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未知との遭遇
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誰が想像できる。この目の前の光景を。
漆黒の立方体の中から可憐な少女が姿を現すなど想像し得ようか。
すらっとした筋張った身体つきだが、しっかりと女性としてのふくらみを感じさせるその体。髪は病的なまでに白く白子のそれを思わせるほどに肌も青白い。
人間の血を完全に抜いて残った体が只動いているかのような、死体にのそれに似た雰囲気を醸す彼女。
ぺろりと上唇を舐める仕草、その舌は赤味などはなく真紫の色で人ではないのは一目瞭然だった。
崩れ落ちた彼女を覆っていた漆黒の立方体片が、ドロリと氷のように解けてそしてスライムの如く彼女の体を這い上り、そしてドレスの形を作っていく。
光とは何かと言いたいのか。夜闇の虚空の如く、服のたわみもあまりの黒さから認識も出来ない程に黒々としてその空間だけ削り取られて漆黒に染まっているかのように黒いそれに、ウルフレッド達三人は口あんぐりである。
「クェスチョンが正しくなかったか? もう一度アスクする。ユーたちは何者だ?」
スススッとウルフレットたちは距離を取ってしまった。
こそっと耳打ちするビーバーズの声は疑惑というより不信感しかないといった様子の声で聞いている。
「旦那……変なのが出てきやしたけど……どうするんで?」
「今決めるの? 分からないよ俺」
「でも若殿あれを置いて行く手のは心が痛みやす」
観察に徹するウルフレッド達を余所目に少女は岩を持ってそれに向かって歯を立てて、バリバリ、ゴリゴリと音を立てて噛み砕いているではなかろうか。
手に持った岩にはしっかりと歯形ついている。しかもその岩で少女の歯が砕けるといった様子もなくしっかりと綺麗な白い歯が、健在に元気に健康に岩を噛み砕いている。
「放射能反応もパードゥン範囲インサイド。想定されているモノを下回っている。ゲートは半ノーマルと思われる」
一人ブツブツと言う少女にどう反応したらいいのか。驚いたらいいのか、それとも引いたらいいのか。
「若殿あの子何語言ってるです?」
「旦那に分かるわけないでしょオール。アスクとかパードゥンとか、未知言語ですよ……」
ビーバーズとオールは何語かも分からない少女の言葉に不信感から完全に身を引いて近寄るまいとしているが──ウルフレッドは。
一歩を踏み出し少女の前に立って、手を差し伸べた。
「岩は食いものじゃないぞ」
「ハンドレッドも承知だ。放射能イグザミネーション中である」
「なら、一緒に飯にしよう。君が何者かも知りたいんだ」
ウルフレッドの脳味噌の中には考えなど元からなかったのであった。
──
「ほら、ジャンジャン食いな。と言っても二日分しか持ち合わせはないんだ。一人増えて切り詰める必要があるから量はないよ」
「自分は酒さえあればいいでありますよぉ」
野営を決め込み、天に星堕矢がこの場に堕ちてこない事を祈りながら炊事をしているウルフレッドパーティー一行は珍客万来と言えるこの状況で、飯にすることにしていた。
考えるのも億劫とビーバーズはいい、もとより考えのないウルフレッドの判断に従って彼女を、不可思議な少女を一応の保護として匿っていた。
武装と言う武装も見て取れず、あるのは漆黒よりも黒いドレスだけで、それと言って不思議なところは──多くあるがしかしながら一様に無害なように見える。
デーモンなど突然変異種であればウルフレッド達を見た途端に襲い掛かってくるだろうし、何より人型の、言語を返す突然変異種など聞いたことがない。
そして何より不思議なのは彼女が今迄見てきた種の中でどれにも特徴が当てはまらない事だった。
開拓種のような強靭な体を持っているとも言えず、調整種の特有の獣耳や尻尾もない、単一種のような尖がり耳に似通った顔つきもしていない。
強いて言うのなら原種の特徴に似ている。
小柄で筋張った体、獣耳も尻尾もなく、耳も尖がっていない。ヒューマンのそれだ。
しかしヒューマンとも言い難い。何故ならば人の持つであろう血色が異常なまでに悪い上に、異常な食欲がモノがったっていたのだ。
ちょっと目を放せば、そこら辺に転がっているコン片を食おうと手を伸ばしているのだ。
