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第五話 「俺、幼馴染に会う/神さまのためならば」
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誰にも見られなかった神様に、ちょっとイジワルなことを言ったら泣かれた。
「うわわーん! 大河のばか者ー」
いのりちゃんは、くしゃくしゃな顔で泣いている。
ーーぷっ、 ダメだ! 笑ってはいけない。
まるで小さい子供のように、泣いているいのりちゃんに、俺は笑いを我慢する。
「いのりちゃん……ぷぷっ、俺が悪かった、 あやまっ…… クスクス」
その様子を見ていた女の子二人は、俺をじっと見ている。
「アンタ…… いい歳して、 女の子を泣かせてなにが楽しいわけ?」
そう話すのは幼馴染の一人、高島真奈美。
きつい言動で男勝りな性格だが、それなりの美人。
子供の頃から性格は変わらず、俺は何度もひどい目にあっていた。
「大河ちゃん…… 女の子は泣かせちゃいけないんだよ~」
そして気弱そうに話す、もう一人の幼馴染。山寺加奈子。
おっとりとした性格で、しゃべり方から動きまで、すべてがゆっくり。
美人というよりも、かわいいと言えるだろう。
「ツンデレとドジっ子かよ! 需要はもうねーよ!」
誰に対して言っているかわからないが、俺はそう吐き捨てる。
「もう怖くないからね~、 大河ちゃんは根はいい人なんだよぅ~」
加奈子は、いのりちゃんの頭をなでながら話しかけている。
「んで、 この子どうしたのよ? アンタまさか…… どっかから、 誘拐してきたんじゃないでしょうね!」
「なわけねーだろ! ……って、 ちょっと待て」
俺が反論しかけた時、なにかに気がつく。
「おまえら…… いのりちゃんが見えているのか?」
そう尋ねると、奈緒美は口をぽかんとしていた。
「あんた、 なに言ってんの? 見えるに決まってんじゃない。 人だもの」
ーーいやいや、 人じゃねーよ。この町の神様だぞ?
加奈子なら見えそうな感じはするが、オカルトなことを信じていない奈緒美が見えていることにおどろく。
とりあえず、俺は今までのことを二人に話した。
「ええー! 神様? この女の子が?」
思っていた通り、奈緒美はおどろいた顔をしている。
「ああ~、 そっか! 神様が百年に一度、町に降り立って今年だったんだねぇ」
のほほんと話しながら、加奈子は一人納得していた。
「え? え? なにそれ、 この町にそんなおかしい話あったの?」
加奈子の話に、奈緒美は頭がこんがらがっている。
ーーまあ、普通に考えたらそうなるわな。
町の人間でも、知らないやつもいるんだなと、俺は奈緒美の反応を見て思った。
「おばあちゃんが話してたよ~? この町に神様がいて、百年分の恩返しをするんだって~」
「そうだぞ奈緒美! いのりちゃんは神様だ、 ささっとおもてなししろ」
奈緒美の反応が面白く、俺はそう話した。
ーーぷぷっ、 さあどんな、おもてなしをするか見せてもらおうか。
奈緒美がどんな行動に出るか、俺は出方をうかがう。
「……おもてなし、おもてなし。 ってするかボケー!」
奈緒美の右ストレートが、俺にむかって飛んでくる。
「……へ?」
拳が頬に当たり、俺は後ろに吹っ飛んだ。
「痛ってー! なにしやがる、 女のパンチじゃねーぞ!」
「うっさい! 神様なんかいるわけないわよ!」
奈緒美はウソだと、わめき散らしている。
「いのりちゃん! あいつ、 あんなこと言ってるぞ! 例の術で、 奈緒美を黙らせてくれ」
俺はささっと、いのりちゃんの後ろに隠れながら、そう言う。
いのりちゃんは、奈緒美を見つめている。
「その必要はない、 この者らからはきちんと信仰心を感じておる! ゆえに、術は必要ないのじゃ」
ーー信仰心? 神様を信じるみたいなもんか。
加奈子ならわかるが、奈緒美はどう見ても違うように思う。
「いやあ、 どう見ても神様を信じてないだろ」
「そっ、 そうよ! 神さまなんて、 信じてないわよ!」
奈緒美も、全力で否定している。
「はて? そんなことはないはずじゃぞ? そなたは、 神社で毎日のようにわらわに祈っておったでないか」
いのりちゃんの言葉に、俺はおどろく。
ーーこいつが毎日、神社に祈ってただと?
