39 / 72
第3章 邂逅と恐怖
第36話 着ぐるみ士、神獣を助ける
しおりを挟む
状況確認をしたところで、俺たちは早速やるべきことに取り掛かる。まずは、一にも二にもフェニックスの救出だ。
「とりあえず、まずはフェニックスを峡谷の中から出さないとならないな」
「ああ、このままあそこに留まらせていれば、確実に死に至る」
「うん、ヒナも全部助けないと!」
アンブロースもリーアも、その点については異論はない。そこは冒険者たちも同意見のようで、ノーラが腕組みしながらうなずいた。
「ええ、まずはそれが最優先。だけど、どうやって助けるか? それが問題なのよ」
彼女の言葉に、俺とリーアも神妙な顔になる。
俺たちが到着するまでの間、彼ら六人もただ何もせずに過ごしていたわけではない。彼らは彼らでフェニックス一家を助けようとして、しかし為せなかったのだ。
アルフィオが力なく頭を左右に振りつつ口を開く。
「フェニックスは、峡谷の崖の途中に巣を作っています……上からロープを垂らしてそこまで降りても、フェニックスを引き上げる手段が、ありません」
「身体にロープを巻き付けようにも、炎で燃えてしまうしね……人間が抱えられる大きさ、重さではないし。だから、悩んでいるの」
ミルカも困ったように肩をすくめてため息をついた。
フェニックスは、翼を畳んだ状態でも身体の幅が3メートルに達し、体重も80キログラムに届く、世界最大級の鳥類だ。当然、人間が持ち上げて運ぶなんてどだい無理な相手である。
峡谷の上から巣を覗き込んでも、その大きさがありありと分かる。眼下を見下ろしながら、俺は小さく唸った。
「うーん……魔狼姿でなら引き上げられるかもしれないけど、降りるにはスペースが足りないな。人間の姿で降りないと」
フェニックスの巣がある場所は峡谷の崖にわずか張り出した出っ張りの上にある。フェニックスの身体を支えるにはちょうどいい広さだが、魔狼姿でそこに降りるにはスペースが足りないし、体重を支えられないだろう。
どうすれば助けられるか、悩む俺の隣でリーアが首を傾げる。
「ジュリオ、風魔法でどうにかならないかな? 空を飛ぶ魔法、あるでしょ」
「それにあんた、空を飛べる着ぐるみあるでしょ。レッドドラゴン」
一緒にノーラも片方の口角を持ち上げながら言ってきた。
確かに風魔法には第七位階に飛翔という、自由自在に空を飛ぶ魔法がある。それを使えば峡谷途中の巣まで降りるどころか、峡谷の底まですぐに降りることが出来るが、今は魔力枯渇の最中。魔力が足りなくなって、飛べなくなった、ではどうしようもないのだ。
レッドドラゴンの着ぐるみは確かに空を飛ぶことが出来るが、先にも言った通り人間が持ち上げて飛ぶなんて無理な相手。降りられても引き上げられないのだ。
「まあ、飛翔は使えるけれど、魔力枯渇が起こっている中だし……あの着ぐるみで降りられたとしても持ち上げて飛べないしな。アンブロース、何とかならないか?」
俺が傍らのアンブロースへと声をかけると、彼女はうなずきつつ身を低くした。背中に乗れ、ということらしい。その姿勢のままにやりと笑う彼女だ。
「なるとも、私ならわけもないことだ。だが不死鳥たちを運ぶのは、貴様らにやってもらうからな」
「分かってるよ」
「飛ぶのに集中しないとだもんね、アンブロースさん」
そう言ってのける彼女の背中へと、いそいそとまたがる俺とリーア。
全く何でもないことのように救出をやり始めようという俺達を見て、冒険者たちが途端に困惑顔で声をかけてきた。
「ちょ、ちょっと、アンタたち、まさか自分たちだけで引き上げようって言うの!?」
「無茶だ、あんなに大きいんだぞ!? しかも魔法があまり使えない中で……」
ノーラとトーマスが先んじて俺たちを引き留め、考え直させようとしてくるが、俺はすぐに首を左右に振った。
そう、魔力枯渇があるから、飛翔で慎重に降りることは出来ない。それは俺たちも、よくよく分かっているのだ。
