文系ドラゴン、旅に出る~老竜と行く諸国漫遊詩歌の旅~

八百十三

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第二章 放浪

第二十一話 王都へ移動

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 翌日。ヘンネバリ大森林から飛び立って、休憩も挟みつつ飛び続けること一日。ルーベンソンの町に向かって飛んでいたオーケビョルンの上で、マルクスが遠くを見るように手でひさしを作った。

「そろそろルーベンソンかな」
「そうじゃな、見えてきて……おっ?」

 オーケビョルンも右手をかざして、見え始めてきたルーベンソンの町の建物や外壁を見ていたが、ふと前方に、ドラゴンが飛んでいるのが目に留まった。
 比較的急ぎ気味に飛んでいるそのドラゴンの尻尾には、黄色い布が巻き付けられている。はためいているその布に描かれているのは、アールグレーン王国の国章だ。
 一目で分かる。あのドラゴンはこの王国の公的な立場の人間が乗っている竜だ。

「国章をつけたドラゴン?」
「じゃなあ……む、もしかして」

 なぜこんなところに、国章をつけて飛んでいる竜がいるのか、と疑問に思うが、すぐにオーケビョルンはその竜を駆る人物に思い当たった。
 ぐんと速度を上げて前を行く竜の横に並ぶと、竜の上には数日前に見た顔の、豹だか虎だかの獣人男性が乗っていた。誰あろう、王室補佐官のブリアックである。

「やはりブリアック殿じゃったか」
「おお、『賢竜』様にマルクス様。ここでちょうど行き会うとは運がよろしい」

 オーケビョルンが声をかけると、二人に気が付いたブリアックがにこりと微笑みかけた。ルーベンソンの町の近くで彼と顔を合わせられたことに、マルクスも表情をほころばせながら声をかける。

「もしかして、国王陛下との謁見の日程調整が?」

 空中ということもあり、気持ち大きめに声を張りながらマルクスが問いかけると、ブリアックはこくりと頷いた。

「はい、完了しましたため、お知らせとお迎えに上がるためにこうして竜を飛ばしてまいりました。このままクナウストにお連れすることも出来ますが、いかがいたしますか?」

 ブリアックの発言にオーケビョルンもマルクスも目を見開き、揃って互いに目を向けた。
 これからルーベンソンの町の離着陸場に降りようというところだったが、ここでブリアックと会えて、日程調整が出来たというならルーベンソンの町に行く用事はない。ブリアックがここにいるのだから、クナウストへの案内は彼に任せればいいだろう。
 それより何より、遅れたりなどしたら折角日程を調整下さったボー5世陛下に申し訳が無い。

「一度降りて、間を置かずに再び飛ぶのも面倒じゃな」
「そうだね、無駄に着陸料を支払うことも無い」

 オーケビョルンがそういうと、頷いたマルクスも彼に賛同した。確かに、時間的にも金銭的にも、ここでルーベンソンの町に行くのは無駄だ。
 すぐに話がまとまったところで、ブリアックがドラゴンの進行方向を反転させ始める。

「承知しました。休憩なしでお飛びになられる形で申し訳ございませんが、クナウストまでご案内いたします。私の竜についてきてくださいませ」

 自分たちが元いた方向、クナウストの方向に向かって引き返し始めるブリアックの後を追って、オーケビョルンも方向を転換した。ブリアックのドラゴンの後ろに付きながら、心配そうな表情をしてオーケビョルンが声をかける。

「わしは大丈夫じゃが、そちらの竜は大丈夫なのかの? 王都から飛んでこられたんじゃろう」

 オーケビョルンが心配したのは、ブリアックが駆るドラゴンだ。王都クナウストはルーベンソンからかなり南下したところにある。そこから飛んできたのなら、疲労が溜まっていると予想したのである。
 と、ブリアックに乗られているドラゴンが、こちらに振り返って右手の親指を立てた。

「ご心配ありがとうございます! まだまだ飛べますのでご安心ください!」
「若くて持久力のある竜を連れてきましたのでね。問題はございませんよ」

 ドラゴンの上でブリアックも微笑んだ。なるほど、長く飛ぶことの出来るドラゴンを選抜して乗ってきたのなら、そこまで心配はいらないというわけだ。
 元気いっぱい翼を動かす目の前のドラゴンに、オーケビョルンが嘆息する。

「若いっていいもんじゃなぁ……」
「そうだね……というか、君の方が大丈夫かい、あまり長時間飛べる身体じゃないだろう」

 こちらも感心しながら、マルクスが心配するようにオーケビョルンの首を撫でる。
 目下の問題はそこだ。高齢であり、数百年単位でスヴェドボリ山に引き籠もっていたオーケビョルンは、当然のように体力がない。ブリアックのドラゴンより、確実に飛べる距離は短いのだ。
 言葉を受けたオーケビョルンが、苦笑しながら翼を動かした。

