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愛と裏切りとお仕置きと
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「一体何を騒がしくしているんだ」
振り向くと、大階段の一番上の踊場に、レイ兄さまが立っていた。
薄暗い玄関ホールに、ぼんやりと浮かび上がる、スラリとした佇まいのレイ兄さまの姿は、妖艶で美しかった。
弟の僕でさえも、思わず見とれる。
「我が屋敷に一体何の用だ。伯爵」
レイ兄様は伯爵の姿を見ると、忌々しそうにギロリと伯爵を睨みつけ、階下の僕たちの方に向かって歩き出す。
「レイモンド……」
レイ兄さまが、一歩、一歩、緋色のカーペットが敷かれた階段を、長い脚で優雅に降りてくるその様子を、伯爵は目を細めて眩しそうに見上げる。
「レイ兄様、下がってて!! こいつは僕がやっつけるからっ!」
伯爵がレイ兄さまのもとに吸い寄せられるようにして近づこうとするのを、僕は重い剣を構えて制止する。
ーー我が家の天敵を、兄様に近づけるわけにはいかないっ!
憎しみの炎を瞳に宿して、僕は伯爵に向かって「下がれ!」と叫ぶ。
だけど、僕の全身から漲る威嚇なんて、伯爵にはちっとも効いてなかった。
「レイモンドには随分と可愛らしいナイトがついているんだな」
黒豹のような鋭い瞳を瞬きさせて、伯爵はクックックッと楽しそうに笑い、その声は僕のプライドをカチンとさせる。
「ばっ、馬鹿にするなっ! 伯爵! 覚悟っっ!」
ずっしりとした銀の重さによろめきながらも、僕の体の倍はある大剣を伯爵に向かって大きく振り上げた瞬間、
「リト、危ないから止めなさい。お前にはその剣は大きすぎる」
レイ兄さまの冷静な声が響く。
「……兄さまっ……」
「その剣を元の場所に戻しなさい。リト」
「で、でも……」
「リト、言う事を聞きなさい」
「……はい…兄さま……」
レイ兄さまに叱られて、僕は大剣をしぶしぶと、元の鎧の手元に戻す。
剣が元の場所に収まったのを見届けたレイ兄さまは、再び伯爵の方へと顔を向ける。
「それで伯爵、我が屋敷に自らやって来たということは、カークランド家の出した条件をホッヘルベルが呑むという事なんだな」
勝ち誇ったようにレイ兄さまがそう言うと、伯爵も負けじと尊大な態度で、レイ兄さまの正面に立ちはだかる。
「私の出す条件を受け入れてくれるのであれば、この戦争は手打ちとしよう。レイモンド」
伯爵の言葉に、レイ兄さまは、フンと鼻を鳴らす。
「貴様の出す条件など聞く価値もない」
双方一歩も引くことなく、レイ兄さまと伯爵の間に、見えない火花がバチバチとスパークする。
「レイモンド、そう言わずに、これからじっくりと話し合おうじゃないか」
伯爵はそう言った次の瞬間、レイ兄さまの腕を取って、ぐいっと自分の体へと抱き寄せる。
「っ?!」
いきなりの不意打ちを喰らったレイ兄さまは、伯爵の腕の中にすっぽりと抱え込まれる。
伯爵の右手はレイ兄さまの体をしっかりと押さえつけ、左手は、兄さまの白くて細い繊細な喉を掴むようにして握っていた。
気道を押さえられて呼吸を無理やり止められたレイ兄様の美しい顔が苦しそうに歪む。
伯爵が対魔呪文を唱えて少しでも手に力を入れれば、兄さまの真っ白な喉はポッキリと折れてしまう! 僕の足は恐ろしさでガクガクと震える。
ーー兄さまを助けなきゃ!!
「伯爵っ! 兄さまを離せっ!! 離せぇぇ!!! ヒック…ヒック……」
泣きながら伯爵に体当たりしたけれど、伯爵の体はビクともしない。
僕の様子など気にもせずに、伯爵はレイ兄さま耳元に唇を寄せる。
「少しは私の出す条件について聞く気になったか? レイモンド」
冷ややかに響く伯爵の声。
この体勢では状況は不利と察した兄様が悔やしそうな表情を浮かべながらも小さく頷くと、伯爵はあっさりと、レイ兄さまの体を手放した。
「兄さま! 大丈夫?!」
伯爵に解放された兄さまの体に抱きつくと、レイ兄さまはゲホゲホと咳き込んでから、心配そうに見つめている僕の頭を優しく撫でる。
「リト、食堂にリョウが焼いたクッキーがあるから、おやつにそれを食べなさい。私は少し伯爵と話があるから」
そう言ってから、伯爵を冷ややかに睨みつけ、書斎へと向かって歩き出す。
「では、失礼するよ。ナイト君」
伯爵は胸に手を当てて僕に向かって笑いながら慇懃にお辞儀をすると、レイ兄さまに歩みより、まるで、エスコートでもするかのように、レイ兄さまの腰に手を回した。
兄さまは忌々しそうに伯爵のその手を払いのける。
伯爵は、“おお怖い”とでも言いたげに両手をあげて、でもそれ以上は無理強いをせずに、大人しく兄さまの後をついていった。
振り向くと、大階段の一番上の踊場に、レイ兄さまが立っていた。
薄暗い玄関ホールに、ぼんやりと浮かび上がる、スラリとした佇まいのレイ兄さまの姿は、妖艶で美しかった。
弟の僕でさえも、思わず見とれる。
「我が屋敷に一体何の用だ。伯爵」
レイ兄様は伯爵の姿を見ると、忌々しそうにギロリと伯爵を睨みつけ、階下の僕たちの方に向かって歩き出す。
「レイモンド……」
レイ兄さまが、一歩、一歩、緋色のカーペットが敷かれた階段を、長い脚で優雅に降りてくるその様子を、伯爵は目を細めて眩しそうに見上げる。
「レイ兄様、下がってて!! こいつは僕がやっつけるからっ!」
伯爵がレイ兄さまのもとに吸い寄せられるようにして近づこうとするのを、僕は重い剣を構えて制止する。
ーー我が家の天敵を、兄様に近づけるわけにはいかないっ!
