青狼のふところに抱かれて~男装騎士と、獣人王子

魚谷

文字の大きさ
19 / 38
王宮 恋する獣人 編

18:どういうこと!?※獣化シーンあり

しおりを挟む
(それにしても、マクヴェス、一体どうしたんだろう)

 イングリットはパーティー会場と離れた場所にある控え室に到着するや、急遽、呼び出されたロシェルと共に服を替え、そして今、襟などの服の細かいところを直してもらっているところだった。

 ちなみにマクヴェスは廊下に出ている。

「どうかされましたか? 浮かない顔ですが」

「……なんか、マクヴェスが変だなと思って」

「変?」

 パーティー会場で起きた出来事を告げる。

「……それは当然かと」

「当然? どういうこと?」

「それは……」

 いつもなんだかんだ明快な答えをくれる彼女らしからぬ歯切れの悪さだった。

「教えて。別に、怒ったりしないから。私は自分がニブいっていうのをよく分かってる。それを承知で、お願い」

「……イングリット様に非はない、とだけ。もうこれ以上は!」

「ぜんぜんピンとこないんだけど」

「……ピンときたら、私が殺されてしまうかもしれません」

「え?」

「いえ。なんでもございませんよ」

 心なし彼女の手が小刻みに震えているように見えた。

「さあできあがりましたそれでは殿下を呼んで参りますので」

「出来たって……。か、髪は?」

 母譲りの自慢の赤毛は背中に流れたままだった。

「それはよろしいと思いますっ」

 まったくイングリットに言葉を差し挟む余地を許さない早口と共に、扉を開けた彼女は呼びかけた。

 すると、むっつりとした顔のマクヴェスが部屋に入ってくる。

「ご苦労。呼んだら入ってこい」

 ロシェルは頭を下げて部屋を出て行く。

「マクヴェス、これでいい? もう、変なにおいはしない?」

「変なにおい? そうだな、もう大丈夫だ」

 ほっと胸をなで下ろした。

「それじゃ、マクヴェス、戻ろう。きっとみんな驚いてるからちゃんと理由も言って……」

「まだだ」

「まだって……って、マクヴェス!?」

 急に彼が服を脱ぎ始めた。

「目を閉じていろ」

 ぎゅっと目を閉じる間も、衣擦れの音はたしかに聞こえる。

(な、なんで、急に服を……?)

「あ、あの……っ、へ、部屋を出て行こうか?」

 薄目をあけると、逞しい筋肉に包まれた上半身がちらりと見えてしまう!

 慌てて後ろを向く。

「ど、どうしたのさ、マクヴェス……ひゃっ!?」

 と、唐突に背中にぎゅっと重みを感じる。

 目を閉じていたことも手伝って、バランスを崩して倒れるが、柔らかなものにそっと包まれる。

「……?」

 おそるおそる目を開ければ、

「なんで……? マクヴェス……?」

 彼は急に青い狼の姿になっていた。

 理知的な茶褐色の眼差しはかすかに潤んで見え、そこにはイングリットの顔がうつりこんでいる。

 ぺろっ。

「ひゃっ、く、くすぐったい」

 獣化したマクヴェスが急にぺろぺろと首筋を舐められた。

 びっくりするくらい熱い吐息がはきかかってくる。

「ど、どうしたのさ、こんな……い、いきなり……っ!?」

「いいから」

 普段から落ち着きはらった彼らしからぬ強引さだ。

「ど、どうゆうこと!?」

「嬉しくないのか? 毛皮に包まれてるというのに」

「い、いや、それは、すっごく、すっっごーく嬉しいけどね!? 嬉しいけど……急すぎるっていうか……! っていうかみんな、きっと待ってる……!」

「適当に酒を飲んで楽しんでいる。放っておけ」

 肝心の主賓そんな風に言うなんて。

 マクヴェスは舐めるだけではなく、ぐいぐいとしきりに身体を擦りつけてくる。

 さらさらふわふわの、超がいくつもついてしまいそうな高級な毛皮に顔を埋めているような心地は今ならこのまま死んでも構わない!と思わせるような心地よさを与えてくれるが、