「魔法が使えないからこそ、アンブロースに頼るしかないんですよ。彼女の背中に乗れる人数にも限りがあるし、皆は引き上げたフェニックスやヒナ達の体温確保をお願いします」
そう言いながら、俺はアンブロースの身体にしっかりしがみつく。後ろでリーアも、アンブロースの身体に引っ付いた。
俺たちの準備が出来たことを確認したアンブロースが、力いっぱい吼える。
「では行くぞ、貴様ら全員、目をつむれ!」
彼女が言うや、目を焼くような閃光がほとばしった。
目をつむっていてもなお眩しい。アンブロースとの戦闘で彼女が雷電爆破を使った時と同じか、それ以上だ。
そして俺の手に伝わる、電気のバチバチとした刺激。
「わっ!?」
冒険者たちが驚きの声を上げるのが聞こえる。光が収まったのを確認して目を開くと、俺とリーアがまたがるアンブロースの身体が、黄金色に光り輝いていた。その上で全身から、絶えず電光が散っている。
まさしく、雷そのものと化したアンブロースの身体を、俺は軽く叩く。
「行けそうだな。頼むぞ」
「よし、振り落とされるなよ!」
次の瞬間、身体が思いっきり後方に引っ張られる。アンブロースが雷のような速度で空中に飛び出したのだ。
そのまま直角に方向を変え、彼女は一瞬で峡谷の中に飛び込んでいく。
峡谷の上に取り残された冒険者たちが、呆気に取られながら発する声が聞こえた。
「あ、あれが……」
「生きた雷に姿を変える雷獣王の秘技、雷化転身……」
そう、アンブロースの持つスキル、雷化転身だ。全身を雷へと変えて、雷のごとき移動速度と攻撃力を発揮する、サンダービーストの奥の手である。もし俺が彼女と従魔契約を結んでいなかったら、一瞬で肉体が焼け焦げていたであろうと思うと、本当に味方でよかったと思う。
雷そのものになるので、空中もやすやすと移動できる。さらには空中で留まることもできるようになる。そして味方に雷でダメージを与えることはなく、おまけに肉体を失うわけではないので背に乗れる。魔法の力を使わずにフェニックスを助けるには、これが最適なのだ。
数秒もしないうちに、俺達は峡谷の中ほどにある、張り出した岩の上に作られたフェニックスの巣の前に来ていた。
「ここか……」
「ホーデリフェ、目を覚ませ」
アンブロースが、巣の上でうずくまるようにして目を閉じているフェニックスの名前を呼ぶ。果たして、不死鳥――ホーデリフェはうっすらと目を開けて、目の前にいる生きた雷の姿に、はっとしたように息を吸い込んだ。
「うう……あ、アンブロース? あなたが、何故ここに……」
「話は後だ、そこにいては命に関わるぞ。私たちがお前と子供たちを運ぶから、巣の上から一旦退け」
有無を言わせずにホーデリフェへと告げるアンブロースに、容赦の色はない。うずくまっていた彼女がそっと大きな翼を広げ、木の枝を編んで作られた巣の上から身体を退けると、その中では五羽のヒナが、これまた小さく縮こまって収まっていた。
衰弱しているが、いずれも息はある。そのことにほっと安堵の息を吐く俺に、アンブロースが呼びかけた。
「よし、二人とも、まずはヒナから運ぶぞ。私の上に巣を乗せろ」
「これをそのままか? リーア、反対側を持ってくれ」
「うん」
彼女の言葉に従い、俺とリーアが巣を持ち上げる。木の枝で出来た巣とは言っても、その大きさは両手で抱えて余りある。二人で協力してそれを運ぶ俺たちを、ホーデリフェが不思議そうな目で見ていた。
「彼らは……冒険者……?」
「冒険者であり、神獣でもある。『西の魔狼王』ルングマールに連なる者達だ」
彼女たちの会話を横に聞きながら、俺とリーアはアンブロースの背中に巣を乗せる。すると静かに立ち上がった彼女が、くいと顎をしゃくった。
「よし、乗せたな? リーア、そのまま巣が落ちないよう押さえていろ。ジュリオはホーデリフェの身体を持ち上げて待っていろ、すぐ戻る」
「も、持ち上げてって、この身体で!? というか待てよ、自力で持ち上げろってのか!?」