まったく想像できない俺は、奈緒美を見る。
その顔に、ものすごい汗をかきながら動揺しているように見えた。
「おかしいのう…… 想い人と結ばれるように、 祈っておったような? 確か…… って、 むぐむぐ」
いのりちゃんがなにか言いかけた時に、真奈美はその口をふさぐ。
「わーわー! 聞こえない聞こえないー、 なにも聞こえなーい」
思いっきり口をふさがれた、いのりちゃんは苦しそうにもだえていた。
「んだよ、 恋愛祈願か。 本当に、
あいつがやってんのか?」
俺は真奈美に聞こえないように、加奈子に話しかける。
「ん~、 たぶんねぇ。 奈緒美ちゃんは、乙女チックだもんー」
「乙女…… ねえ」
なんだかんだ言いつつ、きちんと女の子らしいことしてるんだなと感心する。
ーーしょうがねぇ、俺が力を貸してやるか。
幼馴染の悩みを解決してやろうと、俺は奈緒美に声をかける。
「おい! 奈緒美、 困ってるなら助けてやんよ! 誰が好きなんだ? 同じクラスの山田か?」
クラスでイケメンなのは、サッカー部の山田だ。
よく奈緒美と仲良く話していたのを、見ていた俺はそう思った。
「……ったく、 そうならそう言えよな!」
いのりちゃんに頼らず、俺に相談をすればいいのに。
「なっ…… な」
「俺から、 山田にそれとなく聞いてやるよ! はっはっは」
ポンと、奈緒美の肩を叩きながら俺は笑う。
すると、わなわなと奈緒美の体は震えていた。
ーーあまりの感動で、震えてやがるな。 うん、うん。
さすが神社の家に生まれた俺だ、良いことをしている。
そう思いながら、俺はさらに高笑いをする。
「こっ……の」
小さく、なにかをつぶやいく奈緒美。
その声は次第に大きくなる。
「この、 ばかやろうー!」
俺の手を払いのけ、 奈緒美の拳がまた俺の顔を殴りつけた。
「ぶふぇー!」
なぜ殴られたのかわからず、そのまま倒れこむ。
「おお…… おなごにしては、なんと力強い一撃じゃ!」
いのりちゃんは、目を輝かせながら感心している。
「ひやひや…… ひほりちゃん、 ほうじゃないはろ!」
殴られてうまくしゃべれない俺は、変な日本語でしゃべる。
「ったくよう、 災難にもほどがある」
やっとうまく話せるようになり、奈緒美をにらみつける。
「おい! いきなり、 殴ることないだろう」
強く言うと、奈緒美はにらみ返してきた。
「あっ…… あんたに、 相談のってもらう必要ないわよ!」
ぷんぷんと怒り出す奈緒美は、カバン持って歩き出す。
「加奈子! 学校に遅れるよ、 さっさと行きましょう!」
「あっ、 待ってよう」
先に歩く奈緒美を、加奈子は追いかける。
「大河ちゃん、 もうちょっと女の子の気持ちも考えるんだよぅ」
振り返った加奈子は、俺にそう小声で話しかけた。
「あん? どういう意味だ?」
言葉の意味がわからず、頭をひねる。
「じゃあ、 神さまのおもてなし。頑張ってねー」
いのりちゃんに手を振り、加奈子は去っていく。
「大河、 大河」
しばらく考えていると、いのりちゃんが俺の服をひっぱる。
「どうした?」
俺が尋ねると、いのりちゃんはそわそわして答える。
「わらわはのどが渇いた、 なにか飲むものはないのか?」
あたりを見渡して、俺はアレを探す。
「あった、 あった」
俺はいのりちゃんを連れ、目の前に立つ。
アレとは神乃坂町にある、自動販売機。
ただ普通のとは違い、少し変わった仕組みだ。
「おお! 大河、 この四角い箱はなんじゃ?」
いのりちゃんは、初めて見る自動販売機を見ながら尋ねる。
「ふっふっふ、 まあ見ているがよい」
不敵な笑みを浮かべながら、財布を取り出す。
