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しおりを挟むレイス男爵家が娘を殺された件で王太子を訴えるというのはやはり国中の話題となった。
「王太子殿下は我が家の一人娘であるマリアンヌを言葉巧みに外へ連れ出し、きっと抵抗したであろうあの子に無理に酒を飲ませ、あまつにはあの細くか弱い腕を押さえつけて薬物を打ち込み、前後不覚になったあの子を端から突き落とし殺したのです!なんと残酷極まりない行為か……!」
声高に訴えかけるレイス男爵に民衆は同情しつつあった。というのも、王太子が密会をした挙句その相手を殺したという醜聞ばかりが広がり、その前に会場であった一連の騒動はいつの間にやら消えていたからである。
そして殺人鬼と名高くなった婚約者のもとへリシアが訪れたのは、面会を要請する手紙の七通目が届いた頃だった。
「お久しぶりですわね、殿下。まあすっかりお窶れにられて……」
見る影もないのは連日の非難のせいか、それとも私の前でしおらしくしているだけか。
初めは傲慢だった手紙の内容も段々と助けを求め懇願するものに変わり、哀れに思えるほどだった。
「裁判にかけられるそうですね」
「──俺はやっていない!マリアンヌを殺すなど……!」
両手を握りしめテーブルを叩いた彼に騎士が動こうとしたけれど静止する。どうせ手首に錠を付けられた状態でこんなにも見張りがいる中で私に手を上げられることなどできやしない。
「あの賭場が違法だなんて知らなかった!退屈だから城を抜け出して遊びに行こうと言ったのだって彼女だ!」
「本当に何も覚えていらっしゃらないのですか?」
「……俺はマリアンヌに渡された酒を飲んだあとから記憶がない。俺が彼女を殺したなんて、……あぁ、覚えていないだけで本当に殺したのかもな……俺にももうわからない……」
どうやらかなり憔悴しきっているらしい彼に冗談じゃないと眉を寄せる。そう簡単に罪を認めては困る。
「お酒を買ったのはレイス嬢なのですね?それなら賭場で遊んだお金も彼女が出したのですか?」
「──いや?」
そこでようやく王太子はいつものような間抜けな顔でこちらを見た。
「彼女は常連だから、いつも金はツケだと言っていた。だから店に入ったら頼むより先に酒が出てきて……そうだ、そのときに少しマリアンヌと離れたんだ」
「離れたとは?店の中でですか?」
「いや、オーナーが彼女に何かを耳打ちして……彼女は会わないといけない面倒な人がいるから先に遊んでいてくれと。俺は退屈だったから酒を飲んで、賭けはせずに他の客が遊んでいるのを見ていたんだ!リシア、今すぐあのオーナーを探せ!」
なぜこの男に命令されなければならないのか──苛立ちはあれど、この探偵ごっこをしている間は私は自由に動ける。
私は王太子の無実を晴らす。その代わりに、彼には自分がしでかしたことの顛末の尻拭いをしっかりしてもらおうと心に決めたのだった。
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