魔狼王(着ぐるみ)が往く!~勇者パーティーから暑苦しいと追放された着ぐるみ士の俺、世界最強のステータスに目覚めたので神獣と一緒に見返します~

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第1章 追放と覚醒

第9話 着ぐるみ士、おつかいに行く

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 テストの内容を伝えられ、承諾した俺は酒場から出て、オルネラ山に向かうべく動き出していた。冒険者ギルドを出たところで、リーアとイレネオが俺に向かって手を振る。

「じゃあジュリオ、いってらっしゃーい」
「頑張ってこいよー」
「はーい」

 二人に返事を返し、山に向かう方の出口に俺は歩いていく。リーアはついてこない、俺一人でだ。俺に対してのテストなんだから、そうもなるが。
 オルニの町を出て、オルネラ山のふもとで足を止めてから、山を見上げて俺は呟いた。

「思ったほど面倒なことを言いつけられなくてよかったけれど……『オルネラ山山頂・・のセージ草を10本採ってきてほしい』かぁ」

 ルチアーノから伝えられたテストの内容は、つまりこうだ。オルネラ山の山頂に生えている、セージ草という薬草を10本、採取して酒場まで持ってきてほしい、とのこと。
 セージ草は薬になる薬草の一種で、乾かして煎じると性能の良い飲み薬ポーションになるのだが、高地にしか生えないという特徴がある。ルチアーノの重要な資金源でもあり、彼はこれをオルネラ山で採取し、町の薬屋に卸すことで生計を立てているのだ。
 それなら冒険者にも採取を依頼すれば、ともなろうものだが、ここでオルネラ山の形状が邪魔をする。麓から中腹まではなだらかで、山越えも比較的容易なのだが、中腹から山頂に向けては切り立った崖が続き、人間ではとてもではないが登れないのだ。
 山の麓から、既に暗いオルネラ山の頂上を見上げながら、俺は呟く。

「山頂に行くとなると……飛ばないとだよな。ほんとに、俺じゃなかったら達成不可能だぞ、こんなの」

 そう、人間の力ではとてもではないが山頂には行けない。しかし、俺は着ぐるみ士キグルミスト。魔物の力を身に着けて戦う冒険者だ。俺は既に保有している四つの着ぐるみの一つを使うべく、スキルを発動させる。

着ぐるみ換装キグルミチェンジ! レッドドラゴン!」

 スキルを発動させて、身にまとうのはレッドドラゴンの着ぐるみだ。
 レッドドラゴンはドラゴンの中では下級の魔物だが、その翼はドラゴンらしく立派なものだ。この着ぐるみにももちろん、その翼は備わっている。
 そしてこれが着ぐるみ士キグルミストの着ぐるみのすごいところだが、この翼で、空を飛ぶことが可能なのだ。魔物の力由来であるため、こんな山の頂上にまでもひとっ飛びである。
 翼をばさりと羽ばたかせ、俺は身体を宙に浮かせる。

「よし、行くか」

 そう言って、俺は大きく翼を動かした。ぐいと持ち上がる俺の身体が、夜の闇の中に浮かぶオルネラ山を登っていく。
 中腹まではなだらかだが、それを超えると一気に傾斜が増すオルネラ山。その山肌を沿うように飛んでいきながら、俺は息を吐いた。

「しかし……ほんとにこの山、中腹までは普通に登れるのに、山頂にかけてはめっちゃ切り立ってるんだもんな。そりゃ、ルチアーノさんもおつかいを頼むか」

 そう呟きながらも、俺はどんどん上へ上へと飛んでいく。だいたい10分ほど飛び続けて、空気も薄くなってきたというところで、俺は山頂の平坦になっている場所に降り立った。

「よし……ん?」

 あとはここでセージ草を探すだけだ、と思っていたのだが、その山頂にもぞりと動く大きな影があった。
 その影が立ち上がり、鋭く光る青い瞳で俺をにらみつけ、地の底から響くような唸り声を上げた。

「グルル……」
「うわマジか、ウルフがこんなところにもいるのかよ」

 そこにいたのはウルフだった。ただの狼と侮るなかれ、この世界のウルフは魔獣種の魔物の中でも上位に位置する、非常に危険で強力な魔物なのだ。
 簡易ステータスを見たところSランク、レベル108。リーアの足元にも及ばないくらいの強さだが、それでも俺一人が相手をするには無理がある。

「くそ、一人で相手するんじゃ……あ」

 こちらにゆっくり近づいてくるウルフに、冷や汗を垂らしながら俺は後ずさる。だが、その瞳の色を見て俺は気が付いた。

「もしかして、このウルフって……」

 オルネラ山はルチアーノさんを筆頭にする、魔狼王フェンリルの縄張りの中心だ。そこに生きるウルフなら、もしかしたらリーアの縁者かもしれない。
 それに、俺のフェンリルの着ぐるみにはこういう時に有用なスキルがいくつかある。すぐに俺は右手を天に掲げた。