ーーこの中から、飲み物が出てきたらおどろくだろうな。
そう思いながら、財布の小銭入れに手を入れる。
「……あれ?」
俺の手に、小銭をつかむ感覚がない。
中を確認すると、一枚も入っていなかった。
「お金が…… ない!」
バイトの給料が入るまで、所持金がないことを俺は思い出した。
「ちくしょー! いのりちゃんを案内するなら、 金を渡せってんだ!」
「大河…… のどが渇いたぞ」
いのりちゃんは、じっと俺を見つめる。
ーーどうする、 俺。 なんとかしなければ。
普段から頭を使わない俺は、必死になって考える。
くるっと振り向いた先に、遠くを歩く女の子が二人。
俺は歩く女の子たちに向かって、走り出した。
「ちょっと、 まてーい!」
猛スピードで走り、女の子たちの足を止める。
足を止めたのは、もちろん加奈子と真奈美だ。
「大河ちゃん、 どうしたの~?」
加奈子はおどろきながら、そう声をかける。
「はあはあ、 ちょっとな」
ーーさて、どちらからお金を借りようか。
二人の顔を見た俺は、どちらにしようか考え始める。
加奈子からは、先月に昼ごはんのお金を借りたばかりだった。
まだ返せていないだけに、また借りるのも気が引ける。
ーー真奈美は、性格がきついからな。
簡単に貸すとは思っていない俺は、なかなか決めれずにいた。
「なんなのよ! なんかあるなら、 言いなさいよ」
真奈美の声を聞いた俺は、決断をする。
「真奈美…… 俺は」
いつも違う俺の顔に、真奈美はおどろく。
「……なっ、 なによ」
なにかを期待しているかのような、そんな目で俺を見ていた。
そして俺は、ゆっくりと口を開く。
「俺はおまえに、お金を借りたい! 頼む、 百三十円を貸してくれ」
腰を曲げ、手を合わせて真奈美を拝んだ。
「こっ…… この!」
「おっ! 貸してくれるのか?」
俺がそう言って顔を上げると、視界が真っ暗になる。
こうして俺は、お金を借りることができた。
三度目のパンチが、おまけ付きで。
「うわわーん! 大河のばか者ー」
いのりちゃんは、くしゃくしゃな顔で泣いている。
ーーぷっ、 ダメだ! 笑ってはいけない。
まるで小さい子供のように、泣いているいのりちゃんに、俺は笑いを我慢する。
「いのりちゃん……ぷぷっ、俺が悪かった、 あやまっ…… クスクス」
その様子を見ていた女の子二人は、俺をじっと見ている。
「アンタ…… いい歳して、 女の子を泣かせてなにが楽しいわけ?」
そう話すのは幼馴染の一人、高島真奈美。
きつい言動で男勝りな性格だが、それなりの美人。
子供の頃から性格は変わらず、俺は何度もひどい目にあっていた。
「大河ちゃん…… 女の子は泣かせちゃいけないんだよ~」
そして気弱そうに話す、もう一人の幼馴染。山寺加奈子。
おっとりとした性格で、しゃべり方から動きまで、すべてがゆっくり。
美人というよりも、かわいいと言えるだろう。
「ツンデレとドジっ子かよ! 需要はもうねーよ!」
誰に対して言っているかわからないが、俺はそう吐き捨てる。
「もう怖くないからね~、 大河ちゃんは根はいい人なんだよぅ~」
加奈子は、いのりちゃんの頭をなでながら話しかけている。
「んで、 この子どうしたのよ? アンタまさか…… どっかから、 誘拐してきたんじゃないでしょうね!」
「なわけねーだろ! ……って、 ちょっと待て」
俺が反論しかけた時、なにかに気がつく。
「おまえら…… いのりちゃんが見えているのか?」
そう尋ねると、奈緒美は口をぽかんとしていた。
「あんた、 なに言ってんの? 見えるに決まってんじゃない。 人だもの」
ーーいやいや、 人じゃねーよ。この町の神様だぞ?
