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第4章 魔王と英雄

第48話 着ぐるみ士、格の違いを知る

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 そのままアルヴァロとギュードリンに、これまでの旅の道中やら戦ってきた魔物の話やらをしていると、不意にギュードリンが俺の顔をまじまじと見てきた。

「ふうん……ジュリオ君だっけ。ちょっとステータス見せてごらん」
「はい……『ステータス』」

 言われるがままに、俺は自分のステータス画面を表示させる。ジャンピエロで能力鑑定をしてからいろいろあったから、レベルも上がっているだろう。そんなことを思いながら表示させた俺のステータスは、以下の通りだ。

 =====
 ジュリオ・ビアジーニ(着ぐるみ士キグルミスト調教士テイマー
 年齢:21
 種族:人間ウマーノ魔狼王フェンリル
 性別:男

 レベル:262
 HP体力:81200/81200
 MP魔法力:29030/29030
 ATK攻撃力:21180(+5350)
 DEF防御力:16950

 STR筋力:18635(+5360)(+1500)
 VIT生命力:23081(+7240)
 DEX器用さ:9849(+1745)
 AGI素早さ:26249(+6970)(+850)
 INT知力:15082(+5560)
 RES抵抗力:20106(+5770)
 LUK:8537(+2900)

 スキル:
 魔獣語5、竜語4、精霊語3、魔族語4、精霊親和5、神霊親和5、炎魔法10、風魔法10、大地魔法10、光魔法10、毒無効5、麻痺無効5、混乱無効5、即死無効5、調教(魔獣)5、調教(神獣)5、多重契約3、魔狼王の威厳、魔王の血脈(獣)、魔狼転身、人化転身、獣神憑依、対人融和、神霊融和、環境遮断3、魔物鑑定3、人間鑑定3、道具収納5、着ぐるみ換装5、着ぐるみ洗浄
 =====

「んなっ……!?」
「ほーう」
「……あー」

 前回の鑑定の時と比べ、精霊語のスキルが3に上昇し、即死無効のスキルが追加されている。これはティルザとの契約が影響しているだろう。
 そしてこれを見た途端に、アルヴァロの顎が文字通り外れた。もう綺麗にストンと外れた。
 それはそうだろう、こんなとんでもないステータス、見て驚かないはずがない。これまで「人類最強」の名を欲しいままにしてきた彼だから、余計にそうだ。魔狼王フェンリルになった俺を人類最強と呼べるのかどうか、議論の余地はあるだろうけれど。
 とにかく、あわあわしながら俺に指を突き付けてくる『八刀』の勇者である。

「なんっ、は、こ、これは、どういう」
「アルヴァロ、落ち着いて、落ち着いて。私のステータス・・・・・・・と大差ないだろ」

 そう言いながら彼をなだめるギュードリン。その言葉にはアルヴァロと違って落ち着きが見て取れる。彼女の言葉を借りるなら、「自分と大差ないステータス」の持ち主。それは焦りも戸惑いもしないだろう。
 実際、俺も同じよう話は前に冒険者ギルドで聞いたことがある。恐る恐る、彼女に問いかけた。

「前に、ヤコビニの冒険者ギルドでこのステータスが『ギュードリンさんと並び立つくらい』と伺いましたけど、それって……」

 そう声をかけると、にっこり笑ったギュードリンが何でもないことのように言い放つ。

「『人化封身じんかふうしんした時の』私のステータスと同等だね。冒険者ギルドには封身した状態の・・・・・・・ステータスを登録しているから、まぁ間違いじゃない」
「えっ」

 その言葉に俺はぎょっとした。せざるを得なかった。
 人化封身。人化転身と異なり、自分の能力に制限をかけつつ人間に姿を変えるスキルだ。「転身てんしん」はいわゆる変身で、その種類による難易度の差こそあれ高ランクの魔物の誰しもが何かしらの形で身に付けている技術だが、「封身ふうしん」は精霊や神霊クラスでないと習得できない……というより、習得する必要がない・・・・・スキルだ。
 何故か。封身するとステータスが、半分から三分の一くらいにまで下がるのだ。リーアが自分の力を取り出して着ぐるみを作った時と同じくらい、ステータスに制約を受ける。そんなことやったら、神獣クラスですら酔狂者と笑われるだろう。
 もう一度言う。ギュードリンは、封身した状態で・・・・・・・、俺と同等なのだ。
 アンブロースがげっそりしたような表情を見せた。彼女は俺達の中で一番年長だ。ギュードリンの恐ろしさも骨身に染みて分かっている。

「分かるだろうジュリオ、このお方の凄まじさが……封身していてすらこれなのだぞ。封身を解いたらどれ程のステータスになるか、考えるだけでも恐ろしい」
「うっわ……」

 俺もそのことを考えて、全身の毛が逆立つのを感じた。
 今のステータスの、二倍から三倍。今の俺のステータスだって現役冒険者の中ではぶっちぎりで高いのだ。それが、二倍から三倍の値になるだなんて。そんなの、化け物を通り越していっそ創作物だ。
 と、青ざめる俺にギュードリンがとんでもないことを言いだした。

「見てみるかい」
「えっ」

 あまりにもあっさりと申し出られたその言葉に、俺の頭が一瞬停止する。
 見せられるのか? ギュードリンの本気の・・・ステータスを? ここで?
 だが、俺が困惑するより先にアルヴァロが慌てだした。ソファから立ち上がってギュードリンの肩をしっかとつかむ。

「ちょっ、待てギュードリン、貴様、ここで封身を解こうというのか!? やめろやめろ、学舎が壊れる!!」

 涙を目の端に溜めるアルヴァロに、俺はひそかに同情した。そりゃそうだ、こんなところで封身を解こうものなら、解放された魔力の余波でこの建物が吹っ飛ぶだろう。
 だが、ギュードリンは動じない。焦るアルヴァロの肩に手を置きながらにっこり笑った。

