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第一章
新たな居場所
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***
意識を取り戻すと困惑する。
ここが、どこかも分からないが、何も覚えてない。
小さな隙間から月夜の光が入り、夜と言うことは分かった。
どうして、俺は、こんなに怪我をしている?
必死に思い出そうとするが分からない。
分かるのは自分の名前だけ。
痛む体で頑張って起き上がった時、懐から何かが落ちる。
「折り紙の鶴」
どうして、持っている?
やっぱり思い出せないが、それが大切な物な気がする。それと他に忘れてはいけない何かがある気がする。
しかし、今は、ここから出なければ。
懐に折り紙の鶴をしまい、立ち上がる。
扉を開けようとしたが、開かない。鍵がかけられている?!
記憶が無い上に、この状況で恐怖を感じる。
俺は助けを求めようと扉を叩き、大声で叫ぶ。
「誰か!いないのか!助けて!!!」
いくら叫んでも人が来る気配がない。声もだんだん小さくなり、立つのもしんどくなる。扉も叩くたびに怪我に響く。叩くのも困難になり、扉を引っ掻いた。
これでは、誰かが気づく可能性は低いだろうな。
そう思った時、扉が開いた。
大人の男達。格好から村の人じゃない。
「おい、お前」
助けを求めていいのか分からないが、体力の限界がきたらしく、何か言う前に気を失ってしまった。
この音はなんだ?薪が焚き火でパチパチと爆ぜるような音が聞こえる。
「おお、目覚めたか」
「大丈夫か?何があった?酷い怪我だぞ」
「誰か大将呼んでこい」
「・・・・・・」
目の前の男達は、鎧姿に刀を持っている。
どうゆう人達なんだ。
男の一人が飲み物を飲んでるのを見かけて、凝視していた。
それに気づいた男の一人が、竹の筒を持って来る。
俺が起き上がるのを手伝ってくれた。
竹の筒を渡され、中身は水だと言われる。
俺は、しばらく筒を持ったまま、すぐには飲まなかった。
「心配しなくても、毒なんて入ってない」
声の方を向くと、左目に眼帯して鎧姿の男が立っていた。
威厳がある。
「喉が渇いてるだろ。まずは水を飲め」
そう言って俺の近くに座った。
俺は、筒の中の水を飲み干した。その姿を見届けた大将が、話しかける。
「お前、名前は?」
「井上肇」
「その怪我はどうした。どうして、あんな小屋にいたんだ」
「分からない」
分からないと聞いた瞬間、周りが動揺している。
「住んでる場所は覚えてるか。親は?」
親と言われた瞬間、体が震える。
「・・・な・・何も・・・覚えてない・・親も・・・分からない・・怖い」
大将が背中に手を当てる。
「分かった」
「・・・・・着替え」
「ああ。着物はボロボロになってたから、着替えさせた。あの着物捨てていいか?」
俺は、懐に手を入れると、ある物がない。
「折り紙の鶴は?」
「それも前の着物と一緒に保管している。汚れや形も崩れているところがあるぞ」
「返せ!!!」
周りも大将も、驚いた顔をしている。
「着物は、たぶんいらない。でも、折り紙の鶴は返してくれ!大切な物な気がするんだ」
大将は、一人の部下に目配せすると、指示された部下が、おそらく取りに行ってる。
少しすると、部下が赤の折り紙の鶴を持ってきて渡してくれた。
俺は、その鶴を受け取り汚れを着物で擦り、形が崩れているのは、できるだけ綺麗な形に戻そうと努力した。ある程度は元に戻り、その鶴を懐にしまう。
その様子を黙って見ていた大将が声をかける。
「お前にとって大切な物で思い入れがあるんだな」
「・・・どうしてかは分からないけど、この鶴と他に大切なことがあると思う。でも、思い出せない」
すると涙が落ちた。俺が泣いている。
どうしてだ?
大切なことは、泣くほどの価値があると言うことか。
「・・・無理に思い出すのはよくない。怪我も酷いし、しばらく俺らと一緒にいろ。飯は食べれそうか?できるなら、食べたら今日は寝ろ。俺らのことや今後のことは、後日話そう」
そう言って、大将はその場を離れた。
周りの部下が、ご飯を渡してくれた。
怪我をしているせいか気遣ってくれる。食事をして眠りについた。
この男達の正体は分からないが、悪い人達には思えず、警戒心なく眠れた。
それから皆、かいがいしく世話をしてくれた。
「どうして、こんなに面倒見てくれるんだ?」
不思議だ。記憶喪失で、どんな奴か分からないのに。
「お前を拾ったのも、しばらく置いとくと決めたのも大将だ」
「じゃあ、そのうち、アンタ達はいなくなるんだな」
「さあな」
曖昧な答えだ。
この人達がいなくなったら、俺は、どう生きていこうか。
怪我がだいぶ治ってきた頃、大将に呼び出された。
言われた場所に行くと、大将は河辺に座っている。
「肇。隣に座れ」
後ろに目が付いてるのか?!
どうして、俺だと分かった?!
