本懐~秋光と白桜丸

魚谷

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第二章(3)

 白桜丸は自分の部屋で横になっていた。股間の張りと熱はあいかわらず、太郎を苛み続けていた。これまでは自分で処理して収まりをつけていたのだが、満たされなかった。
 勉強に意識を向ければと思って、三郎から教わった仮名の練習をしてみたが、情欲はより研ぎ澄まされてしまう始末。
 太郎は立ち上がり、外に出た。夜風が火照った肌を撫でる。廊下を進んでいった。

(これも全部、秋光が悪いんだ)

 あやかしの術をあいつがかけた。だから自分の肉体はこんなにも飢えているんだ。
 胸の内でそんな無茶苦茶で、理屈にならないような理屈を捏ね回す。
 そしてある一室の前に来ると、明かりを透かしている障子戸の前に立つ。

「誰だっ」

 聞こえて来たのは三郎の声。警戒しているのか、声が固かった。

「俺だ。太郎だ」
「……どうしたんだ。こんな夜更けに」

 戸が開けられる。

「……秋光に、話が」
「そうか」

 秋光は文机に向かって何かをしていたが、顔を上げた。その顔を見ただけで鼓動が跳ね、肉体の底を炙る強い衝動が大きくなるのを意識せずにはいられない。

「あの……その」

 白桜丸は背後で控える三郎をちらと見やる。
 秋光が「三郎。もう今宵は良い。下がれ」と察してくれる。

「はっ」

 三郎は少し後ろ髪を引かれながらも言われた通り、部屋を出て行った。
 足音がゆっくり遠ざかり、聞こえなくなる。

「三郎にも聞かれたくないことか」

 太郎は後ろ手で戸を閉めた。燈台に照らされた横顔が赤々と染まり、その美しい顔立ちに浮かび上がった影の濃淡が、言いしれぬ色香を放つ。
 ごくりと生唾を呑み込みつつ、白桜丸はその場で胡座をかいた。
 唇を舐め、口火を切る。

「俺を抱け」

 さすがに予想外だったらしく秋光はかすかに眉を上げた。

「武士って言うのはそういうのも、流儀なんだろ。あんたは結婚していないみたいだし」
「誰がそんなことを言っていた。国隆か?」
「……まあ」

 秋光は少し呆れたように溜息を漏らす。

「否定はしない。だが、あいつと違って村を焼いてまで貪るような奇矯さを持ち合わせてはいない」
「秋光は……あるのか」

 秋光が切れ長の目を向けてきた。その凪いだ湖面のように静かな眼差しから匂い立つような色気を強く感じ、触られていないのに肌が粟立つ。

「男を抱いたことか。まあな」
「三郎か」
「どうしてここにあいつの名が出る」
「だって三郎は秋光の近習なんだろう」

 三郎が秋光に組み敷かれ、あられもない声を上げる姿を想像すると、胸がもやもやしてきてしまう。嫉妬しているのだ。

(俺は、秋光が好きなのか?)

 太郎がこれまで好きになった相手は全員女だった。その時に覚えたものとは少し違うような気がした。これは一体何なのか、太郎の未熟な心では分からなかった。

「近習は近習だ。そういうことをしたことはない」

 なら、一体誰と経験があるというのか。

「本当か」
「ああ。全く、まさかお前にこんなことまで話すとは思いも寄らなかったぞ」
「なら誰を抱いたんだ」
「なぜ、そんなことを聞く」
「べ、別に」

 秋光は苦笑する。

「夜更けに押しかけて来といて男を抱いたことがあるのかと聞いてきた挙げ句、別に? お前、俺にそんなに抱かれてたいのか」
「……ああ」

 太郎が即答すれば、秋光は驚いたように目を瞠った。

「本気か。お前、疼いた熱を俺で解消しようとしてるのか」
「違う! そうじゃない……ただ、あんたは俺に弓の使い方を押してくれたり文字を教えようとしてくれただろ。何もない俺があんたに返せるものはそれくらいだって思ったんだよ。もちろん無理強いはしないけど……」

