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しおりを挟む飾り気も物もない白を基調とした部屋に、何十種類もの色がずらっと並ぶ。
「カトリーナ様、気に入られた色がありましたらどうぞご遠慮なくおっしゃってくださいね」
そう言ったのはレジスが寄越してくれたデザイナーのリュディールだった。滅多なことで外出を許されないため、パーティー用のドレスを仕立てる準備のほとんどを神殿の部屋で行っていた。
「えぇ!この色もとても素敵……!」
生まれてからずっと白以外を身に纏ったことのないカトリーナにとってそれは夢のような時間だった。遠目に見る同世代の女性たちの色とりどりな服に何度も憧れたからだ。
「最近の流行りはこちらのようなものです。レジス殿下よりお望みであれば何着でも仕立てるように言われておりますので、気に入ったものがありましたらどうぞ教えてくださいませ」
「まぁ……」
手渡された紙にはドレスのデザインがずらりと並ぶ。レジスはパーティーなのだから普段の規律は気にしなくて良いと言ったけれど、こんなにも大胆に肌を出してもいいものだろうかと、規律に厳しい大神官の顔を思い出して一人足が震える。
けれど今度ばかりは特別だと自分を奮い立たせる。レジスと運命的な出会いをしてから半年──結婚をしたら私はこんなにも特別な日々を日常にできるのかもしれない。狭いこの部屋で彼が来てくれるのを待つだけではなく、私から会いに行くことだってできるだろう。
「こちらの濃紺の色もお似合いですね。カトリーナ様の金糸の髪がとてもよく映えます。裾にも金の糸で刺繍を施し、胸周りには宝石を散りばめても良さそうですね」
ずっと同じ日々を生きていくのだと思っていた。変わり映えのしない、ただひたすら声も聞こえない神という存在のために狭い部屋の中で、石で出来た像に跪いて生きていくのだと思っていた。
建国祭の日。夕方にレジスが迎えに来るまで熱心に祈りを捧げていた私は、彼が寄越してくれた人たちに手伝ってもらい、なんとか支度を終えた。
「とてもお美しいです、カトリーナ様」
それはお世辞なのかもしれない。けれど鏡の中に映る自分の姿を見たときに涙が出そうになった。
初めて髪を下ろして巻いた。初めて化粧をした。爪の先まで綺麗にしてもらったその姿は、私がずっと憧れ続けて手に入らなかったものだった。
「カトリーナ」
外へ出てきた私に待っていてくれたレジスはこちらを見てすぐに息を呑んだ。
「──とても綺麗だ。とても」
「ありがとうレジス、あなたにそう言ってもらえるのが一番嬉しいわ」
「今夜君をエスコート出来ることをとても誇りに思うよ」
差し出してきた彼の冷たい指先に手を添える。
それは夢のような時間の始まりだった。
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