「待って、髪、み、乱れちゃうから、せっかくシャワーだって浴びたのに……!」

 必死に、イングリットは自分の役目に忠実であろうとする。

 自分は護衛だ。護衛対象になぜだか襲われてしまっているけど。

 それなのに、肝心の主賓様はといえば。

「問題ない」

 断言した上に、前肢を肩に引っかけ、ぐいぐいと押しつけてくる。

「あると思うんだけどぉ!?」

 男装の麗人が、二回りは大きな狼にじゃれつかれているのはきっととんでもないくらいシュールな光景に違いない。
 それでもマクヴェスはやめようとはしない。

「なんだ、俺に飽きたのか? 他の毛皮が良くなったのか」

 目がぎらりと光り、声のトーンも下がる。

「違うったら。マクヴェス、そういうことじゃなくて! 状況を考えて欲しいの!」

「ちゃんとたっぷり状況は考えてる……っ!」

「だ、だめ、もう、気持ち良すぎて死んじゃうからぁっ……!」

 それくらい、マクヴェスの毛並みは文句なし。最高だった。

 さらさらしているだけでなく、よくイングリットの身体に馴染んだ。

 これならきっと真夏でも抱きしても決して苦ではないだろうということが易々と想像できるように。

「お前も……」

「え?」

「もっと俺を撫でろ。いつもはそんなもんじゃないはずだ」

「何言って……」

「俺に飽きてないというのだったらもっと、触れ、撫でろっ」

 けんか腰ではないが、挑発的だということは分かった。

 そんな挑戦状を叩き付けられたら、イングリットとていつまでも大人しくはしていられない。

「撫でろ……? 分かったわよ、やってやる、やってやるわっ!」

 制服のカフスを外し、袖をまくり上げ、白い細腕を思いっきり青い毛並み――油断してしまうとすぐに眠れてしまいそう――をわしゃわしゃと触れる。

 もうこのやりとりにどんな意味があるのかは考えるのはやめた。

 耳を優しくさすり、首筋に顔をうずめ、いじってくれとおねだりするみたいに揺れる太い尻尾をこれでもかとなで上げてやる。

 マクヴェスも負けじとぺろぺろと舐め、首筋を押しつけ、時に腕や肩を甘噛みされる。

 もうそれがゾクゾクするほど気持ち良かったり。

 一体どれだけそんな丁々発止ちょうちょうはっしのやりとりを続けただろうか。

 さすがのイングリットもバテてきたころ。

「もういいだろう」

 ようやく、マクヴェスはそう言った。

 これだけの肉弾戦を繰り広げておきながら、彼の声にまだ余裕があることにはもう驚くほかない。

「ね、ねえ……これ、一体、どういうこと……? そろそろ教えてくれてもいいんじゃない……?」

「……自分の胸に手をあててよく考えてみるんだな」

「怒ってる……?」

「もういい。早く服を着ろ。ロシェルを呼んでくる」

「ちょ、待って!」

 しかし後ろ足をつかって器用に扉を絞められ、マクヴェスはいなくなってしまう。

(胸に、手をあてて……)

 やってみるが、洗濯板のほうがまだ起伏があるとからかわれた胸にどれだけ手をあてても、どうして彼が急にこんなことをしようとしたのかまったく分からなかった。

 そんなところへロシェルが現れる。

 しかし。

「ロシェル、あのね」

「お許しください」

 ロシェルは小さく首を横に振った。

「……あ、う、うん」

 それから服と髪を整え(シャワーを浴びようとしたらなぜかロシェルに全力でとめられた)、何とか形ばかり整えて会場へ戻った。

 それからは特にマクヴェスは何をするというわけでもなかったので、余計、イングリットの悩みは深くなってしまうのだった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!

ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。 前世では犬の獣人だった私。 私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。 そんな時、とある出来事で命を落とした私。 彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。

『番』という存在

恋愛
義母とその娘に虐げられているリアリーと狼獣人のカインが番として結ばれる物語。 *基本的に1日1話ずつの投稿です。  (カイン視点だけ2話投稿となります。)  書き終えているお話なのでブクマやしおりなどつけていただければ幸いです。 ***2022.7.9 HOTランキング11位!!はじめての投稿でこんなにたくさんの方に読んでいただけてとても嬉しいです!ありがとうございます!

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない

三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

王宮に薬を届けに行ったなら

佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。 カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。 この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。 慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。 弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。 「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」 驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。 「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」 ※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。

処理中です...