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しおりを挟む城下町のはずれにある小さな服飾店を突然訪ねたルイス・クレインに、目的の人物──レビアン・ウッドは怪しいものを見るような視線を寄越した。
パッとしない男だな、というのが彼にとってレビアンへの第一印象だった。ウッド夫人やその息子として有名なドリーは見かけたことはあるが、この男と身内だとは思わないくらいに似ていない。
「それで、俺に何の御用ですか?」
「仕事中に突然すまない。君に聞きたいことがあってな」
「……マリアンヌのことなら俺はもう無関係だ。その関連なら答える気はない」
うんざりしているとばかりに舌打ちをした彼にどうして分かったのだろうと驚く。
「彼女とは恋人だったと聞いたが」
「答える気はないって言ってるだろ」
もう帰ってくれと店の扉を示す彼は苛立ちとはまた違う感情を抱えているように見えた。自分としてもこれ以上時間をかけてお嬢様に報告できるものがない事態は避けたい。ようやく掴んだ尻尾にやすやす引き下がるわけにはいかなかった。
「彼女の死の真相を知りたいんだ」
「そんなことを知って何になる?彼女は死んだ、もう帰っては来ない。それに王太子に殺されたんだろう?真相も何もないじゃないか」
「王太子殿下でない可能性があるから調べているんだ」
だから些細なことでも知っていたら教えて欲しい。そう口にした俺に、目の前の男はわかりやすくその瞳を揺らした。
「なんでもいい。たとえば彼女に恨みを抱いていた人間を知っていたり」
「マリアンヌを恨んでいる人間なんかいくらでもいる。誰に殺されたって不思議じゃない、俺もそうだ。まぁ俺の場合は殺してやろうかと思った時には死んでいたけどな」
そうまで言ったレビアンは何かの堰が切れたように話し始めた。マリアンヌとの交際が半年経った頃から実家の生活が苦しいと相談されたこと。
「いつか俺と結婚したい、でも平民で何も持たない俺を婿に取ることを男爵に納得させるには確かな信頼が必要だって。先の流行病でいまだに領地の資金繰りがうまくいかないって……最初は俺の貯金から出せる額だったけど、だんだん増えて。俺は彼女が本当に好きだったし、こんな俺が男爵になれるのならって欲もあった。気が付けば店の金に手を出して、せめて男爵に挨拶くらいさせてもらえないか聞いたあたりで会ってくれなくなった。俺は家族にそれがバレて勘当寸前だ。こんな小さな店でも金を返すまではってまだ雇ってくれてるだけありがたい」
馬鹿らしいだろ、と自嘲気味に笑った男にルイスは笑えはしなかった。
「それは……いつの話だ?」
「会えなくなったのは二ヶ月前か。けど俺と似たような男が他にもたくさんいるって聞かされたのは、マリアンヌが殺された一週間くらい前だったな」
「騙された相手に会ったのか?」
「いや。アンタみたいに俺を訪ねてきた男がいたんだ、マリアンヌ・レイス男爵令嬢を知っているかって。彼女が俺から受け取った金を使った賭場に出入りしてるとかいう男で……まさか俺の金を賭け事に遣われているなんて知らなかったから本当まいったよ」
これは案外早く結果に行き着くかもしれないなとルイスは安堵すら感じていた。一刻も早くあの王太子とお嬢様の婚約を解消させて身綺麗にさせてやりたいと思っていたからだ。
自分の掴んだその情報がまだ全てのはじまりですらないのだと、ルイスは知るよしもなかった。
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