彼女の言葉に目を見開く俺だ。人間の体でフェニックスを持ち上げて待て、なんて、無茶を言ってくるものである。しかも炎をまき散らす鳥を、生身で持ち上げろ、なんて。
しかしアンブロースは気にする様子もない。俺の着ぐるみをつつきながら、ふんと鼻息を鳴らした。
「心配するな、貴様は魔狼王であろうが。人化していようとその腕力が失われることはない。炎も貴様なら好き勝手に操れよう。気にせず持ち上げろ」
「ええ……」
そう言って、彼女はさっさと峡谷の上へと消えていく。後には俺と、相変わらず具合の悪そうなホーデリフェが残された。
確かに炎は気にする必要もないし、俺のSTRなら余裕で持ち上げられるだろうが、体格差は如何ともし難い。バランスをどうやって取れというのだ。
ホーデリフェが申し訳無さそうに俺の顔を見る。
「すみません……自力で、身体を持ち上げられれば、よいのですが……」
「あ、いや、気にしないでください……失礼します。炎よ踊れ、闇の中の道を照らせ! 火炎操作!」
一言断りを入れながら、俺は炎魔法第五位階、火炎操作を発動した。周囲の炎を自在に操るこの魔法で、フェニックスから発する炎を彼女の頭上に集めていく。本来なら二節省略しても十分使えるだろうが、魔力が不足しがちな状況。一節の省略に留める。
炎が上に集まったことを確認し、俺は彼女の身体の下に自分の身体をねじ込んだ。羽毛のボリュームがあるため、思っていた以上に体を入れるスペースはある。
そうしてホーデリフェの足元まで移動し、両手を彼女の肉体に押し当てる。
「んーーーっ、よっ、こいっ、せっ!!」
「きゃ……!?」
そこからぐっと両膝に力を入れて体を持ち上げると、存外軽々と、ホーデリフェの身体が持ち上がった。その身体もぽかぽかしているものの、触れられない熱さではない。しかし思っていたよりも、あっさりと持ち上がったものだ。
「あれ?」
「す、すごい……人間に、自力で持ち上げられるなんて、初めてです……」
ぽかんとする俺に対し、持ち上げられた当の本人は目を白黒させている。そりゃそうだ、フェニックスの成体を持ち上げられる人間が、この世の中にいてたまるか。
リーアと巣を上に置いて戻ってきたアンブロースが、呆れたような目で俺を見ている。
「ほれ見ろ、造作もないことであっただろう」
「まぁ、そうだけど……いいか、乗るぞ」
ともあれ、ホーデリフェを持ち上げたまま俺はアンブロースの背に乗った。それまでよりもゆっくりと上昇する彼女の力を借りて、俺は峡谷の上にその巨体を運んでいく。
そして、ホーデリフェの姿が峡谷の上に見えたところで。
「お待たせ」
「え……」
冒険者の六人が唖然とした表情で、ホーデリフェと、その体を両手で支える俺を見やった。
直後。
「「えぇぇぇぇーっ!?」」
絶叫とも言える驚愕の声が、ザンドナーイ峡谷に響き渡った。
「ステータスもバケモノなら、腕力もバケモノじゃない……」
「飛べない成体のフェニックスを、炎を操った上で、一人で持ち上げるなんて……」
「とんでもないな、魔狼王って……」
呆れと恐れを半々に含んだ声で、俺のやってのけたことを話す冒険者達。
峡谷から救い出されても未だぐったりとしているホーデリフェを労りながら、俺は着ぐるみの頭の中で複雑な表情をこぼしていた。
「とりあえず、まずはフェニックスを峡谷の中から出さないとならないな」
「ああ、このままあそこに留まらせていれば、確実に死に至る」
「うん、ヒナも全部助けないと!」
アンブロースもリーアも、その点については異論はない。そこは冒険者たちも同意見のようで、ノーラが腕組みしながらうなずいた。
「ええ、まずはそれが最優先。だけど、どうやって助けるか? それが問題なのよ」
彼女の言葉に、俺とリーアも神妙な顔になる。
俺たちが到着するまでの間、彼ら六人もただ何もせずに過ごしていたわけではない。彼らは彼らでフェニックス一家を助けようとして、しかし為せなかったのだ。