比喩や隠喩などではない。物理的にそれを口にしようと手に取って喰らうのだ。どの種だって石は噛み砕くには硬すぎるし、何より歯の硬度が持たない。
まるで赤ん坊のように手に取ったモノを手当たり次第に口に入れるように、無知に、知恵遅れの白痴の少女であった。
「この惑星の原生フードと認識した。摂取する」
言葉は理解できているようで、ビーバーズが手渡した器の食い物をなんと──皿ごといった。
「ンっぶっ──‼」
あまりの光景に酒を気管に詰まらせて咽るオール。
「ちょっ! そんなもん迄一緒に食うじゃないよ。ぺっしなぺっ!」
ビーバーズは大慌てで少女の頭を叩いて食器を吐き出させている。
綺麗に食器によそわれたスープを食べて、食器だけが口からポンと出てくる。
「蛋白質やビタミン類……コンポーネントマークにシンクアバウトしミドリムシ、オキアミアンドザライクの合成食品とゲスする」
「一体何語をアンタは話してんだい。食器迄全部食うバカいないよ。オールも旦那も大概馬鹿だけど。ここまでの馬鹿と出会うのはいったい何時ぶりだろうね。まったく……」
白痴の対処法を知っている風なビーバーズのやり方に、少し考えさせられる。
彼女は、この少女はあまりにも──モノを知らなさすぎる。
このフロンティアでここまで、いやこのフロンティアでなかろうとも、ここまでモノを知らない人間がいるのだろうか。知恵遅れと言っても白痴特有の言葉の詰まりもなく、その言葉の端々に感じさせる知的なそれに関して言えば僕たちのそれだけでは計りしえない。
なぜウルフレッドはそう考えるのか──それは単純な話で、この少女の端々で使われている単語からだった。
「君? ホントに現代人?」
ウルフレッドのその素朴な疑問。と言うよりも過分な疑問。
それは彼女の端々で使われる意味を成しているのか分からない単語の数々、その意味を完全に理解している訳ではないが、しかし所々理解できた。
古代言語──しかもフロンティアに人間種が根を下ろすよりも前よりも前に使用されていた『エイゴ』なる言語ではないか。
古代言語と考え付いたのは偏にウルフレッドの生まれた家が良かっただけで、その高貴なる家系『スモーク家』のお陰で幼少期より文字と言うものに触れる機会が多くあったからで、ロスト・カルチャー以前の古代言語を記述した書物も所蔵されているがために、彼女の繰る言葉が古代言語の類であることが理解できたのだ。
「現代ヒューマンもホワットもマイセルフはここにいる。古代現代をアスクするのはノーミーニングだ」
「うーん。半分は理解できるんだけどね、君の言葉。でもコミュニケーションにそれじゃあ不自由するんだ。──そうだな……手始めに君の名前と種族を聞かせてくれるかい?」
少女は首を捻って考えているようだ。そして訥々と答え始める。
「マイセルフはレイヴン。『カガリ・レイヴン』。カインドではない。人造で、ヒューマンのハンドで生み出されたサイボーグだ」
「サイボーグってアンタ……ちょっと旦那」
ビーバーズがウルフレッドの肩を掴んで陰でコソコソと喋る。
「サイボーグって。人造種のことですかい?」
「彼女の言を借りるならそうだろうね。いやはやまさかロスト・カルチャー以前の種族とは思ってもみなかった」
「聞えているぞ? 先も言ったようにマイセルフはカインドではない。カインドとはアザーの個体と繁殖アクションをして個体ナンバーをアッドトゥする。マイセルフにそのウェイはないし、カインドと定義するには不適切だ」
「だ、そうだよ?」
「いや、アタしゃコイツの言ってることの半分も理解できないんでね。でも、コイツが本当に人造種、サイボーグってんなら相当な値打ちもんじゃないかい?」
「まあ、そうだろうね」
ウルフレッド達の今回の目的は旧文明技術遺産のサルベージでありメモリー・セルの回収、それに相当するだけの旧文明技術遺産の回収である。
この少女、カガリ・レイヴンが本当に『人造種』であるのならば、それこそ本当に値打ちものだろう。
何せ人型の未だ駆動する機械類の発見はまだなされていない。何よりここまで精巧な技術体系すらキュリオ・シティの技術者たちは復元できていない。それ故に恐らくだがこれをギルドに差し出せばそれこそ一生、いや、一族が滅亡するまで遊んで暮らせるだけの資産が転がり込んでくることになる。
今すぐにでも引き返して売り飛ばすのが吉だろう。しかし──。