憎しみの炎を瞳に宿して、僕は伯爵に向かって「下がれ!」と叫ぶ。
だけど、僕の全身から漲る威嚇なんて、伯爵にはちっとも効いてなかった。
「レイモンドには随分と可愛らしいナイトがついているんだな」
黒豹のような鋭い瞳を瞬きさせて、伯爵はクックックッと楽しそうに笑い、その声は僕のプライドをカチンとさせる。
「ばっ、馬鹿にするなっ! 伯爵! 覚悟っっ!」
ずっしりとした銀の重さによろめきながらも、僕の体の倍はある大剣を伯爵に向かって大きく振り上げた瞬間、
「リト、危ないから止めなさい。お前にはその剣は大きすぎる」
レイ兄さまの冷静な声が響く。
「……兄さまっ……」
「その剣を元の場所に戻しなさい。リト」
「で、でも……」
「リト、言う事を聞きなさい」
「……はい…兄さま……」
レイ兄さまに叱られて、僕は大剣をしぶしぶと、元の鎧の手元に戻す。
剣が元の場所に収まったのを見届けたレイ兄さまは、再び伯爵の方へと顔を向ける。
「それで伯爵、我が屋敷に自らやって来たということは、カークランド家の出した条件をホッヘルベルが呑むという事なんだな」
勝ち誇ったようにレイ兄さまがそう言うと、伯爵も負けじと尊大な態度で、レイ兄さまの正面に立ちはだかる。
「私の出す条件を受け入れてくれるのであれば、この戦争は手打ちとしよう。レイモンド」
伯爵の言葉に、レイ兄さまは、フンと鼻を鳴らす。
「貴様の出す条件など聞く価値もない」
双方一歩も引くことなく、レイ兄さまと伯爵の間に、見えない火花がバチバチとスパークする。
「レイモンド、そう言わずに、これからじっくりと話し合おうじゃないか」
伯爵はそう言った次の瞬間、レイ兄さまの腕を取って、ぐいっと自分の体へと抱き寄せる。
「っ?!」
いきなりの不意打ちを喰らったレイ兄さまは、伯爵の腕の中にすっぽりと抱え込まれる。
伯爵の右手はレイ兄さまの体をしっかりと押さえつけ、左手は、兄さまの白くて細い繊細な喉を掴むようにして握っていた。
気道を押さえられて呼吸を無理やり止められたレイ兄様の美しい顔が苦しそうに歪む。
伯爵が対魔呪文を唱えて少しでも手に力を入れれば、兄さまの真っ白な喉はポッキリと折れてしまう! 僕の足は恐ろしさでガクガクと震える。
ーー兄さまを助けなきゃ!!
「伯爵っ! 兄さまを離せっ!! 離せぇぇ!!! ヒック…ヒック……」
泣きながら伯爵に体当たりしたけれど、伯爵の体はビクともしない。
僕の様子など気にもせずに、伯爵はレイ兄さま耳元に唇を寄せる。
「少しは私の出す条件について聞く気になったか? レイモンド」
冷ややかに響く伯爵の声。
この体勢では状況は不利と察した兄様が悔やしそうな表情を浮かべながらも小さく頷くと、伯爵はあっさりと、レイ兄さまの体を手放した。
「兄さま! 大丈夫?!」
伯爵に解放された兄さまの体に抱きつくと、レイ兄さまはゲホゲホと咳き込んでから、心配そうに見つめている僕の頭を優しく撫でる。
「リト、食堂にリョウが焼いたクッキーがあるから、おやつにそれを食べなさい。私は少し伯爵と話があるから」
そう言ってから、伯爵を冷ややかに睨みつけ、書斎へと向かって歩き出す。
「では、失礼するよ。ナイト君」
伯爵は胸に手を当てて僕に向かって笑いながら慇懃にお辞儀をすると、レイ兄さまに歩みより、まるで、エスコートでもするかのように、レイ兄さまの腰に手を回した。
兄さまは忌々しそうに伯爵のその手を払いのける。
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