着ぐるみ換装キグルミチェンジ! フェンリル!」

 身につけていたレッドドラゴンの着ぐるみがアイテムボックスに格納され、瞬時に俺の身体をフェンリル着ぐるみが包み込む。一瞬で姿を変えた俺に、ウルフも目を見開いた。

「ガル?」
「よし、こっちなら魔獣語スキルがあるから話せるはずだ」

 小さく鳴き声を上げるウルフの前で、俺は拳を握った。戦おう、というのではない。このフェンリル着ぐるみに備わっている魔獣語スキルで交渉しよう、というのである。
 それにこの着ぐるみには「魔狼王の威厳」のスキルがある。ウルフなら確実に、俺の言葉をちゃんと聞いてくれるはずだ。
 唸るのをやめたウルフの目を見据えながら、俺はゆっくりと声をかけた。

「俺はここの薬草を取りに来ただけだ、邪魔はしないから大人しくしていてくれ」

 俺が言い含めるように話しかけると、ウルフは前脚を揃え、項垂れるように頭を垂れた。そして魔獣語で俺に話す。

「我らが王の仰せのままに」
「よし……予想通りだ」

 魔獣語スキルが備わっているこの着ぐるみなら、魔獣種の魔物との意思疎通は問題ない。ほっと息を吐いた俺は、山頂でセージ草を探し始めた。
 生えている場所が高地である、というのが問題なだけで、セージ草自体は高地なら比較的よく見る薬草だ。そこまで時間をかけることなく、俺はセージ草の群生する場所を見つけることが出来た。

「えーと、セージ草10本……あったあった」

 見つけたセージ草を根を切らないようにそっと摘み、アイテムボックスに収納する。こうすることで、時間が経てばまた茎が伸びて葉が出てくるはずだ。
 すると、立ち上がった俺の背中に先程のウルフが声をかけてきた。

「我らが王。正式な王・・・・ではないようですが、この山の王との縁はどのように?」
「正式な王……この山の王? ルチアーノさんのこと――あ、待てよ」

 何気ないことのように問いかけてきたウルフに、キョトンとしながら俺は返事をした。
 この着ぐるみはフェンリルであるし、俺の種族は今は魔狼王フェンリルであるはずだ。それなら王であることはあるのだが、正式な王、とは。
 そこで俺は記憶を手繰り寄せた。確か魔物としての魔狼王フェンリルは種族というよりも名誉称号という意味合いが強く、数多のウルフの頂点に立つ存在であるらしい。
 そして現在、正式に「魔狼王フェンリル」の称号を持っているのは、三頭。北のシグヴァルド、東のラシュロフ、そして西のルングマールだ。

「オルネラ山の魔狼王フェンリル……ヤコビニ王国に住む『西の魔狼王・・・・・』ルングマール。そうか、ルチアーノは人間向けの名前で、本名は別にあるのか」

 そう、先程からやりとりをしていて、あんなに人間に親しげにしているルチアーノさん。彼こそが大陸の西側のウルフを統べる魔狼王フェンリル、ルングマールその人なのだ。
 俺としても何だってこんな形で縁が出来たんだ、と不思議で仕方がないが、俺のフェンリル着ぐるみはルングマール本人の力ではなく、その娘のリーアから譲ってもらったもの。いわば、力と権能の一部を借りている状況だ。
 だから俺は、小さく肩をすくめてウルフに言う。

「俺のこの力は借り物だし、確か正式な魔狼王フェンリルに認められるには手続きがいるんだろう? だからだよ、仕方ないんだ」
「承知しました、我が王」

 俺の言葉を聞いて、ウルフは素直に引き下がった。ちょっと煙に巻いたような感じもするが、嘘はついていない。
 果たして、アイテムボックスにセージ草を10本しまって、俺は再び山頂の際、険しい崖の縁に立つ。

「よし、これでいいな。さて……」

 下を見ないようにしながら息を整えると、俺はもう一度着ぐるみを換装する。ここから降りるには、また飛ばないとならない。

着ぐるみ換装キグルミチェンジ! レッドドラゴン!」

 再びレッドドラゴンの着ぐるみを身にまとう。着ぐるみを変えたことで魔獣語スキルが外れ、代わりに竜語スキルと空を飛ぶ力を得る。俺の後ろでウルフが何かを言うが、その内容はもう分からない。

「グル……」
「じゃあ、邪魔したな」

 伝わっていないとしても、一応声をかけて。それから俺は地面を蹴った。
 翼をゆっくり羽ばたかせながら高度を下げていく。山肌に接触しないように気をつけながら、俺は思案を巡らせた。

「しかし……リーアが『西の魔狼王』ルングマールの娘となると、ルングマールに認められないと正式に魔狼王フェンリルには……いや、そのがいるんだったかな?」

 確か、正式に魔狼王フェンリルと認められるには、「群れ」の長であると認められないといけなかったはずだ。そうだとしたらルングマールに認めてもらえば長になれそうな気もするが、確かそのルングマール自身も誰かから「群れ」の長と認められ、そして魔狼王フェンリルの称号を授かった、のだったような。
 いずれにせよ、まだまだ俺は魔狼王フェンリルとしては半人前だ。

「ともあれ、早くオルニの町に戻らないと。もうこのまま町まで降りてしまえ」

 あまり皆を待たせるわけにもいかない。俺は眼下に見えるオルニの町の灯り目指して、降下の速度を上げた。
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