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王宮 恋する獣人 編
36:告白……その後
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「――好きだと言ったんだ、決まってるだろって……イングリットは言ったんだ」
「まあ!」
ロシェルが頬に手をあて、黄色い声をあげた。
(これは何の拷問ごうもん……!?)
心中穏やかならないなか、イングリットは冷懸命に冷静を装って紅茶をぐっと飲んだ。
昼のお茶の時間。
……今朝からずっとこのザマである。
「耳まで真っ赤にしてな……目は潤んでいた……ロシェル、お前にもみせたかった。あの、イングリットのかわいさを」
「まあ! まあ!」
普段は、完璧万能なメイドも一人の少女。恋バナはやっぱり大好物らしい。
「――マクヴェス! もう、い、いい加減にしろ……っ!!」
ダンッとテーブルを叩き、イングリットは立ち上がった。
自分でも分かる。頬や耳がむずがゆいほどに真っ赤だった。
「イングリット、何を怒ってる」
「お、怒ってない! しつこいと言ってるんだ……昨日から、ずっと……」
「誰かさんが、長々待たせたからだ」
「……お前、性格悪くなったぞ」
「そうか?」
「たいたいな! そんなこと、ない! 私はもっと、冷静だった……!」
するとマクヴェスはにやりと不敵に笑う。
「……なんだよ」
「そうだな。お前は冷静だった。そうだな」
「そうだ」
「冷静に、俺が好きだと言ってくれたんだな」
「……っ!!」
「まあ! まあ! まあ!」
「――ぐ……っ!」
拳を強く強く握りしめる。
「イングリット様」
「ロシェルもロシェルだ。み、見損なったぞ……こんな煽るような……」
「――殿下、少し部屋を空けても?」
「ん? なぜだ」
「女同士の話し合い、でございます。さあ、イングリット様」
「な、なんだよ、ロシェル」
さっきまでの恋バナモードから生真面目モードに切り替わり、ぎくりとしてしまう。
それまでとても良い観客だったロシェルがそっと手をとり、自分たちにあてがわれた部屋へ入る。
イングリットはベッドの上に座り、腕を組んだ。
「それで?」
ロシェルが一体なにを言おうとしているのか知らないが、主従そろって今度はどんな風にからかうのかと思わずにはおれない。
「イングリット様、そう怒られず……」
「そんなのはお前の主人に言え。マクヴェスが悪い」
「まあ、殿下の反応にもかなり面食らいましたけれど……
イングリット様が求愛を受けてくだすったことが、それほどに嬉しかったのでしょう」
「きゅ、求愛!?」
「はい。……違うのですか?」
イングリットは目を伏せ、「い、いや……。そういう……あの……」と口ごもる。
「求愛ではなく、こ、告白を、りょ、了承しただけだ!」
「求愛とは違うのですか?」
そんな不思議そうな顔をされてもイングリットもよく分からない。
「もういい……呼び方は、なんでも」
「はい」
ロシェルは優しく微笑み、相づちをうった。
ここまで恋愛のレの字も知らなかった自分が憎かった。
「ともかく、殿下のお気持ちに応えてくだすって、とても嬉しく思っております。
――殿下があのようにはしゃがれるのは私は正直、はじめて見ました。そうとう、嬉しい……いえ、それほどまでに殿下の中でイングリット様という存在が大きい証拠でしょう」
「……どうだか。私をからかってその反応を楽しんでいるようにしか見えないけど?」
「殿下は人をからかうような方ではありません。イングリット様を愛されればこそ」
「……っ」
愛というワードに思わずびくっとしてしまう自分が嫌になる。
「なんだそれは」
自然、照れ隠しに言葉がぶっきらぼうになてしまう。
「詳しくはすべては想像ですが……。すべては“特別”だからだと……」
「……と、特別」
またもや、トクン……鼓動が跳ねた。
「もし可能であれば、あのように殿下の子どもっぽところも慈しんでいただければと思います」
「……それは」
「殿下もなにぶん、これほどまでに誰かを想うことははじめてですから、何か至らぬこともあるとは想いますけれど、誰かにあれほど執着されることは記憶にございません。
主人が何かをしでかせば、私謝ります。どうか……」
ロシェルは深々と頭を下げる。
「やめろ、ロシェル! 私は……その……大丈夫だから……」
慌てて頭をあげさせる。
「まったく、お前たち主従の行動は、なんだか、翻弄されてばかりの気がする……」
「そうでしょうか?」
小首をかしげられる。
ロシェルは確かに使用人としては抜群かもしれないが、王族のそばに居続けたせいだろう……どこか浮き世離れした感がある。
「……私こそ、いろいろと至らぬ点が多々あると思う。そのときはどうか、支えて欲しい。
私は、マクヴェスにふさわしい存在でありたいと思っているから」
「大丈夫ですよ。イングリット様は自然体でおられるだけで一番ですから。
――さあ、部屋に戻りましょう。殿下は今頃、蚊帳の外に置かれてへそを曲げているかもしれません」
「蚊帳の外って……」
「――二人で何を離していたんだ」
部屋に入るなり、マクヴェスがやや不機嫌そうに聞いてくる。
イングリットたちは顔を見合わせた。
「女同士の秘密だ。なあ、ロシェル」
「はい」
イングリットが言うと、マクヴェスは少しふてくされたような顔をするが、それ以上は聞こうとはしなかった。
少し溜飲が下がった気がした。
「まあ!」
ロシェルが頬に手をあて、黄色い声をあげた。
(これは何の拷問ごうもん……!?)