 とは言いつつ、拒絶されたらきっと胸がふさがる思いをし、泣いてしまうかもしれないと思った。

「来い」
「え?」

 秋光は立ち上がると、背後の襖をぴしゃんと開け放った。
 そこには布団が敷かれていた。
 秋光は振り返ってくる。

「抱いてやるよ」

 その流し目に、背筋にぞくりとしたものが駆け上がった。
 太郎は鳥肌を覚えながら従う。鼓動が早鐘を打つ。
 怖じ気づいた訳ではない。これは武者震いなのだ。男と閨を共にすることを知ったことはそうせざるを得なかったからだ。国隆に逆らえば殺される。あの男に気に入られ、自分という存在が欲望の捌け口に絶好なのだと思わせることだけが生きる術だったからだ。
 だが、今は――。色々な理屈をつけながら、とどのつまり秋光に抱かれたいのだ。
 秋光は布団に胡座をかくと、太郎へ顎をしゃくる。

「脱げ」

 太郎は服に手をかけると、帯を緩め、上衣、下衣と脱いでいった。
 秋光と比べるとあまりに貧弱な身体を見せてしまう。
 だが、すでに股間のそれは、力強く反り勃っていた。

「そんなにも待ち遠したかったのか」

 その言い方は決して揶揄している訳ではなかった。その口元には笑みは滲まず、眼差しすら真剣だった。
 太郎は恥ずかしさに目を伏せる。

「美しい身体だな」

 はっとして顔を上げた。

(う、美しい……)

 その言葉だけで頭がぼうっとしてくる。

「もっと近くへ」

 言う通りにすれば、胸に指を走らせる。

「んっ……」
「吸い付く柔肌だ。まるで唐物の壺だ」
「な、何だよ、それ……俺は人間だぞ」

 秋光は優しく笑うと、

「そうだな、だがそれくらい美しいということだ」

 そう独りごちた。
 指を滑らされるだけで肉体が反応し、乳首が勃ってしまう。余りにも破廉恥すぎると分かりながら御すことが出来ない。

「ここもすっかり色づいている」

 秋光は両の乳首をそっと抓んできた。

「ふぁっ!」

 声が上擦り、身を弓反ってしまう。逸物がひくんひくんと戦慄く。

「淫らな肉体だな。もう嬉しそうに濡れているぞ。ん? 俺を想って扱いていたか」
「……別に」

 図星をつかれて、慌てふためく太郎はただそれだけをようやくこぼす。
 逞しい腕が腰に回されると、抱き寄せられた。
 他愛ない愛撫だけですでに自分の足で立つことが出来なくなり始めていただけに、呆気なく身をゆだねてしまう。
 直垂の胸元に顔を埋める格好になる。爽やかな汗の香りがした。
 顎を持ち上げさせられ、上を向かされた。
 こんなにも近距離に、秋光の顔が見られる。そう思うだけで息苦しくなった。心臓が胸に納まらないくらい大きくなって、痛いくらい高鳴る。
 そのまま心臓が破裂して死んでしまうと思った。

「……っ」

 唇を奪われた。自然と太郎の瞼は下りる。吐息まじりに舌が歯列を割って潜り込んでくる。熱く火照った二枚の舌が、湿った呼気を交えながらうねる。

「んっ……んぁっ……」

 太郎は秋光の背中に回した手に力を込め、直垂をぎゅっと握りしめる。
 舌を甘噛みされ、ぢゅるっと唾液を吸われた。
 それだけで頭の芯に痺れが走り、視界が潤んでしまう。
 太郎は怖々と舌を遣い、翻弄されるばかりではなく、自らも動く。
 秋光はそれを嫌がらない。舌を嬉々として受け容れ、そして反撃してくる。
 だが、太郎の方が先に負かされ、やはり身をゆだねる。
 国隆にはいつも貪られるばかりだった。こうして自分の気持ちを本当に示したことなどなかった。心が躍り、ただの口づけであるはずが、楽しんでいた。ずっとこうしていたいと心底から思った。
 下唇を甘噛みされ、そのまま口づけがほどかれる。そのまま彼の唇は首筋に落ち、鎖骨を舌が這う。