言われた通り隣に座った。
大将は俺を見て言った。
「どうして、自分だと分かったと思っただろ。足音だ」
「足音」
「一人一人微妙に違う。お前は分かりやすい。俺らとは違うからな」
「アンタ達は、何者なんだ?鎧姿で刀を持ってるが、人殺しか?」
大将は軽く口角を上げた。
「人殺しか。確かにしている。無差別じゃない。俺の独断の時もあれば、依頼の時もあるが、内容次第で引き受ける。手にかけるのは、悪いことをした奴だけだ。世間は賊と呼んでいる」
「・・・・・」
「怖いか?」
「・・・怖くない。皆、アンタの判断で俺の世話をしてくれた。人間は、いろんな面があるだろう」
大将は、目を細め俺を探るように見ている。
「確かに俺が決めたが、アイツら良いところもあるぞ」
「そうかもしれないな」
「聞き分けが良いな。そんなお前に聞くのは躊躇うが、親の所に戻りたいか?初めは親に怯えていた。記憶が無いお前にとっては、理解が難しいかもしれない。悪いところもあるが、良いところもあるだろう。戻りたいなら、親の所に連れて行くし、手も出さない」
「・・・・・俺の親は殺しの対象か・・・」
「俺から見ればそうだな。肇にとって良い親と思えるのは、いつになるか分からないが・・・。肇は、どうしたい?今後も含めて」
記憶が戻ったら、親の死を悲しむだろうか。記憶を失くしても、怯えると言うことは、死んでも、そんなに悲しまない存在なのかもしれない。
「俺の親が殺しの対象なら、そうすればいい。今後は、アンタ達と一緒に連れて行ってほしい。雑用でも見張りでも・・・言われれば殺しでも」
「本当にいいのか?その答えで後悔しないか?今は、それでよくても記憶を取り戻したら、後悔するかもしれないぞ」
「この答えでいい。記憶を失くしても親に良い感情が湧かないなら、その程度の存在。それと、俺は、大将達に世話になったから恩返しがしたい」
すると、大将が俺の髪をワシワシする。そして軽く笑った。
「子供が、恩返しなんて考えるなよ。気持ちは受け取った。だけど、条件がある。俺達と一緒に行動するなら、名前を変えてもらう」
俺は頷いた。
「これからは、石田剛(いしだ つよし)と名乗れ。それと、俺らとの生活が嫌になったら、抜けていい。その時は、元の名前で生きろよ」
「そんなことしたら、困るのは大将達じゃないか。正体を明かしてる」
「余計なことは考えなくていい」
俺は納得しなかったが、大将は、この話は終わりと言うかのように立ち上がった。
俺は大将の後に付いて行く。
これからは、ここが俺の居場所だ。
意識を取り戻すと困惑する。
ここが、どこかも分からないが、何も覚えてない。
小さな隙間から月夜の光が入り、夜と言うことは分かった。
どうして、俺は、こんなに怪我をしている?
必死に思い出そうとするが分からない。
分かるのは自分の名前だけ。
痛む体で頑張って起き上がった時、懐から何かが落ちる。
「折り紙の鶴」
どうして、持っている?
やっぱり思い出せないが、それが大切な物な気がする。それと他に忘れてはいけない何かがある気がする。
しかし、今は、ここから出なければ。
懐に折り紙の鶴をしまい、立ち上がる。
扉を開けようとしたが、開かない。鍵がかけられている?!
記憶が無い上に、この状況で恐怖を感じる。
俺は助けを求めようと扉を叩き、大声で叫ぶ。
「誰か!いないのか!助けて!!!」
いくら叫んでも人が来る気配がない。声もだんだん小さくなり、立つのもしんどくなる。扉も叩くたびに怪我に響く。叩くのも困難になり、扉を引っ掻いた。
これでは、誰かが気づく可能性は低いだろうな。
そう思った時、扉が開いた。
大人の男達。格好から村の人じゃない。
「おい、お前」
助けを求めていいのか分からないが、体力の限界がきたらしく、何か言う前に気を失ってしまった。
この音はなんだ?薪が焚き火でパチパチと爆ぜるような音が聞こえる。
「おお、目覚めたか」
「大丈夫か?何があった?酷い怪我だぞ」
「誰か大将呼んでこい」
「・・・・・・」
目の前の男達は、鎧姿に刀を持っている。
どうゆう人達なんだ。
男の一人が飲み物を飲んでるのを見かけて、凝視していた。
それに気づいた男の一人が、竹の筒を持って来る。
俺が起き上がるのを手伝ってくれた。
竹の筒を渡され、中身は水だと言われる。
俺は、しばらく筒を持ったまま、すぐには飲まなかった。
「心配しなくても、毒なんて入ってない」
声の方を向くと、左目に眼帯して鎧姿の男が立っていた。
威厳がある。
「喉が渇いてるだろ。まずは水を飲め」
そう言って俺の近くに座った。
俺は、筒の中の水を飲み干した。その姿を見届けた大将が、話しかける。
「お前、名前は?」
「井上肇」
「その怪我はどうした。どうして、あんな小屋にいたんだ」
「分からない」
分からないと聞いた瞬間、周りが動揺している。
「住んでる場所は覚えてるか。親は?」
親と言われた瞬間、体が震える。
「・・・な・・何も・・・覚えてない・・親も・・・分からない・・怖い」
大将が背中に手を当てる。
「分かった」
「・・・・・着替え」
「ああ。着物はボロボロになってたから、着替えさせた。あの着物捨てていいか?」
俺は、懐に手を入れると、ある物がない。
「折り紙の鶴は?」
「それも前の着物と一緒に保管している。汚れや形も崩れているところがあるぞ」
「返せ!!!」
周りも大将も、驚いた顔をしている。
「着物は、たぶんいらない。でも、折り紙の鶴は返してくれ!大切な物な気がするんだ」
大将は、一人の部下に目配せすると、指示された部下が、おそらく取りに行ってる。
少しすると、部下が赤の折り紙の鶴を持ってきて渡してくれた。
俺は、その鶴を受け取り汚れを着物で擦り、形が崩れているのは、できるだけ綺麗な形に戻そうと努力した。ある程度は元に戻り、その鶴を懐にしまう。
その様子を黙って見ていた大将が声をかける。
「お前にとって大切な物で思い入れがあるんだな」
「・・・どうしてかは分からないけど、この鶴と他に大切なことがあると思う。でも、思い出せない」
すると涙が落ちた。俺が泣いている。
どうしてだ?
