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王宮 恋する獣人 編
22:これは脅迫ですか?いいえあなたのためです
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(……いっておくべき、だよね)
イングリットは布団を顔の半ばくらいまでひっぱりあげ、天井をじっと見つめながら考える。
アスコットとのことがあった翌日。
ベッドの中でイングリットはまんじりともできないでいた。
昨日、帰って来た時、雨に降られてずぶ濡れだったことをシェイリーンに心配してもらったこと以外で特に何があったわけではない。
アスコットに絡まれることもなかった。
(マクヴェスはあいかわらず、だし)
昨日、まともにした会話なんて、
――参っちゃったよ、ちょっと遠乗りに出かけてね。そしたら雨に降られちゃって。
――……そうか。
それだけ。
まるでお前の話なんて興味はないという素っ気なさ。
なんだか、この城に来てから日に日にマクヴェスとの距離が開いているような気がしているのは、気のせいではないだろう。
(それはそれで問題だけど……。アスコットにバレたことは言わないと)
女であることは自白だが、人間であることを知られたことはさすがに大きい。
アスコットが誰かにばらすということは、願望にも近いかもしれないけれど、あるとは思えない……。
しかし、正直に話しても良いものかという気持ちもある。
知られたら殺せばいい――。
とはまさか言わないだろうが、マクヴェスが何をするか分からない。
イングリットのことでは、フォルスすら本気で脅すくらいだ。
アスコット相手ならば容赦などありはしない……かもしれない。
(でも、今のマクヴェスなら一周回って冷静に聞いてくれる可能性は……?)
なぜだかイングリットに対して冷淡とも思える今なら。
(っていうか、私のことで怒っているとしたら、そもそも私と話をしたいなんて思わない……)
考えればかんがえるほどわけがわからなくなってくる。
「あああもう! どうしたらいいんだよぉぉぉぉっ!!」
こんな難しいこと、これまで直面してこなかったイングリットはむしゃくしゃして髪をかきむしり、悲鳴にも似た声をあげてしまう。
「イングリット様!?」
ロシェルが慌てたように部屋に飛び込んできた。
「え、あ……」
「今、悲鳴をあげられてましたよね!?」
「違う違うえっと……ね、寝ぼけてて」
あははははとイングリットは心配させまいと笑顔を見せるが、ロシェルの顔は曇ったまま。
「ロシェル、マクヴェスは?」
「殿下はただいま、お散歩中でございます」
「そっか、じゃあロシェル。ちょっといい?」
「はい」
手招きすると、ロシェルはうなずき近づいてくれる。
「私、マクヴェスを怒らせること、何かしたのかな。絶対、怒ってるよね……。昨日だって……。別に、心配して欲しいわけじゃないけど……なんか、いきなり態度が素っ気ないっていうか……。
私が素っ気ないって思っているだけで、ロシェルから見たらいつものマクヴェスに見えるっていう可能性は?」
「……それは」
「何か思い当たることがあったら教えて。……わ、私、あいつに言わなきゃいけないことがあるんだ。でも今のままじゃ、それも言える雰囲気じゃないし……」
何か言いたげにロシェルは顔を曇らせる。
「何ででもいいんだ。教えてっ! この通りだっ!」
イングリットは深々と頭を下げる。
「――殿下は、その……たしかに私の目からみても、普段どおりというわけではありません」
「怒ってるんだ」
「……というのも違うように思います。不機嫌というわけはございません……なにか……むしゃくしているように……」
「むしゃくしゃ?」
「いえ、表現は私が勝手にしたもので。うまく言葉で説明するのがとても難しくて……。
ですが、イングリット様に対して怒っているというのとはまったく違うと思うんです。
殿下はイングリット様がずぶぬれになってお帰りになられたとき、大変に心配されていました。これは本当でございます。
突然、雨が降られた時は、ずっと心配げに外のほうを何度も見ていまして。シェイリーン様とお話しをされている時もどこか上の空という感じでして。