「マイセルフを売り飛ばされてはウォリードする。パーパスが果たせない」
「旦那なんて言ってんの?」
「んん……? 目的が何とかって。それで目的って」
「相互転換次元境界面門扉、フロンティア・ゲートのノーマル化が果たせない。それではウォリードする」
オールがドデカイゲップを吐いて驚いたようであった。そして大きな声で笑いだした。
「かははははっ! 。若殿、この子。ヘラス・ゲートをどうにかしようって言ってますよ」
「みたいだね。なんとも」
人造種がフロンティアの再開拓を積極的にしようとしている、と言うのは何とも出来過ぎた話か。古代の遺物が一体何を以てして今頃になって再開拓をしようというのか。
それが一体何の意味があるのか。
一攫千金は確かに夢がある。その日暮らしの再開拓者に大型フロンティア・ゲートの再開拓を行いそれを成し遂げたのなら確かに莫大な賞金が転がり込んでくる事だろう。
だが──。
「売り飛ばしはしないけどね。それでもね俺たちは君をどうにかしないといけない義務がある。金の為にね」
一も二もなく結論はある意味出ている。金の為に、彼女をどうにかしないといけない。
ギルドに突き出すというのも手であるが、技術者共にバラバラに量り売りにされるのは目に見えているとしてなしにしても、人命救助で人造種であると言う事を素知らぬ顔でいれば少額でもお釣りはついてくるだろう。
兎にも角にも保留にするしかないのだ。運送ギルドのウルフレッドパーティーのピックアップまでのリミットはあと二日、その間に結論を出せばいいだろう。
目の前にはメモリーセルの宝の山、ちょっと頑張れば数ヶ月は遊んで暮らせる金が手に入る。
そして目の前には一生分遊んで暮らせる人格を持つ人造種。天秤に掛けるにはちょうどいい位の時間はある。
レイヴンは自らを種ではないと言っているが、ウルフレッドの目から見てしまえば十分『人』だ。
人を突き出して量り売りにするか、それとも地道に稼ぐか。良心のエゴを取るか金勘定を取るか、結果は悩むところだ。
「ゆっくり考えようよ。時間はたっぷりあるんだ。寝て呑んでその日にならないとどうしようもないさ。その日暮らしの再開拓者の考え方らしいだろう?」
ウルフレッドはニッと笑って凡愚に火を灯し大きく紫煙を吐いて答えた。
漆黒の立方体の中から可憐な少女が姿を現すなど想像し得ようか。
すらっとした筋張った身体つきだが、しっかりと女性としてのふくらみを感じさせるその体。髪は病的なまでに白く白子のそれを思わせるほどに肌も青白い。
人間の血を完全に抜いて残った体が只動いているかのような、死体にのそれに似た雰囲気を醸す彼女。
ぺろりと上唇を舐める仕草、その舌は赤味などはなく真紫の色で人ではないのは一目瞭然だった。
崩れ落ちた彼女を覆っていた漆黒の立方体片が、ドロリと氷のように解けてそしてスライムの如く彼女の体を這い上り、そしてドレスの形を作っていく。
光とは何かと言いたいのか。夜闇の虚空の如く、服のたわみもあまりの黒さから認識も出来ない程に黒々としてその空間だけ削り取られて漆黒に染まっているかのように黒いそれに、ウルフレッド達三人は口あんぐりである。
「クェスチョンが正しくなかったか? もう一度アスクする。ユーたちは何者だ?」
スススッとウルフレットたちは距離を取ってしまった。
こそっと耳打ちするビーバーズの声は疑惑というより不信感しかないといった様子の声で聞いている。
「旦那……変なのが出てきやしたけど……どうするんで?」
「今決めるの? 分からないよ俺」
「でも若殿あれを置いて行く手のは心が痛みやす」
観察に徹するウルフレッド達を余所目に少女は岩を持ってそれに向かって歯を立てて、バリバリ、ゴリゴリと音を立てて噛み砕いているではなかろうか。
手に持った岩にはしっかりと歯形ついている。しかもその岩で少女の歯が砕けるといった様子もなくしっかりと綺麗な白い歯が、健在に元気に健康に岩を噛み砕いている。
「放射能反応もパードゥン範囲インサイド。想定されているモノを下回っている。ゲートは半ノーマルと思われる」
一人ブツブツと言う少女にどう反応したらいいのか。驚いたらいいのか、それとも引いたらいいのか。
「若殿あの子何語言ってるです?」
「旦那に分かるわけないでしょオール。アスクとかパードゥンとか、未知言語ですよ……」
