本懐~秋光と白桜丸

魚谷

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 全てが終わり太郎は背中から秋光に抱きすくめられていた。一体どれだけ求められただろう。三度目の半ばくらいまでは意識があり、四度目は失神と覚醒を繰り返し――最後は、もう許してと泣いていたかもしれない。もう身も心もくたくただったが、達成感に満ち足りていた。

「太郎。お前、これからどうする。故郷を失い、どこか行く宛てはあるのか」
「……そんなこと、今言うなよ」
「大事なことだ」

 今はただ何も考えず、夢のような幸せの中で浸っていたいと思ったが、どう話を逸らそうとしても彼は許してはくれなかった。そうだ。自分たちは相容れないのだ。太郎はただの農民で、秋光は武士だ。今や誰からも頼りにされる
柱だ。

「……館で弓とか文字を習った。猟師とかで食っていくのかもしれない」
「そんなことは聞いてない。俺の傍にいるかどうかを聞いているんだ」

 はっとして振り返る。

「良いのか」

 秋光は真顔のまま言う。

「どうなんだ。答えろ」
「俺は、もし出来るなら……ずっと、お前の傍にいたい」
「出来るなら、は余計だが、それが聞きたかった」

 秋光は言うと脱ぎ捨てた直垂を乱暴にまさぐって取り出した書状を差し出す。太郎が受け取ると、「開いてみろ」と言う。折り畳まれた紙には『光行』とだけ書かれていた。

「みつゆきと呼ぶ」
「みつ、ゆき……。どういう意味なんだ」

 どちらの字もまだ太郎は知らなかった。

「この光という字はひかり、と読む。俺の秋光より一字を与えるものだ」
「お前の字を、くれたのか」
「そうだ。光の元へ行く……太郎、俺の元へ来い。そして離れるな。そういう意味だ。どうだ?」

 太郎は口元がだらしなく緩んで仕方が無かった。

「……なんか、照れくさいな。まるで、恋文みたいだ」
「みたいじゃない。そうなんだ。お前はこれから武士になる」
「でも俺は農民だ」
「武士も昔は農民だ。それが歳月をかけて武士になった。武士に血筋は関係ない。そうありたいという想いが重要だ」
「光行、か。光行……」

 太郎は口の内で呟き、そして彼の唇を吸った。
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