「心配するな、『かい』を創る」
「『カイ』?」

 彼女の発した、「界」という聞きなれない言葉。何をするのか、と思ったら、ギュードリンの手が軽くアルヴァロの身体を押した。
 彼の手がギュードリンの肩から離れ、少し距離を取った瞬間だ。彼女を取り囲むように円柱型の光が現れた。そしてその光の中の地面が、複雑な紋様を描きながら輝いている。

「なっ!?」
「わっ!?」
「封身の効果を無効にする『界』だ。これで解いた際のステータスを見られる」

 そんなことをあっさり話しながら、光の中でギュードリンは微笑んだ。
 結界、ではない。もっと作りが強固で、もっと世界の在り方を歪めるものだ。
 アルヴァロも俺の前で、口をパクパクさせながら彼女の話を聞いている。どうやら彼自身も、この『界』の存在は知らなかったらしい。
 それはリーアとアンブロースも同様だったようだ。目と口を大きく見開いて、光の中に立つギュードリンを見ている。

「おばあちゃん、すごーい」
「結界どころの騒ぎではないな、これは……」
「すご……魔王ってそんなことも出来るのか……」

 呆気に取られる俺たちを見て、元魔王は小さくため息をつきながら肩をすくめた。

「イデオンのやつはここまでは出来ないよ。自分にバフをかける『界』を創るのが精々だ……うん、よし。『ステータス』」

 そんなことを言いながら、彼女は前方に手をかざす。そして光の外にはみ出すようにして表示された、彼女のステータスが、こうだ。

 =====
 ギュードリン・ファン・エーステレン(魔王モンスター・ロード魔導師ウィザード
 年齢:195
 種族:人間ウマーノ巨天狼マーナガルム
 性別:女

 レベル:512
 HP体力:259300/259300
 MP魔法力:68360/68360
 ATK攻撃力:52700(+8000)(+2000)
 DEF防御力:36390(+2000)

 STR筋力:47205(+8000)(+2000)
 VIT生命力:50921(+8000)
 DEX器用さ:26246(+3000)
 AGI素早さ:52075(+8000)(+1000)
 INT知力:56229(+8000)
 RES抵抗力:50224(+8000)
 LUK:27346(+3000)

 スキル:
 魔獣語5、竜語5、精霊語5、魔族語5、精霊親和5、神霊親和5、炎魔法10、水魔法10、風魔法10、大地魔法10、光魔法10、闇魔法10、根源魔法10、結界魔法10、神魔王、魔王の血脈(獣)、神霊の血脈(土)、創界者、神霊の母、獣王の母、人魔共存の体現者、教導者、魔狼形態、魔王形態、人化転身、小獣転身、人化封身、小獣封身、対人融和、神霊融和、詠唱圧縮5、魔法創出5、魔法検索、魔物鑑定3、人間鑑定3、道具収納5
 =====

 いや、もう、驚きを通り越して呆れるしかない。
 HP体力六桁とかもうバカみたいな話だし、補正値込みのATK攻撃力62,000とか俺ですら一撃死しうるレベルだ。それに加えてINT知力の値の高さ。魔法の威力は推して知るべしと言ったところだろう。
 種族の巨天狼マーナガルムだってとんでもない。魔狼王フェンリルの上位種とも呼ぶべき神獣だ。いや、神霊と言った方が正しいかもしれない。
 実際、これを見て揃ってドン引きしている俺たちである。

「うーわ……」
「な? 桁が違うだろう。これだけの体力を持ちながら、『神魔王』スキルで継続回復もなさるんだぞ」
「チィ……」
「おばあちゃん、こんなにすごいんだー……」

 開いた口がふさがらない俺達に向かって、アルヴァロが力なく頭を振った。その表情には諦めの色が濃い。

「本っ当に、自ら魔王の位を辞してくれて助かったと思っとるよ……こんなのに長々と魔王の椅子に居座られてしまったら、勇者の仕組みも形骸化けいがいかしてしまうわ」
「あっはははは! 言えてるね。私も正直、長いこと魔王の椅子に座りすぎて飽きていたし。魔王の位を明け渡した今の方が、楽しくてしょうがないさ!」

 そんなことをアルヴァロに返しながらギュードリンが、創った『界』から外に出てきた。左手を光の中に突っ込むや、すぐさまその光が細くなって消えていく。あっさりと『界』を創ったり、消したり、本当にとんでもない。
 と、俺はふとあることに気が付いて、小さく眉間にしわを寄せた。

「ところで、ファミリーネームがおありなんですか? リーアは名前だけだった気が……」
「ああ、『ファン・エーステレン』は代々の魔王に受け継がれる称号みたいなものさ。イデオンもこれを名乗っているよ。元々は前魔王の死の後、次の魔王選出にあたって王座と共に引き継がれるものなんだが、私は自分で辞しちゃったからねぇ」

 彼女曰く、「ファン・エーステレン」という称号は魔王の証のようなもので、称号を冠せるのは魔王と後虎院のメンバーのみ。ファミリーネームのようなそれは魔物にとっての憧れで、それ故にギュードリン自治領の魔物はファミリーネームを名乗ることが許されても尚、名前だけで過ごしているのだそうだ。
 それはつまり、彼ら彼女らにとってギュードリンが未だ「」であることの、何よりの証でもある。

「凄いですね……」
「ふふん、だろう?」

 もはやため息しか出ない俺に、ギュードリンが胸を張って返す。
 元がつくけれどやはりこの人は魔王だ、普通じゃない。そんなことを思いながら俺は彼女の話に耳を傾けるのだった。
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