大関誠は温泉大臣~俺、異世界に温泉旅館作ります!~

八百十三

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第1章 一体ここはどこだ?

第6話 冒険決定なう

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「でな、タサックには小さいながらも宿屋が3軒あってな。そのうちの1軒で食えるタサック牛のホロホロ煮が美味ェのなんの……」
「は、はぁ……あ、アリシアさん、すみません、お待たせしたようで」

 エドマンドから手伝いの話を受けて、「もうちょっと後で詳しい話を」と返事を保留してから30分後。
 一般的なタイプの他に、香草を吊るしてリラックスする香りを満たした蒸し風呂、黄土石を床と壁に使用した蒸し風呂を10分ずつ体験し、シャワー(桶に湯を溜めてかぶる方式だった)で身体の汗を流し、着替えてエドマンドと共に出てきたわけだ。
 ちなみにその間、エドマンドの仕事の話、もとい雑談はとめどなく続いていた。立て板に水を流すよう、とはまさにこのこと。
 先に風呂から上がって髪の毛も乾かし終わったアリシアが、俺を見てむくれてみせる。
 が、俺の後方にて存在感を発揮し続けるエドマンドに視線が移り、途端におや、という表情に変化した。

「ほんとに待ちましたよ!中でのぼせてるんじゃないかって、心配したんですから!
 って、あら?エドマンドさん。こんなところで会うなんて奇遇ですね」
「なんだ、マコトの連れってアリシアちゃんのことだったのか。道理でスパッと入植が済むわけだ」

 そしておや、と思ったのはエドマンドも同じだったらしい。
 というか今の会話から判断するに、この二人はどうやら既知の間柄のようだ。ぱっと見で全然接点が無さそうなんだけど、どういう関係だろう。

「えーと、アリシアさんとエドマンドさん、お知り合いで?」
「おう、アリシアちゃんは冒険者ギルドの窓口担当で、俺は冒険者ギルドに所属しているからな」
「そういうことです。職業柄、人の顔を覚えるのは得意なんですが、エドマンドさんはよく喋る方なんで、印象に残っちゃって」

 そう言って二人は顔を見合わせにこりと笑った。
 冒険者ギルド。また異世界転移モノでよく出てくる単語が出現した。剣、はまだこの目で確認していないが、魔法が存在するこの異世界チェルパ、冒険者という職業も冒険者ギルドという施設も、ちゃんと存在しているらしい。
 よく話に聞く、新米冒険者から超人並みに腕の立つ冒険者までが集い、魔物退治や薬草収集などの仕事を斡旋するかわりに、報酬金を渡すシステム。
 世界観によっては素材の買い取りだったり魔物の解体だったりもやっているとか、ライトノベルで読んだ気がする。
 そこの仕事を手伝えということは、俺も冒険者として登録しなければならないのだろうか。あんな適性とあんな技能スキルで。

 震えあがる俺の肩を、エドマンドが優しく叩いた。
 ふっと上を見上げると、浅黒く焼けた肌をしたエドマンドの顔が、にかっと笑みを作る。

「落ち着け落ち着け、何も冒険者としてデビューしろなんてことは言わん。
 アリシアちゃんもいることだしちょうどいい、冒険者ギルドでさっきの話の続きをしよう。アリシアちゃんも、いいか?」
「何の話か分かりませんけど乗り掛かった舟です。いいですよ」
「え、あ、まぁその、お二人がいいなら……俺も……」

 エドマンドとアリシアに完全に流される形で、俺も肯定の意思を示す。実際、話はどこかで聞かなければならなかったわけで。
 こくりと頷いたアリシアが、三度俺の手首を取った。この引っ張られる連れまわし方も、もはやお約束というか、慣れたものである。
 半ば意識を宙に浮かせ、無心になりながらアリシアに手を引かれつつヴァン・デルフィーヌを出ていく俺の姿を、エドマンドが妙な面持ちで見つめつつ後を追った。



 手を引かれること5分。通りを邁進するアリシアが足を止めたのは中央市場の一角だった。
 異局の建物と同じくレンガ造りの建物だが、木の梁や金属製の補強具が目を引く、重厚な造りの建物だ。背の高さも異局よりは低いが、横幅を広くとってある様子。
 アリシアが俺の手を離すと、ギルドの正面扉を指さしながら口を開く。

「ここが冒険者ギルドの建物です。ヴェノの冒険者ギルドには大体200名ほどの冒険者が登録しています。
 中には受付と依頼掲示所の他に、解体所、素材引き取りカウンター、換金屋、酒場とバーカウンターが併設されています」
「そういえば、アリシアさんは冒険者ギルドで働いているのでは」
「私は今日は非番なんですよー」

 非番の日もギルドに来ることになるとは思いませんでしたけどねー、と、からりと笑うアリシアと僕の足元に影が落ちる。
 何事かと上を向くと、上空からこちらに両足を向けてエドマンドの巨体が舞い降りてきた。
 鳥人バードレイスだと言っていたけど、背中の翼は飾りでも何でもなかったんだなぁと、感心するやら呆気に取られるやらで上を向いたまま口をぽかんと開く僕の傍らに、エドマンドがずしんと地響きを立てて着地する。
 地面の小さな揺れにたたらを踏むアリシアの額を、エドマンドの指が軽く小突いた。