あれはきっとイングリット様のことを心配していたに違いありません。ずっと殿下にお仕えしたわたくしが申しているんですから間違いありませんっ!」
イングリットの曇った表情を察し、ロシェルは言葉を力強く重ねた。
「そっか……」
「殿下はきっと、あまり目立たれなくないのかもしれません。屋敷と同じように振る舞えば、イングリット様に迷惑がかかると。
ですから、ご自分の気持ちを曲げていらっしゃるのではないかと」
「……かもしれないね」
イングリットとは違う、マクヴェスはそれだけの気を回せてしまう苦労性な面もある。
ロシェルはイングリットが納得したことに安堵したようだった。
「……ロシェル、少し出てくる」
「殿下であれば、薔薇園に向かわれているかと思います」
「うん、ありがと」
マクヴェスがいない間にと騎士服に袖を通し、部屋を出た。
しかしマクヴェスに会うわけではなかった。
(とにかく、あの時のお礼だけは……)
アスコットに今、会うのは危ないと思いながら、濡れ鼠になった身体を温めるために彼が自分をタオル代わりにしてくれたことは事実。
アスコットがイングリットの秘密を握っている。それとこれとは別問題だった。
それは騎士としての心がそうさせる。
(ここか……)
シェイリーンの部屋。きっと勤勉な彼のことだ。すでに起床し、騎士としてのつとめをはたらしているはずだ。
ノックをすると、侍女が応対に出た。
名乗り、アスコットと話したい旨を告げ、部屋の中へ通される。
室内は、マクヴェスにあてがわれた部屋よりもさらに大きい。
「――イングリット殿、おはようございます」
「おはようございます。……朝早く、申し訳ない」
「構いません。お茶は?」
「いえ、結構です」
「シェイリーン殿下はまだお休みですが……?」
「いえ、あなたに用があったので」
「……何か?」
アスコットは怪訝そうな顔をする。
(あれ? なんだよ、アスコット……もしかして、昨日のことはなかったことにしてくれてるの……?)
今、アスコットはイングリットの秘密を知る、外部の人間で唯一の存在だ。
もっとそのネタをかざして横柄にでてもおかしくはない。
(騎士という存在に、人間も獣人もないってことか……)
騎士は決して、卑怯なことをおこなわない、それは至極当然のことだ。
「き、昨日のことです。――いろいろ、ご迷惑をおかけしまして……。いろいろあったせいでまともにお礼を言えず、ずっとそれが気がかりでした。ですので、この場を借りて……」
アスコットは、「そんなこと……」とでも言うかのように、首を横に振った。その表情は凪ないだ湖面のような静かな微笑に包まれている。
イングリットは彼の義侠心に感謝しつつ、では、と踵を返したその時。
「そうだ、私からも一つ、よろしいでしょうか。
あなたはどうやら寝ぼけて近くにあるものを、片っ端から揉みまくるというクセがあるようだ。
他の男性と同衾どうきんする際は気をつけたほうが良い」
(同衾!?)
なんていうことを言うんだ、この男は。
「あ、あれは……!」
「覚えておいででしたか?」
「……ないけどっ!」
はじめてそんなことは言われた。
「では覚えておいてください。私も昨日はとても酷い目に遭いましたから……」
「……ひどい、目……」
アスコットの口元の微笑がたちまち大きなものになり、まるで人が変わったかのようなものになる。
「それからあまり出歩きにならないほうがいい。これ以上、自分の秘密をばらすこともないだろう」
アスコットは嫌な笑みをたたえた。
(こ、こいつ……っ!)
前言撤回。
「そう、身構えるなよ」
言葉まで変わるのか。
「俺たちは秘密を共有するもの同士、もっと仲良くするべきだ」
「共有……? 一方的に握ってるっていうんじゃないのか」
「マクヴェス殿下は昨日、あれからどうだった? お前のことをどれだけ気を遣った?」
「……お、お前には関係ない。第一、雨に降られただけで心配されるような歳じゃない」
「殿下は機嫌が悪そうだった……。あれは、どうしてかな」
「それこそあんたなんかに……」
アスコットが近づいてくると、思わず後退ってしまう。
「ここでまだまだ逗留する以上、事情を知っているものの協力は必要では?
