10 / 17
10
しおりを挟む手伝いはするものの闇雲に動く気はないともっともなことを言ったルイスに、ちょうどいい時間だからと庭園でのティータイムに呼び出した。
「王太子殿下の無実が前提で動くとしても、あまりに情報が少なすぎます。大体いくら考えなしでも一国の王太子たる人間がよくわからない場所で誰が淹れたかも分からない酒を口にするなんて……にわかには信じられません」
たしかに王太子をよく知らない人間であればそんな都合のいい話があるかと鼻で笑うだろうが、あの男ならそういう状況でもおかしくないから頭が痛いのだ。
「ルイス、私は無駄な時間を過ごす気はないわ。確信できるものがあるから探しているのよ。あの夜にマリアンヌが他の誰と会っていたのか──それさえ分かれば今の手探り状態より一歩近付くわ」
「憲兵も動いているのでしょう?俺が一人で探すよりもそちらに任せたほうが早い気もしますが……」
「憲兵より先でないといけないの」
私の勘は悪いことにばかり当たる。蜘蛛の子を散らすように賭場を手放し逃げたということは違法なだけでなくなにか都合の悪い事情を知っているに違いない。
「……もしも王太子殿下が無実だとして、お嬢様は一体誰が殿下に罪をなすりつけたとお考えですか」
その目星がついているのかと窺ってくる彼に視線を落とす。実のところ、まったく分からない。何故なら私は王太子の婚約者であってもその交友関係を表面上でしか把握していなかったし、マリアンヌに関しては、あの夜までそういえばこんな女もいたなという程度だった。
「分からないのですね。それこそ取らぬ狸の皮算用では?お嬢様は例の被害者の彼女をよく知らないようですし、闇雲に犯人を探すだけ時間の無駄に思えますが」
彼が言っていることは正しいけれど今だけは苛立ちを覚えてしまう。
「協力してくれるの?してくれないの?」
「命令されたことはしますが気は進みません」
「それなら黙って言う通りに動いて。こんなことは言いたくないけれど違法賭場で常連のような振る舞いをしていたそうだもの、一体いつからそういうところに出入りしていたかは知らないけれどろくな理由じゃないでしょう。ありがたいことに彼女は男爵家の令嬢だったしある程度の行動範囲や交友関係も絞れるはずよ」
問題は憲兵や他の誰かよりも先にそれを知ること。彼女が何故死んだのか、どうしてあの夜にあの場所にいて、王太子を置いて誰に会いに行ったのか。
「それが解決するまで──私は殿下の婚約者として、ずっとここにいるわ」
「……あなたはそんなにもあの男が」
言いかけたルイスが言葉を切る。続きを促したけれど彼は緩く首を振った。
「何でもありません。それでは俺なりに尽力します」
「えぇ、お願いね。何かわかればその都度報告をちょうだい」
「分かりました」
頭を下げて立ち去った彼の後ろ姿が、いつか見たものと重なったような気がした。
18
あなたにおすすめの小説
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】
ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る――
※他サイトでも投稿中
居場所を失った令嬢と結婚することになった男の葛藤
しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢ロレーヌは悪女扱いされて婚約破棄された。
父親は怒り、修道院に入れようとする。
そんな彼女を助けてほしいと妻を亡くした28歳の子爵ドリューに声がかかった。
学園も退学させられた、まだ16歳の令嬢との結婚。
ロレーヌとの初夜を少し先に見送ったせいで彼女に触れたくなるドリューのお話です。
褒美で授与された私は王太子殿下の元婚約者
アズやっこ
恋愛
私が暮らすエーネ国は長い間隣国と戦続きだった。
長い戦を勝利に導いたのは一人の騎士。近い将来次期王宮軍騎士隊長になるだろうと噂されていた侯爵家次男のリーストファー副隊長。
この度の戦で右足を負傷し杖無しでは歩く事も出来ないと聞いた。
今私の目の前には陛下の前でも膝を折る事が出来ず凛と立っているリーストファー副隊長。
「お主に褒美を授与する。何が良いか申してみよ」
「では王太子殿下の婚約者を私の妻に賜りたく」
え?私?
褒美ならもっと良い物を…、爵位とか領地とか色々あるわよ?
私に褒美の価値なんてないわ。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
居候と婚約者が手を組んでいた!
すみ 小桜(sumitan)
恋愛
グリンマトル伯爵家の一人娘のレネットは、前世の記憶を持っていた。前世は体が弱く入院しそのまま亡くなった。その為、病気に苦しむ人を助けたいと思い薬師になる事に。幸いの事に、家業は薬師だったので、いざ学校へ。本来は17歳から通う学校へ7歳から行く事に。ほらそこは、転生者だから!
って、王都の学校だったので寮生活で、数年後に帰ってみると居候がいるではないですか!
父親の妹家族のウルミーシュ子爵家だった。同じ年の従姉妹アンナがこれまたわがまま。
アンアの母親で父親の妹のエルダがこれまたくせ者で。
最悪な事態が起き、レネットの思い描いていた未来は消え去った。家族と末永く幸せと願った未来が――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる