君とボクの交われない交差点 ~始まりを求める僕と終わりを求める君~

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歪んだ廊下

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アンジェは手を引かれるままにリーンゼィルについていきます。
その手は大きく、柄にもなく胸が高鳴っていることにアンジェ戸惑っていました。

正直、村には同年代はリノとシンぐらいで、二人は最早兄弟のような感覚なのでトキメキこともなく、ユナなんかは、もっと歳が離れているので弟としか見ることもなかったので、こうやって、年上の青年に手を繋いで歩くなんて初めての経験でした。
修行ばかりでこんな手を引かれるなんて想像だってしたことがなかったのに、初めて年相応の女の子の気持ちを理解出来たような気がアンジェはしていました。
リーンゼィルの長い髪が歩く度に、アンジェの手にふれました。
どのように手入れされてるのか不思議なほど長く美しいプラチナブロンド。

彼女は無言で彼に手を引かれ続けていました。

まるで永遠にも感じるような長い時間の中で、もう一枚扉を開抜けると、その先は赤い絨毯の敷かれた長い廊下が続いています。
そして我が目を疑いました。
その廊下は歪んでいて、まるで天井から全て雑巾のように絞られたかのように歪んでいます、
アンジェは少し戸惑いながら彼に続きました。

「足元気をつけて。
あちこちに通じてるからさ。どうしても歪になってるんだ」

廊下は歩けば歩くほど真っ直ぐに歩けているのか不安になる奇妙な形をしています。

───見てるだけで、目がおかしくなりそう。

その彼女の心情に気がついたのかリーンゼィルは気遣うようにアンジェに声をかけます。

「気持ち悪いようなら、俺の背中にでも顔を伏せとくといい」
「い、いえ、大丈夫です」

慌ててアンジェは首を振りリーンゼィルの手を握ります。

「無理はしないようにな。少し進むから着いてきて」

そう言って更に先を進むリーンゼィルにアンジェは着いていきます。
この廊下は、普通に歩いている筈なのにまるで斜めになっているかのようで、三半規管が揺さぶられているかのようで気持ち悪く感じます。
それを誤魔化すように、先を進む彼の長い金髪を眺めなが歩きました。
廊下の回りには奇妙な絵がいくつも飾られていて、気のせいだかその絵から時折何かの鳴き声が聞こえてくるようです。

───なんの音かしら?

音に引かれて振り返りかけたアンジェに、前を進むリーンゼィルが振り返ったせいで柔らかな髪が鞭のように襲ってきました。彼女は持ち前の反射神経で見事にかわしました。

「なんでそんなポーズとってるんだ?」
「い、いえ‥‥びっくりして」
「??
まぁいいや。言い忘れたけど、ここで振り返っちゃだめだ。君たちのような子供は帰れなくなるかもしれないから」

「え?」

「まぁ、もう着いたからいいんだけど帰りも同じだからな。気をつけてくれ。さぁこの扉の先だ。寝てるから静かにな」

くす、笑われて、何故笑われたか分からずアンジェは戸惑います。
そして、何故か頬に血がのぼっていく感覚があり、どうしてか胸が高かって収まらなくなってしまいました。

「大丈夫か?やっぱり具合が悪いのか?」

ピタリと彼の長い指がアンジェの額にふれます。
突然の出来事に普段なら蹴り飛ばしているはずのアンジェなのに今日はなぜか身体が動かなくなってしまいただ、呆然とその長い指が自分の前髪を押さえているのを見ているだけでした。
それからすぐに、額に滑らかな感覚と、何故か目の前に澄んだ青い瞳が見えて…


「……………!!!!!!!!!!」

声は出ないのですが、アンジェは心の中で叫んでいました。

「うん、熱はなさそうだ。よかったな」

アンジェにリーンゼィルは微笑みましたが、アンジェは何故か固まって動かなくなってしまいました。
ポカンとして動かないアンジェの目の前で手を振ります。

「おーい、お嬢ちゃん?おーい」

そのまま彼女は後ろにひっくり返ってしまいました。

「え?おい!大丈夫か??」

リーンゼィルは慌てて彼女を受け止めます。

「!?なんか顔が無茶苦茶赤くなってる!
大丈夫か?!先に泉につれてった方が!」

「あっ、まっ、大丈夫です!」

アンジェは慌てて起き上がり首を振ります。
せめて、弟分のリノの様子を見なければ!その使命を思い出して慌てて起き上がります。

ポカンとリーンゼィルは、口を開けて驚いた後今度はクスクス笑いだしました。いたたまれずにアンジェは少し小さくなりました。

「大丈夫だよ」

そう言って彼の大きな手が、アンジェの頭を優しく触れました。
それから、そっとリノがいるという部屋の扉をリーンゼィルはひらきます。落ち着いた色の床。
その中心には大きな大きなベッドがひとつ。

清潔な白い色のシーツ。フワフワと柔らかなベッドにリノは埋もれていました。

「もう大丈夫そうだ」

安心させるようにリーンゼィルは、殊更柔らかな微笑みを浮かべました。
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