今の殿下が、きみを守ってくれるだろうか。仮にきみが人間だとバレそうになったとき……」
「アスコット……、それが、あなたの、本性か」
食いかからんばかりに声をあげるが、アスコットは涼しげに受け流す。
(まさか、アスコットがこんなやつだったなんて)
やはり、人と獣人には大きく隔たりがあるのだ。アスコットほどの人格者が手の平をかえしてくるぐらいなんだから。
いや、彼も、今の自分と同じ気持ちなのだろうか。
イングリットに騙されたと――。
「――大丈夫、悪いようにはしない。それに、きみは僕の今いったことを否定できるのかい。殿下は、きみを果たして守ってくれるかな?」
言葉に詰まってしまう。
「とにかく、もっと冷静になろう。何がベストか、分かるだろう?」
アスコットは悠然と囁いてきた。
■■
(どうかしてる……)
朝靄のただよう薔薇園の散策をしながら、マクヴェスは上の空だった。
考えるのは、イングリットのことばかり。
もっと温かい言葉をかけてやりたかったはずなのに、アスコットとイングリット――二人の間の空気感にひどい苛立ちを感じ、見まい、感じまいとするあまり、イングリットとの接触を避け、彼女に冷淡と思われるであろう態度をとってしまった。
殿下、どうかされたのですか――たぶん、はじめて、ロシェルにそう尋ねられてしまった……。
あそこでこらえなければ、自分の中でなにかが爆発してしまいそうだった。
しかしそうすることで、イングリットにあんな辛そうな表情をつくらせてしまった。
好きと告げた相手に。
それが、あの夜会の時から自分はどんどん醜くなり果てようとしている。
(俺は……っ)
もし身体の中に心臓と同じように“心”というものが形を成して存在しているのであれば、今すぐ、それを抉りだしてしまいたかった。
それさえなければ、もっと普通に、もっといつも通りに振る舞えるはずだろうし、こんなにも狂おしい気持ちにかりたてられなくてすむのだ。
(俺は、どうすればいい?)
靄のなか、マクヴェスは迷子のようにさまようしかなかった。
イングリットは布団を顔の半ばくらいまでひっぱりあげ、天井をじっと見つめながら考える。
アスコットとのことがあった翌日。
ベッドの中でイングリットはまんじりともできないでいた。
昨日、帰って来た時、雨に降られてずぶ濡れだったことをシェイリーンに心配してもらったこと以外で特に何があったわけではない。
アスコットに絡まれることもなかった。
(マクヴェスはあいかわらず、だし)
昨日、まともにした会話なんて、
――参っちゃったよ、ちょっと遠乗りに出かけてね。そしたら雨に降られちゃって。
――……そうか。
それだけ。
まるでお前の話なんて興味はないという素っ気なさ。
なんだか、この城に来てから日に日にマクヴェスとの距離が開いているような気がしているのは、気のせいではないだろう。
(それはそれで問題だけど……。アスコットにバレたことは言わないと)
女であることは自白だが、人間であることを知られたことはさすがに大きい。
アスコットが誰かにばらすということは、願望にも近いかもしれないけれど、あるとは思えない……。
しかし、正直に話しても良いものかという気持ちもある。
知られたら殺せばいい――。
とはまさか言わないだろうが、マクヴェスが何をするか分からない。
イングリットのことでは、フォルスすら本気で脅すくらいだ。
アスコット相手ならば容赦などありはしない……かもしれない。
(でも、今のマクヴェスなら一周回って冷静に聞いてくれる可能性は……?)