アルフィオが力なく頭を左右に振りつつ口を開く。
「フェニックスは、峡谷の崖の途中に巣を作っています……上からロープを垂らしてそこまで降りても、フェニックスを引き上げる手段が、ありません」
「身体にロープを巻き付けようにも、炎で燃えてしまうしね……人間が抱えられる大きさ、重さではないし。だから、悩んでいるの」
ミルカも困ったように肩をすくめてため息をついた。
フェニックスは、翼を畳んだ状態でも身体の幅が3メートルに達し、体重も80キログラムに届く、世界最大級の鳥類だ。当然、人間が持ち上げて運ぶなんてどだい無理な相手である。
峡谷の上から巣を覗き込んでも、その大きさがありありと分かる。眼下を見下ろしながら、俺は小さく唸った。
「うーん……魔狼姿でなら引き上げられるかもしれないけど、降りるにはスペースが足りないな。人間の姿で降りないと」
フェニックスの巣がある場所は峡谷の崖にわずか張り出した出っ張りの上にある。フェニックスの身体を支えるにはちょうどいい広さだが、魔狼姿でそこに降りるにはスペースが足りないし、体重を支えられないだろう。
どうすれば助けられるか、悩む俺の隣でリーアが首を傾げる。
「ジュリオ、風魔法でどうにかならないかな? 空を飛ぶ魔法、あるでしょ」
「それにあんた、空を飛べる着ぐるみあるでしょ。レッドドラゴン」
一緒にノーラも片方の口角を持ち上げながら言ってきた。
確かに風魔法には第七位階に飛翔という、自由自在に空を飛ぶ魔法がある。それを使えば峡谷途中の巣まで降りるどころか、峡谷の底まですぐに降りることが出来るが、今は魔力枯渇の最中。魔力が足りなくなって、飛べなくなった、ではどうしようもないのだ。
レッドドラゴンの着ぐるみは確かに空を飛ぶことが出来るが、先にも言った通り人間が持ち上げて飛ぶなんて無理な相手。降りられても引き上げられないのだ。
「まあ、飛翔は使えるけれど、魔力枯渇が起こっている中だし……あの着ぐるみで降りられたとしても持ち上げて飛べないしな。アンブロース、何とかならないか?」
俺が傍らのアンブロースへと声をかけると、彼女はうなずきつつ身を低くした。背中に乗れ、ということらしい。その姿勢のままにやりと笑う彼女だ。
「なるとも、私ならわけもないことだ。だが不死鳥たちを運ぶのは、貴様らにやってもらうからな」
「分かってるよ」
「飛ぶのに集中しないとだもんね、アンブロースさん」
そう言ってのける彼女の背中へと、いそいそとまたがる俺とリーア。
全く何でもないことのように救出をやり始めようという俺達を見て、冒険者たちが途端に困惑顔で声をかけてきた。
「ちょ、ちょっと、アンタたち、まさか自分たちだけで引き上げようって言うの!?」
「無茶だ、あんなに大きいんだぞ!? しかも魔法があまり使えない中で……」
ノーラとトーマスが先んじて俺たちを引き留め、考え直させようとしてくるが、俺はすぐに首を左右に振った。
そう、魔力枯渇があるから、飛翔で慎重に降りることは出来ない。それは俺たちも、よくよく分かっているのだ。
「魔法が使えないからこそ、アンブロースに頼るしかないんですよ。彼女の背中に乗れる人数にも限りがあるし、皆は引き上げたフェニックスやヒナ達の体温確保をお願いします」
そう言いながら、俺はアンブロースの身体にしっかりしがみつく。後ろでリーアも、アンブロースの身体に引っ付いた。
俺たちの準備が出来たことを確認したアンブロースが、力いっぱい吼える。
「では行くぞ、貴様ら全員、目をつむれ!」
彼女が言うや、目を焼くような閃光がほとばしった。
目をつむっていてもなお眩しい。アンブロースとの戦闘で彼女が雷電爆破を使った時と同じか、それ以上だ。
そして俺の手に伝わる、電気のバチバチとした刺激。
「わっ!?」
冒険者たちが驚きの声を上げるのが聞こえる。光が収まったのを確認して目を開くと、俺とリーアがまたがるアンブロースの身体が、黄金色に光り輝いていた。その上で全身から、絶えず電光が散っている。
