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第五章 桃園の謀
命を賭けてあなたを救う
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「旬果様……っ!」
彼方の居館の窓から、勢い良く炎と黒煙が噴き出す。
だがすぐに駆けつけることは叶わない。
仁傑が立ちはだかっていたからだ。
こちらが押せば、向こうは引き、受け流す。そして必要以上に踏み込んでこない。
仁傑は完全に守りに徹し、泰風を倒す気などまるでない。ただ足止めをしているだけなのだ。
時間があれば幾らでも相手はしてやれるが、もうこちらに残された時間は僅か。
(強行突破しかない……っ)
正直、これは賭けだ。無防備になれば、仁傑の斬撃をまともに受けるだろう。
その傷が深ければ、もしかすれば、たどり着けないかもしれない。
しかしこのまま足踏みをしていれば、命よりも大切な旬果を失ってしまう。
迷っている時間などなかった。
泰風は構えていた剣を仁傑めがけ、放つ――同時に、駆けた。
仁傑は素早く剣を打ち落とす。
剣の向こうに泰風がいることを見て取り、仁傑は守りの姿勢を取る。
しかしその仁傑を、泰風は軽々と飛び越えた。刹那、人の形をしていた泰風の姿は、磨き上げた鋼《くろがね》の如き黒々とした狼の獣人へと変わる。
仁傑は哮《たけ》った。
「魁夷の分際で……っ!」
泰風は背に太刀を浴び、よろめく。
「っ!」
しかし泰風は構わず、窓から緋色の炎を噴き上げる居館の扉を蹴破った。
刹那、全身を灼かれたかと錯覚せんばかりの熱風が逃げ場を得て、泰風めがけ吹き付けてくる。
辺り一面、火の海。
しかし泰風の眼差しは、守るべき人の姿を逃さなかった。
全身が焼けるのも構わず、業火の直中に飛び込んだ。
そして旬果を抱き上げた。
「旬果様!」
ぐったりした旬果はかすかに、目を開けた。
「た、泰風……?」
「助けが遅れ、申し訳御座いません!」
旬果は、薄い笑みを浮かべる。
「……きっと、助けに来てくれるって信じてた」
「はい」
「その赤い目、すごく綺麗よ」
泰風は旬果を胸にしっかりと抱くと、同じように倒れている劉麗と慧星の二人も左腕で抱き上げた。
二人は敵だが、旬果は何があっても、二人を見捨てないだろうと思ったからだ。
柱が軋みを上げ、震えた。地鳴りのように激しい揺れが建物を襲う。
泰風は火だるまになりながらも、居館の窓から跳躍した。
※※※※※
口元に冷たい物が触れ、旬果は目を開けた。
泰風が瓢箪の水で、唇を湿らせてくれたのだ。
思わず頬が緩んだ。
「……こうして泰風に介助されるのって、何度目かな……」
「そんなことは、お気になさらず」
旬果が右手を伸ばし、人間に戻っている煤に汚れた泰風の左頬に触れた。身体のあちこちが傷つき、痛々しかった。
「泰風こそ、平気なの?」
「ご安心を。魁夷は普通の人間よりも丈夫ですから」
「そっか……」
旬果は身体を起こそうとすれば、泰風が「いけませんっ」と声を上げる。しかし旬果は大丈夫と、やんわり宥めた。
「……二人は?」
「あちらに」
泰風に促されてそちらを見れば、劉麗と慧星が木の根元に寝かされていた。
「助けてくれてありがとう。……洪周たちは?」
「分かりません」
「追いかけないとっ」
「それは私が……っ」
「駄目。どうしても聞きたいことがあるのっ!」
旬果の強い言葉に、泰風は頷く。
「分かりました」
彼方の居館の窓から、勢い良く炎と黒煙が噴き出す。
だがすぐに駆けつけることは叶わない。
仁傑が立ちはだかっていたからだ。
こちらが押せば、向こうは引き、受け流す。そして必要以上に踏み込んでこない。
仁傑は完全に守りに徹し、泰風を倒す気などまるでない。ただ足止めをしているだけなのだ。
時間があれば幾らでも相手はしてやれるが、もうこちらに残された時間は僅か。
(強行突破しかない……っ)
正直、これは賭けだ。無防備になれば、仁傑の斬撃をまともに受けるだろう。
その傷が深ければ、もしかすれば、たどり着けないかもしれない。
しかしこのまま足踏みをしていれば、命よりも大切な旬果を失ってしまう。
迷っている時間などなかった。
泰風は構えていた剣を仁傑めがけ、放つ――同時に、駆けた。
仁傑は素早く剣を打ち落とす。
剣の向こうに泰風がいることを見て取り、仁傑は守りの姿勢を取る。
しかしその仁傑を、泰風は軽々と飛び越えた。刹那、人の形をしていた泰風の姿は、磨き上げた鋼《くろがね》の如き黒々とした狼の獣人へと変わる。
仁傑は哮《たけ》った。
「魁夷の分際で……っ!」
泰風は背に太刀を浴び、よろめく。
「っ!」
しかし泰風は構わず、窓から緋色の炎を噴き上げる居館の扉を蹴破った。
刹那、全身を灼かれたかと錯覚せんばかりの熱風が逃げ場を得て、泰風めがけ吹き付けてくる。
辺り一面、火の海。
しかし泰風の眼差しは、守るべき人の姿を逃さなかった。
全身が焼けるのも構わず、業火の直中に飛び込んだ。
そして旬果を抱き上げた。
「旬果様!」
ぐったりした旬果はかすかに、目を開けた。
「た、泰風……?」
「助けが遅れ、申し訳御座いません!」
旬果は、薄い笑みを浮かべる。
「……きっと、助けに来てくれるって信じてた」
「はい」
「その赤い目、すごく綺麗よ」
泰風は旬果を胸にしっかりと抱くと、同じように倒れている劉麗と慧星の二人も左腕で抱き上げた。
二人は敵だが、旬果は何があっても、二人を見捨てないだろうと思ったからだ。
柱が軋みを上げ、震えた。地鳴りのように激しい揺れが建物を襲う。
泰風は火だるまになりながらも、居館の窓から跳躍した。
※※※※※
口元に冷たい物が触れ、旬果は目を開けた。
泰風が瓢箪の水で、唇を湿らせてくれたのだ。
思わず頬が緩んだ。
「……こうして泰風に介助されるのって、何度目かな……」
「そんなことは、お気になさらず」
旬果が右手を伸ばし、人間に戻っている煤に汚れた泰風の左頬に触れた。身体のあちこちが傷つき、痛々しかった。
「泰風こそ、平気なの?」
「ご安心を。魁夷は普通の人間よりも丈夫ですから」
「そっか……」
旬果は身体を起こそうとすれば、泰風が「いけませんっ」と声を上げる。しかし旬果は大丈夫と、やんわり宥めた。
「……二人は?」
「あちらに」
泰風に促されてそちらを見れば、劉麗と慧星が木の根元に寝かされていた。
「助けてくれてありがとう。……洪周たちは?」
「分かりません」
「追いかけないとっ」
「それは私が……っ」
「駄目。どうしても聞きたいことがあるのっ!」
旬果の強い言葉に、泰風は頷く。
「分かりました」
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