君とボクの交われない交差点 ~始まりを求める僕と終わりを求める君~

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大蛇

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ユナの大きな大きな呼び声は、虚しく湯殿に響き渡るのみで剣は姿を表しません。天井を、見上げても何も現れませんでした。

「来ないな」
「うん、来ないね」

しょんぼりと肩を落とすユナに大蛇さえも気の毒そうにユナをみつめます。

「う、リーンゼィルさんがいた時は出来たんだよ!」

なんだか気まずくなってユナは大蛇に吠えて、大蛇はますます哀れむような目でユナを見つめました。緊迫していたはずの空気が一瞬緩んでしまいます。更にユナの心を抉るように可哀想な者を見る目でジーンもユナの方を見ました。

『リーンゼィル様はその様な法力は使われませんよ。
シンさん。人間は剣に呼び掛けると呼び出せるのですか?』

「いいや、俺はできん。
でも、よくわからんが、ユナはふざけてこんなことすることはない」 
『そ、そうですか』

真面目そうにシンは語りますが、かぶっている仮面のせいで台無しです。

「シン‥‥恥ずかしいからやめて」

慌ててユナはシンの口を塞ごうとしますが、身長差があって手が届きません。

「あ、いや、でも、時空が歪んできています。あれじゃないですか?』

「本当だ!でも、あそこから動けそうにない?」

『そうみたいですね』

ふーん、でも、彼の叫びで空間に歪んだし、大気が震えてる。
それに、少年の髪。
気のせいだろうか?一段と紅くなったし‥‥‥‥
それに、ざわざわと髪がざわついている。

これが噂にきく赤髪か。

少年にはまるで覇気がないのに、恐ろしく感じるのは
きっとあの髪に潜むもののせいだろう。
どうしようもなく恐ろしく感じる。
恐らくパーラ様もそうなのだろう。

恐らくだが!きっと彼の髪から出たバケモノの姿を見れば僕は歯の根も会わせられないほど震え、一刻とここにいることはないだろう。
まぁ、恐らく、ですが。だから、殺そうとしてパーラ様がこの刺客を放ったのかもしれない。
僕ごと彼を抹消しようと?
でと、彼女がそんなことをするとは到底思えない。

軽く大蛇の尾がジーンに向かって振り下ろされます。先端にはキラキラとした青い宝石のようなモノがついていて危うくジーンはそれに、はたき落とされるところでした。

‥‥まずはこの精霊さえも食らう大蛇を倒さないと話にならない。サボり魔な僕といえども喰われて死ぬのは遠慮願いたい。


『風よ!』

今一度、魔法を大蛇に向かってジーンは放ちます。
それは、あまり効果はなく、ゴムのような質感の身体が跳ね返してしまいます。

くそ、僕にも、恐らくシンさんにもこいつに決定的なダメージを、与えられるものが手元にない。仲間を呼び寄せようにも、この空間は大蛇によって歪められているらしいし。助けも呼べそうにない。
となると、頼りになるのは赤髪の少年のいう剣か?

あの空の疼きは恐らく彼の呼び出したものだろう。
キラリと先刃の端が見えた。
あれがあれば恐らくあの大蛇を、倒せる。


『シンさん。我々は少々時間を稼ぎましょう』

「時間を稼ぐより、おまえ。アイツをなんとか倒せる魔法はないのか?」

シンは話ながら、体をバネのようにしならせ大蛇の顔面を蹴りあげますが、まるでタイヤのようで、手応えがありません。

『残念ながら僕にはそういった力はありません』

「それならせめて、この場所から転移させることは?」

『それも無理です。
今この空間はこの大蛇のせいで、歪んでいます。無理です』

「つまり、コイツを倒さないと俺たちに生きる術はないってことか?」

『まぁ、そういうことです』

「あっさり言うが俺は丸腰だぞ」
「まぁ、ソコは頑張ってください」
「ちっ!いくぞ!」

 そういって、二人は共に大蛇目掛けて飛びかかっていきました。
ですが、あっさりと長く伸びた尾が彼らを打ち払ってしまいます。

その大きさに相当する威力で薙ぎ払われてシンは危うく崖から転落するところでした。


「ぐっ!」
「やばいですね」
「くそ、仮面で視界が狭いぞ」

シンはただでさえ湯気で見えずらいのに、お面のせいで、更に辺りを見渡しにくくなっています。しかし、此を外せばジーンはシンには見えません。
ジレンマを、感じながらもシンは大蛇を、倒す方法を飛び回りながら考えていました。

ボーガンは、元の広場にあります。
くそ、手元にせめて、ボーガンさえあれば奴の目玉位すぐに潰せるのに!

「ボーガンですか?なら、シンさん。これを」

そういってジーンはなにかを差しだそうとしましたが、突然の強風にジーンは飛ばされてしまいます。

「ジーン!」

慌ててシンが走ってジーンを掴みます。




『やぁ、ユナこんなところで奇遇だね』

そこには白色の美しい少女。
呑気な声にユナは驚きで目を見開きます。


「ナギ!どうしてここに!?」
「あんたは‥‥森で見た」

『ユナのお友達もこんにちは、いや、こんばんはかな?』 

「え、あ、ああ、後ろ!危ない」

大蛇がナギのすぐそばまで迫っていましたが、彼女のすぐそばまで来ると大人しくなります。

『あぁ、このこ?ふふ、この子は大丈夫だよ』

「どういうことだ?」
『この子はね。ぼくの使い魔なんだよ。ほら』

あっという間に大蛇は小さくなり、小さな翼がその背に生えてパタパタとナギの肩へと止まりました。

その姿にジーンは大きく目を見開き口をパクパクさせています。

『ナギ‥‥‥‥様!?っっ!
その蛇については後程確認いたします。
光の御子様。どうしてこちらへ!?』

『ふふ、この子に探らせてね。少しだけ隙間があってさ。そこから、ね?』

ナギは不敵に微笑みました。
酷くジーンは怯えてシンの背に身を潜めながらナギを睨み付けていました。

「ねぇ、なにか問題があるの?」

そっとジーンにユナは耳打ちます。

『ここは、リーン様の領域です。彼の方ははこの領域にだけは他の神々が入ることをお許しはございません。
光の神の御子様であられても勝手に入ることは出来ぬはず‥‥なのに彼女は入ることができた』

『ふふ。まぁ、その辺りはちゃんと彼らの汚れを払ってみんな集まってからちゃんと説明するよ』

『ですが!』

『怒らないでよ。
ちゃんと塞いでいるから。女神様に見られたくないんでしょう?
いいの?そういう態度で?』 

『っ‥‥‥‥わかりました。』

「ナギ。ねぇ、どういうこと?」

『焦らないで、さっさと入っておいで。話はそれから。ね?』

ナギはただ、優しそうに微笑みました。
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