「ぁああっ!」

 太郎はびくんと身を揺らした。
 乳首を舌先で練られれば、「秋光!」と切ない声を上げ、しがみつく力を強くした。
 秋光は乳頭を右と左に口づけを落とし、甘噛みし、吸う。

「ぁあ、んんっ……」

 声が溢れ、抑えられない。
 乳首から離れると腹を刺激される。臍のくぼみをなぞるように舌を這わされ、吸われた。

「やめ、そんな場所っ……駄目だ」

 全く無防備な場所をいじくられ、泣き声を混ぜてしまう。
 正直、こんな念入りな愛撫は初めてだった。国隆は欲しくなれば構わず、入れてきた。
 こんな軽く刺激されただけで涕泣を上げさせられる所まで追い詰められたことなど一度も無かった。

「駄目? どの口でそんなことを言っている。ここは、溜まらないと声をあげているぞ」

 秋光は漲りを握りしめてくる。

「ぅあっ……」

 すでに肉棒はいたたまれないくらい引き攣り、雫にまみれていた。
 秋光は握りしめ、軽く扱く。

「駄目だ……!」

 言うや、たちまち股間が爆ぜた。呆気なく樹液を吐き出してしまう。

「ば、馬鹿野郎……」

 いたたまれなさと情けなさの板挟みで、太郎は震える声と回らないろれつで言葉を紡ぐ。

「相当、溜まっていたのか。すごいぞ」

 欲望の多くは、彼の手を汚してしまっていた。

「ああ、ごめん……」

 太郎は起き上がろうとしたが、腰が痺れるのと腰が抜けてしまっていることに気付いて、ただ喘ぐことしかできない。

「……すごく熱いな。火傷、しそうだ」

 そう呟き、秋光は粘液で汚れた手を、わざとらしく燈台に向けた。ぬらぬらした照りをそれは見せた。

「や、やめろよ馬鹿……っ!」

 顔をくしゃりとさせ、恥ずかしさに首筋まで紅潮させずにはいられなくなる。

「良い顔だな。普段の強気が、嘘のようだ」

 秋光は見せつけるように指を舐めてみせる。
 太郎は呆気なく果てたことも忘れて、一本一本入念に舌を絡ませ、太郎の樹液を啜り上げる淫らな所作に見入ってしまう。

「秋光っ……お前、すっごい変態に見えるぞ……」
「俺に抱かれるのを後悔し始めたか?」

 太郎は口をぱくぱくさせた。そんなわけないだろと言う言葉しか持ち合わせていなかったが、そこまで言えば、秋光が調子に乗りそうで嫌だった。
 二の句が継げないでいる太郎を前に、秋光は驕慢な笑みを浮かべる。

「今さら後悔しても、やめないぞ。それにしても」

 かすかに濡れた視線で、太郎の身体を一瞥した。

「さっきまで白かったはずの身体がこんなにも染まって……淫らな奴だ」
「うっ、うるさいっ」

 太郎は鼻にかかった声で反駁したが、果てたことで、すでに劣勢に追い込まれた身としてはどうしても声に媚びが混ざってしまう。

「あの変態に、見せたんだな。この肉体を」

 秋光は汗ばんだ太郎の身体をなぞるように触れた。

「え……?」
「毎夜、あの醜い男の身体の下で……悶えたのか」
「そんなことどうでも良いだろ」

 最初はおもしろがっているのかと思ったが、秋光の目はそうではなかった。まるで磨き抜いた刀身のように鋭かった。

「あの男はお前をどうやって犯した。犬のように後ろから突いたのか、それともお前の感じる顔が見たくて相対したのか」
「やめろ、思い出したくない」

 顔を背けると、顎を掴まれ、強い力で秋光を見るよう向けさせられた。

「どうなんだ」
「……そんなこと思い出したくない……っ」

 急に残忍になった秋光に、太郎は戸惑わずにはいられない。
 何が気に障ったのか。早々と果ててしまったのが癪に障ったのか。あきれ果てて我に返り、自分のしようとしていることがいきなり忌まわしく思えてしまったのか。