「まあ、なんとかなるじゃろ。まずくなったら声を上げるでな」
「無理はしないでくれよ、ずっと山に引き籠もっていたんだし、君は若くないんだ」

 オーケビョルンの気楽な発言に、マルクスが老竜の首を優しく叩いた。体力が尽きて墜落してしまう前に、きっちり休憩を取るようにしなくてはならない。
 ブリアックも口角を持ち上げて、何とも言えない表情になりながら手を動かす。

「必要になりましたら仰ってください、休憩はいつでも取れますので」
「すまんのう」

 ブリアックに頭を下げて、オーケビョルンは大きく翼を動かした。早いところ、クナウストまで行ってしまいたい。

「では、参りましょう。見失わないようお気をつけて」

 そう言って、ブリアックは乗騎のドラゴンの首元を叩いた。それを受けて、ドラゴンが翼を羽ばたかせて前へと進み始める。
 その後を追うように飛んで、ついていくオーケビョルンの上でマルクスが零した。

「いよいよ国王との謁見か……」
「緊張するのう、大丈夫じゃろうか」

 マルクスの発言にオーケビョルンも頷いた。
 何しろ相手は国王である。芸術に造詣の深いと名高いボー5世である。これで下手な詩を披露したら、それこそ首が飛ぶかもしれない。
 身を小さく震わせるオーケビョルンだが、上に乗るマルクスが落ち着かせるように首を叩いた。

「君が緊張していたら話にならないだろう。焦ることはないさ」
「まあ、そうじゃなぁ。むしろマルクスの方が緊張しよう」

 オーケビョルンが視線を上に向けながら言うと、困り顔になったマルクスが頷いた。
 オーケビョルンは世界でもその名を知られた文筆家であり古代竜エンシェントドラゴン、ボー5世にも見劣りすることがないほどの有名な竜だが、マルクスは一研究者。研究者としてはその名を知られているが、どうしてもオーケビョルンよりは見劣りしてしまう。
 おまけに、今は旅の装い。簡素で機能性を重視した服装の端をつまみながら、マルクスがぼやいた。

「そうだよ、本当に。ああ、大丈夫かな、こんな装いで」
「上等な服を一着持ってくるんじゃったなぁ」

 まさか旅の途中で国王との謁見が行われるとは。予想していなかったから、偉い人の前に出る用の訪問着など持ってきていない。クナウストの町に服屋があるなら、そこで買わないとならないだろうか。
 悶々としながらも、オーケビョルンはブリアックを追って、アールグレーン王国の空を飛び続けるのだった。
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みんなの感想(4件)

狸田 真 (たぬきだ まこと)

万霊節と聞くと、僕の脳内には金木犀の香りとシュトラウスのAllerseelenが流れます。

美しい夜景を眺めて、ちょっぴり切ないですが、故人を偲ぶ。あそこに光ってるのは、あの人の魂なのかな?僕に会いに来てくれたのかな?とか、妄想して読みました。

今回も素敵なお話でした!

2021.02.20 八百十三

感想ありがとうございます。

シュトラウスの「Allerseelen」の日本語題が、まんま万霊節ですしね。
美しい夜景、打ち上がる花火、光って散っていく光たち。そうしてエクルンドの人々は亡くなった人を偲ぶのでしょう。
アッシュナーの世界ではキリスト教の万霊節に近いイベントと位置づけています。いつかその光景も書きたいですね。

またよろしくお願いいたします。

解除
狸田 真 (たぬきだ まこと)

竜からは人がそういう風にみえるのですね。
スランプ脱却の秘訣はやっぱり出会いなのでしょうか。
素敵な旅を!

2020.12.04 八百十三

感想ありがとうございます。

オーケビョルンおじいちゃんはなにせ838歳ですから、人間の文化の残し方とかきめ細やかな保存の仕方とかに、思うところが多いのでしょう。
スランプ脱出にはいろんなきっかけがあると思いますが、旅の中でまだ見たことのないものと色々と出会っていますからね。そこは大きいだろうなと思います。

今後ともよろしくお願いします。

解除
狸田 真 (たぬきだ まこと)

久しぶりの更新!有難う御座います!
都会には都会の良さがありますよね!
詩歌は次回かな?

2020.10.14 八百十三

感想ありがとうございます。お待たせして申し訳ありません。

エクルンド市はこれまで出てきた都市や村とは比べ物にならないほど都会なので、その良さを描写していければと思っています。
問題は、都会なのでいつものようにそこら中に詩歌を残せないこと……次回には何か書いてもらいたいところですね。

今後ともよろしくお願いします。

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