たとえ愛がなくても、あなたのそばにいられるのなら

魚谷

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 公爵家が先代公爵夫人であるフアナ様以来のガーデンパーティーを開くということで、貴婦人たちはこぞって集まってくる。
 その中には今回のパーティーを主催するハイネのお手並みを見ようという向きも多分にあることは間違いない。
 そして彼女たちのお眼鏡に適うようなパーティーではなかった場合、きっと翌日には、ハイネの悪口は社交界中に流布されることになるだろう。
 屋敷の自室から、庭先に集まりつつある参列客の様子を眺めていたハイネの心臓はドキドキしっぱなしだった。

(大丈夫。今日のためにしっかり準備をしてきたんだから、きっとうまくいく。フアナ様のためにもしっかりやらないと)

 そう自分に言い聞かせていると、「おい」と扉ごしにアーサーの声が聞こえた。
 扉が開く。

「何をしている」
「気持ちを落ち着かせてたの」

 ハイネは、アーサーと肩を並べ、招待客たちの人々の前に出た。

「皆さん、今日はようこそお出で下さいました」

 ハイネが出てきた時、人々は騒然とする。
 この日の為に、ハイネは公爵家に出入りするデザイナーの協力を得て、孤児院の子たちやシスターたちと一緒に織ったレース飾りを胸元や袖口などにあしらったドレスをまとっていた。
 貴婦人たちの目が、ハイネのドレスに釘付けになる。

(掴みは上々ね)

 レースはそれだけでなく、庭先に並べたテーブルのクロス、庭の一角に設けた日射し避けのテントなどこれでもかと言うくらい、美しいレースで庭中を飾り立てた。
 模様は花や星、川の流れをイメージしたものから、精霊を模したものと様々なものを用意することで、人々のレース飾りへの好奇心をくすぐることも忘れない。
 貴婦人たちが好奇心に目を輝かせながら近づいてくる。

「夫人! 庭の装飾や、そのドレスのそれは何ですの?」
「これはレースというものです。先代の公爵夫人と一緒に考案したものなんですよ」
「まあそうなんですの! こんなに素晴らしい装飾はどうやって……」
「技術は必要ですが、一針一針、手縫いで織ったものなんです」
「なんて見事なんでしょう!」
「ええ。まるで宝石のような美しさだわ!」
「気に入って頂けたようで嬉しいです」
「このレースというものを是非、我が家でも使いたいのですけれど」
「構いませんが、職人たちの手仕事ですからかなりお時間を頂戴することになります」
「構いません! お金ならいくらでも出しますから!」
「私はその何倍でも出します。ですから優先的に……」

 流行に敏感な貴婦人たちが注目すれば、遠巻きにして様子見を決め込んでいた夫人たちも遅れてはなるまじと殺到してくる。
 ガーデンパーティーは無事、盛況のうちに終わった。
 ハイネはすっかり疲れしまって庭の片隅で椅子に座りながら、暮れなずむ空を眺めていた。
 今日のお披露目のためにパーティーの準備はもちろん、レースについての作業で、ここ一週間近く睡眠時間を削ったりしていたせいもあって、一気に疲れが出てしまったみたいで体が重たい。
 それでも気持ちは満ち足りていた。

(フアナ様も、喜んで下さっているはず)

 本当は一緒にレースのお披露目をできれば一番だったのだけど。

「ハイネ」

 目をやると、アーサーだった。

「アーサーっ」

 立ち上がった次の瞬間、立ち眩みを覚えて足元がふらついてしまう。

「おい……っ」

 倒れそうになったところを抱き留められた。

「あ、ご、ごめん……っ」

 ハイネは赤面して慌てて距離を取った。

(アーサーに呆れられちゃう)

「平気か」
「……ごめん。ちょっと疲れちゃって」
「だったら、こんなところにいないで、部屋で休め」
「そ、そうだね。そうする。でも少し休まないと動けそうにないから」

 アーサーは小さく溜息をつくと、いきなりハイネを抱き上げた。

「え……!?」

 ハイネは驚き、アーサーの首に抱きつく。
 アーサーはメイドの一人を呼びつけると、ついてくるよう言った。

「あ、アーサー、私、一人で歩けるから」
「ふらついていたくせによく言う。回りが迷惑する。黙っていろ」
「……ごめん」

 部屋まで連れて言ってもらうと、アーサーはメイドに「後は任せた」と言って部屋を出ていく。ハイネはメイドに手伝ってもらいながら寝巻に着替えると、ベッドに横になる。

「……もう大丈夫。ありがとう」

 ベッドに横になると、そうと意識する間もなくあっという間に眠りに落ちてしまうのだった。



 アーサーが執務をしていると、執事が部屋を訪ねてきた。

「――先程、メイドが奥様はお休みになられたと報告しにまいりました」
「そうか」

 ガーデンパーティーで笑顔を絶やさず、ホストとして行動していた、ハイネの姿は、それこそ母を思わせた。
 雰囲気や貫禄は全く劣っているが、あの輝くような笑顔のせいだろうか。
 母も、前日までは色々と準備に明け暮れて睡眠時間を削り、こちらが心配になるくらい疲れた顔をしているにもかかわらず、いざ当日を迎えると招待客の前ではおくびにも出さず、立派にホスト役を全うしていた。
 まさに今日のハイネはそんな感じだったのだ。

(パンケーキの時もそうだが、あいつは、母上を忘れないでいてくれているんだな)

 侯爵夫妻の事故死と、後継者であるラウーロの死。公爵家は一時、呪われているのではないかという噂まで立ってしまったほどだ。
 それまでは公爵家に世話になった貴族たちもいつの間にか寄りつかなくなった。
 あれほど母の生前は、少しでも気に入られようと、大勢の令嬢や貴婦人たちがすり寄ってきたというのに。
 だからこそ、ハが今も母を舌ってくれているのは救いのように思えた。
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