「俺が、忘れさせてやる」
「っ?」
「お前は俺のものだ」

 器用に片手で自らの帯をほどき、袴を捨てた秋光は褌を剥ぎ、牡の象徴を見せつける。昂奮したそれを前に、男は国隆しか知らない太郎は目を剥いた。
 秋光のそれは長大で、目を瞠る存在感を持っていた。股を広げられ、ねじ込まれる。

「そんな、い、いきなり……っ」
「あいつのを飲め込めたんだ。これもすんなりいく」

 秋光は何かに憑かれでもしたように残虐さを剥き出しにして、乱暴にねじ込んできた。

「ぐっ……ぁああっ」

 太郎の肉体はかすかな痛みこそ感じながら、彼の言う通り呆気なく受け容れてしまう。
 根元まで押し込まれ、腹の奥まで満たされてしまう。

「ああっ……秋光っ!」

 涙に濡れた喘ぎを漏らし、太郎は悶えた。
 秋光は挿入しきるや、間髪入れずに腰を鋭角に突き上げてきた。

「あぁぁっ!」

 秋光の筋肉でよろわれた肉体がずっしりとのしかかる。その重厚感を太郎は快く受け止めれば太郎の中を蹂躙する。身体の隅々を支配されていくような感覚に振り回され、繊細な部分に雄の痕跡を刻まれた。
 だが、国隆とは決定的に違うことがある。それを太郎が嫌がってはいないということだ。
 国隆とのまぐわいは一刻も早く終わって欲しい、そんなことばかり考えていた。
 しかし秋光との交わりは少しでも長く浸っていたかった。
 嬲られるような言葉を吐かれているのに、太郎は秋光の逞しい身体に手を這わせ、もっともっとと求めてしまう。
 秋光によって蕩けさせられることを何よりも、嬉しいと感じているのだ。

「良い顔をするな。不抜けて、服従を求める顔だ」
「あぁぁっ」
「お前の中は好き者だな。俺に絡みつき、吸い付いてくる。あの男に開拓され、男なしでは生きられなくなったか」

 そうなのかもしれない。しかし肉体は変えられても、心はそのままだと太郎は信じている。こんなにも心が躍るのは、相手が秋光だから。それを太郎は確信できている。

「秋光、もっと犯して、くれ。めちゃくちゃにしてくれっ」
「言われるまでもないっ」

 さらに腰の振幅が大きなものに変わる。
 秋光によって股をさらに開帳させられ、繋がっている部分すら垣間見えそうだった。

「ぁあっ! んぁっ! ああっ!」
「もっと声を上げろ。もっとだ! 俺に犯されるのがそんなに嬉しいなら、もっと俺を昂ぶらせてみせろっ!」

(馬鹿になる。俺、秋光に犯されて、馬鹿になるっ!)

 未来永劫犯され続けたいと思っても、肉体はある一点に行き着いてしまう。一度果てたことなどなかったかのように、限界は否応なく近づく。

「ごめん……秋光、俺っ……もう!」

 込み上げる愉悦に惑わされ、太郎は泣きじゃくりながら声を絞った。

「いけ、見ていてやるっ」

 潤んだ眼差しに魅入られ、太郎はそのまま果てた。
 秋光を受け容れる場所が力強く収斂する。

「ああ、良い締め具合だ」

 薄笑いを口の端にのぼらせる秋光は眉間に皺を刻み、触発されたかのように腰を小刻みに弾ませる。

「ああ、いってっ……いってるんだっ……」

 懇願するように太郎は声を漏らす。
 放出の陶酔を覚えながら、それでも尚、突きまくられてしまう。
 逞しい肉塊が行きつ戻りつし、窄まる狭隘を責め続けた。

「出すぞ! お前の中にっ!」
「早く、早く着て、くれぇ、おかしくなるっ……いきすぎて、く、狂う……」

 秋光が「ううッ」と唸りを上げれば、腹奥めがけ灼熱を迸らせてくる。

「ぅううああああ……!」

 体内を満たすだけに飽き足らず燎原の火のような息吹に、太郎は身も世も無く泣きじゃくりながら蕩けてしまうのだった。
 頭が真っ白になり、指先まで痺れてしまう。

「はぁっ……はぁっ……」

 太郎は身体の深い場所で男根の震えを強く感じながら、呆気なく意識を手放した。
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