加奈子なら見えそうな感じはするが、オカルトなことを信じていない奈緒美が見えていることにおどろく。
とりあえず、俺は今までのことを二人に話した。
「ええー! 神様? この女の子が?」
思っていた通り、奈緒美はおどろいた顔をしている。
「ああ~、 そっか! 神様が百年に一度、町に降り立って今年だったんだねぇ」
のほほんと話しながら、加奈子は一人納得していた。
「え? え? なにそれ、 この町にそんなおかしい話あったの?」
加奈子の話に、奈緒美は頭がこんがらがっている。
ーーまあ、普通に考えたらそうなるわな。
町の人間でも、知らないやつもいるんだなと、俺は奈緒美の反応を見て思った。
「おばあちゃんが話してたよ~? この町に神様がいて、百年分の恩返しをするんだって~」
「そうだぞ奈緒美! いのりちゃんは神様だ、 ささっとおもてなししろ」
奈緒美の反応が面白く、俺はそう話した。
ーーぷぷっ、 さあどんな、おもてなしをするか見せてもらおうか。
奈緒美がどんな行動に出るか、俺は出方をうかがう。
「……おもてなし、おもてなし。 ってするかボケー!」
奈緒美の右ストレートが、俺にむかって飛んでくる。
「……へ?」
拳が頬に当たり、俺は後ろに吹っ飛んだ。
「痛ってー! なにしやがる、 女のパンチじゃねーぞ!」
「うっさい! 神様なんかいるわけないわよ!」
奈緒美はウソだと、わめき散らしている。
「いのりちゃん! あいつ、 あんなこと言ってるぞ! 例の術で、 奈緒美を黙らせてくれ」
俺はささっと、いのりちゃんの後ろに隠れながら、そう言う。
いのりちゃんは、奈緒美を見つめている。
「その必要はない、 この者らからはきちんと信仰心を感じておる! ゆえに、術は必要ないのじゃ」
ーー信仰心? 神様を信じるみたいなもんか。
加奈子ならわかるが、奈緒美はどう見ても違うように思う。
「いやあ、 どう見ても神様を信じてないだろ」
「そっ、 そうよ! 神さまなんて、 信じてないわよ!」
奈緒美も、全力で否定している。
「はて? そんなことはないはずじゃぞ? そなたは、 神社で毎日のようにわらわに祈っておったでないか」
いのりちゃんの言葉に、俺はおどろく。
ーーこいつが毎日、神社に祈ってただと?
まったく想像できない俺は、奈緒美を見る。
その顔に、ものすごい汗をかきながら動揺しているように見えた。
「おかしいのう…… 想い人と結ばれるように、 祈っておったような? 確か…… って、 むぐむぐ」
いのりちゃんがなにか言いかけた時に、真奈美はその口をふさぐ。
「わーわー! 聞こえない聞こえないー、 なにも聞こえなーい」
思いっきり口をふさがれた、いのりちゃんは苦しそうにもだえていた。
「んだよ、 恋愛祈願か。 本当に、
あいつがやってんのか?」
俺は真奈美に聞こえないように、加奈子に話しかける。
「ん~、 たぶんねぇ。 奈緒美ちゃんは、乙女チックだもんー」
「乙女…… ねえ」
なんだかんだ言いつつ、きちんと女の子らしいことしてるんだなと感心する。
ーーしょうがねぇ、俺が力を貸してやるか。
幼馴染の悩みを解決してやろうと、俺は奈緒美に声をかける。
「おい! 奈緒美、 困ってるなら助けてやんよ! 誰が好きなんだ? 同じクラスの山田か?」
クラスでイケメンなのは、サッカー部の山田だ。
よく奈緒美と仲良く話していたのを、見ていた俺はそう思った。
「……ったく、 そうならそう言えよな!」
いのりちゃんに頼らず、俺に相談をすればいいのに。
「なっ…… な」
「俺から、 山田にそれとなく聞いてやるよ! はっはっは」
ポンと、奈緒美の肩を叩きながら俺は笑う。
すると、わなわなと奈緒美の体は震えていた。
ーーあまりの感動で、震えてやがるな。 うん、うん。
さすが神社の家に生まれた俺だ、良いことをしている。
そう思いながら、俺はさらに高笑いをする。
「こっ……の」
小さく、なにかをつぶやいく奈緒美。
その声は次第に大きくなる。
「この、 ばかやろうー!」