大切なことは、泣くほどの価値があると言うことか。
「・・・無理に思い出すのはよくない。怪我も酷いし、しばらく俺らと一緒にいろ。飯は食べれそうか?できるなら、食べたら今日は寝ろ。俺らのことや今後のことは、後日話そう」
そう言って、大将はその場を離れた。
周りの部下が、ご飯を渡してくれた。
怪我をしているせいか気遣ってくれる。食事をして眠りについた。
この男達の正体は分からないが、悪い人達には思えず、警戒心なく眠れた。
それから皆、かいがいしく世話をしてくれた。
「どうして、こんなに面倒見てくれるんだ?」
不思議だ。記憶喪失で、どんな奴か分からないのに。
「お前を拾ったのも、しばらく置いとくと決めたのも大将だ」
「じゃあ、そのうち、アンタ達はいなくなるんだな」
「さあな」
曖昧な答えだ。
この人達がいなくなったら、俺は、どう生きていこうか。
怪我がだいぶ治ってきた頃、大将に呼び出された。
言われた場所に行くと、大将は河辺に座っている。
「肇。隣に座れ」
後ろに目が付いてるのか?!
どうして、俺だと分かった?!
言われた通り隣に座った。
大将は俺を見て言った。
「どうして、自分だと分かったと思っただろ。足音だ」
「足音」
「一人一人微妙に違う。お前は分かりやすい。俺らとは違うからな」
「アンタ達は、何者なんだ?鎧姿で刀を持ってるが、人殺しか?」
大将は軽く口角を上げた。
「人殺しか。確かにしている。無差別じゃない。俺の独断の時もあれば、依頼の時もあるが、内容次第で引き受ける。手にかけるのは、悪いことをした奴だけだ。世間は賊と呼んでいる」
「・・・・・」
「怖いか?」
「・・・怖くない。皆、アンタの判断で俺の世話をしてくれた。人間は、いろんな面があるだろう」
大将は、目を細め俺を探るように見ている。
「確かに俺が決めたが、アイツら良いところもあるぞ」
「そうかもしれないな」
「聞き分けが良いな。そんなお前に聞くのは躊躇うが、親の所に戻りたいか?初めは親に怯えていた。記憶が無いお前にとっては、理解が難しいかもしれない。悪いところもあるが、良いところもあるだろう。戻りたいなら、親の所に連れて行くし、手も出さない」
「・・・・・俺の親は殺しの対象か・・・」
「俺から見ればそうだな。肇にとって良い親と思えるのは、いつになるか分からないが・・・。肇は、どうしたい?今後も含めて」
記憶が戻ったら、親の死を悲しむだろうか。記憶を失くしても、怯えると言うことは、死んでも、そんなに悲しまない存在なのかもしれない。
「俺の親が殺しの対象なら、そうすればいい。今後は、アンタ達と一緒に連れて行ってほしい。雑用でも見張りでも・・・言われれば殺しでも」
「本当にいいのか?その答えで後悔しないか?今は、それでよくても記憶を取り戻したら、後悔するかもしれないぞ」
「この答えでいい。記憶を失くしても親に良い感情が湧かないなら、その程度の存在。それと、俺は、大将達に世話になったから恩返しがしたい」
すると、大将が俺の髪をワシワシする。そして軽く笑った。
「子供が、恩返しなんて考えるなよ。気持ちは受け取った。だけど、条件がある。俺達と一緒に行動するなら、名前を変えてもらう」
俺は頷いた。
「これからは、石田剛(いしだ つよし)と名乗れ。それと、俺らとの生活が嫌になったら、抜けていい。その時は、元の名前で生きろよ」
「そんなことしたら、困るのは大将達じゃないか。正体を明かしてる」
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