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しおりを挟むマリアンヌの生前の行動はあまりに貴族らしかぬものだった。実家の男爵領は決して金銭に困窮したことはないはずなのに、家の金ではなく男から巻き上げた金を使って賭博をした理由が分からなかった。
「賭場は1年でも何度か場所を変えていたそうです。違法ですから、オーナーも捕まらないように慎重だったのでしょう。ただ気になることが」
ルイスに亡くなった彼女のことを調べるよう頼んでから一週間、彼は毎日新しい報告をしてくれた。さすが若くしてあのお父様の勧めで騎士団に入っただけある。
「気になること?」
「どうやら彼女はオーナーとも親密な関係にあったようです。賭場で散財して借金しかけた時にはオーナーが肩代わりすることもあったとか」
またそれかとうんざりしかけたリシアだったけれど、そんな様子に気付いたのかルイスが首を振った。
「特別な関係といっても今までのような男女の関係ではなく、他の客から見るにまるで家族のようだったと。オーナーには幼い息子がいたそうなのですが、ある程度賭場で遊んだ後にはその子どもと遊んでいたそうです」
「オーナーは結婚していたの?」
「はい。先の流行病で亡くなったそうですが……」
「……そう」
三年前の流行病はそれは酷いものだった。隣国から流れてきたそれはあっという間に国中に広まり、その年の冬を越せなかった人間は多かった。遺体の埋葬も追いつかず腐ってしまい、そこからまた新たな病気が広まって、ようやく収まりを見せたのは春の訪れを感じ始めた頃だった。
「彼女は一体何がしたかったのかしら……」
「──そういえばお嬢様、王太子殿下の裁判の日が決まったそうですね」
「えぇ、そうね。私にも証言者としての出席が求められたわ」
「行かれるのですか?」
ルイスは普段は分かりにくい人なのに、こういう時はとても表情が豊かになる。私のことを心配してくれているのだろうなと分かるから悪い気はしない。
「私は大丈夫よ」
「王太子は初め、お嬢様がこうなるように仕向けたと喚いていたと聞きました。どうしてそんな男のためにそうまで無実を証明しようとするのですか?」
「……それは……」
「俺にはとても理解できません。レイス男爵令嬢のことを調べても気分の悪くなるような話しか出てきませんし、そんな女を選び貴女を傷付けた男を許せません」
たしかに他所から見れば私はおかしい女だろう。ただ、今の私の根底にあるのはひとつだけ。
「お父様が次の婚約者を決めたとおっしゃったの。それをどうにか引き伸ばしたくて」
「次の婚約者?あんなことがあったのに、旦那様はそんなことを?」
「お父様はあくまで家と国を最優先に考える方だもの、別におかしいことじゃないわ。ただ……」
ただ私はいつまでも誰かの言いなりに生きている自分にほとほと嫌気がさしただけ。お父様の言うとおりに誰かと結婚すれば、結婚後はその誰かの言うことを聞いて生きていくのだろう。
「ただ、こんなことがあったからこそ、変わりたいと思ったの」
変わった先になにがあるのか今はわからない。何も変わらないのかもしれない。それでも、いつも誰かの言いなりだった私は今回のことで初めて自分で決断を下したのだった。
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