婚約破棄の翌日、彼女は亡くなったようです。

えんどう

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 ──遡ること、事件の夜。
 パーティー会場から連れ出された二人が言い争うさまを見ていた者は少なくなかった。

「どういうこと!?私たちが追い出されるなんて!」
 金切り声を上げたマリアンヌ・レイス令嬢に負けないほどの喚き声を上げたのは、嘆かわしいことにこの国の王太子であるジョエルだった。
「俺だって何が何だか!まさか父上が怒るなんて!」
 特に間近でその様子を見ていた男、護衛騎士であるダミアン・ブラウンは信じられないと首を振った。
「殿下、どうしてこのようなことを」
 彼は自分の仕える男がろくでもないことを知っていた。気に入らない者は適当な理由で僻地に飛ばし、精神年齢が幼く、すぐに癇癪を起こす。しかし両親を早くに亡くし幼い弟妹を養わなければならなかったダミアンは飛ばされる同僚たちを眺めながら、ただ傍観するに徹していた。それも全て王太子の護衛騎士という名目が生きていく上で必要だったからだ。
 今まさにその王太子の座を捨てようとしている男に、何も知らされず今回の騒動を目の当たりにした彼はとても黙っていることなどできなかった。
「なんだと?俺のしたことが間違っているというのか!」
 いつものように癇癪で乗り切ろうとする王太子にダミアンの怒りは限界に達していた。
「ルーベルク公女との婚約を破棄して、どうしてまだ王位につけるとお考えなのですか!」
 先ほどこの主君は信じられないことを言った。なんでも、我が国が信仰する女神ルードべギアに誓って、この女を──たかが一介の男爵令嬢を王妃にすると。
 まさか本気で自分がどうして王太子でいられるのか分かっていないのだろうか。そこまでの馬鹿ではないと信じたかった。
「添い遂げる相手は自分で決める。王の妻である王妃も、俺が決めるに決まっているだろう」
「ジョエル……!私たち運命よね!」
「もちろんだ。マリアンヌ、君に出会った瞬間から俺には分かっていた。どんな性悪女が邪魔をしても、たとえ父上に反対されても、俺は君と添い遂げると」
 ああもうだめだ、とダミアンは諦めた。頭がお花畑のこの二人にはただの平民上がりの騎士でさえ分かっていることを本当に理解していないらしい。
「とにかくもうお部屋に戻りましょう。レイス城は裏口に馬車を用意させますから帰宅を……」
「いいや、馬車は要らない。今夜は俺の部屋で二人で過ごすからな、誰も近付かせるな」
「は?いえそれはさすがに」
 未婚の女を夜に部屋に入れるだなんて。それも国賓を呼んだパーティーでとんでもないことをしでかしたのに、これ以上余計なことをされては困る。
「くどいぞ。お前も飛ばされたいか?」
 睨み付ける王太子にダミアンはもう諦めた。どうせもう王太子でなくなる男だ。それならもうどうなったところで俺の知るところではない。
 二人を部屋まで送り届け最低限の務めを果たしたダミアンは、次の転職先を探そうと他の者に見張りを交代してもらいその夜は帰宅したのだった。

 まさか翌日、自分の主君であった男が殺人の容疑で勾留されるとは思いもせずに。

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