なぜだかイングリットに対して冷淡とも思える今なら。
(っていうか、私のことで怒っているとしたら、そもそも私と話をしたいなんて思わない……)
考えればかんがえるほどわけがわからなくなってくる。
「あああもう! どうしたらいいんだよぉぉぉぉっ!!」
こんな難しいこと、これまで直面してこなかったイングリットはむしゃくしゃして髪をかきむしり、悲鳴にも似た声をあげてしまう。
「イングリット様!?」
ロシェルが慌てたように部屋に飛び込んできた。
「え、あ……」
「今、悲鳴をあげられてましたよね!?」
「違う違うえっと……ね、寝ぼけてて」
あははははとイングリットは心配させまいと笑顔を見せるが、ロシェルの顔は曇ったまま。
「ロシェル、マクヴェスは?」
「殿下はただいま、お散歩中でございます」
「そっか、じゃあロシェル。ちょっといい?」
「はい」
手招きすると、ロシェルはうなずき近づいてくれる。
「私、マクヴェスを怒らせること、何かしたのかな。絶対、怒ってるよね……。昨日だって……。別に、心配して欲しいわけじゃないけど……なんか、いきなり態度が素っ気ないっていうか……。
私が素っ気ないって思っているだけで、ロシェルから見たらいつものマクヴェスに見えるっていう可能性は?」
「……それは」
「何か思い当たることがあったら教えて。……わ、私、あいつに言わなきゃいけないことがあるんだ。でも今のままじゃ、それも言える雰囲気じゃないし……」
何か言いたげにロシェルは顔を曇らせる。
「何ででもいいんだ。教えてっ! この通りだっ!」
イングリットは深々と頭を下げる。
「――殿下は、その……たしかに私の目からみても、普段どおりというわけではありません」
「怒ってるんだ」
「……というのも違うように思います。不機嫌というわけはございません……なにか……むしゃくしているように……」
「むしゃくしゃ?」
「いえ、表現は私が勝手にしたもので。うまく言葉で説明するのがとても難しくて……。
ですが、イングリット様に対して怒っているというのとはまったく違うと思うんです。
殿下はイングリット様がずぶぬれになってお帰りになられたとき、大変に心配されていました。これは本当でございます。
突然、雨が降られた時は、ずっと心配げに外のほうを何度も見ていまして。シェイリーン様とお話しをされている時もどこか上の空という感じでして。
あれはきっとイングリット様のことを心配していたに違いありません。ずっと殿下にお仕えしたわたくしが申しているんですから間違いありませんっ!」
イングリットの曇った表情を察し、ロシェルは言葉を力強く重ねた。
「そっか……」
「殿下はきっと、あまり目立たれなくないのかもしれません。屋敷と同じように振る舞えば、イングリット様に迷惑がかかると。
ですから、ご自分の気持ちを曲げていらっしゃるのではないかと」
「……かもしれないね」
イングリットとは違う、マクヴェスはそれだけの気を回せてしまう苦労性な面もある。
ロシェルはイングリットが納得したことに安堵したようだった。
「……ロシェル、少し出てくる」
「殿下であれば、薔薇園に向かわれているかと思います」
「うん、ありがと」
マクヴェスがいない間にと騎士服に袖を通し、部屋を出た。
しかしマクヴェスに会うわけではなかった。
(とにかく、あの時のお礼だけは……)
アスコットに今、会うのは危ないと思いながら、濡れ鼠になった身体を温めるために彼が自分をタオル代わりにしてくれたことは事実。
アスコットがイングリットの秘密を握っている。それとこれとは別問題だった。
それは騎士としての心がそうさせる。
(ここか……)
シェイリーンの部屋。きっと勤勉な彼のことだ。すでに起床し、騎士としてのつとめをはたらしているはずだ。
ノックをすると、侍女が応対に出た。
名乗り、アスコットと話したい旨を告げ、部屋の中へ通される。
室内は、マクヴェスにあてがわれた部屋よりもさらに大きい。
「――イングリット殿、おはようございます」
「おはようございます。……朝早く、申し訳ない」
「構いません。お茶は?」
「いえ、結構です」
「シェイリーン殿下はまだお休みですが……?」
「いえ、あなたに用があったので」
「……何か?」
アスコットは怪訝そうな顔をする。
(あれ? なんだよ、アスコット……もしかして、昨日のことはなかったことにしてくれてるの……?)
