17 / 23
第三章(4)
太郎たちが館に戻ったのは夕暮れ近かった。遠目からでも館の方が何やら騒がしくなっているのが分かった。秋光の姿を見つけた三郎が駆けつけてきた。
「殿っ!」
秋光は馬から下りる。
「何があった」
「志田(しだ)村に大月の美童狩りが向かったという知らせが先程届きました」
「本当か!?」
秋光の周囲には、三郎の祖父、勝久も集まる。
「……それは間違いないことなのか」
「はい」
周囲に集まる家人たちは次々、「最早堪忍できぬ!」「逆らってどうなる。我らが討たれるだけだぞっ」「殿、大月に人を走らせやめてもらう訳には……」と意見は割れるばかり。
「ええい、静まれ。殿の言葉が聞こえぬではないかっ!」
勝久の一喝に、場が静まった。全員の目が秋光に向かった。
「……三郎」
「は、はいっ!」
「鎧を準備せよ」
「はっ!」
三郎は館へ走り、勝久が声を上げる。
「者ども戦支度じゃ。はよういたせっ!」
それまで意見の割れていた家人たちも棟梁の号令に従い、散っていった。
勝久は秋光に言う。
「……未だ仕掛けは整いきれておりませんぞ」
「承知の上だ。……佐々木に使者を送れ!」
「かしこまりましてござりますっ」
秋光は歩き出し、館の奥へ向かう。そこで三郎や他の郎党たちが、秋光へ鎧を着せる。
かちんの直垂の上に、黒糸縅の鎧をまとい、漆塗りに銀の装飾のある太刀を腰に佩く。背には黒い鷹の羽を二十四本差した箙(えびら)を負い、鍬形を打った兜をかぶる。
三郎や他の郎党たちも自身の準備の為に部屋を出て行く。
秋光と太郎は二人きりになる。庭先には篝火が焚かれ、薪の爆ぜる音がした。
「満寿。俺も連れて行ってくれ」
「大月を討つ訳ではないぞ」
「俺だって弓を射られる。俺と同じような境遇になるかもしれない人たちを助けに行くんだろ。だったら! 頼むっ!」
太郎はその場で平伏し、額を床へ擦りつけた。
「――俺の傍を離れるなよ」
「ありがとう! 絶対役に立つからっ!」
「馬鹿を言うな。お前は自分の身を守ることだけを考えろ」
「でもお前だって俺の腕を褒めてくれたじゃないか」
「あくまで練習の段階では、だ。実践では使えん」
秋光は人を呼びつけ、太郎の為の鎧を用意するよう命じた。足軽が着用する上腹巻だが、かつて村を襲われた時何も抵抗する術を持ち合わせていなかった頃と比べれば格段上だ。
やがて次々と鎧に身を包んだ将兵たちが集う。秋光は床机から身を起こす。将兵たちのもとに杯が配られる。
秋光は周囲を睥睨すると、声を上げる。
「今より大月……暴虐の徒を討つ。参るぞっ!」
おおっ! 大人数の将兵の声で場がざわめく。秋光たちは杯をぐっと呷れば、杯を床へ叩きつけた。
「太郎、お前も行くのか」
鎧姿の三郎が驚いたように近づいてくる。
「秋光の轡取りだけどな」
「そうか」
「分かってる。三郎、死ぬなよ」
「お前もな」
笑顔を交わして別れ、太郎は秋光の愛馬、時雨黒の轡を取った。
「出陣っ!」
秋光の声が夕闇に響いた。
「殿っ!」
秋光は馬から下りる。
「何があった」
「志田(しだ)村に大月の美童狩りが向かったという知らせが先程届きました」
「本当か!?」
秋光の周囲には、三郎の祖父、勝久も集まる。
「……それは間違いないことなのか」
「はい」
周囲に集まる家人たちは次々、「最早堪忍できぬ!」「逆らってどうなる。我らが討たれるだけだぞっ」「殿、大月に人を走らせやめてもらう訳には……」と意見は割れるばかり。
「ええい、静まれ。殿の言葉が聞こえぬではないかっ!」
勝久の一喝に、場が静まった。全員の目が秋光に向かった。
「……三郎」
「は、はいっ!」
「鎧を準備せよ」
「はっ!」
三郎は館へ走り、勝久が声を上げる。
「者ども戦支度じゃ。はよういたせっ!」
それまで意見の割れていた家人たちも棟梁の号令に従い、散っていった。
勝久は秋光に言う。
「……未だ仕掛けは整いきれておりませんぞ」
「承知の上だ。……佐々木に使者を送れ!」
「かしこまりましてござりますっ」
秋光は歩き出し、館の奥へ向かう。そこで三郎や他の郎党たちが、秋光へ鎧を着せる。
かちんの直垂の上に、黒糸縅の鎧をまとい、漆塗りに銀の装飾のある太刀を腰に佩く。背には黒い鷹の羽を二十四本差した箙(えびら)を負い、鍬形を打った兜をかぶる。
三郎や他の郎党たちも自身の準備の為に部屋を出て行く。
秋光と太郎は二人きりになる。庭先には篝火が焚かれ、薪の爆ぜる音がした。
「満寿。俺も連れて行ってくれ」
「大月を討つ訳ではないぞ」
「俺だって弓を射られる。俺と同じような境遇になるかもしれない人たちを助けに行くんだろ。だったら! 頼むっ!」
太郎はその場で平伏し、額を床へ擦りつけた。
「――俺の傍を離れるなよ」
「ありがとう! 絶対役に立つからっ!」
「馬鹿を言うな。お前は自分の身を守ることだけを考えろ」
「でもお前だって俺の腕を褒めてくれたじゃないか」
「あくまで練習の段階では、だ。実践では使えん」
秋光は人を呼びつけ、太郎の為の鎧を用意するよう命じた。足軽が着用する上腹巻だが、かつて村を襲われた時何も抵抗する術を持ち合わせていなかった頃と比べれば格段上だ。
やがて次々と鎧に身を包んだ将兵たちが集う。秋光は床机から身を起こす。将兵たちのもとに杯が配られる。
秋光は周囲を睥睨すると、声を上げる。
「今より大月……暴虐の徒を討つ。参るぞっ!」
おおっ! 大人数の将兵の声で場がざわめく。秋光たちは杯をぐっと呷れば、杯を床へ叩きつけた。
「太郎、お前も行くのか」
鎧姿の三郎が驚いたように近づいてくる。
「秋光の轡取りだけどな」
「そうか」
「分かってる。三郎、死ぬなよ」
「お前もな」
笑顔を交わして別れ、太郎は秋光の愛馬、時雨黒の轡を取った。
「出陣っ!」
秋光の声が夕闇に響いた。
あなたにおすすめの小説
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。