心中穏やかならないなか、イングリットは冷懸命に冷静を装って紅茶をぐっと飲んだ。
昼のお茶の時間。
……今朝からずっとこのザマである。
「耳まで真っ赤にしてな……目は潤んでいた……ロシェル、お前にもみせたかった。あの、イングリットのかわいさを」
「まあ! まあ!」
普段は、完璧万能なメイドも一人の少女。恋バナはやっぱり大好物らしい。
「――マクヴェス! もう、い、いい加減にしろ……っ!!」
ダンッとテーブルを叩き、イングリットは立ち上がった。
自分でも分かる。頬や耳がむずがゆいほどに真っ赤だった。
「イングリット、何を怒ってる」
「お、怒ってない! しつこいと言ってるんだ……昨日から、ずっと……」
「誰かさんが、長々待たせたからだ」
「……お前、性格悪くなったぞ」
「そうか?」
「たいたいな! そんなこと、ない! 私はもっと、冷静だった……!」
するとマクヴェスはにやりと不敵に笑う。
「……なんだよ」
「そうだな。お前は冷静だった。そうだな」
「そうだ」
「冷静に、俺が好きだと言ってくれたんだな」
「……っ!!」
「まあ! まあ! まあ!」
「――ぐ……っ!」
拳を強く強く握りしめる。
「イングリット様」
「ロシェルもロシェルだ。み、見損なったぞ……こんな煽るような……」
「――殿下、少し部屋を空けても?」
「ん? なぜだ」
「女同士の話し合い、でございます。さあ、イングリット様」
「な、なんだよ、ロシェル」
さっきまでの恋バナモードから生真面目モードに切り替わり、ぎくりとしてしまう。
それまでとても良い観客だったロシェルがそっと手をとり、自分たちにあてがわれた部屋へ入る。
イングリットはベッドの上に座り、腕を組んだ。
「それで?」
ロシェルが一体なにを言おうとしているのか知らないが、主従そろって今度はどんな風にからかうのかと思わずにはおれない。
「イングリット様、そう怒られず……」
「そんなのはお前の主人に言え。マクヴェスが悪い」
「まあ、殿下の反応にもかなり面食らいましたけれど……
イングリット様が求愛を受けてくだすったことが、それほどに嬉しかったのでしょう」
「きゅ、求愛!?」
「はい。……違うのですか?」
イングリットは目を伏せ、「い、いや……。そういう……あの……」と口ごもる。
「求愛ではなく、こ、告白を、りょ、了承しただけだ!」
「求愛とは違うのですか?」
そんな不思議そうな顔をされてもイングリットもよく分からない。
「もういい……呼び方は、なんでも」
「はい」
ロシェルは優しく微笑み、相づちをうった。
ここまで恋愛のレの字も知らなかった自分が憎かった。
「ともかく、殿下のお気持ちに応えてくだすって、とても嬉しく思っております。
――殿下があのようにはしゃがれるのは私は正直、はじめて見ました。そうとう、嬉しい……いえ、それほどまでに殿下の中でイングリット様という存在が大きい証拠でしょう」
「……どうだか。私をからかってその反応を楽しんでいるようにしか見えないけど?」
「殿下は人をからかうような方ではありません。イングリット様を愛されればこそ」
「……っ」
愛というワードに思わずびくっとしてしまう自分が嫌になる。
「なんだそれは」
自然、照れ隠しに言葉がぶっきらぼうになてしまう。
「詳しくはすべては想像ですが……。すべては“特別”だからだと……」
「……と、特別」
またもや、トクン……鼓動が跳ねた。
「もし可能であれば、あのように殿下の子どもっぽところも慈しんでいただければと思います」
「……それは」
「殿下もなにぶん、これほどまでに誰かを想うことははじめてですから、何か至らぬこともあるとは想いますけれど、誰かにあれほど執着されることは記憶にございません。
主人が何かをしでかせば、私謝ります。どうか……」
ロシェルは深々と頭を下げる。
「やめろ、ロシェル! 私は……その……大丈夫だから……」
慌てて頭をあげさせる。
「まったく、お前たち主従の行動は、なんだか、翻弄されてばかりの気がする……」
「そうでしょうか?」
小首をかしげられる。
ロシェルは確かに使用人としては抜群かもしれないが、王族のそばに居続けたせいだろう……どこか浮き世離れした感がある。
「……私こそ、いろいろと至らぬ点が多々あると思う。そのときはどうか、支えて欲しい。
私は、マクヴェスにふさわしい存在でありたいと思っているから」
「大丈夫ですよ。イングリット様は自然体でおられるだけで一番ですから。
――さあ、部屋に戻りましょう。殿下は今頃、蚊帳の外に置かれてへそを曲げているかもしれません」
「蚊帳の外って……」
「――二人で何を離していたんだ」
部屋に入るなり、マクヴェスがやや不機嫌そうに聞いてくる。
イングリットたちは顔を見合わせた。
「女同士の秘密だ。なあ、ロシェル」
「はい」
イングリットが言うと、マクヴェスは少しふてくされたような顔をするが、それ以上は聞こうとはしなかった。
少し溜飲が下がった気がした。
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