魔狼王(着ぐるみ)が往く!~勇者パーティーから暑苦しいと追放された着ぐるみ士の俺、世界最強のステータスに目覚めたので神獣と一緒に見返します~

八百十三

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第2章 冒険と昇進

第30話 着ぐるみ士、なだめる

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 身動きも取れず、言葉も封じられたナタリアを抑え込んだイバンが、苦々しい表情で足元の勇者の金髪を見た。
 そこから、視線がぐっと上に上がり。イバンの濃い茶色をした瞳が、俺の白銀の毛並みに包まれた顔を映す。

「で……ジュリオ。魔物化して、それでも冒険者を続けていることは別にいい。人化出来るなら魔物であろうと、冒険者として活動するのに何の問題もないしな」
「ああ」

 彼の言葉にうなずきながら、俺はそっと尻尾を振った。自分でも答えが出ていることだが、先程の話の後だ。認めてもらえるのは有り難い。
 ナタリアはああ言ったが、別に魔物が冒険者としてギルドに登録されることは、何一つ問題は無いのだ。人間と共存する意思を持ち、人間語の読み書きが出来ることが条件ではあるが、そうだからこそリーアもすんなり冒険者になれたのだから。

「だが、経緯は説明してくれるか? 何が起こって、お前が人間を辞めるに至ったのか、それは知りたい」

 イバンの言葉に、ベニアミンとレティシアもこくりとうなずいた。確かに、そこの説明は必要だ。
 俺は再び人化転身して、視線の高さを合わせながら説明を始めた。パーティーを解雇かいこされたその直後にリーアと出会ったこと。力を分けてもらって着ぐるみを作ったこと。その日の夜、オルニのギルドでルングマールに出会ったこと。彼に認められ、「獣王の契じゅうおうのちぎり」を交わして彼の一族に加わったこと。その際に、フェンリルとなる資格を得たこと。

「……とまあ、こんな感じで、『西の魔狼王』ルングマールから力を受け取って、俺はフェンリルになったわけだ」
「なんと……」
「オルネラ山にルングマールの一派が住んでいて、周辺住民といい関係を結んでいることは知っていたが……」
「フェンリルが……お酒を……」

 俺の話を聞いて、三人ともが絶句していた。当然だろう、何しろこれらのことが、たった一日、いや一晩の間に行われたのだから。
 さらに言うなら、パーティーを解雇かいこされる前日に、オルニの酒場で一緒に酒を飲み、冒険者ギルドで依頼達成の手続きや新規受注の手続きをしたのだ。その傍で「西の魔狼王」の一派が住んでいて、魔狼王本人が酒場に酒を飲みに来ているなど、思わないだろう。俺だって思わなかった。
 表情を動かせないままで、しかしショックを受けている様子のナタリアに、リーアが魔狼の姿のままでそっと顔を寄せた。

「そういうこと。残念だったね勇者さま? 勇者さまがジュリオを手放したばっかりに、あたしが貰うことになって、ジュリオはフェンリルの力を手に入れたのよ」
「……!! ……!!」
「リーア、やめとけ。あんまりこいつをあおってもしょうがない」

 にんまりと笑いながらナタリアをからかうリーアに、ナタリアが自由にならない身体を僅かに震わせた。きっと、心の中は嵐のように大荒れだろう。ウルフごときに・・・・ここまで言われて何も言い返せないのだから。
 リーアをそっとなだめながら、俺もナタリアを見下ろす。その瞳はどうしたって、冷たい色を帯びた。

「だけどな、ナタリア。俺は人間を辞めこそしたけど冒険者だ。ブラマーニのギルドに置いてる籍はまだ有効だし、ヤコビニのギルドでパーティーも結成している。魔物扱いされて攻撃されたら、俺はお前を『内乱発生者・・・・・』として告発しないとならなくなる」

 そうして、開きっぱなしの口で文字通り土を噛んだナタリアへと、淡々と俺は事実を告げた。その言葉を聞いて、ナタリアの瞳から僅かに色が消える。
 構成員同士の争いは、どの国の冒険者ギルドも固く禁じている。もし互いに剣を向け合うようなことがあったら、居合わせた全ての冒険者が殺さない範囲で・・・・・・・全力を以て・・・・・止めることを要求される。
 今回のベニアミンとマリサの魔法行使も、全く、一つも、間違ったことはしていないのだ。
 俺はしゃがみ込んで、ナタリアの顔を覗き込みながら言った。こちらをにらむ彼女の目を、まっすぐ見ながら。

