ショートストーリー

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まっすぐ

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ぼくは、地面に深く突き刺さって、空へ向かって立ちつづけている。
この街角に生えてから、もうかれこれ三十年が経った。

まっすぐでいること。それだけをずっと、守ってきた。

 
電気を運ぶ。
ケーブルを支える。
時には鳥の止まり木になり、
時には、誰かの待ち合わせ場所にもなる。

役目は多いようで、でもすべては「そこにいること」に集約される。
動けないし、喋れないし、変われない。
けれど、それがぼくの強さだと、思っている。

 

ある日、小学生の男の子が、ぼくに話しかけてきた。
「ねぇ、なんでそんなに動かないの?」
ぼくは答えられない。だけど、心の中でこう返した。

「だって誰かが、ぼくに寄りかかってくれるかもしれないから」

彼はぼくの足元にランドセルを置いて、空を見上げた。
「おれ、大きくなったらパイロットになるんだ。空高く飛ぶんだぞ」

ぼくは、笑ったつもりだった。
空を見上げて夢を語るその目がまぶしかった。

 

夜には酔っぱらった人が、ぼくに体重を預ける。
雨の日には、少女が傘を持ってぼくのかげに入る。
選ばれているわけじゃない。ただ、そこにいるから、頼られる。
それが、ぼくの幸せなんだと思う。

 

風の日もある。
雷が落ちそうな夜もある。
時には、心無い誰かが落書きをしていくこともある。

「バカ」と書かれても、「好き」と書かれても、ぼくは消さない。
それもこの街の声だから。

そして朝になると、また鳥が戻ってきて鳴く。
新聞配達のバイクが通り、通学路の子どもたちが走り抜けていく。
その景色を、ぼくは毎日、同じ場所で見守っている。

 

時代は変わる。
無電柱化なんて言葉も聞くようになった。
地中に埋める方がいいらしい。景観もいいし、災害にも強いと。

わかってる。
ぼくの時代が終わるかもしれないことも。

でもそれでも、
この街の空と地面をつなぐ一本として、
ぼくは今日もまっすぐに立ちたい。

誰かの道しるべでありつづけたい。

 

ぼくは、声はないけれど、見ている。
どんな日も、どんな空も、あなたを照らす電線の下で。

まっすぐに、ただ、ここに。
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