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しおりを挟む彼女を愛していたと、そう思う。この狭い部屋の中でおとなしく過ごすように言われ、いい加減に罪を認めてはいかがですかと冷たい視線を向けられても、俺は決して認めなかった。俺が彼女を殺したりなんかするはずがない。だって、俺は心から彼女を妻にしたいと望んだ。
「──マリアンヌは王妃になりたがった」
あの夜、彼女が外に出たいと言い出した。父の怒りを目の当たりにした俺はおとなしく部屋にいようと言ったけれど、彼女がどうしても今夜でないといけないと。一人でも行くというから、何故か俺はついていかなくてはいけない気がして、止める侍従に背を向け二人で城を抜け出した。
着いた賭場はとても良い雰囲気ではなく、横目に見た掛け金のあまりの額に、これはもしや違法賭場なのではないかと気付いたと、王太子は思い出すようにぼやいた。
「ジャン・ハドソンがどんな男なのかは知らない。ただきっと、彼女にとって彼と話しているときは、心落ち着くことはなかっただろう。彼女は俺以外の同世代の男をひどく怖がっていたから」
「……同世代の男を相手に結婚詐欺のようなことまでしたのに怖いと?」
「彼女の酷い噂が流れていた。あまりにも酷いものだから、きっと女性の耳に入ることはなかっただろうが、それなりの家の子息なら面白半分に耳に挟んだことがあるような噂だ」
「噂?なんですか、それは」
そんな報告はルイスから受けていない。ただ頭に浮かんだのは何かを言いかけてやめたジャンの横顔だ。
「俺からは言えない。それを言えば裁判でも少しの余地ができるかもしれないが、俺の口から君に教えるということはマリアンヌを裏切るも同意だ」
「殺人の罪を着せられているのに言えないだなんて、それはそんなに重要なことなのですか?」
一体どんな噂なのだと考えたけれど見当も付かない。というかそんな大事なことを知っているのなら、犯人探しを任せた私に先に教えて欲しかった。
「それが明るみに出ればマリアンヌはきっと生きていけない」
「もう亡くなっているではありませんか」
「そうだったな。だがそれなら尚更だ、俺には死者を冒涜することはできない」
頑なに首を振る王太子にリシアの苛立ちは募る。この人は自分の置かれた現状を理解していないのだろうか。
「でしたらもう私に力になれることはないでしょう」
「……」
「殿下。私はあんな場所であんなにも恥をかかされました、私が彼女にありもしない嫌がらせをしたとあなたに国外追放を言い渡されたことだって納得はしていません。ただ、あなたは昔から変わったところはありましたし、当たり前のことをわかっていない時もありましたが」
馬鹿であったけれど、どうしようもない馬鹿であったけれど、意味のない行動ばかりをする馬鹿ではなかった。
「いったい何を隠しているのかは分かりません。ただあなたのその思いが一方的なものではなく、彼女があなたの妻になりたいと本当に願っていたのなら、私はただ知りたいのです。どうして彼女は殺されたのか、あの夜に何があったのか、あなたの婚約者として私は知る権利があるはずです」
悪く言えばただの好奇心かもしれない。ただ、長く婚約者でいたこの人となにか情を育むことはなかったけれど、不幸になってほしいわけではなかった。
そして彼女が亡くなるなんていうことがなければ──私は今頃、ここにはいなかっただろう。
「……君のことだ、マリアンヌが出入りしていた賭場に、彼女がよくしていた子どもがいることはもう知っているんじゃないのか?」
「えぇ。殿下もご存知でしたか?その子はオーナーの息子だとか……」
「その子はマリアンヌの息子だ。彼女が十四の時に生まれ人知れずに育てられた──……彼女が父親から性的虐待を受けて、そうして出来た子どもだ」
それを聞いた時、ぞわりと何かが込み上げるのを感じた。それは男爵邸でレイス男爵と話している時、彼がマリアンヌのことを話している時に感じたもの。
「彼女は家に帰りたくなかった。居場所もなかった。……俺はそれを全部知って受け入れた。それくらいには彼女を愛していた。だから、俺がいくら酔っていたって、彼女を殺したりするはずがないんだ」
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