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しおりを挟む違法賭場を訪れる者は総じてまともな人間ではない。だがすべてが悪人かといえばそうでもなく、合法のカジノとは違ってとんでもない金額を賭けられるからこそ、一度でもその快感に魅了されてしまった貴族が通うことは珍しくもなかった。過去に何度か城で要職に就いているような人間も居付き、自分の財産だけでは足りなくなり金を横領したり自分の領地の民から無理を言って金を巻き上げるという例もあった。どれもろくな結末を迎えはしなかったけれど、それを知っていてもはまる人間がいるのだから賭け事とは恐ろしい。
「そもそもレイス男爵家がさして裕福というわけでもないのにその女が違法賭場の常連のように振る舞っていたわけですから。少し苦労しましたが」
そう言ってルイスが手渡してきたのは複数の男たちのことが書かれたものだった。
「これは?」
「マリアンヌ・レイスの恋人とやらです」
「え?」
「彼女は平民でも特に裕福な男と交際し、いつか結婚して男爵位を継がせると約束して、多大な金を受け取っていたようです。今のところ分かっているだけでも八人」
「とんでもないわね」
「さすが王太子殿下の選んだ女性だと感心しました」
一通り目を通したけれど、そこにはリシアにも聞き覚えのある名前がいくつかあった。たとえば大きな商談の後継であったり、貴族に人気があり城の壁画も描くような画家の息子であったり。
「……これって」
言っていいのかわからず口篭った私に、とうとう堪えきれなくなったのか、黙ってそばに控えていたアンシアが声を上げた。
「結婚詐欺ではありませんか!しかもこんな相手がいるのにパーティーで堂々と王太子殿下にエスコートされ、挙句に結婚するだなんて公表したのでしょう!?それならば殺されたって自業自得ではありませんか!」
「たしかに結婚詐欺、という言葉が正しいですね。俺としても調べていて苛立ちが収まりませんでした。とても狡猾な女だと思います」
「狡猾?」
王太子と共にあんなお粗末な婚約破棄の茶番を披露させた女ははたして狡猾といえるだろうか。
「手口がいやらしいというか……たとえばこれ」
指さされたところに目をやる。レビアン・ウッドと書かれたそれは聞き覚えがなかった。
「誰かしら」
「お嬢様もシャルロット・ウッドはご存知でしょう?」
「え?えぇ、デザイナーよね。私も何度かドレスを仕立ててもらったわ」
貴族御用達の彼女の顔を思い浮かべて頷く。たしか夫に先立たれた彼女には息子がいたが──レビアンという名前ではなかったはずだ。そんな私の疑問に聞かずともルイスが答えてくれる。
「息子のドリー・ウッドは母親譲りの感性で同じくデザイナーとして名を馳せていますが、彼には弟がいます。特に何の才能に恵まれることもなかった、店で下働きをしている弟が。一度は自分の才能の無さや周りからの酷い言葉で心を病み引きこもっていたそうですが、回復してからはその身分を隠して町の小さな店舗で働いていたそうです」
そうまで聞くとあの女のいやらしい考えが分かってしまって、つい拳を握りしめる。
「そういう人を狙って、貴族にしてあげると囁いてお金を巻き上げたのね」
自尊心が傷付けられていそうな、そんな人ばかりを狙って。何の才能もないと思っていた自分が貴族になれるだなんて知れば浮かれるだろう。それこそ違法賭場に通えるだけのお金を渡してしまうくらいには。
なんといってもマリアンヌは見目はよかった。腹の中で何を考えていたとしても、あんな女が自分を好きだと言って結婚の約束までしてくれたなら、たとえ未来の男爵という地位がなくとも彼らはお金を渡してしまったかもしれない。
とんでもない女ですねと眉を寄せたアンシアに頷いた私だったけれど、これから出てくる埃がそれとは比にならないものだと、この時は知らなかった。
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