今、アスコットはイングリットの秘密を知る、外部の人間で唯一の存在だ。
もっとそのネタをかざして横柄にでてもおかしくはない。
(騎士という存在に、人間も獣人もないってことか……)
騎士は決して、卑怯なことをおこなわない、それは至極当然のことだ。
「き、昨日のことです。――いろいろ、ご迷惑をおかけしまして……。いろいろあったせいでまともにお礼を言えず、ずっとそれが気がかりでした。ですので、この場を借りて……」
アスコットは、「そんなこと……」とでも言うかのように、首を横に振った。その表情は凪ないだ湖面のような静かな微笑に包まれている。
イングリットは彼の義侠心に感謝しつつ、では、と踵を返したその時。
「そうだ、私からも一つ、よろしいでしょうか。
あなたはどうやら寝ぼけて近くにあるものを、片っ端から揉みまくるというクセがあるようだ。
他の男性と同衾どうきんする際は気をつけたほうが良い」
(同衾!?)
なんていうことを言うんだ、この男は。
「あ、あれは……!」
「覚えておいででしたか?」
「……ないけどっ!」
はじめてそんなことは言われた。
「では覚えておいてください。私も昨日はとても酷い目に遭いましたから……」
「……ひどい、目……」
アスコットの口元の微笑がたちまち大きなものになり、まるで人が変わったかのようなものになる。
「それからあまり出歩きにならないほうがいい。これ以上、自分の秘密をばらすこともないだろう」
アスコットは嫌な笑みをたたえた。
(こ、こいつ……っ!)
前言撤回。
「そう、身構えるなよ」
言葉まで変わるのか。
「俺たちは秘密を共有するもの同士、もっと仲良くするべきだ」
「共有……? 一方的に握ってるっていうんじゃないのか」
「マクヴェス殿下は昨日、あれからどうだった? お前のことをどれだけ気を遣った?」
「……お、お前には関係ない。第一、雨に降られただけで心配されるような歳じゃない」
「殿下は機嫌が悪そうだった……。あれは、どうしてかな」
「それこそあんたなんかに……」
アスコットが近づいてくると、思わず後退ってしまう。
「ここでまだまだ逗留する以上、事情を知っているものの協力は必要では?
今の殿下が、きみを守ってくれるだろうか。仮にきみが人間だとバレそうになったとき……」
「アスコット……、それが、あなたの、本性か」
食いかからんばかりに声をあげるが、アスコットは涼しげに受け流す。
(まさか、アスコットがこんなやつだったなんて)
やはり、人と獣人には大きく隔たりがあるのだ。アスコットほどの人格者が手の平をかえしてくるぐらいなんだから。
いや、彼も、今の自分と同じ気持ちなのだろうか。
イングリットに騙されたと――。
「――大丈夫、悪いようにはしない。それに、きみは僕の今いったことを否定できるのかい。殿下は、きみを果たして守ってくれるかな?」
言葉に詰まってしまう。
「とにかく、もっと冷静になろう。何がベストか、分かるだろう?」
アスコットは悠然と囁いてきた。
■■
(どうかしてる……)
朝靄のただよう薔薇園の散策をしながら、マクヴェスは上の空だった。
考えるのは、イングリットのことばかり。
もっと温かい言葉をかけてやりたかったはずなのに、アスコットとイングリット――二人の間の空気感にひどい苛立ちを感じ、見まい、感じまいとするあまり、イングリットとの接触を避け、彼女に冷淡と思われるであろう態度をとってしまった。
殿下、どうかされたのですか――たぶん、はじめて、ロシェルにそう尋ねられてしまった……。
あそこでこらえなければ、自分の中でなにかが爆発してしまいそうだった。
しかしそうすることで、イングリットにあんな辛そうな表情をつくらせてしまった。
好きと告げた相手に。
それが、あの夜会の時から自分はどんどん醜くなり果てようとしている。
(俺は……っ)
もし身体の中に心臓と同じように“心”というものが形を成して存在しているのであれば、今すぐ、それを抉りだしてしまいたかった。
それさえなければ、もっと普通に、もっといつも通りに振る舞えるはずだろうし、こんなにも狂おしい気持ちにかりたてられなくてすむのだ。
(俺は、どうすればいい?)
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