「アリシアちゃんな、俺を置いていくこたねぇだろう」
「あぅ、いいじゃないですか、エドマンドさん飛べるんですから。地面付近を行くより早いでしょう?」

 小突かれて額を押さえるアリシアが口を尖らせるも、すぐにいつもの笑顔に戻る。やはりというか、だいぶ気心の知れた仲らしい。
 あんまり気安く付き合える友人がいなかった俺としては、二人の関係性がちょっと羨ましく思える節もあった。
 そんな俺の内心の羨望をよそに、二人は冒険者ギルドの扉を開ける。外に漏れ出てくるギルド内の喧騒に迎えられるようにして、俺達三人は冒険者ギルドの木製の床を踏みしめた。



「俺は受付で資料を貰ってくる。二人は酒場の適当なテーブルを確保しといてくれ」

 エドマンドはそう言い残すと、ホールの人混みをすり抜けるようにして受付のカウンターへと向かっていった。
 その他の冒険者と比べても頭一つ分は抜けるほどの、翼の生えた巨体を見送ると、俺はその場で視線を巡らせつつスマホの翻訳アプリを起動させた。
 翻訳された看板の文字を見るに、正面に受付と素材引き取りカウンターが並び、右手奥には解体所、右手側手前に換金屋、左手奥のカウンター横に依頼を掲示する掲示板が立ち、その左手側の開けたスペースが酒場になっているようだ。

 向かうべき場所を確認し、スマホをポケットにしまう。そして左手方向に足を向けると、既にアリシアが三人掛けの空きテーブルを確保していた。

「マコトさーん、こっちです、こっちー」

 椅子から立ち上がって右手をぶんぶん振るアリシア。その様子があまりにも微笑ましく思えて、内心で和んでいた俺だが、はっと現実に帰りバタバタと歩を進めた。
 そうだ、入り口の真ん前でぼーっと突っ立っていたら邪魔すぎる。

 ほどなくして、着席した俺とアリシアのいるテーブルに、エドマンドが数枚の紙を手に持ってやってきた。
 どっかと椅子に座り、テーブル上に手にした紙を放る。勿論、こちらの文字で書かれているので俺の目には何が何やら分からない。
 再びスマートフォンを取り出して翻訳アプリを起動させようとしたところで、アリシアが一番上の紙を手に取って目を通し始めた。
 これから読もうと思っていたのに、そう不満を漏らす間もなく、アリシアが文面を読み上げる。

「『タサック村重金属鉱山の坑道調査任務』……これ、昨日エドマンドさんが受けた依頼ですよね?」

 顔を紙面に向けたままで、視線だけを投げかけるアリシア。それを受けてエドマンドはその太い腕を組んだ。

「そうだ。タサック村の鉱山に走る坑道に、小規模な岩崩や湧水など、不穏な兆候が見られるってんでギルドに掲示された依頼だ。
 依頼ランクはB、だがまぁ不確定要素が多いゆえのこのランクだからな、アテにはならん。
 俺は原因が鉱山の地下にあると見込んでいるんだが、実際に掘ったら崩落なども起きかねん。坑道が崩落したらタサック村の鉱山労働者はおまんまの食い上げだ。
 ということで深部探知持ちの人間を探していたんだが――」
「そこにちょうど、俺がやってきた、と」

 エドマンドの言葉の後を継いだ俺を見据えて、エドマンドは大きく頷いた。
 傍らで話を聞いていたアリシアも小さく唸る。

「深部探知のスキルは保有者も限られますし、引く手数多ですからね。私も商業ギルドに派遣の打診をしましたが、まだ返事が返ってきませんし」
「そういうわけなんだ。マコトは俺のパーティーに参加して、坑道で深部探知のスキルを使ってくれればそれでいい。
 冒険者ギルドなり商業ギルドなりに所属はしないとならんが、そうすればお前の身柄も立てられるようになるから、不便はしなくなるだろう。
 危険な目には遭わせねぇと約束する……やってくれるか?」

 エドマンドがテーブルに両肘をつき、手をぐっと組みながら、身を乗り出してきた。アリシアの視線も自然と俺に向けられる。
 二人の真剣な眼差しを受けて、俺の唇がきゅっと固く結ばれた。自然と視線と頭とが下に下がる。
 正直、不安はある。何が起こるか分からないと言われているし、怪我を負う可能性が無いとも限らない。
 だが俺の、どこで役に立つのか分からないと思っていた技能スキルが役に立つのなら。力を貸すことでエドマンドが助かるのなら。そのお願いを無碍にするのも、気が引ける。
 俺はあくまでも調査要員、戦闘やら危険への対処やらは、存分にエドマンドに頼ればいいだろう。腹は決まった。
 俺は顔を上げ、真っすぐエドマンドの顔を見つめ、口を開いた。

「やります。俺がどれだけ手伝えるか分かりませんが……精一杯、お手伝いします」
「そうか、やってくれるか!ありがとう!」

 破顔一笑、途端に輝かんばかりの笑顔になって、エドマンドは俺の手をぐっと握った。
 その力の強さに、思わず顔が引きつる。が、何とか堪えて笑顔を作った。
 傍らでアリシアも嬉しそうに微笑んでいる。ホッとしたような、泣き出しそうな、その笑顔に、自然と俺の顔の緊張も解けていった。

 かくして俺は2日後、エドマンドのパーティーに調査員として加わり、タサック村へと向かうことになる。
 異世界での生活の第一歩が、今まさに踏み出された瞬間だった。
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