「そうなったら、お前、いくら『勇者』だと言っても処罰はまぬかれないぞ? 称号剥奪はくだつ、降格、懲罰房ちょうばつぼう行き……最悪、ギルド追放だってあり得るんだ。それは、お前だっていやだろ?」
「……」

 俺の言葉に、ナタリアは返事を返せない。この状況になってもベニアミンの「捕縛バインド」は解除される様子はなかった。彼の実力を疑うわけではないが、よくこれだけ維持を出来るものである。

「それにな」
「っ!?」

 話しながら、俺は人化転身を一部解く。狼の獣人ファーヒューマンの姿になって、口をあんぐり開けた俺は、ナタリアの顔を、べろりと大きくなめ回した。
 ナタリアの喉が、かすれた音を立てる。

「勘違いするなよ、俺はお前なんか、一齧ひとかじりで殺せるんだ。お前が何百何千と斬ろうと、俺の毛一本も斬れないんだ。肝に銘じておけ」
「……!!」

 俺の言葉に、ナタリアの喉の奥で、悲痛な音が漏れ出た。
 叫びたいだろう、喚きたいだろう。しかしそれは、彼女の仲間が許してくれない。
 涙を流し始めるナタリアの硬直した身体を、イバンがそっと抱き上げて、肩にかつぐ。
 
「もういいだろう、ナタリア……行くぞ。ジュリオ、邪魔したな」
「いいや、こっちこそ」

 俺を止めるのでなく、ナタリアを止める。その辺りからも、彼女が何をしようとしたかが分かるだろう。
 立ち上がって、苦笑を返す。そうしてイバンがあごをしゃくると、他の三人もジェミト森林の方に向かって歩き出した。
 森の中に戻っていく間際。イバンが立ち止まって、小さく振り返る。

「最後に一つだけ教えてほしい……ジュリオ。お前は獄王を殺すのか、それとも守るのか?」

 その言葉に、目を見張る俺だ。それを問われるとは、思ってもいなかった。
 しかし、逆に言えば、ここではっきり言っておかなくてはならないだろう。俺は静かに、笑いながら告げる。

「言っただろ、俺は魔物である前に冒険者だ。冒険者として、イデオンの首を狙う。『白き天剣ビアンカスパーダ』や他の冒険者パーティーとは別に、な」
「……そうか」

 俺の答えを聞いて、イバンが小さく笑みをこぼす。そうして再び前を向いた彼は、ジェミト森林の中へと消えていった。
 彼らが立ち去っているのは、足音でもわかる。ようやく身体の力を抜き、人化転身したリーアが耳元を掻いた。

「思ってたより、ダメな人だったね、あの勇者さま」
「全くだ。ブラマーニ王国の者共も見る目がない」
「ふっ……」

 アンブロースの言葉に、思わず苦笑が漏れる俺だ。本当に、アルヴァロ先生もブラマーニ王国の宰相さいしょうたちも、人を見る目がないと思う。
 とはいえ、実力はあるのだ、あんな勇者くずれでも。

「まあ、そうは言うけどな……あれでも剣の腕前は一流なんだぞ、光魔法も第七位階まで使えるし」
「へー」
「あんなのが……」

 俺の説明に、はーっと息を吐くリーアとアンブロース。と、そこにまた土を踏む音が聞こえてきた。今度はピスコの村の方からだ。

「あ、あのぉ、魔狼王様?」
「んっ」

 声をかけられ、目を向けると、そこにはピスコの村に常駐するギルド出張所の職員がいた。手には魔法印のされた巻紙を携えている。

「あ、あぁ、ピスコの村の。何か?」
「はい、そのぉ、オルニの支部から伝書鷹レターホークが来ましてぇ……」

 少し間延びのした口調で、冷や汗をかきながら巻紙を差し出す職員。
 それを受け取り、ナイフで封を切ると。
 そこには「『双子の狼ルーポジェメリ』 Bランク昇格決定」の文字が、でかでかと記されていたのである。
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