まさしく、雷そのものと化したアンブロースの身体を、俺は軽く叩く。
「行けそうだな。頼むぞ」
「よし、振り落とされるなよ!」
次の瞬間、身体が思いっきり後方に引っ張られる。アンブロースが雷のような速度で空中に飛び出したのだ。
そのまま直角に方向を変え、彼女は一瞬で峡谷の中に飛び込んでいく。
峡谷の上に取り残された冒険者たちが、呆気に取られながら発する声が聞こえた。
「あ、あれが……」
「生きた雷に姿を変える雷獣王の秘技、雷化転身……」
そう、アンブロースの持つスキル、雷化転身だ。全身を雷へと変えて、雷のごとき移動速度と攻撃力を発揮する、サンダービーストの奥の手である。もし俺が彼女と従魔契約を結んでいなかったら、一瞬で肉体が焼け焦げていたであろうと思うと、本当に味方でよかったと思う。
雷そのものになるので、空中もやすやすと移動できる。さらには空中で留まることもできるようになる。そして味方に雷でダメージを与えることはなく、おまけに肉体を失うわけではないので背に乗れる。魔法の力を使わずにフェニックスを助けるには、これが最適なのだ。
数秒もしないうちに、俺達は峡谷の中ほどにある、張り出した岩の上に作られたフェニックスの巣の前に来ていた。
「ここか……」
「ホーデリフェ、目を覚ませ」
アンブロースが、巣の上でうずくまるようにして目を閉じているフェニックスの名前を呼ぶ。果たして、不死鳥――ホーデリフェはうっすらと目を開けて、目の前にいる生きた雷の姿に、はっとしたように息を吸い込んだ。
「うう……あ、アンブロース? あなたが、何故ここに……」
「話は後だ、そこにいては命に関わるぞ。私たちがお前と子供たちを運ぶから、巣の上から一旦退け」
有無を言わせずにホーデリフェへと告げるアンブロースに、容赦の色はない。うずくまっていた彼女がそっと大きな翼を広げ、木の枝を編んで作られた巣の上から身体を退けると、その中では五羽のヒナが、これまた小さく縮こまって収まっていた。
衰弱しているが、いずれも息はある。そのことにほっと安堵の息を吐く俺に、アンブロースが呼びかけた。
「よし、二人とも、まずはヒナから運ぶぞ。私の上に巣を乗せろ」
「これをそのままか? リーア、反対側を持ってくれ」
「うん」
彼女の言葉に従い、俺とリーアが巣を持ち上げる。木の枝で出来た巣とは言っても、その大きさは両手で抱えて余りある。二人で協力してそれを運ぶ俺たちを、ホーデリフェが不思議そうな目で見ていた。
「彼らは……冒険者……?」
「冒険者であり、神獣でもある。『西の魔狼王』ルングマールに連なる者達だ」
彼女たちの会話を横に聞きながら、俺とリーアはアンブロースの背中に巣を乗せる。すると静かに立ち上がった彼女が、くいと顎をしゃくった。
「よし、乗せたな? リーア、そのまま巣が落ちないよう押さえていろ。ジュリオはホーデリフェの身体を持ち上げて待っていろ、すぐ戻る」
「も、持ち上げてって、この身体で!? というか待てよ、自力で持ち上げろってのか!?」
彼女の言葉に目を見開く俺だ。人間の体でフェニックスを持ち上げて待て、なんて、無茶を言ってくるものである。しかも炎をまき散らす鳥を、生身で持ち上げろ、なんて。
しかしアンブロースは気にする様子もない。俺の着ぐるみをつつきながら、ふんと鼻息を鳴らした。
「心配するな、貴様は魔狼王であろうが。人化していようとその腕力が失われることはない。炎も貴様なら好き勝手に操れよう。気にせず持ち上げろ」
「ええ……」
そう言って、彼女はさっさと峡谷の上へと消えていく。後には俺と、相変わらず具合の悪そうなホーデリフェが残された。
確かに炎は気にする必要もないし、俺のSTRなら余裕で持ち上げられるだろうが、体格差は如何ともし難い。バランスをどうやって取れというのだ。
ホーデリフェが申し訳無さそうに俺の顔を見る。
