻きを上げる。

「きて。そのまま私の中にあなたのものをちょうだい。あなたが、これで安心出来るというのなら、私をあなたの色に染めて……っ!!」

「くッ」

 マリアの最深めがけを夥《おびただ》しい量の迸《ほとばし》りが注ぎ込まれる。

 マリアはジクムントの背中に爪を立て、

「ああ、駄目ッ……いやあ、イクッ……おかしくなるうッ!」

 陶酔感に溺れ、マリアは身も心も貪られるがままに昇り詰めてしまう。

 花肉が痙攣まじりの伸縮を紡ぎ、執拗に牡精を搾り上げた。

「ああっ……んぁあっ……ぅぅううん……っ」

 マリアは懊悩《おうのう》に頬を染めたまま肩で息をし、びくびくと全身のあちこちを痙攣させる。

 ジクムントの熱気を全身で感じる。

 筋肉が強張り、汗が浮いていた。

 受け容れた牡はまだまだ強靱《きょうじん》さを保ったまま。

 彼の鮮烈なほどに赤い双眸《そうぼう》はマリアを心配しながら、立て続けの行為を欲していた。

 残酷なのか、お人好しなのか――マリアだけが、ジクムントの心を知っている。

 だから、彼の背へ回した手にぎゅっと力をこめる。

「大丈夫。もっと、して……あなたが満足するまで……」

 胸一杯の想いを言葉に託《たく》す。

 ジクムントが「マリアッ」と切ない声をあげて、さらに求めた。



真夜中に目覚めたマリアはジクムントの腕の中からそっと抜け出す。

 月明かりに照らされたジクムントはまるで子どものような無垢な寝顔を見せていた。

 その顔に口元を緩め、部屋を出て庭へと向かう。

 兵士がついてこようとするが、大丈夫だから……とやんわりと断る。

 月明かりの綺麗な晩だった。

 風が火照りをふくんだ身体を過ぎる心地よさにうっとりする。

 いつになく激しかったジクムントの蜜交が鮮烈的すぎたせいで、世界すら一変したかのような錯覚に陥る。

 結局、あのあと浴場を出てから室内でさらに求め合った。

 正直、記憶も何度も飛んだ。しかしそれでも嬉しかった。

 そのお陰で今、マリアは寝付けないでいるわけだが。

(もう、ジークってばそれにしてもやり過ぎなのよ……)

 マリアも流されるばかりの自分を反省したが、ジクムントが相手なのだ。

 どうしようもないことも自覚している。

「マリア様」

「ゲオルグ……様。どうかされたのですか」

 突然呼びかけられ、マリアは驚く。

「すみません。今仕事を終えまして部屋に戻る所だったのですが、マリア様をお見かけしまして」

「そうでしたか。少し……今日は暑いなと思いまして」

「そうですか? こんな所で何でございますが、お話ししたいことがあるのですが、お時間はよろしいでしょうか。陛下は部屋でお待ちですか」

「いえ。ジークは寝ていますよ。実はこっそり抜け出して来たんです。それで、お話とは?」

ゲオルグは声をひそめた。

「……ここでは少し。実は、陛下のご婚姻《こんいん》に関することで私なりに考えをまとめて書類にしたためたのです。明日、陛下に奏上《そうじょう》したいと思っているのですが、その前に、是非マリア様にご一読して感想を頂ければと思いまして……」

「分かりました」

 マリアもこのことに関しては当事者だ。

 ゲオルグの心配も理解出来るからこそ、少しでも力になれればと思う。

 そうして彼の部屋に招かれる。

「どうぞ。散らかっておりますが」

 促されて部屋に入る。

「これですか」

 机の上に置かれた紙を見る。しかしそれは白紙だった。

「ゲオルグ様――」

 振り返りかけたその時、強い力で鼻と口を塞がれてしまう。

 かすかに鼻の奥にツンとくる刺激臭を感じた――しかし次の瞬間にはもう意識を手放していた。
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