君とボクの交われない交差点 ~始まりを求める僕と終わりを求める君~

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湯殿の精霊

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「そ、そんな凄い騎士様の隠れ家に勝手に入って大丈夫なのですか!?」

ユナは焦ったように辺りを見渡しますが、いるのはパーラと、シンとアンジェ。それと狼たちです。
脅かすように、狼が吠えますが、パーラが静かに制しました。

「お止めなさい狼達。リーンゼィル様に叱られるわよ」
「くぅーん」
「赤髪の子。今更あなたが屋敷内にいることを気にしてどうするのですか?
このまま外に出ればどうなるかなどリーンゼィル様がご説明なさいましたでしょう?」

「う、はい。そうですけど……」

「けどもなにもございません。あなた方はさっさとその汚れた体を清潔にしてくださいませ」


清潔にとの言葉が聞こえた途端に何故か狼達がそそくさと抜け出そうとしはじめました。しかし直ぐ様パーラが狼達に向き直ります。

「貴方たちもです。逃がしませんよ」

強くパーラが輝くと狼たちは浮き上がって黒い空間へとほりこまれてしまいました。

「え?」

シンとアンジェがポカンと、口を開けてその光景をみていました。

「おい、あの狼達!突然浮いたかと思ったら消えたぞ!」

「何で!」

焦る二人を宥めようとユナは手をワタワタさせていますが、効果はなくパーラに向かって叫びました。

「パーラさん!!!」
「落ち着きなさい。赤髪の子。
狼と人間をそのまま一緒にいれるわけにもいきませんでしょう?
彼らには彼等の専用の場所がございましたので、そちらにご案内いましまた。
さぁ、リーンゼィル様が戻られる前に貴方方も湯殿にお送りいたしますわ」
「どうした?」
「ちょっとまって!」

そう言って床が、黒く染まって三人は地面に穴が空いてユナとシンの二人の叫び声と共にそのまま暗闇に消えました。

「ユナ!シン!」

アンジェは、慌てて地面を叩きますが、白く艶やかな床にはヒビさえ入りません。

「どうしよう……」

ペタんとへたりこむアンジェの周りをくるくるとパーラは回っていました。




+++++++++



「うわああぁぁ!!!」

ユナは喉が割けんばかりに叫びシンは静かに辺りを見渡しながら、落ちていきます。
下は真っ白な湯気で辺りはみえません。

「っ………」


そのまま落下すればトマトみたいにつぶれてしまうでしょう。しかし、その前にフワリとふたりに光が纏わりついて落下は唐突に緩やかになり、ゆっくりと足を地面につけることができました。
どうやら、地面に叩きつけられずにはすんだようです。

「なんだここは?」

シンは、辺りを見渡しますが真っ白な霧に視界が塞がれています。

「し、シン平気なの?」

ユナは先程の落下体験にはぁはぁと息をつきながら腰が抜けてしまって座り込んでいました。

「…正直死ぬかと思った」
「そ……そっか」
シンって昔からあんまり表情に出ないんだよね。リノには、凄く表情変わるんだけどなぁ。

「ユナ、とりあえずだが、さっきパーラってのがいるって言ってたよな」
「う、うん」
「そいつに敵意はあったか?」
「ううん。リーンゼィルさんがなだめてくれたから、大丈夫みたい。なんか、清潔にしてこいって言われたんだけど。ここ、真っ白でなにも見えないや」

「清潔に?」
「うん、湯殿に送るって言ってた。湯殿ってなに?」
「お風呂のことな。
ふーん、なら、ここに俺らを送ったのは汚いから洗ってこいってことだろうけど、何にも見えないな」

困惑するばかりの二人でしたが、すぐに助けの声が響きます。

『赤髪の子。そのまま真っ直ぐに進みなさいないな』

「パーラさん!どこです?」
『真っ直ぐいった先に給仕のものがいます。そこまで向かいなさいな』

「わかりましたーありがとうございます」

「なんだって?」
「このまま真っ直ぐいったら、給仕の人がいるって」
「そいつは俺にも見えるのかな?」
「さぁ?わかんない」

地面は湯気でしっとり濡れていて気をつけないと、滑って転びそうなくるいに研かれています。
シンは、ユナが滑って転ばないようにその細い手首を握ってやりました。
それに、にこりとユナは笑います。

「それにしても、あんなにちっちゃかったのに大きくなるのはあっという間だな」

「そうかな?」
「あぁ、俺らもまだまだ子どもだったけど、お前は俺らの腰くらいだったからな」 
「そうだっけ?」
「そうだよ」


そんなたわいもない話をしながら、白い湯気の中を二人が進んでいくと、足元の床には小さな水溜がいくつも増えてきます。
それと、大きな轟音。

「なんだこれ?」

そこには、プールのように大きな風呂、中心では高圧の噴水のようにお湯が吹き出ていて辺りを濡らしています。

「お風呂?」

『いらっしゃいまし、パーラ様より承っております。私、ジーンともうします。以後お見知りおきを

声の方を振り向くと真っ赤な舌を出した、ピエロの仮面だけが宙に浮いて二人に話しかけてきました。

「おい、ユナ。俺にも見えるし声が聞こえるけどこいつはなんだ?」
「え?わかんない。給仕の人ってことかな」
『はい、そうでございます。赤髪の方はユナ様でお兄さんがシン様でございますね』

「うん、そうです」
「俺にも声は聞こえるがそのふざけた仮面は外してくれないか?不気味なんだが」
『申し訳ございません。
ですが、此方は氷の里の研究者が開発した人間に我等を認識させるためのものでございます』
「精霊を認識?どういうこと?」
「ふむ、よくわからんが、その不気味な仮面があれば精霊と話が出来るということか?」
『そうでございます。我らが人間に話しかける時に必要な仮面となっております』
「それは、わかった。わかったが正直見た目が怖いな」

ぼんやりと白い空間にぽっかりと浮かぶその姿は、陰影の影響もあってひどく不気味な仕上がりとなっています。シンの怖いとの言葉にユナは大きく頷きます。

「夢に見そう」

ユナは、少しだけげんなりした顔になっていました。

『そうでございますか?人間の美的感覚に合わせたつもりではございましたが……まぁ、それは、開発者に申し伝えておきましょう。
それでは、この湯殿をご案内いたしますかっ』
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