「すみません……自力で、身体を持ち上げられれば、よいのですが……」
「あ、いや、気にしないでください……失礼します。炎よ踊れ、闇の中の道を照らせ! 火炎操作!」
一言断りを入れながら、俺は炎魔法第五位階、火炎操作を発動した。周囲の炎を自在に操るこの魔法で、フェニックスから発する炎を彼女の頭上に集めていく。本来なら二節省略しても十分使えるだろうが、魔力が不足しがちな状況。一節の省略に留める。
炎が上に集まったことを確認し、俺は彼女の身体の下に自分の身体をねじ込んだ。羽毛のボリュームがあるため、思っていた以上に体を入れるスペースはある。
そうしてホーデリフェの足元まで移動し、両手を彼女の肉体に押し当てる。
「んーーーっ、よっ、こいっ、せっ!!」
「きゃ……!?」
そこからぐっと両膝に力を入れて体を持ち上げると、存外軽々と、ホーデリフェの身体が持ち上がった。その身体もぽかぽかしているものの、触れられない熱さではない。しかし思っていたよりも、あっさりと持ち上がったものだ。
「あれ?」
「す、すごい……人間に、自力で持ち上げられるなんて、初めてです……」
ぽかんとする俺に対し、持ち上げられた当の本人は目を白黒させている。そりゃそうだ、フェニックスの成体を持ち上げられる人間が、この世の中にいてたまるか。
リーアと巣を上に置いて戻ってきたアンブロースが、呆れたような目で俺を見ている。
「ほれ見ろ、造作もないことであっただろう」
「まぁ、そうだけど……いいか、乗るぞ」
ともあれ、ホーデリフェを持ち上げたまま俺はアンブロースの背に乗った。それまでよりもゆっくりと上昇する彼女の力を借りて、俺は峡谷の上にその巨体を運んでいく。
そして、ホーデリフェの姿が峡谷の上に見えたところで。
「お待たせ」
「え……」
冒険者の六人が唖然とした表情で、ホーデリフェと、その体を両手で支える俺を見やった。
直後。
「「えぇぇぇぇーっ!?」」
絶叫とも言える驚愕の声が、ザンドナーイ峡谷に響き渡った。
「ステータスもバケモノなら、腕力もバケモノじゃない……」
「飛べない成体のフェニックスを、炎を操った上で、一人で持ち上げるなんて……」
「とんでもないな、魔狼王って……」
呆れと恐れを半々に含んだ声で、俺のやってのけたことを話す冒険者達。
峡谷から救い出されても未だぐったりとしているホーデリフェを労りながら、俺は着ぐるみの頭の中で複雑な表情をこぼしていた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~
柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」
テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。
この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。
誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。
しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。
その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。
だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。
「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」
「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」
これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語
2月28日HOTランキング9位!