ビーバーズとオールは何語かも分からない少女の言葉に不信感から完全に身を引いて近寄るまいとしているが──ウルフレッドは。
一歩を踏み出し少女の前に立って、手を差し伸べた。
「岩は食いものじゃないぞ」
「ハンドレッドも承知だ。放射能イグザミネーション中である」
「なら、一緒に飯にしよう。君が何者かも知りたいんだ」
ウルフレッドの脳味噌の中には考えなど元からなかったのであった。
──
「ほら、ジャンジャン食いな。と言っても二日分しか持ち合わせはないんだ。一人増えて切り詰める必要があるから量はないよ」
「自分は酒さえあればいいでありますよぉ」
野営を決め込み、天に星堕矢がこの場に堕ちてこない事を祈りながら炊事をしているウルフレッドパーティー一行は珍客万来と言えるこの状況で、飯にすることにしていた。
考えるのも億劫とビーバーズはいい、もとより考えのないウルフレッドの判断に従って彼女を、不可思議な少女を一応の保護として匿っていた。
武装と言う武装も見て取れず、あるのは漆黒よりも黒いドレスだけで、それと言って不思議なところは──多くあるがしかしながら一様に無害なように見える。
デーモンなど突然変異種であればウルフレッド達を見た途端に襲い掛かってくるだろうし、何より人型の、言語を返す突然変異種など聞いたことがない。
そして何より不思議なのは彼女が今迄見てきた種の中でどれにも特徴が当てはまらない事だった。
開拓種のような強靭な体を持っているとも言えず、調整種の特有の獣耳や尻尾もない、単一種のような尖がり耳に似通った顔つきもしていない。
強いて言うのなら原種の特徴に似ている。
小柄で筋張った体、獣耳も尻尾もなく、耳も尖がっていない。ヒューマンのそれだ。
しかしヒューマンとも言い難い。何故ならば人の持つであろう血色が異常なまでに悪い上に、異常な食欲がモノがったっていたのだ。
ちょっと目を放せば、そこら辺に転がっているコン片を食おうと手を伸ばしているのだ。
比喩や隠喩などではない。物理的にそれを口にしようと手に取って喰らうのだ。どの種だって石は噛み砕くには硬すぎるし、何より歯の硬度が持たない。
まるで赤ん坊のように手に取ったモノを手当たり次第に口に入れるように、無知に、知恵遅れの白痴の少女であった。
「この惑星の原生フードと認識した。摂取する」
言葉は理解できているようで、ビーバーズが手渡した器の食い物をなんと──皿ごといった。
「ンっぶっ──‼」
あまりの光景に酒を気管に詰まらせて咽るオール。
「ちょっ! そんなもん迄一緒に食うじゃないよ。ぺっしなぺっ!」
ビーバーズは大慌てで少女の頭を叩いて食器を吐き出させている。
綺麗に食器によそわれたスープを食べて、食器だけが口からポンと出てくる。
「蛋白質やビタミン類……コンポーネントマークにシンクアバウトしミドリムシ、オキアミアンドザライクの合成食品とゲスする」
「一体何語をアンタは話してんだい。食器迄全部食うバカいないよ。オールも旦那も大概馬鹿だけど。ここまでの馬鹿と出会うのはいったい何時ぶりだろうね。まったく……」
白痴の対処法を知っている風なビーバーズのやり方に、少し考えさせられる。
彼女は、この少女はあまりにも──モノを知らなさすぎる。
このフロンティアでここまで、いやこのフロンティアでなかろうとも、ここまでモノを知らない人間がいるのだろうか。知恵遅れと言っても白痴特有の言葉の詰まりもなく、その言葉の端々に感じさせる知的なそれに関して言えば僕たちのそれだけでは計りしえない。
なぜウルフレッドはそう考えるのか──それは単純な話で、この少女の端々で使われている単語からだった。
「君? ホントに現代人?」
ウルフレッドのその素朴な疑問。と言うよりも過分な疑問。
それは彼女の端々で使われる意味を成しているのか分からない単語の数々、その意味を完全に理解している訳ではないが、しかし所々理解できた。
古代言語──しかもフロンティアに人間種が根を下ろすよりも前よりも前に使用されていた『エイゴ』なる言語ではないか。
古代言語と考え付いたのは偏にウルフレッドの生まれた家が良かっただけで、その高貴なる家系『スモーク家』のお陰で幼少期より文字と言うものに触れる機会が多くあったからで、ロスト・カルチャー以前の古代言語を記述した書物も所蔵されているがために、彼女の繰る言葉が古代言語の類であることが理解できたのだ。