俺の手を払いのけ、 奈緒美の拳がまた俺の顔を殴りつけた。
「ぶふぇー!」
なぜ殴られたのかわからず、そのまま倒れこむ。
「おお…… おなごにしては、なんと力強い一撃じゃ!」
いのりちゃんは、目を輝かせながら感心している。
「ひやひや…… ひほりちゃん、 ほうじゃないはろ!」
殴られてうまくしゃべれない俺は、変な日本語でしゃべる。
「ったくよう、 災難にもほどがある」
やっとうまく話せるようになり、奈緒美をにらみつける。
「おい! いきなり、 殴ることないだろう」
強く言うと、奈緒美はにらみ返してきた。
「あっ…… あんたに、 相談のってもらう必要ないわよ!」
ぷんぷんと怒り出す奈緒美は、カバン持って歩き出す。
「加奈子! 学校に遅れるよ、 さっさと行きましょう!」
「あっ、 待ってよう」
先に歩く奈緒美を、加奈子は追いかける。
「大河ちゃん、 もうちょっと女の子の気持ちも考えるんだよぅ」
振り返った加奈子は、俺にそう小声で話しかけた。
「あん? どういう意味だ?」
言葉の意味がわからず、頭をひねる。
「じゃあ、 神さまのおもてなし。頑張ってねー」
いのりちゃんに手を振り、加奈子は去っていく。
「大河、 大河」
しばらく考えていると、いのりちゃんが俺の服をひっぱる。
「どうした?」
俺が尋ねると、いのりちゃんはそわそわして答える。
「わらわはのどが渇いた、 なにか飲むものはないのか?」
あたりを見渡して、俺はアレを探す。
「あった、 あった」
俺はいのりちゃんを連れ、目の前に立つ。
アレとは神乃坂町にある、自動販売機。
ただ普通のとは違い、少し変わった仕組みだ。
「おお! 大河、 この四角い箱はなんじゃ?」
いのりちゃんは、初めて見る自動販売機を見ながら尋ねる。
「ふっふっふ、 まあ見ているがよい」
不敵な笑みを浮かべながら、財布を取り出す。
ーーこの中から、飲み物が出てきたらおどろくだろうな。
そう思いながら、財布の小銭入れに手を入れる。
「……あれ?」
俺の手に、小銭をつかむ感覚がない。
中を確認すると、一枚も入っていなかった。
「お金が…… ない!」
バイトの給料が入るまで、所持金がないことを俺は思い出した。
「ちくしょー! いのりちゃんを案内するなら、 金を渡せってんだ!」
「大河…… のどが渇いたぞ」
いのりちゃんは、じっと俺を見つめる。
ーーどうする、 俺。 なんとかしなければ。
普段から頭を使わない俺は、必死になって考える。
くるっと振り向いた先に、遠くを歩く女の子が二人。
俺は歩く女の子たちに向かって、走り出した。
「ちょっと、 まてーい!」
猛スピードで走り、女の子たちの足を止める。
足を止めたのは、もちろん加奈子と真奈美だ。
「大河ちゃん、 どうしたの~?」
加奈子はおどろきながら、そう声をかける。
「はあはあ、 ちょっとな」
ーーさて、どちらからお金を借りようか。
二人の顔を見た俺は、どちらにしようか考え始める。
加奈子からは、先月に昼ごはんのお金を借りたばかりだった。
まだ返せていないだけに、また借りるのも気が引ける。
ーー真奈美は、性格がきついからな。
簡単に貸すとは思っていない俺は、なかなか決めれずにいた。
「なんなのよ! なんかあるなら、 言いなさいよ」
真奈美の声を聞いた俺は、決断をする。
「真奈美…… 俺は」
いつも違う俺の顔に、真奈美はおどろく。
「……なっ、 なによ」
なにかを期待しているかのような、そんな目で俺を見ていた。
そして俺は、ゆっくりと口を開く。
「俺はおまえに、お金を借りたい! 頼む、 百三十円を貸してくれ」
腰を曲げ、手を合わせて真奈美を拝んだ。
「こっ…… この!」
「おっ! 貸してくれるのか?」
俺がそう言って顔を上げると、視界が真っ暗になる。
こうして俺は、お金を借りることができた。
三度目のパンチが、おまけ付きで。
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