3月1日HOTランキング6位!
本当にありがとうございます!
親友と婚約者に裏切られ仕事も家も失い自暴自棄になって放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました
空地大乃
ファンタジー
ダンジョンが日常に溶け込んだ世界――。
平凡な会社員の風間は、身に覚えのない情報流出の責任を押しつけられ、会社をクビにされてしまう。さらに、親友だと思っていた男に婚約者を奪われ、婚約も破棄。すべてが嫌になった風間は自暴自棄のまま山へ向かい、そこで人々に見捨てられた“放置ダンジョン”を見つける。
どこか自分と重なるものを感じた風間は、そのダンジョンに住み着くことを決意。ところが奥には、愛らしいモンスターたちがひっそり暮らしていた――。思いがけず彼らに懐かれた風間は、さまざまなモンスターと共にダンジョンでのスローライフを満喫していくことになる。
辻ヒーラー、謎のもふもふを拾う。社畜俺、ダンジョンから出てきたソレに懐かれたので配信をはじめます。
月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
ブラック企業で働く社畜の辻風ハヤテは、ある日超人気ダンジョン配信者のひかるんがイレギュラーモンスターに襲われているところに遭遇する。
ひかるんに辻ヒールをして助けたハヤテは、偶然にもひかるんの配信に顔が映り込んでしまう。
ひかるんを助けた英雄であるハヤテは、辻ヒールのおじさんとして有名になってしまう。
ダンジョンから帰宅したハヤテは、後ろから謎のもふもふがついてきていることに気づく。
なんと、謎のもふもふの正体はダンジョンから出てきたモンスターだった。
もふもふは怪我をしていて、ハヤテに助けを求めてきた。
もふもふの怪我を治すと、懐いてきたので飼うことに。
モンスターをペットにしている動画を配信するハヤテ。
なんとペット動画に自分の顔が映り込んでしまう。
顔バレしたことで、世間に辻ヒールのおじさんだとバレてしまい……。
辻ヒールのおじさんがペット動画を出しているということで、またたくまに動画はバズっていくのだった。
他のサイトにも掲載
なろう日間1位
カクヨムブクマ7000
【土壌改良】で死の荒野がSランク農園に!食べただけでレベルアップする野菜で、世界最強ギルド設立
黒崎隼人
ファンタジー
「え? これ、ただのトマトですよ?」
「いいえ、それは食べただけで魔力が全回復する『神の果実』です!」
ブラック企業で働き詰めだった青年は、異世界の名門貴族の三男・ノアとして転生する。
しかし、授かったスキルは【土壌改良】という地味なもの。
「攻撃魔法も使えない役立たず」と罵られ、魔物すら寄り付かない死の荒野へ追放されてしまう。
だが、彼らは知らなかった。
ノアのスキルは、現代の農業知識と合わせることで、荒れ果てた土地を「Sランク食材」が溢れる楽園に変えるチート能力だったことを!
伝説の魔獣(もふもふ)をキュウリ一本で手懐け、行き倒れた天才エルフを極上スープで救い出し、気づけば荒野には巨大な「農業ギルド」が誕生していた。
これは、本人がただ美味しい野菜を作ってのんびり暮らしたいだけなのに、周囲からは「世界を救う大賢者」と崇められてしまう、無自覚・最強の農業ファンタジー!
猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る
マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。
ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜
双葉 鳴
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」
授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。
途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。
ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。
駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。
しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。
毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。
翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。
使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった!
一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。
その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。
この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。
次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。
悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。
ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった!
<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流@3/19書籍発売!
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる