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 王太子との面会を終えて屋敷に戻ったリシアは、ひとまず公爵家直轄の騎士団のもとへ訪れた。
「いくらなんでも人が良すぎます。お嬢様をあんなに侮辱した殿下の無実を晴らすだなんて……」
 まだブツブツと文句を言っているアンシアはくどかったけれど、私のことを心から案じているのが見て取れたので苦笑するに留める。
「──リシアお嬢様」
 訓練場の近くで待っていた私に声をかけた彼は若くして騎士団で一番の実力者ともいわれるルイス・クレインだった。
「ルイス。久しぶりね」
 私より三つ年上の彼は幼い頃はよく遊び相手になってくれた。彼が騎士団へ入団する年になってからは周りから下世話な話が立たないようにと、父から距離を置くように言われてしまったけれど。
 黒の短髪にすっきりとした顔立ちは他の家の令嬢からも評判が高いようで、噂では伯爵家の令嬢からも声がかかったと聞いている。
「お久しぶりです。こちらには何のご用で……」
 一連の話を聞いているだろう彼は私の様子を窺いながらも、ここへ来ることをあまり快く思っていないようだ。かなり前になるが、退屈で遊びにきた時に気軽に来るなと怒られたことがある。
「騎士団長か副団長はいらっしゃる?頼みたいことがあって来たのだけれど……」
「お二人は旦那様の言いつけで出ましたから、恐らくしばらくの間は戻りません。急ぎの用でしたら俺が承りますが……」
「えっと……」
 彼にこんなことを頼むのは気が引ける。というのも、この年上の幼馴染は私の初恋の人だった。
 言い淀んだ私に察したのかアンシアが口を挟む。
「お嬢様、ちょうどよろしいじゃありませんか。ルイス様なら幾分か自由に動けるでしょうし」
「──そうね。あのね、探して欲しい人がいるの」
「人探しですか?一体誰を……」
「例の事件の、殿下とレイス男爵令嬢が訪れたとかいう賭場の店の者を」
 探して欲しいの、と続けるよりも前にルイスが信じられないという顔をしてこちらを見下ろす。
「何のために?」
「私もそう思いますが、お嬢様が殿下の無実を晴らしたいとおっしゃるのです」
 馬鹿じゃないのかと言いたげなその視線から目を逸らしつつリシアは続けた。
「できれば憲兵よりも早く捕まえてほしいの。どうしても知りたいことがあって」
 この事件はあまりに不可解すぎた。なんといっても一番の疑念は、証言の明確さはさておいて、王太子が殺人を犯したと重大な証言をした男を目の届かないところに置くわけがない。一応は監視か、それとも保護くらいはしていたはずだ。そのどちらかも、その証言者がどこの誰なのかも、公爵令嬢である私にだって情報が入ってこなかったのに、その居場所を突き止めて殺した人間がいる。
 王太子が殺人を犯したとどうしても陥れたい、もしかするとレイス令嬢を殺すよう企てた本当の犯人が思ったよりも身近にいるのかもしれない。
「あなたが協力してくれたらとても心強いのだけれど」
 眉を下げて頼んだ私に、彼は深いため息の後に渋々了承の意を示した。
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