「現代ヒューマンもホワットもマイセルフはここにいる。古代現代をアスクするのはノーミーニングだ」
「うーん。半分は理解できるんだけどね、君の言葉。でもコミュニケーションにそれじゃあ不自由するんだ。──そうだな……手始めに君の名前と種族を聞かせてくれるかい?」
少女は首を捻って考えているようだ。そして訥々と答え始める。
「マイセルフはレイヴン。『カガリ・レイヴン』。カインドではない。人造で、ヒューマンのハンドで生み出されたサイボーグだ」
「サイボーグってアンタ……ちょっと旦那」
ビーバーズがウルフレッドの肩を掴んで陰でコソコソと喋る。
「サイボーグって。人造種のことですかい?」
「彼女の言を借りるならそうだろうね。いやはやまさかロスト・カルチャー以前の種族とは思ってもみなかった」
「聞えているぞ? 先も言ったようにマイセルフはカインドではない。カインドとはアザーの個体と繁殖アクションをして個体ナンバーをアッドトゥする。マイセルフにそのウェイはないし、カインドと定義するには不適切だ」
「だ、そうだよ?」
「いや、アタしゃコイツの言ってることの半分も理解できないんでね。でも、コイツが本当に人造種、サイボーグってんなら相当な値打ちもんじゃないかい?」
「まあ、そうだろうね」
ウルフレッド達の今回の目的は旧文明技術遺産のサルベージでありメモリー・セルの回収、それに相当するだけの旧文明技術遺産の回収である。
この少女、カガリ・レイヴンが本当に『人造種』であるのならば、それこそ本当に値打ちものだろう。
何せ人型の未だ駆動する機械類の発見はまだなされていない。何よりここまで精巧な技術体系すらキュリオ・シティの技術者たちは復元できていない。それ故に恐らくだがこれをギルドに差し出せばそれこそ一生、いや、一族が滅亡するまで遊んで暮らせるだけの資産が転がり込んでくることになる。
今すぐにでも引き返して売り飛ばすのが吉だろう。しかし──。
「マイセルフを売り飛ばされてはウォリードする。パーパスが果たせない」
「旦那なんて言ってんの?」
「んん……? 目的が何とかって。それで目的って」
「相互転換次元境界面門扉、フロンティア・ゲートのノーマル化が果たせない。それではウォリードする」
オールがドデカイゲップを吐いて驚いたようであった。そして大きな声で笑いだした。
「かははははっ! 。若殿、この子。ヘラス・ゲートをどうにかしようって言ってますよ」
「みたいだね。なんとも」
人造種がフロンティアの再開拓を積極的にしようとしている、と言うのは何とも出来過ぎた話か。古代の遺物が一体何を以てして今頃になって再開拓をしようというのか。
それが一体何の意味があるのか。
一攫千金は確かに夢がある。その日暮らしの再開拓者に大型フロンティア・ゲートの再開拓を行いそれを成し遂げたのなら確かに莫大な賞金が転がり込んでくる事だろう。
だが──。
「売り飛ばしはしないけどね。それでもね俺たちは君をどうにかしないといけない義務がある。金の為にね」
一も二もなく結論はある意味出ている。金の為に、彼女をどうにかしないといけない。
ギルドに突き出すというのも手であるが、技術者共にバラバラに量り売りにされるのは目に見えているとしてなしにしても、人命救助で人造種であると言う事を素知らぬ顔でいれば少額でもお釣りはついてくるだろう。
兎にも角にも保留にするしかないのだ。運送ギルドのウルフレッドパーティーのピックアップまでのリミットはあと二日、その間に結論を出せばいいだろう。
目の前にはメモリーセルの宝の山、ちょっと頑張れば数ヶ月は遊んで暮らせる金が手に入る。
そして目の前には一生分遊んで暮らせる人格を持つ人造種。天秤に掛けるにはちょうどいい位の時間はある。
レイヴンは自らを種ではないと言っているが、ウルフレッドの目から見てしまえば十分『人』だ。
人を突き出して量り売りにするか、それとも地道に稼ぐか。良心のエゴを取るか金勘定を取るか、結果は悩むところだ。
「ゆっくり考えようよ。時間はたっぷりあるんだ。寝て呑んでその日にならないとどうしようもないさ。その日暮らしの再開拓者の考え方らしいだろう?」
ウルフレッドはニッと笑って凡愚に火を灯し大きく紫煙を吐いて答えた。
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